042「41 目的の再確認」
「41 目的の再確認」
イレギュラーが現れたからか、遠ざかる蜂の羽音
獰猛な獣もなりを顰めた
安全になった事を確信してか・・・
殺伐とした風景の中で、笑い合いじゃれ合うレイブンと桜花
それを見て、2人の行動が微笑ましいかの様に笑うカリブー
腰を抜かしたまま起き上がる事も出来ず、光景に笑えないソラは
ソラの不安を感じて、近くに寄ってきた子牛を抱締め
少しづつ馴染めて来たと思っていた世界から
拒絶されたかの様に一人、孤独と疎外された様な分離感を実感する。
「今の恋人と上手くいかなかった時の母親が心配だから帰りたい」
でも、「何時も居場所がある訳ではないから帰りたくない」と・・・
2種類の理由で「帰りたくて、帰りたく無かった」ソラの心に
何処にいても「安定した居場所が無い」なら
出来るだけ早く、この世界に里心が根付いてしまう前に「帰ろう」
と、言った思いが生まれる。
静かになった森の中で
レイブンと桜花の掛け合い漫才だけが響いていた
『ソラ、無事そうで何よりだ』
人気の無い筈の方向から、誰かの声が聞こえてきて、ソラは驚き
子牛を抱いたまま跳び起きる
振り返ると・・・
そこには、メタルボディーが美しいロボット犬のナナシの姿があった。
続いて『レ~くぅ~ん!皆を連れて来てやったぞ!感謝しろ!』
と、白い鴉のセレスタイトが・・・
レイブンの後頭部目掛けて、体で体当たりしたのを皮切りに
多種多様な乙女達が、ソラの視界を埋め尽くす
溜息を零したくなるくらい、女を前面に押し出した女達が
血液で作られた水溜りや泥水を踏み、蹴散らしながら
レイブンの作りだした血塗られた道を辿って現れる。
襟ぐりが大きく開き、大きな胸ががっつり栄える服装の巨乳集団
偽乳の疑いが否めないタイプの人も含む
胸の小ささをウエストの細さと細い手足で補う、猫の様な曲線美集団
腰の細さから、性別面が不明な人も含む
可愛さを重視した服装を着用している集団や
ボーイッシュな色気を追求した様な集団もいるが、しかし・・・
それぞれ皆が、ソラの思う人間とは異なっている為
人であり、何処か人間ではない部分を持っている為
ソラには、その集団が「異形の集団」にしか見えてならなかった。
そんな時にレイブンは・・・と、言うと
肉食の獣系の獣人が手にし、口にしている死体を見て
『あぁ~・・・それ、食べちゃったのか・・・』と、まず一言
『それ・・・血抜き出来る様に倒したのは
そんな風に食べる目的の為じゃなかったんだけどなぁ・・・』
と、本当に残念そうな表情を見せ
後は、平然と楽しげに彼女達と会話をしていた。
レイブンとは反対に、ソラは・・・
彼女等から人間ではない部分を見付けては、怯えて後ずさる
ソラを護る様に、ナナシはソラの足元で周囲を警戒する
目が複眼だったり、口が昆虫の口だったり、触角や牙や角が生えてたり
手足の数が多かったり、鉤爪があったり、人間の要素がほぼ無かったり
大きく違っても、ちょっと違うだけでも・・・
ソラはとても強い抵抗感に苛まれ、それを態度で示してしまっていた。
当たり前の事だが・・・
腰から広がるオーガンジーのロングドレスが、下半身を隠す
下がリアルな蜘蛛の巨乳美女の胸に、ソラは興味をそそられる事は無い
それが、どんなに魅惑的な造形をしていたとしても
勿論、蜥蜴な人なんて全裸だけど・・・
人間的な形状の揺れる美麗な巨乳の皮膚が鱗とかに覆われてて
ソラにはエロさを感じられない、顔もリアルな蜥蜴だし
と、言う事で・・・
頬を染めるではなく、青褪め怯えまくるソラに
女としての自信を持っていた彼女等が、不快感を感じ始め
一部の者達から、ソラに対する殺気が湧き起こる
レイブンがその非常事態に気が付いて、乱暴にソラを救出す事になった。
レイブンはソラの首根っこを掴み、その輪から引張り出し
ソラをカリブーに預ける
『ソラは人見知りで、大人の女性に免疫の無い御子様だから
保護してやってくれ、保護者がいれば少し落着くと思うから』
レイブンの大きな声が、女性達の自尊心をフォローする
『あぁ~、そう言えば・・・
アタシと初対面の時も、今みたいに怖がってたよね』
カリブーはソラとの初対面の時を思い出し
納得してソラを自分の背中に乗せた
『ソラ・・・あんた、そんなに肝っ玉小さいと未来無いよ?
