025「24 謝りに行った結果」
「24 謝りに行った結果」
そんなに重くない筈の荷物が・・・
ケーキの入ったドギーバッグと数冊のファイルが、やけに重く感じる
2階からの声が聞こえて来る所に行くまで
普段、気軽に何も考えずに昇り降りしている階段が
やけに急で、登りにくい山の様に感じられていた
2階から微かに木霊する楽しそうなフィンの声と
低く優しい響きのハイガシラの声が聞こえた時には
レイブンは安心する為に深呼吸しなければイケナイ程、緊張していた。
聞こえてくる声から推測するに、フィンの機嫌は良さそうだ
「タイミング的には、今がチャンスかな?」
聞こえて来る会話の雰囲気から
2人は「某お取り込み中」と、言う訳でもなさそうな感じでもある
そう、「愛し合う2人」って言うのの「2人の時間」に
御邪魔しなければならない状況は
冗談抜きで、神経をすり減らすくらいに気を使う必要がある
タイミングを誤ると・・・色々、厄介なのだ
喧嘩している時然り、愛が高まり過ぎている時も然り・・・
特に持っていく案件が、今回は謝罪で
タイミングを失敗すると・・・
どっちの状態でも、より一層激しく怒られるモノなのである
勿論、今回御部屋の中の様子はそのどちらでも無い様なので
レイブンは色々な意味で安堵し
重かった足取りを軽く、階段を駆け上がる。
それから、レイブンは扉の前で深呼吸をした
本当は、ほとぼりが冷めるまで
レイブンは、ハイガシラに近付きたくなかったのだ
遠征先での仕事が終わってから・・・と、言うか
ソラの存在をハイガシラが認識してから
ソラの事でちょっと、御機嫌斜め状態のハイガシラと・・・
レイブンは、ソラを自分が連れ帰ってきた手前
直接、2人きりとかで対峙するのは嫌だったのだ
「話が終わるまで、フィンが機嫌良く一緒に居てくれます様に」
運を天に任せ、レイブンはファイルとドギーバッグを持ち直し
扉を軽くノックし、声を掛けてから・・・ドアノブを回した。
扉を引くと、目の前にフィンが立っていた
『レ~君どぉ~したの?暫く部屋の前で立ち止まってたでしょ?』
今回、ハイガシラがいるので
フィンが、レイブンに飛びついてくる事は無かったが
何時も通り機嫌の良いフィンが出迎えてくれる
レイブンは・・・
「鼠系の人の聴覚侮れねぇ~・・・」と、心の底から動揺しながら
フィンの直ぐ後ろに立ち、一緒になって出迎えてくれる
何時もレイブンを実の息子よりも信用し、可愛がってくれる
ハイガシラの顔色を窺う
今のハイガシラは・・・
意味気にニヤニヤしている所が、底知れぬ何かを感じさせていて・・・
『あの・・・もしかしてガシラさん
俺が何か謝りに来た事や
その謝罪の理由について気付いてたりする?』
レイブンが思っていた不安を口にすると
『気付いてないとでも思ったのか?』と、ハイガシラは
乱暴にレイブンの頭を強く撫で髪をぐしゃぐしゃにした。
『今回、「書庫からの無断での持ち出し」だけじゃないだろ?
分かってるよ・・・どうせ、夢路に中身を持ってかれたんだろ?
