031「30 足りない配慮」
「30 足りない配慮」
ソラがリビングに入り、最初に目にしたのは・・・
『うおりゃぁ~!』と、牛乳の入った瓶を振り回して歩き回るフィンと
フィンの後を追いかけて歩く子牛の姿だった
『何でまた、こんな場所に子牛がいるんすか?!』
部屋に入って、早々のソラの突っ込みに
『子牛が此処にいちゃいけない法律は無いわ!』と
雛芥子が、牛特有の爆乳を揺らしてソラの前に立ちはだかり
フォークに刺さった、1口サイズのホットケーキを
驚いて開いたソラの口へ押し込んで黙らせた。
焼く時に使ったであろうバターの焦げた風味と
焼き上がった後に塗ったであろう新鮮なバターの美味しさ
更に、メイプルシロップが染み込んだ
柔かく甘いホットケーキの味がソラの口の中に広がる
『美味!美味いっすけど・・・
こんなんばっかり食べてたら、雛芥子さん太るっすよ』
再会して早々のソラの余計な一言に、雛芥子の表情が引き攣り
バチィ~ンと小気味良い音が響く
ソラは、目の前に火花が散ったのを見た気がした
そして気付いた時には、頬が痛い・・・
ソラが、雛芥子に頬を平手打ちにされた事に気付いたのは
その雛芥子に怒鳴られた後だった。
『乙女に対する口の利き方が成って無い!
次、余計な事言ったら逆頬も引っ叩いてあげるから』
御立腹な雛芥子を見てソラは・・・
リアルな牛クオリティ部分が胸だけで良かったと心底思った
万が一、雛芥子の手が牛の蹄になってたら・・・
「無事で済まなかった」であろう事は、間違いない
そんな状況をキッチンから
可愛らしい薄ピンクのフリルエプロンを付けた桜花が
哀愁を漂わせ眺めていた。
ソラがそれに気付き、桜花をじっと見詰め
目で、雛芥子から助けてくれるよう求めて見たが・・・反応は無い
『ちょっとソラ!聴いてるの?』と、怒る雛芥子を
左手で制し、押し留め・・・
『何か・・・桜花さんの様子、変じゃないっすか?』と
右手で桜花を指すと・・・雛芥子は眉を顰める
その事で一瞬、話題が逸れてソラは喜んだが・・・
『桜花?』と、雛芥子が話しかけても桜花からの返事は無い
桜花の視線は、ソラと雛芥子の方向を向いてはいたが
何にも映してはいない様子だったので
話が逸れて喜んだ分だけ、ソラは焦った。
ソラと雛芥子の2人は、桜花が心配になり
2人揃って、キッチンへ足を踏み入れ・・・
何となく、その理由に気付き無言でその光景を眺める事になった
牛乳が入った瓶に「罅」が入っている
多分、桜花が握力を掛け過ぎてやってしまったのであろう
そして普段、怒らないレイブンが怒っている・・・
『卵も割れないのに、手伝うなんてよく言えたもんだな!
何をどうすればこんな事になるんだ!』と
綺麗にホットケーキを焼きあげながら
桜花が散らかしたらしき場所を片付けている
片付け持って料理をする手際の良いレイブンは
料理中も散らかさない為
桜花が散らかしたらしき場所が目立ち、良く分かる
卵や小麦粉、牛乳、ホットケーキの液が
桜花が居たであろう場所で零れて、床をも汚している
持ち手の握り潰されたフライパンや、穴のあいたボール
割れた計量カップ、折れたオタマ、分解された泡立て器
それらは全て、桜花の仕業であろう
レイブンの怒る気持ちもわかるが・・・
追い詰められ過ぎた感の否めない桜花に対して
同情する事しかできなかった。
『採れたての牛乳振って、バター作ったよぉ~』
空気を読まないフィンが
バターを分離させた牛乳を持って、キッチンへとやって来る
『フィン、ありがとう助かったよ』
バターを採った後の牛乳をホットケーキの生地を作るのに使い
レイブンは、フィンが作ったバターを半分フィンに渡して
『焼くのに使う分は貰ったから、後は塗って食べて良いよ』と
桜花に対する嫌がらせかの様に、優しい笑顔をフィンに向けた。
フィンは、焼き上がったホットケーキも一緒に受け取り
『御礼言われちゃった』と、嬉しそうにリビングに戻っていく
桜花から感じる雰囲気が更に、暗くなった
役立たずを実感して落ち込んでいるのかもしれない・・・
ソラは、桜花を気遣い
『そうだ、桜花さん!
ホットケーキ運ぶの手伝ったら良いじゃないっすか』
と、言って・・・
『余計な事言うな!』と、レイブンに怒られた。
ソラでは無く桜花が、見た事も無い程に体をビクつかせる
『そいつには、もう・・・何もさせんじゃねえ!
