044「43 ツイテいないソラ」
「43 ツイテいないソラ」
ソラは戸惑いながら、如何して良いか分からない様子で
「竹槍」と、言うか・・・
洗濯竿に丁度良さ気な太さで、身長より少し短いくらいの長さの
「ぶっちゃけ普通の竹の棒」を強引に渡され、無理矢理に持たされ
『それで戦ってみせろ!』と、桜花に強要されて
森の街道の傍にある、大きな御花畑の中で
子牛を御供に一人ぼぉ~っと、立ち尽くしていた。
立ち尽くす先、ソラの視線の向う側には・・・
5階建ての建物位の高さのまぁ~るい独特の模様のある
一般的なデザインのスズメバチの巣が存在している
そして、蜂の巣とソラの間では
『もぉ~嫌ぁ~!』
『うわぁ~来るなぁ~!』
『ちょ・・・ちょっと!アリエナイでしょ!コレは!』等
奇声を上げながら戦う、遠征隊の人達の姿と・・・
蟻の様に集団で、こちらに向かって行進してくる
黄色スズメバチに似た色・模様・形の蜂達の姿が存在している。
それにしても、それは・・・人間くらいの大きさがある蜂で
背中の羽は羽音を狂おしい程に立てているが
その蜂の体が浮かび上がる様子は、全くと言って良い程に無い
大きくがっしりした見るからに浮きそうにない雰囲気の
変に大きな、怖い顔した虫だった
『先輩の嘘吐き・・・皆さん、やっぱ大きい虫も駄目じゃないっすか』
『いや、いや、普通どう考えても・・・
こんなのが大群で押し寄せられたら、苦手じゃなくても怖かろうて』
ソラのちょっとした愚痴に
上空からの敵を警戒して飛んでいたセレスが、舞い降り突っ込みを入れる
『多分これが、こんな蜂で無くて象の群れとか・・・
野良牛の類とか、野生馬の種類とかでも怖いと思うぞ・・・私は』
『そうっすかねぇ・・・』
ソラは少しづつ近付いて来る戦いの場を嫌うかの様に・・・
子牛と一緒になって、じりじりと少しづつ後ろに下がりながら
戦いを眺めていた。
『あぁ~!ソラってば、サボってる!』
手持ちの武器の性質上、集団から離れて蜂退治をしていた雛芥子が
蜂を1匹倒してから、ソラに向かって駆け寄ってきた
『そんなんじゃ、何時まで経っても強くなれないぞぉ~!
って、事で・・・こっちにいらっしゃい』と、雛芥子は
手近な、ある程度弱った蜂の前にソラを連れて行く
『百獣の王は、谷底に我が子を突き落して
這い上がってきた子だけを育てるんだ!って聞いた事があるわ!
頑張りなさい、ソラ!為せば成るモノなのよ!』
『成らないっす!しかも雛芥子さん、それって迷信っすよ!
そもそも・・・子供を谷底に突き落したら
普通に大怪我するか、死ぬっす!
百獣の王が子供に非常になるのは、自分の子供じゃない時だけっすよ
嫁に養って貰って、子育て、子供の教育までして貰って・・・
嫁が狩りに行っている間
子供をぼぉ~っと見守るのが百獣の王の普段の仕事っす!
で・・・妻子が危険な時に、プライド懸けて戦うのが百獣の王っす!
人間じゃあるまいし・・・そんな発想、百獣の王がする訳無いっすぅ~!』
蜂から逃げながら長文を話すソラの必死な言葉に
セレスが空中で眉間に皺を寄せ
『で・・・この状況どうすんだよ』と、雛芥子を見てセレスは溜息を吐く
蜂の前に連れてった雛芥子は、と言うと・・・
『ソラ!真面目に戦いなよ』と、手を貸す様子も無く
呆れ顔でソラを見ていた
ある意味で戦場となっている野原の片隅・・・
雛芥子の余計な御世話で、ソラと蜂の追いかけっこは始まり
暫く続いたのであった。
現時点・・・
巣から現れる蜂の数はまだ、減らないのだが
見ていて本当に可哀相になって来るソラの惨状を見て
その暫くの間に、一部の遠征隊メンバーからソラに対する同情票が集まる
『かぁ~わいぃ~・・・食べちゃいたいくらい可愛いわぁ~
ねぇ~!ぼぉ~やぁ~!私の胸に飛び込んできたら
助けてあげてもいぃ~のよぉ~』
遠征隊の一部のメンバーから、少し野太い声が上がり
両手を広げ、ムッキムキの胸板を曝け出す光景もあったのだが
聞こえていないのか?ソラはそれに反応する事は無く走り続ける
そのソラが、限界を超えていそうな悲惨な表情を見せた頃
レイブンがソラを見付け、救いの手を差し伸べた。
『師匠では、ないですよね?
