015「14 遠征中8」
「14 遠征中8」
捕食者が現れる少し前・・・
大人になりきれない女達の口から嘴から唇から
聞こえよがしに語られる
色々な意味を含んだ言葉の数々が、囀りの様に木霊していた
精神的に弱い物ならば・・・
彼女達の御題に、自らが上げられた瞬間から蝕まれ
数分後には、精神を病んで鬱になってしまうであろう
そう言う類の汚さ、狡さ、狡猾さ・・・
女性特有の愚かさが場を盛り上げ、静かな賑いを見せていた。
そんな中・・・
御題に上がった当事者達は?と、言うと・・・
『力量検査とか言って
アタイより弱いウザイ子達をアタイが狩っちゃ駄目かな?』
フィンは、にこやかにある意味で病んでいて
『フィン・・・頼むから大人げない事するなよ?
家に帰ったらクリームチーズのチーズケーキ焼いてやるから
っつぅ~か・・・もしそれで、フィンが怪我したら
ガシラさんもプリムラも心配するぞ?』
と、レイブンはフィンを宥めていた。
レイブンの本心は、「フィンに怪我させる」と・・・
「ハイガシラ」と言う「フィンの夫」が
怪我をさせた相手に対し、復讐しに現れたりするので
世間の平和の為
フィンに怪我をしそうな事は、して欲しくない・・・
と、言う物だったりする
そして「精神的なダメージについては?」と、言うと・・・
「根に持たないタイプ」のフィンに恨まれて・・・
フィンが夫に告げ口するなんて事は、無きに等しいので
「世間様の平和を脅かす事は少ない」から
気にしない方向らしい
なんて事は、この世界での公然とした秘密である。
フィンの苛立ちが、少し落ち着いた頃
桜花がワイヤーで怪我をしてしまった女の子の足を手当てし
舌打ちをしながら、2人のいるワイヤーの方に飛び移ってくる
『お前が女の子吊るし上げるから
フィン様まで、お前と一緒に悪く言われるんだぞ!
もっと上手に、女の子を扱え!
ちょっと可愛がってやれば、女の子は味方になってくれるんだぞ』
桜花は上から目線で、レイブンに詰め寄り突っかかってきた
『だからぁ~・・・あぁ~ちょっと黙っててくれるか?』
レイブンは、反論しようかと思ったのだが止めて
まず、桜花の口を右手で塞ぎ
逃げられない様に、桜花の後頭部を左手で押さえ桜花を黙らせた
太くても、安定感の無い逃げ場の無いワイヤーの上
桜花は抵抗する事も出来ず、レイブンの胸元へ引き寄せられ
色々、動揺しながらも
レイブンのただならぬ雰囲気に気付き、心拍数下がらないまま
レイブンと同じ様に桜花も耳を澄ました。
遠くから、警戒を促すカラスの鳴き声が聞こえてきた
レイブンは、声のする方向に視線を走らせた
近付いてくるそれは、重なり合い応答し合う様に鳴く声がハモリ
レイブンと桜花・・・フィンに危険を知らせる
レイブンは、フィンと桜花も気付いた事を確認し
桜花を解放して『大物が来るらしいぞ』と、呟く
『気付いてるとは思うけど・・・
今回の参加者、腕の立つ狩人って・・・いないよね?』
桜花は苦笑いを浮かべている
『今回、山ちゃんが椎間板ヘルニアの治療中で不参加なの
すっごい痛手になっちゃいそうだね』
フィンが、観客のいる柱の方向に視線を向け遠い目をした
3人は順番に、顔を見合わせ頷き合う
3人に意見は「退却」と、言う判断で纏まった。
フィンが、備品の安全確保の為に
ワイヤーに吊られた荷台を柱の方向に戻し始める
『お前等!一旦、引け!逃げろ!!』
レイブンと桜花が、叫ぶような声を辺りに響き渡らせる
が、しかし・・・従う者は少なかった
2人は、山都や蒙の様な「統率者」ではなく
集まった烏合の衆も、団体行動が苦手な「はみ出し者」が多くて
統率者に従う習慣すらなかったのである。
とても、不条理な状態だった・・・
小さなグループ作っては
その場に居ない者を肴に、共感を貪り・・・
人の不幸は蜜の味と、誹謗中傷する為に群がる癖に・・・
こう言う時に限って、集団行動ができないって
如何なものか?・・・少し考えて欲しい・・・
そんな中、避難してくれない狩人達を目の当りにして
桜花が一人だけ、青褪めていた
「山都おじさんから、今回のリーダー任されているのに・・・」
持ち合わせた責任感から、桜花は動揺を隠せなくなっていた
『レ~君どうしよう!どうしたらいい?』
桜花が半泣きで、幼少時代の様にレイブンに話し掛ける
大きな照明器具の陰から
ひょっこりと、大きな蜥蜴が顔を出していた。
『ヤモリの間違いかと思ったけど・・・
ピンク色の蜥蜴?うわぁ~何か毒とか有りそぉ~ありえねぇ~』
避難しなかった狩人達が、一人一人食べられていく中
レイブンは普段と変わらない様子で、嫌そうな顔をする
『「アリエナイ」とか言いたいのは、こっちだぞ?
