024「23 ソラのクリーニング屋さん」
「23 ソラのクリーニング屋さん」
その頃「ソラは?」と、言うと
仕事をしているので当たり前なのだが・・・忙しく働いていた
数時間前・・・
ソラが、レイブンに連れて来られた時の
クリーニング屋の開店前の人気のない店内とは打って変わり
開店後の店内は・・・
洗濯物を預けに来た客と、引取りに来た客でごった返している
そんな中で、ソラが開店前同様
ゆっくり楽しく機械を眺める工場見物なぁ~んて事ができる筈はなく
レイブンから仕事を引き受けてしまった事を本気で後悔しながら
ソラは有りと有らゆる色々な意味で、危機に瀕していた。
第一弾の危機は・・・
レイブンの人為的なミスから来るモノだった
レイブンは、自分の責任ではなくなって
その事に浮かれて、うっかり忘れてしまっているのだが
今日は、夜の日の為の「休み明けの日」で
普段から「忙しい日」なのに加えて
停電でクリーニング屋が混むなんて想像は、難しいかもしれないが
近隣の停電が相俟って
今日の「クリーニング屋」は、特別に忙しかったのである。
当たり前の事だが・・・
仕事をしっかり覚えていない、マニュアル見ながらの接客の
新人店員ソラの仕事振りで
普段から、この日を利用する沢山の御客だけの数も捌ける訳が無く
勿論、停電の為に増えた臨時の客の数までなんて到底無理
本気で手が回らない状態であった
御蔭で、常連客と・・・
停電の為に自宅で洗濯ができず大量の洗濯物を持ち込む近隣住民達が
受付カウンターの前で長蛇の列を作り
気分を害した御客様方に次々と、詰られ続ける事になっていた。
第2の危機は・・・
男だから仕方の無い、とある生理現象によるモノ
女性が大多数を占める、この世界の実情からなる
ちょっとしたサプライズ・・・的なモノの為に
「わぁ~うわぁ~・・・これ、俺が触っちゃっていいんすか?
って言うか、クリーニングに下着を出さないで欲しいっす」
ソラは赤面しながら、洗濯物の形の仕分けをする事になって
ってな事で・・・御茶を濁しておきましょう
此処は、この部分は読者様の人生経験を頼みの綱にして
読者様の御想像に任せる事にします。
第3の危機以降は・・・
多種な意味で「食べられる」危険が、ソラを襲っていたりして
レイブン目当ての客が、ソラを見て
『帰ってきている筈なのに、レイブンが受付にいない』等と
悪態を吐き「ソラに対してパワハラをする」の発展系で・・・
「腹立ち紛れに店員を食べてしまおう」と言うパターンの危険
勿論、「長蛇の列に苛立ち」ってパターンの客もいるし
普通に「腹が減ったので」と、言う客もいたりする。
もう一つの種類の「食べられる」危険は・・・
ソラの性別を確認し、セクハラをしてきて
そこから進展していく「食べられる」ってパターンで
ソラは尻を撫でられたり、頬にキスされたり、唇を奪われたり
壁まで追い込まれたり、壁に押し付けられたり
時々、押し倒されたり・・・脱がされ、触られてたり・・・
その度に悲鳴を上げセレスと
セレスが持ち込んだ大型のロボット犬に救出されてたりしたりして
見たまんま、ちょっと可哀相な事になっていた。
正直、セレスと犬型のロボが居なければ
早々に沢山の意味で「頂かれて」しまっていたであろうソラ
そしてソラが、どう「頂かれてしまう」事になる危険があったかは
例によって例の如く、読者様の想像に御任せします。
そんなソラを助ける為に連れて来られた大きな犬のロボットは・・・
『それにしても折角、雄として生まれたのにソラは駄目男だな
俺様が最初に家の中を案内した時も、ヘタレで
全速力でも俺様のスピードに追い付け無いくらい駄目駄目で
家の中だけで息切れするくらい弱々しくて
でも、これ程まで虚弱とは思わなかったぞ、大丈夫か?