まぁ、別にその事はどうでもいいんだけどな・・・
街の会長・・・夢路に押し付けたの俺だし
何時何時、見返り求められても仕方がねぇ~立場だし』
ハイガシラは、ちょっぴり夢路との間柄を愚痴りながら
レイブンを部屋の中に連れて入る
フィンが気を効かせて
レイブンが持って来たファイルとドギーバッグを受け取った。
「やっぱ・・・怒っれるっぽいな」
雰囲気にレイブンは苦笑いを浮かべた
ハイガシラは、ハイガシラとフィンの部屋のベットに隣接した
応接セットの緑色の長椅子に、レイブンの肩を抱きながら座らせ
その横にハイガシラも一緒に座り・・・
何時もハイガシラが
レイブンを叱りつける時にやる態勢に入っていた。
レイブンは低い声でジワジワ責められる事を予測して身構える・・・
が・・・打って変わり、ハイガシラが笑い出す
『悪い悪い・・・連絡来てたんだよ
夢路から直接な・・・電話で「怒らないで下さいね」って
それに、その資料・・・
俺が後で、夢路に取りに来させようと思ってたから
丁度良いタイミングだったんだわ』
一瞬、呆気にとられるレイブン・・・
『うっそぉ~・・・緊張して損したぁ~・・・』
レイブンは、脱力して座らされたソファーの背凭れに身を任す
2人の向かい側の席でフィンが・・・
ドギーバッグを全開して、ケーキを食べながらクスクス笑っていた。
『こらこら・・・本来、本当のこの街の会長は俺なんだぞ
まぁ~会長の仕事する気は無いけどな・・・』と、前置きをして
ハイガシラは・・・
『俺が居る時は、先に俺に話を持って来い』と、言う
『パパちゃんってば、わっがままぁ~』と、フィンが零す
『困ったな・・・我儘って訳じゃないんだよ
俺達にはルールってモノがあってな、住み分けしてるんだぞ
夢路は手配する係りで、俺が計画を立てる係りで
更に言うなら、蒙が現場監督する係りだ
これでも、適材適所で働いてるんだぞ』
『あぁ~だから、蒙さん何時も現場で仕切ってんだ』
レイブンは一部、納得しながら内心
「俺の知る限り、色々手配しているのはプリムラだと思う」
なんて事を思いながら、にこやかに夫婦の会話を眺め
納得できない部分の事は、取敢えず考えない事にした。
フィンが、『そぉ~だったんだ』と、言って
何の抵抗も無くハイガシラの膝に座り
レイブンの真横で、夫婦が甘い雰囲気を醸し出し始める
カットしてないホールケーキをそのままカットせずに食べさせ合う
そんな2人を見て更にまた、苦笑いを浮かべ
「用もなさそうだし」と、レイブンが椅子から立ち上がると同時に
コンコンと、扉を叩くみたいな音が聞こえてきた。
レイブンが隠しカメラのある方へ顔を向け怪訝そうな顔を見せる
『今のもしかして・・・プリムラ?』
『はい、そうですプリムラです。』
部屋に設置されたスピーカーからプリムラの声が聞こえてきた
『なんでまた、こんな小細工をする事になったんだ?』
『ハイガシラ様の要望に御応えしてみました。』
レイブンの質問に答えた、プリムラの答えに・・・
ハイガシラが困った様な顔をする
『あぁ~・・・それ、うん・・・俺が言ったんだけど
困ったな・・・今のタイミングじゃねぇ~んだけど・・・
あぁ~、どぉ~伝えたらいぃ~のかなぁ~・・・』
何かの意図があって、ハイガシラが前にそう言ったらしいが・・・
この結果には噛合っていなかった様子だ
『どぉ~したらいぃ~んだろうねぇ~』
ハイガシラの膝の上でフィンも、同じ様な表情をワザと作るが・・・
こちらは・・・ハイガシラを真似て遊んでいる様だった。
ハイガシラは少し考え込み
『その場に移動用の子機のボディーがあって
扉を開ける用事がある時だけで良いよ』と、レイブン同様
カメラのある方向を向いて、プリムラに話し掛ける
『承知いたしました、以後そうさせて頂きます。』
プリムラはこれから、そうルールで行動してくれるようだが
「それも、ガシラさんにとって
自分の意図とは、噛合わない結果なんだろうな」
レイブンは「何があって、ハイガシラがそう言った」のかは
予想付かなくない程度にしか分からなかったが・・・
プリムラの事に関して、レイブンにもそう言う経験があったので
ちょっぴりハイガシラに対し同情した。
『そうだ、プリムラ・・・御用はなぁ~に?もしかして・・・
そろそろ御昼御飯?アタイ今ねぇ~、甘いの食べてるから
辛いのが食べたいな!美味しいのある?』
フィンの弾んだ声色に「まだ、食べるのか」と
レイブンは、いつの間にか空になったドギーバッグに視線を向けた
『その通りです、今日は色々な種類の物を取り揃えております
今から、リビングまでお越し下さい。』
フィンとハイガシラが『それは大変、急がなくては』と
急ぎ足で食堂へと向かう
レイブンは、トワイライトでの事を脳裏に過ぎらせ
「どんな物ががリビングに置いてあるか」について気付き
溜息を吐いて、散らかった部屋を片付けてから
キッチンへと向かった。
子供の頃、密かに・・・
ケーキをワンホール一人占めして食べるのが夢でした。