リビングに連れてって、二度とキッチンへ踏み入れさすな!』
桜花が、キッチンでどんな失敗をヤラカシテきたのかは不明だが
レイブンが、尋常じゃない程の剣幕で怒った為
よっぽどの事を仕出かしたのであろう
ソラと雛芥子は、慌てて桜花をキッチンから連れ出した。
連れ出された桜花は・・・
何を思ったか、無言でエプロンを勢い良く床に脱ぎ捨て
部屋の隅に置かれた予備の椅子の上で三角座りして
暗い顔でキッチンの方を見詰める
ソラが話し掛けようとすると、雛芥子がソラを止めた
『ソラには無理よ!乙女心に配慮した気遣い出来ないでしょ?
桜花を傷付けて怒らせて終わるだけになるから止めときなさい』
『そんな事、やってみなけりゃ分からないじゃないっすか!』
ソラは雛芥子に反論して、桜花に声を掛け・・・一睨みされて
子牛と戯れる雛芥子の元に戻って行った。
『だから言ったでしょ?』と、雛芥子が子牛と仲良くしながら
『ソラは馬鹿な子だねぇ~』と、ソラを馬鹿にする
子牛も言っている事が分かったのか?良いタイミングで鳴いたので
『その子牛って、雛芥子さんの御子さんだったりしませんよね?』と
配慮どころが「侮辱」に値する言葉をソラは発し
雛芥子の拳がソラの顎の下をとらえた
肘を曲げたまま下から突き上げる様に放つアッパーが見事に決まる
近くで、ホットケーキを食べさせあっていたハイガシラとフィンが
『素晴らしいパンチだ』と、雛芥子に拍手を送り
事の成り行きを耳にし
振り返り雛芥子の振り上げた拳を見た桜花が・・・笑い転げた。
ノックアウトされたソラを見た桜花は
『雛芥子の護衛として一緒に来たけど・・・
こんなに強いなら、その必要は無かったかもしれないな』と
少し何時もの調子を取り戻して、落ち込むのを止めた様だ
因みに・・・子牛は普通の牛で
今回、母牛は大きな覆い付きの台車に乗せられて
リビングにある外への出入り口の・・・外で餌をもらって寛いでいる。
ソラは、ハイガシラの口利きで雛芥子と和解し
やっとの事で、朝食を食べ始める
甘いホットケーキには・・・
メイプルシロップを始め、さっぱりとした蜂蜜と檸檬のシロップ
三温糖のシャリシャリ感が残るベリーのシロップが準備され
甘くないパンケーキには・・・
レタスや卵サラダ、甘辛く炊いた牛の時雨煮に白髪葱
鶏肉とベーコンとプチトマトを焼いた物まで準備されていた。
一仕事終えたレイブンがリビングに出てきて
食事中に仕事の話が割り込んできた
子牛は「倉庫B」隣町のリーダー宛ての商品で
「雄の子牛」をトレードする為に・・・
母牛付きで、雛芥子と桜花が運んでいる途中らしい
街外れで、人を襲う何かを退治しないと子牛を運べない為
話の流れから・・・
今回の仕事のオプション的な仕事になりそうだとレイブンは判断した
が、しかし・・・
『雛が持参した材料を使ったホットケーキを食べたからには
僕の為に働いて、犠牲になっても貰うからね』By桜花
『おかしいっす!雛芥子さんの為ならまだしも
なんでまた、桜花さんの為なんすか!』Byソラ
『あらやだ、雄なんだから細かい事気にしないの!
私の物は桜花の物でもあるのよ、食べた分以上に
私の為に働きなさい』By雛芥子
レイブンは見なかった事にしてキッチンへ戻り
『あ、丁度良い所にレイ君!特製ジュースをソラに運んでやってくれ!
今回は、メロン風味の香料を足して爽やかに仕上げて見たぞ
凄かろう?』
キッチンの端で「パワーアップジュースハイパー」を作成していた
セレスから、そのジュースを受け取った。
ガラスのコップの中から・・・
得体のしれない香りが立ち昇っている気がするのは気のせいか?
レイブンは深く考えない事にして
この後の時間をハイガシラの「地獄の特訓」で過ごす予定の
ソラの元へジュースを届けたのだが
その時やその後のソラの様子については・・・
酷い事なる予定なので、読者様の想像に御任せする事にします。
メロンの味の良い所だけを出せれば良いけど
メロンの風味だけを再現したら、青臭くて不味いですよね?
特に、外側の皮に近い部分の風味は・・・
美味しいとは言えない気がするの、私だけではない筈w




