003「02 御買物に行く」
「02 御買物に行く」
運送業を営む、下半身が馬なおっちゃんや駱駝系の獣人達
人や大きく重い物を運ぶ・・・象や牛の獣人達が
スマホやタブレット携帯片手に、道路に犇めき台車を引く
通勤ラッシュの時間帯
レイブンは、麻製のエコバックを持ってスーパーに来ていた。
店内に入ると、天上階産の食材には・・・
それぞれ作られた地区の表示と、品質保証マークが付き
それより下の階で作られた食材には・・・
作られたその産地だけが表示されている
勿論、天上階産の食材は・・・
品質が保障されている分だけ御値段設定が、ちょっと高い
レイブンは迷わず、天上階産の食材を避け安い物に手を伸ばす
『スイートポテト作るなら、天上階T地区産でしょ!』
セレスが宙を舞い、サツマイモコーナーに降り立った。
『この芋が美味そうだこれにしよう!』
セレスが翼で指す芋の値段は・・・
一番安い物と比べると、倍以上するとっても御高い値段だった。
冗談抜きで「師匠を連れて来るんじゃなかった」と
心の底から後悔し、心の中で呟くレイブンだったが・・・
セレスを連れて来てしまってからではもう遅い
目利きのプロに掛かれば
肉や魚、卵もバターもコンデンスミルクも牛乳も・・・
安い物でなく、問答無用で高級品がチョイスされる。
『師匠、これじゃ予算が足りねぇ~ぞ』
苦情を申し立てるレイブンに、「渡り鴉」であるセレスは従わない
理由は、大した物ではない
レイブンに、自分の種族である「渡り鴉」と言う意味の
名前を付けたのがセレス自身だからなのと
4~5歳くらいの時から「セレスとフィンとプリムラ」の三人が
親代わりにレイブンを育ててたから
レイブンは基本・・・
記憶を無くした状態で拾われた恩義から、逆らえないのだ
このセレスの態度は、確信犯であった。
買い物カゴを乗せたカートの上に・・・
セレスの足で、高額商品が次々と積まれていく
常識的な事だが・・・セレスの様な御客様や、介助犬等が
「足・口」で持っちゃった商品は、売り場に帰すの厳禁!
他の御客様が、購入するには支障が出るので
「買い取る」義務があるので気をつけねばならない
そうならない為に、店内には・・・
一緒に店内を行動し、欲しい商品をカゴに入れてくれる
サービススタッフが、「万引き対策の巡回」を兼ねて常駐している
レイブンは買い物用のカードの残金を確認し
大きく1つ溜息を吐いて・・・
セレスと、店内を巡回していたサービススタッフに声を掛けた。
1つの頭に3個の顔がある、顔見知りのサービススタッフは
乱れた商品陳列を直す為・・・賞味期限を確認しながら
商品の顔、パッケージの正面を表に向け商品を前に寄せながら
レイブンの御願を快く受けてくれる
セレスが商品を入れ足さない様に監視してくれるそうだ
『私を御荷物の様に扱うでないわ!』
セレスは・・・若干不服そうだが仕方がない
『今、北館のATMが空いているそうよ、いってらっしゃい』
サービススタッフのお姉さんが
耳に付けたイヤホンと、胸元に付けたマイク
インカムで・・・店内情報を聞き、アドバイスしてくれる
レイブンは御礼を言ってATMに向かった。
お姉さんの御蔭で、レイブンは
誰もいないATMに辿り着く事ができ、並ばなくて済んだ
セレスを預けている状態での、混んでるATMの待ち時間程
心労を溜める事柄は無いだろう・・・
心底、店員に「感謝」である
レイブンは自分の銀行のカードと買い物用のカードを差し込み
ATMのカメラを覗き込むように右目を近付け、自分を認証させ
銀行から、買い物用のカードに必要な金額を移動させる
ロスタイム無しで、無事用事を終わらせる事ができたのだが・・・
セレスの元に戻ったレイブンは・・・
セレスをサービススタッフに預けて行った事を後悔する事になる
元いた場所に戻ると・・・
そこには「買う予定の物」を乗せたカートが放置され
近くに人だかりができていた。
店内の一か所でくるくると旋回し飛ぶセレス
その下からは・・・「来るな・近付くな」と叫ぶ声
喧騒に塗れた店内で、此処からセレスに呼び掛けても
レイブンの声は届かないだろう
仕方無しに、レイブンは人混みを掻き分け
人混みの最前列に出て、セレスに声を掛けたら・・・
何故か、この騒動の原因に抱き付かれる事となった。
『人だ!人間いた!・・・助けて!』
フィンくらいの背丈の・・・
青年と言うより少年に近い男の子に縋り付かれ、レイブンは驚き
観客達は・・・
『なぁ~んだ、天井から来た迷子か・・・』と
すぅ~っと引いて興味を失い立ち去って行った。
『訳分かんねぇ~・・・ここ何処なんすか?』と
愚痴り啜り泣く少年の声が、店内に小さく響く
『「知り合い」って、訳じゃなさそうだね』
唖然としたレイブンに、顔馴染みの古株店員が声を掛けてきた
店員を見て、少年が『化け物!』と叫び悲鳴を上げる
『ったく、うるせぇ~よ!』と・・・レイブンは取敢えず
少年の胸倉を掴み上げ、頬を平手打ちし・・・
『一旦、黙ってろ!』と怒鳴りつけた。
下半身に魚の様な尾と・・・
6個の犬の顔12個の犬の様な足のある古株店員に
『「ミセス倉庫A地区」なんだろ?
