027「26 レイブンの黍団子」
「26 レイブンの黍団子」
『雉って鳥の名前?じゃあ!犬・猿・雉だね!
レー君とソラ・・・どっちが猿かなぁ?』
フィンも「旅するなら御供を」の話を聞いたのだろう・・・
要らない事で悩んでいらっしゃっている
『うぅ~ん・・・
ソラを山ちゃんか桜ちゃんかに変更しちゃ駄目かなぁ~?』
『駄目ですよ、山都は忙しいんです
それに、桜花には桜花の御仕事がありますからね』
ソラは、フィンと会話する夢路を眺めながら
セレスから聞いた「全裸で闊歩する夢路」を想像し
「マジッすか?」と訊きたくなる衝動に悶えていた。
『って、事は・・・犬は犬ロボのナナシで、私が雉
ソラが猿に決定したのか?』
白い鴉のセレスタイトがフィンと夢路の会話に割って入る
『そこが決定すると・・・
ハイガシラとフィンが御爺さんと御婆さんだな!
後で「黍団子用」の「黍」を持って来てやろう』
蒙もノリで会話に参加し・・・
『そうか御爺さんとしては、芝刈りと桃印の旗作りが必要か?』
『あ!じゃあ!アタイ川に洗濯?って川って何処にあるの?
そもそも洗濯って、どうやるの?』
ハイガシラとフィンが、モモ太郎の絵本を真剣に眺める
『困りましたね・・・
「鬼ヶ島」と退治しなければイケナイ「鬼」がいません
陸の孤島で、角さえ生えてたら構わないでしょうか?』
キッチンから戻ってきたレイブンが怪訝そうな顔をする。
テーブルに料理を並べ『何の話?』と、質問すると・・・
夢路は笑っているだけだった
『レイ君がモモ太郎する話だよ』
フィンは、レイブンに絵本を見せて微笑む
『取敢えず・・・後で、黍を届けるから黍団子作れよ』
『あ、俺もそれ食いたい』
『私の分も忘れるな!』
『アタイの分も!』と
取敢えずレイブンは・・・
「皆さん黍団子が食べたいらしい」と、言う事だけ理解した。
『で、ソラ・・・御前は?』と
「食べたい表明」をしなかったソラにレイブンが訊くと・・・
『俺・・・
夢路さんが本当に裸でその辺を歩くのかどうか知りたいっす』
予定とは違う返答に、変な沈黙が流れる
『そうか、ソラは私の裸を鑑賞したいのか!』
何故か嬉しそうな夢路をハイガシラが止め
『脱ぐなぁ~!』と、言って夢路が緩めた浴衣の帯を結び直す
驚き、目を見開いたソラ・・・蒙は苦笑いを浮かべ
フィンとセレスは・・・
『えぇ~いぃ~じゃん、一見の価値ありだよぉ~』
『そうそう、綺麗だから見て損は無い!』
とっても楽しそうにしていた・・・
ソラは「この世界にも、そう言う類の人はいるんすね」と
それなりに理解した。
さっきの話は掻き消え
幼馴染な「ハイガシラと夢路と蒙」の子供の頃の話に切り替わり
夢路には小さい頃から「脱ぎ癖」があって・・・
と言う話の流れになっていた
これでは、元の話を聞き出すのは至難の業であろう
レイブンは諦めキッチンへと戻ると・・・
『話の内容、俺様が教えてやろうか?』
キッチンでデザートの支度を始めたレイブンの足元に
ナナシが、猫の様な仕草で擦寄ってきた。
『ナナシ・・・水が掛かるぞ
それに踏んだり、躓きたくないから動いてる時に擦寄るなよ』
仕事の話でなさそうな雰囲気だった為
それ程まで会話の内容を気にしていなかったレイブンが
バターに砂糖を混ぜながら、話を聞いてやらないでいると
ナナシは、メタリックな背中に哀愁漂わし
ガスオーブンの前に座り込みを始めた・・・
どうやら、かまって欲しいらしい
「プリムラより、情緒豊かに出来ているけど
その分だけ情緒が不安定なのか?
それにしても、誰だよ・・・こんな面倒な設定入れたヤツ」
ナナシは移動させる度に、邪魔な位置へと移動した。
とうとう観念したレイブンは、ナナシに仕事を頼む事にする
『蒙さんに御願いして
「黍団子用」の「黍」調達に行って来てくれないか?』
ナナシは予想通り、仔犬の様に喜び
レイブンの足元を数周走り、リビングへと向かう
そして直ぐ、蒙を連れて戻ってきた
『本気で黍団子作るのか?
