016「15 遠征中9」
「15 遠征中9」
蜥蜴が暴食を続ける中、少し離れた場所では・・・
やっぱり、ゆったりとした時間が流れていた
『こんな場合にも、対処法は幾つかあるのだよ』
フィンを愛おしそうに愛でながら、ハイガシラが語り始める
『本音を言うと、フィン以外の女がどうなろうが
俺の知った事ではないと、俺は思うのだがね・・・
ぶっちゃけ正直、蜥蜴に戦いなんて挑まなくても
奴等は腹が膨れれば勝手に寝床に帰って行くのだよ
だから「見なかった事にする」と、言う「手」も有りで
俺がその選択をしたかったりする事も、無きにしも非ず・・・』
それは対処法と言うか、見も蓋も無い個人的な意見だった・・・
多分、狩人達が・・・
フィンの悪口を言っていた所を見聞きし
ハイガシラは、その事に対し怒りを感じてしまっていたのだろう
襲われている狩人達を急いで、救出に行く素振りが・・・
その気配すら、全く存在しない
『おいおい、自分で言い出してそれかよ・・・
狩人の仕事を始めるんじゃなかったのか?』
『始めるよ?だから対処法を説明してるんじゃないか』
セレスのささやかな突っ込みも
ハイガシラの笑顔に負け、返されてしまっていた。
『そぉ~だなぁ~・・・此処が平地なら
食われた振りして内側から攻撃するって手もあるだろう・・・
でも、此処でそんな事やったら高確率で
捕食者と一緒に下に落ちてバラバラペッチャンコになるから
気を付けような!』
『ハイガシラ様!真面目に対処法を教えてください!』
レイブンに放置され、復活の兆しを見せ始めた桜花が
ゆっくりと起き上がり、ハイガシラの足元まで這いずって来ていた
『仕方が無いなぁ・・・
山都の親戚の娘の頼みだ、本題に入ろう』
もしかしたら、桜花が出張って来なかったら
レイブン達の足止めをしまま
このまま、助けに行かない方向だったのかもしれない・・・
そこにいた全員がそう感じた。
ハイガシラは御姫様抱っこしていたフィンを自分の腕に座らせ
桜花を片手で抱き起しながら・・・
『攻撃方法を単刀直入に言うと・・・スタンガンを使う
心臓の位置を電気が通る様に導けば
高確率で心臓を止める事ができるだろう』と、言った
『そうなんだぉ~でも、どうやって?
スタンガンが電気を通す場所って
端子と端子の間の短い「数センチの隙間」だけだよぉ~?』
レイブンが持つスタンガンを作ったフィンが疑問を口にする
『流石は俺の妻ちゃん!偉いね!愛してる!大好きだよ!
取敢えずはだね、心臓を中心にして・・・
「その隙間」にあたる部分、端子の場所を「肩口」と
その対角線上にあたる「足の付け根」にしたらどうなるかな?
同時に電力を帯びた物をその2か所に押し当てれば
電気は心臓を通るだろ?』
ハイガシラはフィンへの愛を語りながら
怖い事を・・・「生き物を殺す方法」を話しくれた。
そして、もう一つ・・・
『蜥蜴を電気で殺る前に
レイ君が罠を仕掛けて、ワイヤーで落ちない様に捕縛しとけば
中で生きてる食べられた者達を引き摺り出せるんじゃないかな?
感電してても、食べられた時点で生きてるなら
息を吹き返させられる可能性は、無い事は無い筈だろう?』
どうやら、後半の作戦は仮説らしい・・・
ハイガシラの言う様に、本当にそうなるかどうかは
神のみぞ知る世界なのかもしれない
『で、蜥蜴を感電させる係りなんだけど・・・
レイ君はどっち側の役をやりたい?
顔の近くで食べられる可能性の高い「肩口」と
一緒に感電する可能性が高い「足の付け根」と、言っても・・・
どっちも、感電する可能性は高いんだけどね
因みに、肩口に行った場合は・・・
口から入って、食べられた娘等の救出も仕事な!
足の付け根に行った場合は・・・
引き摺り出したのを安全な場所に移動させるって、事でよろしく
それと、皮膚が厚そうだから他の位置じゃ
多分だけど、電気が通らないぞ』
レイブンは、少し考える
『じゃ、下準備もあるし・・・肩口で!
所で、肩口は左右どっちのでもいいですか?』
『いや、心臓に近い方だよ!心臓の位置は分かるな?