この地区で一番「綺麗な人妻」のお前が、そんな顔すんなよ』と
レイブンは、優しく微笑みかける
『レイブン、朝っぱらからナンパか?』
上から状況を見守っていたセレスが少年の上に降り立つ
また、悲鳴が上がった・・・
『痛い痛い痛い痛い!つっ爪が刺さるぅ~!』
偶々、現場に出くわしただけなのに
雰囲気的に巻き込まれた感が否めない状態
他の御客様に迷惑が掛かるので、店の奥で話をする事となった。
取敢えず、パニック起こす少年を鉄製の籠に入れ
裏で、出された茶菓子と御茶を頂きながら・・・
カートに乗せた商品の会計をしてもらいながら話を聞くが・・・
『見てた限り、何の原因も無く一人で騒いでた様に見えた』等
大した話は出てこなかった・・・
少年は、籠に入れられてから何か言いたげだが沈黙している
『取敢えず・・・この子供が壊した物の賠償と身柄だな
どうする?置いて帰ったら寝覚め悪い事になりそうだぞ?』
セレスが、誰にも得になりそうにない事を口走っていた。
レイブンは、鉄籠の前にしゃがみ観察する・・・
何処かの制服っぽい、軍服みたいな詰襟の服を着ている少年の顔は
不安感からか、青褪めている様に見える
良く見ると・・・
服の布地は上等そうだが、汚れ擦れた傷が所々に付いていた
更に良く観察すると「本人」粋がってる雰囲気はあるが・・・
どちらかと言うと「使う側」より「使われる側」の生き物であろう
『廃棄処分臭いなぁ~・・・』
レイブンの溜息混じりの言葉に、少年は暴れ出した
『え!?ちょっとまって!は・・・廃棄処分?俺、死ぬんすか?!
勘弁してよ!行き成り殺すのはナシでしょ!』
レイブンは微妙に驚き、腕を組んで考え込っむ・・・
暫くして『あ、そっか・・・』と、立ち上がった
『お前をこれから「廃棄処分しよう」って話じゃないぞ』
と、レイブンは軽く笑って・・・
『お前は既に「世界から廃棄処分された存在だろう」って事だよ』
笑って言うべき言葉ではなさそうな事を笑顔で言った。
言われた言葉に、硬直する少年を無視し
相手が訊いてなさそうでも、話は進んでいく
『この地下都市に「不法投棄される」のって大概に
「要らなくなったモノ」だけなんだよ・・・
お前も突然、捨てられて驚いたんだろ?
俺も此処に来た時、何にでも驚いてたらしいし・・・』
『そうそう!レイブンは子供の頃、驚き過ぎて
事ある毎に知恵熱出して寝込んでたんだよな』
レイブンとセレスの中で思い出話が花開く
『で?どうするの?』
話に割り込んできた、古株店員の言葉にレイブンは・・・
『同族の好で買い取るよ、何時もの「ヤシの実1ダース」と一緒に
一つ目の鐘が鳴った後くらいの時間に宅配よろしく』
いつもより、沢山の買い物をした。
この物語の世界、科学が今くらい発達してて
「化石燃料・原料」が存在しない設定の御話なのだが
良く考えたら、今の御時世・・・
生産コストを考えなければ、化石原料無しでは作れない物って少ない
何が作れないだろうか?