折角、教えてやったのに退避してないじゃないか!』
帰ってきたセレスが、溜息混じりに吐き捨てる
『そんな事より
気絶させても良いから、家の桜花を避難させてくれ!』
『ふざけるな!ジャンゴ!
僕には、山都おじさんから任された責任があるんだ!
死んでも、最後まで逃げないぞ』
やらなきゃいけない事が、沢山あるのに
桜花とジャンゴの口論が始まってしまった。
『仕方ないなぁ~』と、レイブンは・・・
ジャンゴと口論する桜花を後ろから抱き寄せて
桜花に気付かれない様に、スタンガンを使う
弾ける様な電気の音が響く・・・
『それ後も暫く、痛いんじゃなかったっけ?・・・
俺様の桜花に対して、もうちょっと
もう、ほんの少しでいいからソフトな方法無かったのかな?』
『あったらやってるし・・・
今は、そんな事まで細かく考えてる余裕もねぇ~よ』
聴き取る事も出来ないくらいの声で、悪態を吐く
ぐったりした桜花を肩に荷物の様に担ぎ
レイブンは、来た道を颯爽と小走りに走りだす
他の狩人達も、状況の不利をやっと理解し
蜘蛛の子を散らす様に逃惑いだした。
少し走り、レイブンから出発地点が見えた頃・・・
フィンが、そちらに到着し
そこに居る、モデル体型な人影の細く筋肉質な腕に
宝物の様に大切そうにして、抱き上げられている所だった
『パパちゃん!お帰りぃ~』
フィンも、本当に嬉しそうにハイガシラに抱き付いていた
セレスがレイブンを追い越し、先にハイガシラの元へ行き
嬉しそうに、その周りをゆっくりと飛び回る
ハイガシラのフィンと御揃いの耳と、同じくふさふさの尻尾が
嬉しそうに揺れている
レイブンから安堵した様な笑顔が零れた
『ガシラさんお帰り!』
『俺は君の養父なんだから
パパって呼んでくれても良いのに・・・ただいま、レイ君!』
『ガシラさんを俺が「この年」で
パパって呼ぶのはちょっと・・・恥ずかしいですよ』
子供の様に駆け寄って置きながら・・・
子供の様に頭を撫でられながら・・・
レイブンは、テレた様な・・・そんな表情を浮かべる
離れた場所にある喧騒を余所に
そこだけ、和やかな雰囲気に包まれていた。
レイブンの上で、動けないままの桜花が唸る
『仕事・・・しろよ・・・』
『アレはデカ過ぎて、どう対処していいかわかんねぇ~んだよ
不安定な場所では、狙いが付けられなくて銃器じゃ難しい
あの場所で外したら照明を壊しかねないからな・・・
刃物で切りつけるにしても
踏ん張れないから大したダメージ与えられない・・・
な?お手上げだろ?』
桜花とレイブンの会話にハイガシラが不敵な笑みを浮かべた
『さてと、再会の挨拶はこの辺で・・・
早速、アレの対処法を教えるよ!
だからそろそろ狩人としての御仕事、始めようか?』
ハイガシラの言葉に・・・
レイブンは答える様にして、まだ動けない桜花を下に降ろし
狩りの為の装備を確かめた。
蜥蜴とヤモリの違いって・・・指先ですよね?
指先が丸いと『ヤモリだ!』って、思うのは私だけでしょうか?




