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040「039 親の心、子知らず」

「039 親の心、子知らず」


しずかな森の中でひびくのは、羽音はおとけもの咆哮ほうこう

緊張感にを感じさせる息遣いきづかい、殴打おうだする音に切りく音

木々のざわめきと大地をみしめり出す音、元気で楽しげな雄叫おたけ


ソラは、カリブーのトナカイな背中の上の座り

顔をそむけ、手で見たくないモノをガードしながら・・・

レイブンにヤラレル相手の事をだけを見ない様にして

レイブンの事を・・・

奇妙きみょうな生き物を見るかの様な目でながめる事になっていた。


ソラは・・・

「無理っす!俺やっぱ・・・

残酷ざんこくなのとか、スプラッターなのとか無理っす!怖いっす!」

と思いながらも、獣の矛先ほこさきがこっちに向かないとも限らないので

様子をうかがために見るが・・・


切られたりするはちや獣を見たくないが為に、そこを手でかくす為

獣の動向どうこうを見て無かったら、矛先がこちらに向いても気付けないので

残念な事に本末転倒ほんまつてんとうになってしまっているのだけれども・・・

ソラ本人はまだ、それに気が付いてはいないかった


むしろ一生・・・

ソラはその事に気付かないかもしれない事を此処ここに書き残そう。


一方レイブンは、と言うと・・・

何処どこをどうやってなのか、レイブンは重力を無視した様な動きをし

遠心力えんしんりょくや、自分の体の柔軟性じゅうなんせいかして・・・

近くにいる者の気持ちも知らないで、圧巻あっかんな戦い振りを披露ひろうしている。


レイブンの戦いっぷりに、ソラとカリブーから溜息ためいきこぼれる


『「水をた魚」って・・・

こう言う人の今の状態の事を指すモノなのかもしれないっすね』

カリブーは、ソラのたとえに少しだけ苦笑にがわらいを浮かべ

遠い目で『そうね』とだけ答える


この世界に海は無く、川もほぼ無いにひとしいので

カリブーは、魚の事を良く知らない状態で

「無理矢理にめられたかごから、放たれた野鳥的な感じかしら?」

ニアンス的に何となくで解釈かいしゃくして、適当に納得していた。


此処で御気付きの方は、御存ごぞんじの通り・・・


レイブンは自分で付けたうでの傷に、足を引っ張られる事も無く

身が細るほどに、レイブンの身をあんじているセレスの心配を余所よそにして

不敵な笑みを浮かべながら、とても元気に

カリブーが持っていた、自分の背丈せたけ程の長さの刀を借りて

軽々と振りまわしながら、楽しげに戦っていた。


「アタシとソラが一緒に来る必要性ってあったのかしら?」

カリブーが一緒に来た意義を見失う中


レイブンはほぼ一人で、おそって来る敵を撃退しながら

『カリブー!獣の毛皮が燃えたら嫌だから

火炎放射器を使ってくれるなよ!』と、余裕よゆうたっぷりに叫ぶ


カリブーはまた一つ

一緒に来た意味が無くなった事を実感しつつ『了解』と

レイブンに対しあきれ、うつろな笑顔を向ける。


そう、セレスを森の入口に残してきた一行は今・・・

桜花おうかが居るであろう目的地まで後、半分辺りの所ラインから

血のにおいをさせるレイブンとソラをねらう獣に襲われたりしている


勿論もちろん、レイブンが仕掛けた思惑おもわく通り・・・

足を怪我けがしている様によそおった弱そうに見える

実質この中で最弱なソラが、カリブーの上に居ながらも

最初に獣に目を付けてもら


それに気付いたレイブンが、ソラとカリブーを先に行かせ

ゆっくり歩き、獣の気を引き自分を襲わせすように仕向け

レイブンの自己犠牲の元・・・

襲われそうになった所で反撃して、無造作に獣を切り捨てていたのは

ひそかに、最初の1回だけだったりするのは御愛嬌ごあいきょうと言う事にして

取敢とりあえず、忘れて貰おう・・・


時として考え抜いた作戦は、間怠まだるっこし過ぎてしまって

実践では、使えない場合もあるのです。


その後は、前から現れる蜂をレイブンが倒しながら

側面から現れる敵をレイブンが蹴散けちらしながら・・・

時々、カリブーが後ろから襲って来る獣をなんとか

