033「32 街外れで人を襲う者の正体とは・・・」
「32 街外れで人を襲う者の正体とは・・・」
ソラが、意識を取り戻すまで
無言でソラを眺め、ソラの周りを徘徊していたセレスが・・・
ソラが、意識を取り戻すと同時に
ナナシの上にまで走って逃げ、寝た振りをしていたセレスが・・・
今はもう・・・
ソラより精神的に優位な立場に返り咲き
ソラを精神的にチクチクと、子供の様に虐めている
レイブンは、これから行く場所で多く使われている
方言や文法を確認しながら
無言で、ソラとセレスの様子を見守っていた。
『あぁ~!セレスさん、酷いっす!
アボカドと海老だけ食べて、サンドイッチ残しちゃ駄目っすよ!』
ソラの言葉を聞いて、レイブンは・・・
「甘えるくらいにソラを気に入っているんだな」と
セレスの事を理解して
悲痛な台詞を吐くソラを哀れに思いつつも、クスクス笑う
『先輩、そこって笑う所っすか?!
俺が食べ物を大事にしないとマジ怒るのに・・・
セレスさんだけ特別扱いって・・・俺に対して酷いっす!』
ソラにそう言われても、レイブンは笑うのを止めれず
『でも、それはソラの朝飯だよな?
自分で分け与えたんだから、残りは自分で責任を持って
自分で食べろよ?』
ソラの頭をポンポンっと軽く叩いた
『それはとっても、更に無慈悲っす・・・』
半泣きのソラを見て・・・レイブンは、更に笑った。
一頻り笑った後
レイブンは、半泣きのソラを横目に本へと視線を戻す
いつの間にか、車輪からの振動が止まっていて
道草を文字通り食べながら進んでいた、牛の足が
完全に止まっている事に気付く
レイブンは、台車が暫く停車している事を訝かしんで・・・
「ポケットが6つもあって便利」と、履いて来た
地底の鈍色の空より濃い、グレイの迷彩柄のカーゴパンツの
膝上のポケットに本を終い立ち上った。
ソラは「食べ残しを食べるのは嫌っすよ」とか
小さく愚痴っていた為「もしかして俺、怒られるんっすか?」と
勘違いして、大袈裟に身構えるが
レイブンは、それを気に留める事は全く無く
『大人しくしとけよ』と、ソラとセレスと子牛を荷台に残し
桜花と、雛芥子のいる御者席に顔を出す
『これは・・・先に進むのが嫌になる光景だな』
歩くのを拒否する、台車を牽いていた乳牛の視線の先には
カラッカラに乾いたミイラが数体、落ちている。
『乳牛だから、無理に台車を牽かせるのは無理よ』と
雛芥子が、桜花とレイブンに伝える中
レイブンの言葉を耳にして・・・
バサッバサッと翼を鳴らせセレスは、止まる所を催促し・・・
レイブンは、本の入っていない方のポケットから
鹿の皮で出来た皮の手袋「弓懸」を出して、左手に身に付け
セレスが止まりやすい様に手をセレスの方に伸ばした
セレスは差し出されたレイブンの腕に止まり
翼で殴られる事を警戒していたソラも、後から覗きにやって来る。
雄が滅多に「産まれてこない」と、言う事情を知らないソラが
『そもそも、乳牛に台車を牽引させるのって有りなんすか?』
と、疑問を洩らす・・・
雛芥子は「そんな事も理解できないの?」と、言いたげに
『本当は、子育て中の雌牛を働かせるのは避けた方が良いけど
子牛を連れて行くのに母牛は必要でしょ?
だからって、母牛を荷台に乗せたら・・・
妊娠してない牛、2匹以上は牽くのに必要になるじゃない?