雛芥子?何でこうなったか聴いても良いかな?』
ソラを追っていた蜂の腹部に棒を突き立て、蜂を固定したレイブンが
力尽き掛けたソラを小脇に抱えて、笑顔を浮かべ戻ってくる
『えぇ~っと・・・修業させようと思ったんだけどぉ~
うん、何か失敗したみたい』
雛芥子は、怒っているらしいレイブンに
少しビビりながら、子牛を抱締めて逃げ出さない事に努めた
『レイ君怒ってる?』
『特に怒ってはいないけど、俺は弱い者虐めは好きじゃない
雛芥子は、分かるよな?』
朦朧とする意識の中、ソラは二人の会話を聞いていて・・・
「不味い液体を強制的に飲ますのは虐めじゃないんっすかね?」と
嬉しそうに何か白い物を絞りながら、ジュースを作るセレスと
それを何故か手伝うカリブーの姿を黙って見ていた。
のだが、今回は想定外に・・・
ソラは不味いジュースを飲まなくて済んだ
但し、飲まされたのは・・・変な甘さのある謎のネバッとした液体
正直「超健康パワーアップジュース」や
最強に不味い「パワーアップジュースハイパー」に比べれば
美味しい部類に入ると、ソラは思った
更に、不味いジュースに近い位の即効性もあるのだが・・・
何故だがソラは、嫌な予感を拭い去ることができなかった。
なので、ソラはそれを飲んで数十分後
体力を回復し、そのジュースの原料を知って
「やっぱりこういうおちがあるんっすか!」と、絶望した
『これ・・・なんっすか?』
でも一応、ソラは白い物体を指してセレスに問い掛ける
『レイ君が調達して来てくれた蜂の子だぞ、嬉しいか?嬉しいよな?』
何だか、押し付ける様なセレスの物言いにソラは引く
『それにしても、人間にも効果があるとは驚いたぞ
噂では、蜂のプロテインだって聞いていただけだからな』
『うわぁ~・・・マジすかぁ~俺、実験材料にされただけすかぁ』
セレスの心無い発言に、ソラは魂が抜ける様な脱力感を感じた。
ソラは顔を引き攣らせながらも笑い、心の中で泣いていた
「材料は、知りたかったんだけど知りたくなかったっすぅ~」
『あ、それにしても・・・先輩、こんな大きな蜂の子って
何処から調達して来たんっすか?』
ソラは自分の気持ちを紛らわす為にレイブンに疑問をぶつけてみた
『どこってそりゃぁ~・・・蜂の巣が目の前にあるだろ?
大きな巣だからな、蜂の巣の天井付近に穴を開けて
蜂達の警備が手薄になってる部分から順に、運び出したのさ
今も手分けして運び出してる所だろうな・・・
現金化する為と、他の肉食の蜂や、寄生蜂の餌として使う為に』
ソラは結局、更に後悔した。
レイブンの話によれば・・・
森の入口付近で食べかすを残していた蜂と、最初に襲ってきた蜂と
今、退治した蜂は別の蜂らしい・・・それくらいソラも気付いてはいたが
これから、飛べる方の蜂退治に行く事までは気付かなかった
『これから、マジで行くんっすか?』
『行くよ!飯食って、昼寝とかしてからだけど』
レイブンは嬉しそうに笑っていた、まだ戦い足りないらしい
『所で、昼飯って何っすか?』
『これだよ』
ソラは差し出された大きな蜂の子に驚き、後ろ向きに転倒した
『冗談だったんだけど・・・本気にしたのか?』
ソラは笑えない冗談に腰が抜け、目尻に涙を溜め
「どうしてこんな事に巻き込まれてんっすかね
呪われてでもいるんじゃないすか?俺って・・・」と
本気で自分の運命を悲観し始めていた。
スズメバチって、スズメバチの幼虫が出す液体が御飯らしいですよ!
だから、スズメバチの幼虫が居ないと死んでしまうんですってw