因みに足の付け根は、それとは左右逆の方向の付け根だ・・・
えぇ~っと・・・桜花ちゃん、やってみる?』
「やりたい!」と「参加したい!」と、目で訴えていた桜花が
ジャンゴの制止を無視して
『はい!勿論です!』と、笑顔で返事した。
ジャンゴが、困り果てた様な顔で桜花を見て
『桜花を巻き込むなよ!』と、呟き
恨めしそうにして、ハイガシラを見ている
『ジャンゴ怒るなよ?囮よりは安全な仕事かもしれないだろ?
と、言う事で・・・蜥蜴を誘導する「囮」は、俺がやる』
『じゃぁ~アタイも一緒に囮する!』
『えぇ!?』っと
今度は、ハイガシラが困ったような顔をする順番
ハイガシラの意向を無視してフィンが満面の笑みを浮かべていた
『アタイは、一人の御留守番は嫌いだよ?
パパちゃん・・・アタイが嫌いな事を無理矢理やらせるの?』
ハイガシラが皆に、無言で助けを求めるが・・・
フィンに逆らう者はいない
勿論、桜花を巻き込まれたジャンゴが
気持ちは分かっていても、ハイガシラの味方をする事は無かった。
『どうせ奥の手は、もう一つくらい持ってるんだろ?
観念しなよ、私も及ばずながら手を貸してやるからさ』
足元からハイガシラを見上げ、セレスが笑う
諦めた様な溜息を吐き・・・
ハイガシラが、レイブンとフィンに指示を出す
『仕掛け作りは、妻ちゃんのが得意だよな?頼むよ
レイ君は、それを手伝ってやってくれ
場所は、ここから3番目の照明器具の右側が良い
あそこはワイヤーの数が多そうだ、そこに罠を作ってくれ
・・・桜花?行けるか?』
桜花が頷くと、レイブンと桜花に・・・
スイッチの付いた棒状の機械を差し出す
『電圧最大で2回程度は使える筈だ
蜥蜴が罠にかかったら2人の息を合わして
さっき指示した箇所へ同時に、攻撃を仕掛ける様に!
叩きつければ放電するが、放電時間は短い
タイミングを外しちゃ駄目だぞ?
では・・・罠ができ次第、ミッションに入ろう』
レイブンとフィンは逸早く、指示された場所へと向かい
罠を仕掛け、ハイガシラに合図を送った。
と、同時にフィンが蜥蜴の居る場所へと走り出し
重力を無視した軽い動きで誘い
今回の仕事に参加した狩人の誰よりも、優雅で身軽に・・・
蝶の様にひらひらと、ワイヤーの森の中で踊り出す
目を引く動きに蜥蜴が気付き
どの獲物よりも美味しそうに見えたのだろう・・・
蜥蜴は、フィン目掛けて突進して行く
ハイガシラは、自分が囮だと言う事も忘れ
血の気の引いた顔で、フィンの元に行かせない様に
蜥蜴に攻撃を仕掛け始めた。
今まで、誰も傷を付けられなかった蜥蜴の表皮に傷が入る
但し・・・
攻撃の為に踏込んだ位置のワイヤーが大きく揺れ
遠くで、同じワイヤーの上に居た数人が落ちて行く
レイブンと桜花も、揺れにバランスを取られ
ひやっとさせられる
セレスとジャンゴの制止の言葉は届かず
それが何度も繰り返され・・・
ハイガシラの攻撃の為に、無駄な犠牲者が増えて行った。
『桜花!落ちてくれるなよ!
罠に使って手持ちのワイヤーが打ち止めだ』
『僕の属する人種を馬鹿にする気か!?
この程度の事で落ちてたまるか!お前こそ落ちるなよ?』
要らない所で体力をすり減らしながら
レイブンと桜花は、罠の傍で待機する
ハイガシラは・・・
『パパちゃん!邪魔しちゃいやん!
蜥蜴ちゃんを罠まで連れて行け無いじゃん』
フィンが、怒り出すまで作戦の事をすっかり忘れていた
補足情報だが・・・
ハイガシラの攻撃でダメージを受けた蜥蜴は
密かに、捕食者としての余裕は失っている
なぁ~んて事を
精神的にも肉体的にも疲れたメンバーが
誰、一人として気付く事も無く
蜥蜴を罠に掛ける作戦はやっと、実行に移される事になった。
「残酷な表現」の定義に悩む今日この頃・・・
「食べられる」のは「残酷」と、とある場所で御指摘受けましたので
「タグ」増やしました。