030「29 ジュースと言う名の攻撃的な飲み物」
「29 ジュースと言う名の攻撃的な飲み物」
仕事に出発する夜明けの日まで後、数日・・・
濃厚な焦がしバターと、ホットケーキの甘い香りを漂わせ
今日も、ハイガシラによるソラの為の強化トレーニングが始まる予定
勿論・・・
予定を実行に移す為、ハイガシラはキッチンワゴンに
「朝食」と「名目上では、栄養ドリンクみたいな物」を乗せて
ソラを起こしに、ソラの自室へ来ていた。
ソラは、ハイガシラに命令された犬ロボの鼻ずらで転がし起こされ
犬ロボのナナシの力を借りて、筋肉痛になった全身を引き摺り
ベットから体を半分起こして・・・
サイドデーブルの上、目の前に鎮座する「土留色」
想像しやすく説明すると・・・
ちょっと気味の悪い感じに濁り、黒ずんだ紫色の液体
通称・・・
セレスタイト特製「超健康パワーアップジュース」を
ナナシのよって無理矢理、視界に収めさせられた。
今日も不味そうな存在感を発する液体は
不釣り合いに、美麗なガラスのコップに注がれ
ソラに飲んで貰うのを待っている
ベットの横では、それを飲み干すのを待つ
ハイガシラの笑顔が、今日も頂けないくらい素敵に煌めいていた
『ソラ、頑張れ!アタイが応援してるよ!
早く飲んじゃわないと、折角のホットケーキが不味くなっちゃうぞ』
ハイガシラの隣でフィンが・・・
ソラの為に用意されたホットケーキをつまみ食いしながらも
ソラに「超健康パワーアップジュース」を勧めてくる。
ソラは、深い溜息を吐きながら
思うように動かない体で、ベットの縁へ移動し
ナナシの体に背中を預けた状態で座って・・・また、溜息を吐く
座り直した場所の目線の先・・・
キッチンワゴンの上で、ソラの為に用意された筈のホットケーキを啄む
ジュースの作り手である、白い鴉のセレスの姿があった
ソラは改めてセレスを睨んで、目で何かを訴え・・・
諦めたかの様に、震える手で
ヤバイ色の液体の入った、ガラスのコップを持つ
プルプルと、小刻みに震える手・・・
コップの中で揺れる液体は、粘り気を象徴する様にゆっくりと揺れる
無意識の内に、ソラは自然と生唾を飲み込んだ
『これもある意味で修行だ!見守ってやるから一気に飲み干せ』
ハイガシラが楽しそうにソラを応援してくれる。
『飲みにくいなら、炭酸水あるよ!割って飲む?』
フィンがキッチンから持参して来ていた
瓶ビールにありがちな、特殊な形状の蓋が為された
炭酸水の入った瓶を・・・
ソラのベットの横に設置されている、サイドテーブルの上に置き
「割って飲むか?」の返答を聴く事も無く
『オープナーが無いや』と
持って来るのを忘れたらしい、瓶の蓋を開ける為の「栓抜き」を
キッチンへと取りに戻った。
流石のハイガシラも、フィンの発言の驚き
『取って来るね』と部屋を出て行ったフィンに向かって
複雑そうな表情を見せる
『ソラ、早く飲まないと・・・地味に味を堪能しながら
炭酸水で増やされた分までも、飲まされる事になるぞ』
『それは、一大事っすね・・・』
ソラは虚ろな目で、手にしているガラスのコップの中の液体を見詰め
一度、大きく深呼吸してから・・・
一気に、気味の悪い液体を咽喉の奥に流し込む。
甘苦い、渋みもちょっとあるドロドロした液体が
ソラの咽喉に貼り付き・・・更に、胸焼けを起こさせる
ソラはサイドテーブルに、必死でガラスのコップを戻し
ベットに倒れ込んで、のた打ち回った。
『あぁ~もぉ~・・・不味いっす!水、水が欲しいっすぅ!』
ソラの大声が家の中を響き渡る
『軟弱だなぁ~・・・
仕方ない、ハイガシラ!炭酸水を開封して渡してやってくれ』
セレスはニヤニヤしながら翼の下に嘴を入れ
隠し持っていた瓶のオープナーを取り出しハイガシラに渡した
フィンの性格を予測しての気遣いなのかは、不明だが・・・
持って来た筈の瓶のオープナーを
セレスがこっそり隠して持っていたらしい。
ハイガシラは慌てながらも、ソラの為に瓶を開けてソラに手渡す
起き上がり炭酸の入った瓶を受け取ったソラは・・・
勿論、炭酸であるが為に簡単に飲み干す事が出来ずに
少量を口に含んでは飲み込みを繰り返して
やっとの事で不味さから解放される
ソラが不味さから開放された頃に、フィンが戻ってきた
『あれぇ~?』と、言って首を傾げ
『ま、いっか』と、言って残っていたホットケーキを食べあげた。
『全部食ったのか・・・』
『美味しかったよ!』
ハイガシラの言葉に幸せそうに答えるフィン
『今日のホットケーキも美味しかったよなぁ~
そうだ、フィン!食べ足りないから、追加を発注しに行こう』
セレスの誘いに、フィンが『行こぉ~!』と同意して
セレスが飛び立ち、フィンがそれを追って部屋を出て行く
ソラの自室に取り残された、ソラとハイガシラは・・・
深い溜息を吐いた後、軽く笑い合った。
『今日も、フィンさんとセレスさん・・・元気っすね』
『そうだな、何時も通りだな・・・でも、女ってそういう生き物だろ?』
ハイガシラに同意を求められ、同意する振りして
「多分、それは・・・あの二人だけっすよ
そもそも、俺の母さんそんなんじゃ無かったっすし・・・
歴代のクラスメイトの女にも、そんな娘はいなかったっす」と
ソラは密かに思いながら、筋肉痛の痛みを感じる事無く立ち上る。
『もう、筋肉痛は治ったのか?