そんなんじゃ、一人で生きていけないんじゃないのか?雄なのに』
ソラが、この世界に来た初日
この家の中を案内してくれた、玩具の犬ロボの・・・
メインメモリーを積んでいた
因みに・・・
玩具の犬ロボはジャンゴがセレスにプレゼントした物で
でも、使い道が少ないから
余りにも頼りないソラの護衛役を任命する為に
ハイガシラの手によって、大きくて丈夫な機体に移植され
カスタマイズし、メモリーも増やして賢くなった
ソラ専用の自称「護衛ロボ」である。
『そう思うんなら、迫られて困っているのを見計らって
助けてくれたって良いじゃないんすか?』
ソラは客に引き裂かれた服の胸元の布地を引張り合わせ
苦笑いをしながら胸元を隠した
そんな状況を見て、どうしてそうなったかを知ってか知らずか
洗濯物と預かり伝票を管理する機械の上から溜息が聞こえてきた。
『ソラ!犬と遊んでないで仕事しろ
それと、男が胸元を気にして頑張って隠すな・・・
向かいの店の店主の夢路なんて時々、全裸で闊歩してるぞ
そんな男らしさを見習えよ』
見るに見兼ねて店を手伝っているセレスの言葉に
ソラは、若干の疑問を持つ
「全裸で歩いても良いんすか?
そもそもこの世界、公然わいせつ罪で捕まる事は無いんすかね?
って言うか・・・夢路とやらの性別は?
何処でどんな生き物が全裸で歩き回っているんすか?」
ソラが問い掛けたい言葉は、ソラの口には上らなかった
良く見たら、ジャケットを預けに来た目の前の客が
見るからに全裸だったのだ・・・
そう、この世界には・・・
服が必要の無い、自前で脱げない毛皮を着ている人もいる
夢路がどんな人物か、まだ知らないソラは
全裸に対する疑問を打ち消して接客に戻った。
セレスは、預かり仕分けた後に運ぶ事が物理的に難しい為
予備のロボを操作し、連れてきた犬のロボの特性も生かして
受け渡しの仕事を中心に手伝ってくれる
ソラは、同じ仕事だけを繰り返す内に段取りを覚え
途中で一つ上の階、1階で修理屋の受付の仕事をしている
プリムラシネンシスに呼び出しをくらい
他の店から、向かいの店の裏口まで荷運びをさせられたが
それなりに滞りなく、客に襲われながらも
手際良く無事に仕事をこなせる様になっていった。
そこから暫くすると、客足が途絶え始める
ソラが一息付こうと、備え付けの小さな冷蔵庫に手を伸ばすと・・・
また、何処からともなくプリムラの声が聞こえてきた
またもや、用事を言い付けられるのではないかと身構えるソラに
プリムラは、その様子を見ているかのような雰囲気でクスクス笑う
『御主人様、休憩の用意が整いました
此処の仕事は、プリムラと・・・
私事、プリムラの支配するロボ達が今から引き受けます。
ソラも休憩すると良いでしょう・・・
お疲れではありませんか?御昼御飯は如何ですか?
リビングのテーブルの上に料理が置いてあります
好きなだけ御食べ下さい』
想定外に優しい言葉を掛けて貰ってソラは喜んだ。
早速、ソラは上下に続く家の者用の階段を上へと進む
続いて、犬ロボとその上に乗ったセレスが続いた
1階にあるリビングに付くと
『ソラ、これに名前を考えてプリムラに登録して貰え』
セレスが肉の塊に齧り付きながら翼でロボット犬を指した
『こいつ名前無いんっすか?』
『無いね』
『じゃぁ・・・こいつ名無しなんすね』と会話していると・・・
『「ナナシ」ですか?良い名前ですね登録しておきます』と
プリムラの声が聞こえてきた
『え?ちょっ・・・マジッすか?』
『マジ、だろうね・・・冗談を言うのは機械にとって難しい事だし
機械は嘘を付けないから』
『変更って、効かないんすかね?』
『無理だろうな・・・出来上がってる自我を消去しない限り』
『・・・・・・』
こうして動揺するソラを無視して、ロボット犬の名前は
名前が無かったから「ナナシ」と、言う名前になったのであった。
昔、呼び名の無い動物に出会うと「ナナちゃん」って呼ぶ人がいました。
勝手に名前付けちゃう人なのだなぁ~と、思っていたら・・・
それがまさか、「名無し」の「なな」だと言う意味だったとは
その当時、思いもしませんでした。