今度、アタシの友達紹介してあげるから緊張しない特訓しなさいよ』
トナカイの獣人の友達とは、どんな「人」が来るか分からないが・・・
ソラは周りの視線に気づき、自分に拒否権が無い事を知って頷いた。
そんな事は梅雨知らず、少し離れた場所で・・・
桜花と雛芥子は、抱き合う様に再会を喜んでいた
ナナシは、カリブーに踏まれてしまわない距離でソラを見守る
レイブンは、安定した状態を確認して困った様に苦笑いをする。
『さてと、師匠・・・これからどうしようか?』
空中に退避していたセレスにレイブンが声を掛けると
『どうしようかって・・・最初に受けた依頼を遂行しようと思えよ!』
ホバリングしながらセレスはレイブンに近付き
差し出されたレイブンの腕に止まる
2人の中で小さな沈黙が訪れる
セレスは、レイブンが本気で目的を見失ってそうなので溜息を吐いた
『私は、街道の道の安全を確保する為に蜂を駆除すべきだと思うぞ』
『だよね』
話しの決着は直ぐについた。
『師匠、この遠征隊のリーダーって誰?』
『雫だよ』
セレスは大木の大きな木の枝で翼を休める大きな梟に視線を向ける
そこには、数匹の大きな猛禽類達が屯していた
大きさを覗けば・・・
全体的に丸っこいフォルムで、雛の様に愛らしい梟が雫だ
レイブンは雫に向けて手を振る
レイブンは「雫にだけ」の、つもりだったのだが・・・
そこにいた数匹の猛禽類達が全て、レイブン目掛けて飛んでくる
そして突風を撒き上げ、レイブンのいる近くに舞い降りた。
梟の雫ではなく、大きな渡鴉が一番近くにやってきて
翼を振り袖の様に優雅に靡かせ
セクシーに女らしく、レイブン向かって寄って来る
『えぇ~っと・・・チムナターだっけ?』
レイブンは割合、最近の記憶の中から大きな鴉の名前を掘り出した。
突風で子牛を落とし掛け、焦っていたソラは体勢を持ち直し
平常心を思い出し、カリブーの上で見ていたソラはこっそりと・・・
『あぁ~言うのって、何処で見分けてるんっすかね?
俺・・・見分けがつかないんっすけど』
『アタシも何時もそれ思うわ・・・
セレス以外の鳥って、同種だと区別付かないよね』
カリブーと小声で話をする
レイブンと雫の間に立ちはだかり
『ふふふ、来ちゃった』と、口元を翼で隠しながらチムナターが笑う
『いやいやいや・・・来ちゃったじゃないだろ・・・
今は、遠征隊のリーダーの雫に用事があるんだよ
同族の好って事で一旦、引いてくれないかな?』
『嫌だわ、セレスタイトちゃんこそぉ~
同族の好で私をレイブンの傍に居させて頂戴な、ね?良いでしょ?』
『区別・・・付きそうっすね』
『うん、意外と区別できるかも・・・』
遠目に見て、ソラとカリブーは自分達の見解を改めた。
『まぁ~もぉ~、何でもいいんじゃないか?
取敢えず、街道の寄生蜂の駆除に手を貸して貰えれば・・・
雫、御願できるかな?』
『勿論、その予定で来たわ・・・
話しは雛御嬢ちゃんから聴いてるし、皆にも話は通してあるのよ』
レイブンの問い掛けに・・・
大きくて丸っこい梟は、姿に見合わず大人びた返事を返し
『皆の者!出陣の用意を!森から蜂を全て駆除します!』
雫は大きく翼を広げ、遠征隊の隊員全体に向けて声を届かせた。
自分が綺麗だって自身のある人に対して
「そんな貴方に興味無いですよ」って感じの対応したら・・・
機嫌を損ねてしまう事って無いですか?




