020「19 遠征中13」
「19 遠征中13」
「突風で割れてしまわないように」と作られた
蛇腹折り方式で全開放できる
建物とテラスをフラットで繋ぐ強化ガラスの戸には
中からテラスの様子を窺う集団が
押し押されの状態で、覗き込みへばり付いている
フィンと桜花が出てきた隙間が、軋みながら・・・
「痛い!」「挟まった!」等の
蛇腹折りの戸のウィークポイントを露呈しながら
少しづつ・・・時には、悲鳴と物音を立てながら広がっていく
山都は・・・この騒ぎで戸がまた、壊れてしまわない事を祈りつつ
大きな梟に駆け寄る親戚の娘
桜花の安心して、緩んで零れた目尻の涙と
置いて行かれた事に対する怒りで赤く染まった頬を眺めていた。
『桜花がもう少し、素直に愛情表現できればええんやけどな』と
山都が、思った事を呟いて
蒙が、不意にそれを否定する
『出来たとしても難しいと思うぞ、レイブンが雄として鈍いから』
『そやな・・・』
2人が見守る先で、
桜花は、その鈍いレイブンに対して食ってかかっていた。
『レイブン、お前!
手柄を一人占めする為に、僕を置いて行っただろう!
抜け駆けなんて、卑怯でずるいぞ!』
『いやいや、一人占めとかそんなつもり全くねぇ~し・・・
そもそも、手柄って何が手柄なんだよ、俺・・・仕事してただけだぞ』
梟の上に乗って、此処まで帰ってきたレイブンは
桜花の気持ちを理解する事も無く、面倒臭そうに桜花を見る
因みに、その近くでは・・・
断崖側の入り口に現れた巨大な梟と
レイブンの帰ってきた方法にデジャブを感じ
ソラと雛芥子が、驚きすぎて黙り込み
身動きも取れなくなる程、呆気にとられてしまっていた。
まぁ~そっちの事は一時、置いておいて・・・
蒙と山都は、鼻で笑いながら
ラッブラブな夫婦に対し、生温かい視線を向けた
地鳴りと共に庭側から現れた、細身の男の首に
『おっかえりぃ~!』と、フィンが跳びかかる様に抱き付き
2人、御揃いな耳をピコンと立てて
2人御揃いの尻尾を嬉しそうに互いの体に巻き付けて
喜びを表現し合っている。
蒙と山都が一瞬、目で会話してから
『首尾は?』と、その2人に声を掛けると・・・
『上々!』と、庭側から現れた男
ハイガシラが、フィンを嬉しそうに抱締めながら答えた
『行きに、レイブンが種馬として狙われて
帰りにそのレイブンが、その梟の御嬢さんにナンパされた事以外は
変わった事なんて無かったよ・・・
勿論、仕事は完璧に終わらせてきたぞ!凄かろう?』
「凄かろう?」が、どの部分に掛かっているかは不明だが
『凄い凄い!パパちゃん御苦労様!』と、
フィンは、とっても楽しそうに笑っていた。
御出迎えが一段落ついた頃・・・
建物の中から様子を窺っていた、色々な種類の女性陣人達が
ジワリジワリと、テラスの方へ移動してきていた
気付いたレイブンは、羽毛に隠れた梟の耳の周辺で何か呟き
蒙と山都は、雛芥子とソラをテラスから庭へと移動させ
ハイガシラとフィンは、いつの間にか姿を消していた
頭に血が登ったままの桜花は
梟に向かい微笑むレイブンの態度に『私を無視するな!』と
更に怒って、現状が見えていない様だった。
不穏な空気に、セレスが空中へと退避する
それに釣られ、条件反射でジャンゴも飛び立つと・・・
建物の中から出てきたばかりの者達の中の一人が
レイブンに声を掛けようと動きを見せた・・・次の瞬間
建物の中に居た者達が、テラスへと一気に傾れ込む
傾れ込んできたのと同時に梟が、テラスを飛び立ち
桜花を心配したジャンゴが桜花の名を叫ぶ様に呼んだ・・・
桜花からの返事は無い・・・
テラスを女達が埋め尽くし、悲鳴が上がった・・・
先に退避させられていた、ソラと雛芥子が驚き腰を抜かしていた・・・
蒙と山都は、その光景を少し離れた場所から見て
溜息を吐き、苦笑いを浮かべている・・・
暗闇の中、焦りの表情を浮かべ
もう1度、2度、3度・・・ジャンゴが桜花の名前を何度も呼んだ
桜花の代わりにレイブンの声が何処からともなく聞こえて来る
