045「44 知らなければ意外と美味いのかも?」
「44 知らなければ意外と美味いのかも?」
スパイシーな香り漂う中・・・
ステンレス製の大きな寸胴鍋とカセットコンロを前にして
ソラは大きく溜息を吐いていた
『結局、虫を食べる事になるんっすね』
ソラの言葉にレイブンが苦笑いを洩らす
『俺としても、ちょっと想定外なんだぞ
まさか、獣の肉を全て食いつくされているとは思わなくてな・・・』
ソラは、此処まで来る道中に見た動物達を思い出し
『あの・・・俺、獣の肉もちょっと嫌っす』
正直な意見を告げた
『ちっちゃい子供みたいに好き嫌い言ってると
食べ残しチェックを重点的にされて
セレスの試薬実験のモルモット要員に指名されるぞ・・・マジで』
レイブンは、一足先にカレーライスを食べている
白い鴉の背中を見ながら徐に溜息を吐いた。
さて問題です・・・
目の前にある「肉がたくさん入ったカレー」の肉の正体は何でしょう?
答えは・・・
ストーリー上に出てきたモノを推察して貰った上での
読者様の御想像に御任せする事にします。
『野菜カレーには出来なかったんっすかね・・・』
ソラはカレーを混ぜながら恨めしそうにレイブンを見る
『一つはそうなる様にしてたんだがな』
そのレイブンは桜花を見ていた
『男の癖に僕より女々しい事を言うなよ!僕は悪くない!
第一、肉の入って無いカレーはカレーじゃないでしょ?』
桜花は焚き火を利用して、飯盒炊爨で食事の支度を手伝いながら
レイブンの言葉に唇を尖らせ、不貞腐れる
全てのカレー鍋の中身が肉入りになった原因は
『肉を入れ忘れてるじゃないか!』と、勝手に肉を投入した
桜花の仕業だったりするのだ。
レイブンの傍で、白い鴉のセレスが
味見で食べたカレーで、嘴や胸辺りを黄色くしながら笑う
『違いない!虫の肉でも肉は肉だなw
ちょっと・・・味は癖があって、強いて言えばモツっぽいけど
モツカレーだと思えば問題ない!私は好きだ!
ソラもちゃんと食べろよ!
因みに私は、野菜カレーも大好きだぞ!』
『セレスさんが好きでも・・・
俺は、虫入りカレーってのは、ちょっと無理っすぅ~!』
ソラの悲痛な叫びが木霊する
そんな中でも、レイブンは割合に冷静な面を見せ
『師匠・・・カレーが落ちなくなる前に食べ終わって下さいね
師匠の体に付着したカレー汚れを落とすのって俺なんでしょ?』
通常運転で働いている様子だった。
スズメバチを倒し終え、炊き出しモードに入った一行は
食事を取りながら、鋭気を養い次の戦いの準備に入っていた
大所帯の為、休憩を取る事無く働くレイブンに
『そろそろ休憩しろよ』と、セレスが言う
『桜花が作る白御飯できたら休んで
その御飯でオニギリ作って食べる事にしてるから大丈夫
だから桜花・・・美味しい御飯を炊いてくれよ』
『なんだよそれ!
うぅ~んでも、美味しい白御飯は任せとけ!』
ソラはその会話を聴きながら感心していた・・・
「流石は先輩っす!カレーを食べない事を断言しながら
桜花さんへのフォローを忘れないなんて・・・マジで凄いっす!」
そんなソラに気付いて、レイブンが笑う
『ソラ!手・・・止まってるぞ
もし鍋底を焦がしたら、責任もって全部食って貰うからな』
ソラは大慌てで、鍋底からしっかりとカレーを混ぜた。
勿論この後、ソラは・・・
桜花の手により強制的にカレーライスを手渡され
意外と悪くない味に驚きつつ、普通にカレーを食べた・・・のだが
『大概の物は・・・
カレー味にするか、唐揚げにしてしまえば
元の正体はどうあれ、食えるもんなんだよな・・・
食材の正体を思い出さなければ・・・の話しだけど』
実際そうでも・・・
ソラはカレーを無事食べずに済んだレイブンに
「そう言う事は、食べてから言って欲しいっす」何て事を思った。
一行は食事を終え、調理した場所と食べた場所を片付けて
出発の準備を始める
『次は寄生蜂だな・・・くれぐれも、蜂に拉致られて
神経毒で動けなくされて、卵を産み付けられるなよ!
