037「36 峰撃ち」
「36 峰撃ち」
一行は、蜂が飛んでくる方向に歩き出し
木々を焦がし、木の葉や草花を焼きながら
カリブーが率先して、蜂でできた屍の道を作っていった
生木や新鮮な草花、土からは白い湯気が立ち昇り
枯れ葉や、枯れた木の枝は燻り・・・
風でも吹けば、森が火事になってしまいそうな
そんな様相を醸し出し始める
『これって、こんな事までして大丈夫なんすか?
森が火事になったら、不味くないんっすか?』
歩いている道を振り返りながら、心配そうにしているソラに
『一応、天井にスプリンクラーがある地域ではあるけど
火事になったら頑張って消火するしかないだろうな・・・』
レイブンは、笑いながら他人事の様な態度で答える。
そんな頼れなさそうな2人を見て、残念そうな顔をし
『そうだ、カリブー・・・桜花が子牛連れて行方不明なんで
探すのを手伝ってくれないか?』と
隣の町へと続く・・・
道を囲む森を冗談抜きで焼き尽くしそうな
カリブーの勢いを引き留めたのは、白い鴉のセレスタイトだった。
セレスは、カリブーが背負った火炎放射器のボンベの上で羽を休め
先程、翼の毛繕いをしながらカリブーに聞こえる様に囁いていた
『「山都」の姪っ子な「桜花」に恩を売っておけば
姪っ子を大切にしてる「山都」に良い印象を与えられるんだが・・・
戦力不足なんだよな、どうしようかなぁ~』と、独り言風に・・・
カリブーは、セレスの言葉に
眉をピクリとさせ、普通は誰も気付かないくらいの反応を見せて
セレスをほくそ笑みさせる。
山都を前にすると、緊張してしまって
話しかける事も出来ないくらい・・・
実の所「山都が好き」なカリブーは
そんな浅知恵に、面白いくらい意図も簡単に引っ掛かってくれる
勿論、そのセレスの囁きを聴いていなかった
「セレスのニヤリと笑う顔」をも見ていなかったソラは・・・
『こんな危険な場所で、行方不明だなんて心配だわ
早く探し出して保護してあげなくちゃ・・・』と、言った
カリブーに対し『意外と人道的な人なんすねぇ~』と、呟く
密かに「セレスがどう思って笑ったのか」に気付き
耳が誰よりも良くて、全部が聞こえていたレイブンは・・・
「人を自分の都合の良い様に使う」セレスの手腕と
「山都からの評価を楯に、使われるカリブー」を静かに眺め
「山都さんを楯に使えるとは知らなかったな・・・憶えておこう」
なぁ~んて事を思ったなんて事は内緒の方向で
桜花を探す為の情報公開をカリブーに行った。
カリブーが持っていたタブレット携帯に周辺地図を映し出し
現在位置と、桜花が跳び降りた大体の位置を
ストリートビューをも用いて確認し
荷をそれぞれで持ち、背負い、リヤカーを獣道に放置して
獣道からも外れ、道なき道を進む事にすると・・・
森の中に、骨と皮だけになったミイラ落がちている
地域に踏み入れる事になった。
暫く進むと静かな森から、ズズズズズと奇妙な音が聞こえて来る
木の洞から、まだ温かく柔かい皮膚に包まれた骨ばった遺体が
ズルリと木を擦り、枝に引っかかり
がっさりと小枝や葉を落としながら、目の前に降ってきた
続いて突如現れた羽音、見上げると
そこには、大きな蜂の姿があったのだが・・・
蛹から出て、十分に時間が経っていなかったのであろう
気合の入ったカリブーの一撃で
皆が蜂の姿を確認する前に、ぶっ飛ばされてしまい
地面に叩きつけられ、蜂の体は四散してしまった。
レイブンは、カリブーが蜂に向かって撃ち出した斬撃を見て
『カリブーの峰撃ちって凄いな・・・
普通に斬り付けるより攻撃力が高くないか?』と、零す
『え?えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!峰撃ちって
相手を殺さない為に使うモノじゃないんっすか?』
峰撃ちと聞いてソラが本気で驚き
その事にその発言に、レイブンとカリブーが逆に驚く
『それはアリエナイだろ!峰撃ちを軽く弱く見過ぎだ!
