002「01 地下都市にある、とある日常」
「01 地下都市にある、とある日常」
週に一度・・・24時間、停止する以外
単調な機械音の鳴り止まない機械人形達の住む「工場階」の真下の
鈍色の天井に「倉庫A」表示された・・・
無数の光源を有する「太陽」代りの巨大な丸い照明器具が一つ
その下に存在する・・・
格子状の道が、網の目の様に広がり
照明光発電パネルを備えたが建物立ち並ぶ、人工的な街並み
そんな、太陽の光なんて存在しない地底の街は・・・
天井からの機械音停止と同時に
その時間・・・「静けさ」と「漆黒の闇」に包まれ
今、週に一度の夜明けを迎える
毎度の事ながら、今回の夜明けでも・・・
「中層階・倉庫A地区」最大の地下都市「ジャンク街」は
混乱に陥れられていた。
原因は、機械人形達のゴミの不法投棄によるもの・・・
大昔から、この世界で皆が共生する為に
地下都市の住人達は、機械人形達としっかり話し合い
ちょっとした「ルール」を作っていたのだけれど・・・
高性能過ぎる人工知能を備え「狡賢さ」を会得した機械人形は
契約の中に生まれた約束事の穴や、隙を突いて
そこに存在していた筈の「ルール」を無視してくれる
まあ・・・ゴミと言っても「生ごみ」とかではなく
「天上階」と呼ばれる「種の保存を目的とした階層」に住む
「特別階級の者達」が使っていた
壊れて修理できない状態になった、「機械の類」
それは「特別階級の者」を管理する、それぞれの機械人形が・・・
地下都市にある、リサイクル工場にリサイクル料金を支払って
「リサイクルに出して処理して貰う事」になっていた筈の
代物だったのだが・・・
夜を狙って・・・何時も、何時の間にか
地下都市の中のとんでもない場所に、放置されている。
大小様々、多種多様な・・・
部品を組みかえれば、此処の住人でも復活可能な電化製品から
使い方も分からない謎の「電子機器・工業機械」
機械人形でさえ、壊れていれば捨てられている
しかも・・・
「音も無く・気配も無く・誰にも捨てる現場を発見される事無く」
エクストリーム不法投棄されるジャンク品の山に
地下都市の住人達は、頭を抱えていた。
今回、捨てられていた大物は・・・
中央分離帯にセスナ機・・・
勿論、思いっきり中央分離帯からはみ出して車道を占拠している
空き地と勘違いされた民家の家庭菜園には・・・
四方、壁にぴったり
ぴっちりとジャストサイズで車が収まっていた
一番困ったのは・・・
教会の三角の屋根の上、ずれる事無く三角部分を跨ぐ様に
絶妙なバランスで、ヘリコプターが乗せてある
取り合えず、そんなのは・・・3か所だけ
後は、一般的な者の手で移動できる大きさの機械製品のゴミ
監視カメラの映像から・・・
今回の不法投棄場所は「推定100か所」程度であろうと思われる
地下都市で、寄せ集めの部品を使って修理され
地下都市の住人となった機械人形「プリムラシネンシス」は
深い溜息を吐く・・・
長くさらさらな銀の髪が、俯くと同時に横顔に流れ表情を隠した。
『プリムラ?体調でも悪いの?メンテナンスしとく?』
開け放たれたままの扉の前を通った
この場所、この店「機械の修理屋さん」の店主・・・
リスの獣人の女性「フィンレイソン」が
ヤシの実を抱え、溜息を聞きつけて店舗部分に入って来る
『プリムラに問題はありません、フィン・・・』
電動車椅子を操作し、振り返ったプリムラは沈黙した。
リスらしい小さな耳が短く切り揃えられた髪から少し覗き
ぴんと立ち、プリムラの方に向いていた
そして、フィンが手に持っていた穴の開いたヤシの実から・・・
彼女が中の汁を自分の長い舌で、舐めている音だけが響く
『フィン・・・御食事は、食堂で御願いします。』
頬袋の無いタイプのリスのフィンは、アリクイの様な長い舌をしまい
耳を垂れて、照れ笑いを浮かべた。
『ごめんごめん♪店内、飲酒喫煙禁止だったね』と、言い