神経毒は解毒しても後遺症が残るし
卵が孵って、幼虫に筋肉を溶かされて食べられれば・・・
もう、私でも助けてやれんからな!』
セレスが毛繕いしながら、ニヤニヤ笑っていた
本当にセレスが、何かあった時に助けてくれる気があるのかは
見た感じからして怪しい所だった
そもそも、寄生蜂より小さな鴉に助ける手段があるかどうかが
問題な気もする・・・
これは、その場に居た全ての者の共通する意見だった。
『所でレイ君をみなかったか?』
セレスがレイブンを捜す
『鍋に直接、白御飯とオリーブオイル入れて
チーズ入りのカレー焼き飯を振る舞ってるのはさっき見たんだけど』
なぁ~んて桜花が言うと・・・
『了解!チーズ入りのカレーだな!』と、言って
セレスは飛び立ち姿を消す
セレスは、レイブンが調理する食べ物の匂いで捜すみたいだった。
桜花と共にその場に取り残されたソラは
その場所は片付けが終わっていた為、手持無沙汰になり
足元に座っているロボット犬に助けを求める
『ナナシ・・・俺はこれからどうしたらいいんっすかね?』
『そうだなぁ~・・・一番に言える事は、そこ退いて欲しいぞ!
俺様ソーラー充電中だ、影にされると充電できんではないか』
即効で、ソラは邪魔者扱いされた。
ナナシに邪険にされて、意気消沈していると・・・
『食後の御昼寝でもしたら?』
桜花とは違う声がソラに届く
『まぁ~その前に・・・はい!デザート!
料金分の材料は、レイ君から貰ってるからタダよ!』
暫く姿が見えなかった雛芥子が、アイスを持って姿を現した
『僕の分は?』
『桜花のは特別にファミリーサイズのイチゴのを持って来たの!
一緒に食べましょ』
前に遠征に行った時に見た事のある、屋台から雛芥子は
大きな入れ物を出してくる
『蜂蜜味のアイスなんっすね・・・美味いっす!』
「それにしても、調理器具に野菜にカレーのスパイスに
アイス作る用の屋台って・・・何処から持って来たんっすかねぇ?」
ソラは、雛芥子が牽いて来た屋台をぼぉ~っと見ていた。
『蜂蜜味って事は・・・蜂の子アイス?』
桜花から、ソラ的に美味しくない御話が飛び出す
『蜂の子アイスってマジッすか?!』
ソラが驚きアイスを落としそうになる
『美味しいでしょ?女王蜂になる蜂の子のアイスクリームよ
セレスタイト監修の特別製なんだから!』
更にある意味で
監修者がとっても曰く付きであったりもした。
手にしたアイスに困惑するソラを余所に
桜花がソラのアイスをひったくり、一口食べる
『あぁ~やっぱ美味い!
ソラ!雛芥子とアイスを分け合って食べる権利を上げるから
このアイスは僕のね!』と・・・
ソラと雛芥子の返事を待たずに食べだす
「文化の違いなんっすかねぇ・・・」
ソラは、蜂の子とかを食べる地域が
自分の良く知る世界にもある事を思い出し・・・一人納得し
『もう!桜花は勝手な事ばっかするんだから』と、言いながら
雛芥子はイチゴアイスを食べられる器に取り分け、ソラに渡す
『アレは「疲れてるだろうから」って言う
レイ君の気遣いで準備する事にした物なのよ・・・』
ソラは密かに「その気遣い要らないっす!」と、思った
『次の寄生蜂討伐の囮役・・・ソラだからって』
雛芥子の続く言葉に驚愕するソラ・・・
『はぁ?なんすかそれ!聞いてないっすよ!』
何度も何度も驚かされる側のソラに雛芥子が微笑みかける
『「大丈夫、死なせはしないから」ってコレ伝言ね!』
『そうなんだ・・・じゃぁ・・・僕がソラのアイス貰ったし
僕もソラを護ってあげるよ』
アイスの御蔭で、安全性は高まったかもしれないが・・・
喜べないソラがそこに居た。
世の中には、知らなければ美味しく食べれる物って・・・
有りますよね?