それなら、こいつに俺の家までのルート教える序に行って来るよ
それと、他に欲しい物は無いか?』
黍団子の事、周りは本気にしているのに
蒙だけは冗談のつもりで終わらせていたつもりらしいかった。
レイブンは少し考え
『それじゃ、卵と牛乳と砂糖・・・』
『プリンを作るのか?』
頼みたいモノを言い終わる前に蒙に言われ、レイブンは訊き返す
『え?蒙さんプリン食べたいの?』
『プリンは好きだ!材料を多めに持って来るから
バケツプリンを2つ持ち帰り用に作ってくれ』
レイブンが承諾すると、蒙はナナシを連れて出て行ってしまった。
『野菜も欲しかったんだけどな』
キッチンに一人残されレイブンは、独り言を言い
ナナシに邪魔されながら作り上げたクッキーの生地を
絞り袋で油の引いた鉄板に絞り出す
『そのクッキーの真ん中にチーズやジャムのせてくれ』
蒙達が去った後、キッチンにセレスがやってきた
レイブンは虚ろな瞳で白い鴉のセレスを見る
『この生地には、ちょっと合わねぇ~よ』
『じゃあ!生でそれ全部食うから生地を作り直せ』
レイブンは溜息を吐き、肩を落とす
『いぃ~よ、分かったよ師匠・・・
でも、味が多少落ちてもそんなに美味しくなくても我慢しろよ?』
セレスは自分の我儘を聞き入れ、行動するレイブンの後ろ姿を見て
『問題無い!私の嗅覚を信じろ!丁度良い味加減になっているから
嬉しそうに笑った。
こうして完成したクッキーは、以外と美味しく焼き上がり
『チーズの美味いっす!初めて食べたっすよ』とソラに好評
『今度、レシピを調理ロボに入力してくださいね』と
夢路にも大変好評だった
殆どのクッキーが・・・
ハイガシラとフィンの腹の中に収まってしまったが
2人にも称賛されて、レイブンは・・・
「私の言った通りだろ?」とセレスに態度で示され
セレスを敬うしかなかった。
皿のうえのクッキーが無くなり
蒙用に取って置いた分が狙われ数を半分に減らした頃・・・
蒙とナナシが黍の入った袋とプリンの材料を持って帰ってきた
『牧場以外の場所で、牛乳入れる缶に入った牛乳を見たの
俺、多分・・・初めてっすよ』
キッチンに持ち込まれた食材をソラが興味津々に見詰める。
『ところで、黍団子ってどうやって作るんっすか?』
『粉にして練って丸めて茹でるか、蒸して潰して丸める
もしくは・・・粉にして練ったのの真中に餡子入れて
水溶きの小麦粉潜らせて全体に黍付けて揚げる』
モモ太郎の絵本の中の黍団子を想定していた一同は
困惑を表情に露わにする
特にフィンが、3種類も上げられ動揺していた
『レ~くん!モモちゃんの黍団子はどれ?』
『・・・プリムラァ~、そう言うデータってあるか?』
黍の団子を知っていても
吉備団子も「モモ太郎のキビ団子」も分からないレイブンは
会話に参加していなくてもモニタリングしているであろう
プリムラに助けを求めた。
だが、残念な事に良い答えは帰って来なかった
『ごめんなさい・・・
昔話に出て来る物の個別の資料は、持ち合わせていません』
結局、「モモ太郎のキビ団子」がどれか分からず仕舞いで
レイブンは数種類の黍団子を作る事となった
作り始め、順番に1種類づつ出来上がり
それぞれ良い感想をレイブンが貰い・・・
『どれも美味いね、アタイはどの黍団子も大好きだよ』
フィンの感想に、レイブンは笑う
『試作品は出さないからな
第一、美味くなきゃこんな客の多い日になんて作らねぇ~よ』
『そうそう、美味しい団子が食べれるのは
試作品の味見役な私の御蔭だぞ、感謝しろよ?』
こうして、功労者役は・・・
無理矢理セレスに持って行かれる事になったのである。
昔は「黍」って安かったらしいですけど・・・
今、黍の御値段って高いですよねw