フィンは、ヤシの実の穴の縁に口を付け、一気に汁を飲み干す
因みに・・・店は、「飲酒喫煙禁止」とは書いてなく
「飲食禁止」と、書いてあったりするが
そこの所、プリムラもフィンも気にしない・・・
今、飲んだのは・・・気にしない方向で決着したらしい
フィンは、汁の無くなったヤシの実を持ち
プリムラの居るレジカウンター横に置かれた、椅子の上へ
「座る」と、言うか・・・椅子の上で、しゃがみ込んで
膝に腕に体に・・・自分のもっふもふの、灰色の尻尾を巻き付ける
『キャミとホットパンツだけで寒いなら
上に服を着ると良いですよ?』
プリムラの言葉にフィンは・・・
『ちゃんとした服って、苦手なのよねぇ~』と、言って
上着を羽織る気は無い様子だ。
店内の柱時計を眺め『今日は遅いね』と、フィンが言う
監視カメラの映像を確認する事無く『そろそろ来ますよ』と
プリムラは・・・
レジカウンターから向かって正面にある、外への出入り口の方へ
視線を向ける
何処からかは分からないが
遠くから走る音が、徐々に近付いてきていた。
フィンは、尻尾をぴんと立て期待に満ちた瞳で扉を見る
ガラス製の扉が開き、ドアベルが大きく音を立てた
『レ~君!おっかえりぃ~!』
椅子からジャンプして抱きつく、フィンの御出迎えに
入ってきた青年は、驚き・・・たじろいだ
青年が手に持っていた、機械類の入った袋が床に落ちそうになる
そうなると予測していたプリムラは
上手に車椅子で2人に近付き、布の袋をそっと受け取って
荷物を膝の上に乗せた。
『御主人様、御帰りなさいませ・・・今日は大量ですね』
早速、即効で袋の口を開けて
プリムラは中身を確認しながら微笑んだ
『お前の膝の部品は見付からなかったが
お前が欲しがっていた器械の部品はゲットして来たぞ』
青年と一緒に店に入ってきた、青白い色彩の鴉が・・・
プリムラの車椅子のハンドルグリップに停まりニヤリと笑う
『ありがとうございます、御主人様』
プリムラは、白い鴉に微笑みかけ御礼を言った。
鴉が普通に喋るのも、この世界ではスルーするべき事らしい
『見付けて持って帰ってきたのは俺なのに…』
フィンに抱きつかれ・・・
小柄なフィンを御姫様抱っこさせられる状態になった
目も髪も黒い、健康優良児的な雰囲気を持つ青年は不貞腐れている
『仕方がないなぁ~、アタイが代表して褒めてあげよう』
フィンに頭を撫でられ『レ~君は良い子だね』と言われ・・・
青年は、フィンに髪の毛をボサボサにされ
彼の上半分の髪を括り上げ、留めていた髪留めは外れた
頭を撫でられる為に・・・
フィンの「抱きつく」と、言う支えを無くし
更に重たく、青年の腕に伸し掛かるフィンの体重を抱き抱えながら
レイブンは、見るからにカワイソウナ状態になっていた。
半泣きのレイブンの助けを請う、辛そうな視線が・・・
白い渡り鴉「セレスタイト」に注がれる
『師匠・・・助けて』
呟く様なレイブンの声が・・・切ない
白い鴉は、翼を大きく1度広げ・・・吐息を軽く吐く
『フィン、部品揃ったからオーブンレンジの修理してくれないか?
直せば今度から・・・
クッキー・ケーキ・シュークリーム・エクレア・タルト
多分、スイートポテトもレイブンが作ってくれる筈だ』
鴉の発した言葉に反応し、フィンの口の端から涎が零れた
『セレス!それは本当?それなら修理はアタイに任せとけ!』
頭を切り替え、ビシッと気合を入れたフィンは
プリムラに差し出された部品を手に工房へと走り去った。
『師匠・・・今言った物の作り方とかって、俺知らないぞ』
嫌な予感を抱えたレイブンに、セレスは笑顔で答える
『作り方は大丈夫だ、プリムラがPCで検索してくれる
助けてやったんだから、頑張れよ?』
こうして今週も、女性陣に翻弄されるレイブンの日常が始まった。
「しないよ!」って言うかもしれませんが・・・
ゴミの不法投棄はしたら絶対に駄目ですよ!