普通の峰撃ちでも・・・
骨の部分に食らったら、その部分は確実に粉砕骨折で
内臓の部分に食らったら、内臓破裂で死ねるぞ!』
『レイ君・・・それで死ねるは、ちょっとだけ言い過ぎかも
確かに峰撃ちしたら、骨は簡単に折れるのは確かよ
寧ろ・・・刃毀れするから、骨は峰撃ちで砕くモノだし
頭狙って振り下ろすなら、峰撃ちでした方が御得だし
頭蓋骨で刃が止まる事無く、スムーズにヤレルけど・・・』と
何処も言い過ぎでない様な台詞が、カリブーから齎される
『もっと分かりやすく説明してやれよ・・・』
セレスが厭きれ顔で説明する2人を見ている
『刀は、圧縮されて硬く重たく丈夫な金属の塊だ
振り回しやすい上に、刀身は細く峰の部分は刃よりも丈夫だ
硬く重く丈夫で細いって事は・・・
攻撃の勢いを逃さず集中して与える事ができるって事だ』
セレスの難しそうな説明に対し
更に、ソラが困った様な表情を浮かべた。
3人は、ソラの理解力の無さに、困惑し
ソラは、聞いてない事まで説明されて困っている
そんな事には気付かないカリブーは提案するかのように
『じゃぁ~、えぇ~っと・・・
遠心力付けて、刀の重さ利用して峰の部分で切りかかったら
峰の部分は細いから・・・
大概の物を一刀両断できるってのでどう!』と、言い
『もういっその事、峰撃ちしても「高確率で死ぬ」って事で
茶を濁して、この話終わらせないか?』
と、会話に飽きたレイブンが話を区切ろうとする
『えぇ~それじゃ、峰撃ちの素晴らしさを伝えれてない!』
カリブーは不服そうに頬を膨らませた。
『どの攻撃の仕方も相手と切る場所、撃つ場所によるじゃない?
特に虫系は切っても暫く死なないでしょ?
動物系だって、死ぬ場所を切ったり撃ったりしなきゃ死ななくない?
例えば・・・魚の活造りとか、魚って死んでないでしょ?』
話が少しづつ脱線していく中
カリブーの活造りの説明で、ソラは話を切り替える為に納得してみせた。
3人の会話を聴きながら、蜂が絶命した事を確認し
セレスが、冷たく硬くなっていく遺体に歩み寄る
『最初に踏んで確かめた遺体の状況から、気付いてはいたが・・・
やっぱり狩り蜂だけじゃなかったな、G系がいたな・・・
最初に見掛けた生き物の死骸の事を忘れてたよ』
セレスが、レイブンに見える様に
遺体を嘴で突き、引張り状態を確認していると・・・
『うっわぁ~・・・狩りもする寄生蜂とか洒落になんねぇ~な
正直、攻撃的な狩り蜂だけでもウザイのにな』と
レイブンも、遺体の方まで歩み寄る
『なんすか?G系って?
後、狩り蜂とか寄生蜂とかってなんなんっすか?』
「蜜蜂」と、言う単語がある事くらいしか知らないソラが
遺体を見て、青褪めながら蜂の事を聴いてきた。
『蜜と花粉だけを集中して集めるのが・・・蜜蜂
生き物を狩って、肉団子にして巣に持ち帰るのが・・・狩り蜂
因みに、集団で襲ってきたのは狩り蜂だ』
セレスは、此処で一呼吸置き
『生きてる生き物の体の中に、適当に卵を産み付けて
そのまま寄生させて子供を育てるのが・・・寄生蜂
狩り蜂の様に狩りをして、神経毒で動けなくなった餌を持ち帰って
土の中に作った巣や木の洞、樹洞の中で
それの皮膚に卵を生み付けて・・・
生き餌を生かさず殺さず子供の御飯にするのがG系だ』
と、蜂の説明を終え・・・
『桜花が、G系の蜂に捕まっていない事を祈らなきゃな
神経毒からの回復は難しいし、精神的にヤラレテタリ
幼虫に食べ始められてたら、筋肉からヤラレルから寝たきりになるぞ』
と、セレスが情報を付け加えたが・・・
『俺は、殺されて肉団子にされてるのも
卵産み付けられて、幼虫に寄生され済みになってるのも
同じくらい嫌な気がするけどな・・・』
と、レイブンが言い
『そう?私は普通の寄生蜂に寄生されてる程度なら
死んだりしてないんだし
気付いた時点で、幼虫を手術で取り出せば何とかなるから
「無事に助け出せた」って事になると思うけど?』
と、自分がその立場に無いから自由な発言がカリブーから発せられる。
『マジすか・・・』
見た感じ、気軽に話されている話の内容にソラは鳥肌を立たせ
『こんなに、のんびりしてる場合と違うくないっすか?!』
と、声を荒げ・・・今更ながら慌てだした。
峰撃ち・・・
包丁や片刃刀の刃の無い、反対側の背の部分で撃(討)ち付ける事
と、私は認識していますが
包丁で軽く峰打ちして・・・
毬栗の毬や、胡桃、出汁に使う牛や豚の骨を割った経験のある人は
んな事したら確実にヤバイと知っている筈
何で、「峰打ち=安心」とかになっちゃったんでしょうね?
因みに、刀で相手を殺さず倒すなら・・・
刀の側面で平撃ちした方が適切だと、私は思います。