夜目の効き辛いセレスは、光が零れる窓辺にとまり
闇の中に目を向け、微笑み
『桜花は無事だ!』とのレイブンの言葉に
ジャンゴが嬉しそうに一声、鳴いた。
その後、直ぐ・・・
死人は出なかったが、怪我人が出てしまった今回の人の傾れに
その参加者達に対して・・・
山都からの「怒りの雷」が落とされたと言う事は、言うまでも無い
その光景を真近で見る事となってしまったソラは・・・
間違っても「山都を怒らす様な事を絶対にしない」と、心に誓った
なんて事は、同じ場所に居た者達全員が理解出来る事柄だった。
雷が落ち、その場に群がっていた者達が退散し
テラスが落ち着きを取り戻した頃
突風を巻き起こし、梟が庭の方へ降り立った
1番に気付いたジャンゴが率先して、1番に駆け付け出迎える
『あら、可愛いボウヤ・・・御出迎えするなんて偉いわね』
ジャンゴの健気さに梟が微笑んだ
『ジャンゴは、桜花が大好きだもんな』と、レイブンが笑い
つかまっていた梟の背中の羽を撫で整え
梟に御礼を言いながら桜花を連れて、庭に降り立つ
又もや、レイブンに荷物の様に扱われていた桜花は機嫌悪く
『御礼なんて言わないからな』と、零す
そんな桜花の態度に『御礼は言わなきゃ駄目だぞ』と
レイブンが梟に対して、桜花の頭を下げさせた。
『コイツの態度が悪くてゴメンな・・・
俺が仕事に誘わなかったから機嫌悪いみたいなんだ、許してやってくれ』
梟は、気を悪くした様子も無く
『良いのよ、気にしてないから』と、大人な対応を見せた
そんな会話も気に入らない桜花は
『僕が御礼を言わないのは、貴様に対してだけだ!』と、言い
レイブンと梟に対し背中を向けた。
ジャンゴが桜花の機嫌を直させる為に
あれやこれやと、気を使って桜花に話しかけ始め
レイブンにとって、何も無かったと言えばそうなのだが・・・
レイブンは、何事も無かったかの様に
桜花を無視して、蒙と山都に向かって手を振る
が、しかし・・・
一番に駆け寄ってきたのは、雛芥子だった
まるで、自分に手を振って貰ったのだという態度で
レイブンに『御帰りなさい!』と、体当たりで抱き付き押し倒す
勿論、牛の体当たりを受けた事のある人なら分かるかもしれないが
牛に体当たりされて倒されない人は中々、存在しない
そんなこんなで尻餅を付くも、レイブンは雛芥子を優しく受け止め
雛芥子をさっと自分の首から引き離し
自分の上から下ろし横に座らせて『ただいま』と、雛芥子の頭を撫でた。
抱き付かれるのを避けられたのに、避けようとしないレイブンの
そんな所が更に、桜花の態度を悪くさせていると気付く事も無く
レイブンは『夜は冷えるぞ?建物の中にはいろいぜ』と、言って
自分の言葉に従った、梟と雛芥子をエスコートする
自分もレイブンに素直に従えば、同じ様に扱って貰えるのに
分かっていても出来ない桜花は、不貞腐れて庭に留まった。
暫くして、照明の熱気が消え涼しくなってきた頃
桜花の背中に毛布を掛けに来た者がいた
『風邪ひくっすよ・・・』と、掛けられた声に息を止め
振り返り桜花は、深く息を吐く
『びっくりしたぁ~・・・君の声、レ~君に似ているね
一瞬、レ~君が来たのかと思った』
ホントに・・・本当に残念そうな桜花に、ソラは・・・
レイブンに頼まれたのを断れば良かったと
レイブン自身でやって貰えば良かったと思い、後悔した。
桜花に寄り添っていたジャンゴが、動かない桜花をそのままに立ち上る
『桜花・・・御礼、言おうな・・・
それにしても、声!似てるなぁ~レイ君の親戚かなんかか?』と
興味津々(きょうみしんしん)で、ソラに訊いてくる
烏にピョンピョンバタバタと足元に寄って来られて・・・
困ったソラは、視線で桜花に助けを求めたが
一人で黄昏ている桜花に想いは届かず
レイブンが心配して迎えに来るまで
ソラはその場に立ち尽くす事になってしまった。
鳥の嘴って、どんなに小さな鳥のでも・・・
突かれたり噛まれたりすると痛いから、大きな烏に近寄られると
微妙に怖いモノがありますよねw