ソラを振り落としそうになりながらも、後ろ足で蹴り・・・

運よく一撃で仕留め、事無きを得たりしていた。


のだが、しかし・・・


いつの間にか風向きが変わり

襲われる芝居しばいや、襲わせる手順を面倒に感じ

我慢の限界が来てしまった・・・

割合、短気な性分だったりするレイブンが

先に獣を見付けて、攻撃するスタイルに変化させていった。


レイブンが獣道に・・・

峰撃みねうちでなぎぎ払われ、続いて容赦ようしゃなく一刀両断した蜂の残骸ざんがいを残し

様子をうかがっていた無抵抗だが、こちらを襲って来そうな獣を

殺すつもりで刀の峰で殴打し、腹開きにして

道端みちばたならべて放置しながら、突き進んで行く


『これって・・・あっても良い光景なんすかね?』

ソラの疑問は、誰の答えてもらえる事も無く虚空こくうに消えた

レイブンは、敵を倒すのに忙しく

カリブーは「無しの方向」と言いたくても

これの御蔭で、自分が危険な目にわなくて済んでいる事を

ちゃんと理解し、知っているので何も言えなかっただけである。


レイブンの通った森の獣道けものみちの空気はよど

レイブンが切り捨てた獣の新鮮な鉄気かなけの強い血の臭いが充満じゅうまんしていく

正直、これはカリブーも・・・

レイブンに対して若干じゃっかん、ドン引きしている部分はあった


「この真っ赤な鮮血の道を辿たどれば、道案内無しで誰でも

レイブンを見付けられるんじゃない?」

「セレス置いて来たのって意味あるの?」って

思わなくもない状態で・・・

カリブーは、死体の道を作るレイブンの後に続きながら


『必要だから、手の込んだ事したのよね?

んだら怒られそうね・・・そもそも、踏んだら転んじゃいそう』

カリブーは何とか自分を納得させる方向を見付け

れた様子で、死体を踏まない様に気を付けながら歩き進んでいく


ただし『転んじゃいそう』と、カリブーの言葉を耳にしたソラは

おもむろに視線を下に向けてしまい・・・死体を見て『うっ』と

逆流しそうになる胃液を押し留める為に、口元をぐっと押さえた


すでに、臭いで顔色を悪くしていたソラの事を見ていたカリブーは

『ちょっと!御願だからアタシの背中の上でかないでよ!』

と、悲鳴染みた声で言葉を発する。


何とかえたソラは、生唾なばつばを飲み込んで

『今日の先輩、どうしちゃったんっすかね・・・

普段、基本的に無駄むだに生き物を殺さない方向なのに』と、つぶや


ソラが感じた疑問に『何にも知らなかったのね』と

ソラが自分の上で吐かなかった事に安堵あんどしながら、カリブーが笑う

『この森と、森の先にあるかべを越えた場所に酪農らくのう集落があるんだけど

そこには、皮製品の工房こうぼうがあるの・・・』


そこまで聞いても首をかしげるソラに、カリブーは

『十中八九・・・顔面皮のフードの付いたなりきりマントを

レイ君は、自分で皮をぐ所から作りたいんじゃないのかな?

前にレイ君、山都やまとさんが持ってるのを見てうらやましがってたから』

と、少し不安げに微笑みながら簡単に説明した。


ソラは・・・

マスクの様に獣の顔の皮のフードを被ったレイブンを想像して

『変わった趣味しゅみっすね』

理解出来ずに顔を引きらせる


『あら?そうなの?

男ならみながやる事で、皆が好きな事なんだと思ってたわ・・・

かぶりモノして「戦隊せんたいモノごっこ」とかするの・・・

ソラは「戦隊モノごっこ」しないの?』

『戦隊モノ?しかもごっこ遊び?それマジッすか?!』

ソラにとって、想定外の話の展開てんかいおどろきすぎて

ソラは前に振り向き、体勢をくずしてカリブーの背中から落ちかけた。


そのタイミングを見計ったかの様に

大きな影が、しげみを割ってカリブーとソラに襲いかかる


落ちかけたソラを支える為に

背中の方向に視線と手を伸ばしたカリブーは、反応が遅れ

バランスを崩したまま、カリブーの手に支えられたソラに

何かしら出来る事は無かった


太い角材をし折る様なにぶい音が木霊こだました。

策を講じて・・・使わないで終わる事って無いですか?

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