物理的に無理なのよ・・・餌とか的に・・・』と
吐き捨てる様に・・・でも、ちゃんと答えて
視線をミイラの落ちている先の・・・森の奥の道へと向ける。
『もしかして犯人は、吸血蝙蝠とかかな?』
桜花の推測に、セレスが怖い一言を残す
『それなら、残った肉を木にでも干しといてくれれば
後で、私が食べれたのに・・・』
暫くの沈黙の後・・・
『セレスさん・・・マジで食べる気っすか?』
この世界の摂理に慣れないソラが、表情を強張らせ
『師匠のは、半分冗談なんだから本気にするなよ』
毎度の会話のパターンにレイブンは飽きて、厭きれ顔でソラを見た。
『失敬な!私は何時も本気だぞ』
そう言ってセレスはレイブンの腕から飛び立ち
一番近くのミイラに舞い降りる・・・
セレスは、翼を羽ばたかせながらミイラの上でバランスを取っている
レイブンは「面倒だな」と表情に出しながら、台車を降りて
セレスの舞い降りたミイラの傍まで歩み寄った。
『レイ君!私にはもう、犯人が特定できたぞ』
セレスが楽しげにミイラの上を移動する度に
パリッパリッパリッとミイラから音がして
セレスが踏みつけた皮の部分から、白骨が顔を覗かせる
それが何を意味するか知っているレイブンは・・・
『あぁ~・・・俺も分かった気がするわぁ~・・・
取敢えず普通に、遭遇したくない相手なのは確かだよな』
セレスを捕まえ抱き抱え、台車の荷台へと戻る。
台車の後ろから戻ってきたレイブンとセレスに
ミイラに対する見解を訊きたがる桜花とソラ・・・
レイブンは2人を・・・
子供に対してする様な、ジェスチャー1つで黙らせて
荷台に置きっぱなしにしていた鞄から、携帯電話を取り出し
誰かに電話を掛けて何かを話し
『直ぐ持って来てくれ』と、電話を切る
セレスは、電話での会話を大袈裟に翼を用いて聴き耳を立て聴き
『妥当な判断だな』と、大きく頷いた。
『で?説明は?』
地味に近付いて来て、セレスの様に聴き耳を立てていた桜花と・・・
大人しく待っていたソラ・・・
そして、雛芥子の視線がレイブンとセレスの集まる
『そうだな、どんなのかと言えば・・・
吸血系の生き物の仕業では無く
質の悪い、肉食系昆虫の為せる業だったよ』
セレスの言葉に、それぞれ個々に困惑と動揺が走った。
そして、一番理解していないソラは首を傾げ・・・
『肉食の虫って、なんすかそれ?
それって、大きい虫っすか?それとも、小さい虫なんすか?
どんな虫が、どんな食べ方したら・・・
落ちてるミイラみたいな残骸が残るんっすか?』
桜花と雛芥子も「訊きたいであろう質問」をしてくれる
セレスは、レイブンの左腕の上で胸を張り仁王立ちし
「仕方が無いなぁ~」と、言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。
『敵は十中八九・・・
ほっそりしたボディーにキュッと括れた腰を持つ
攻撃的で空中を素早く飛交う事の出来る「肉食の蜂」だぞ
因みに、餌になった奴等の大きさから推定するに・・・
背丈とか、レイブンくらいはあるだろうな』
『マジッすか?!そんな虫が普通に、この周辺にいるんすか?』
ソラの大袈裟な反応を気に入り、セレスが喜んで話す
『いるぞぉ~奴等は生き餌を捕らえては
「自分達にとってだけ無害な毒」で餌を動けなくして、卵を産み付け
卵から産まれた幼虫は、餌の大切な臓器を残して
生かしたままそれ以外の部分を全て
餌に注入した消化液で溶かして、啜って食べるんだ』
ソラが青い顔をして沈黙した・・・桜花は眉間に皺を寄せ・・・
雛芥子は、桜花に駆け寄り抱き付いている。
そんな中・・・
レイブンは一人、今更ながらの余計な事を考えていた
「ガシラさんがソラを連れて行けって言った理由は・・・
怖がる雛芥子に抱き付かれる桜花みたいな状況を
避ける為なんだろうな・・・」
そんな事は露知らず・・・
レイブンにじぃ~っと見詰められている事に気付いた桜花が
『わた・し・・・いや、僕は怖がってなんていないからな!
勘違いするなよ!』
と、頬を染め・・・何やらレイブンに向かって弁解を始め
何でそうなったか分からなかったレイブンは、困って溜息を吐いた
『レイブン!何だよその態度は!仕方が無い・・・
僕が怖がっていない証拠に「蜂」退治を手伝ってやる
覚悟しとけよ!』
『桜花!私、一緒に行って応援するからね』
『そうかそうか!レイブンに対するハンデとして
僕は、雛芥子を護りながら蜂を退治してみせよう!』
悪い方に事が収拾が付いてしまい・・・
レイブンは、ハイガシラの仕事を引き継いだ事を
最初の仕事から後悔し始めていた。
肉食の蜂の幼虫の餌の食べ方については・・・
リアル部分に若干、憶測が入っていますw(実は、蜂に詳しくないw)
何で餌が逃げないか?とか
どんな風に生かしながら食べてるか?とか・・・知らないわぁ・・・