「超健康パワーアップジュース」は、不味い分だけ即効で効くなぁ』
ハイガシラは、ソラが飲み干したコップを手に取り眺める
『そうっすね、確かに効くんすけど・・・
ハイガシラさん・・・これって飲み続けて大丈夫なもんなんすか?』
ソラは、ハイガシラが持つコップを指さし不安げに質問した
『飲んでて突然死したり、廃人になったりとかしたりしないっすよね?』
少しの沈黙の後・・・ハイガシラがニヤリと笑う
ソラは背筋に冷たい物を感じながら、ハイガシラの笑顔を見ていた。
沈黙の後・・・
『くふふふふふ』と、ハイガシラから噴き出す様に笑い声が零れ
ハイガシラの笑いが止まらなくなる
『あはははははは、自分で言った事を勘違いして信じてやん』
ハイガシラはキッチンワゴンにコップを置き
ソラが手に持ったままだった炭酸水の瓶を回収して
ソラを一人残し、颯爽とソラの部屋を出て行った。
『えぇっとぉ~・・・それは、大丈夫って事なんすよね?』
部屋に残されたソラは独り言を言い・・・
『大丈夫でなければ、今のレイブンは存在してませんよ』との
行き成りのプリムラの声に飛び跳ねる程、ソラは驚く
『そのレイブンがホットケーキを焼きながら、ソラを待っています
さっさと着替えて、リビングまで行きなさい』
ソラは、プリムラの相変わらずの冷たい言い方に溜息を吐きながら
「プリムラさんに何を訊ねても・・・
専門用語だらけの電子音声を無駄に長時間、聞かされ続けるだけで
俺の知りたい答えが、その音声の何処にあったかすら
教えて貰えないんすよなぁ~・・・」
ソラは、自分の不安を取り除く為の聴きたい気持ちを
抑える為のいい訳を自分にした。
ソラは備え付けのクロゼットを開け
奇妙に可愛らしい柄のTシャツと薄手の布のハーフパンツを脱ぎ棄て
ハンガーに掛かった普通っぽいTシャツにジャージの上着を着て
ジャージ生地のハーフパンツに着替え、靴下と運動靴を履き
部屋を出て洗面所に向かう
その後を追い、ナナシが・・・ソラが脱ぎ捨てた服を銜えてついて行く
洗面所に辿り着くとナナシが洗濯物を洗面所のランドリーボックスに入れ
ソラが顔を洗い拭くのに使ったタオルも
ナナシが、ソラから受け取って入れてくれた。
『俺の味方は・・・ナナシだけっすね』
『俺様が今、助けてやれる事はこれくらいしかないからな・・・
今日も、頑張れよ・・・
朝食の後「パワーアップジュースハイパー」飲まされて
ハイガシラの「地獄の特訓」を受ける事になってるんだろ?』
ロボット犬に慰められながら、ソラは・・・
「超健康パワーアップジュース」よりも不味い
食後の「パワーアップジュースハイパー」の待つリビングへと向かった。
リアルな御話・・・
「ジュースと言う名の攻撃的な飲み物」に
私が最初に出会ったのは、私が「高校生」だった時代の事です。
貰った缶ジュースを口にして漫画の様に吐き出したのは
アレが、最初で最後の事でした・・・が、しかし
市販されている以上、愛飲している人がいる筈
人種的に、口に合う合わないがあれど・・・
私にとっての「ジュースと言う名の攻撃的な飲み物」は
今でも市販されています。