014「13 遠征中7」
「13 遠征中7」
大画面の中で繰り広げられる映像に、一喜一憂する観客
映像には・・・
マイク片手にレポーターの様に喋り、参加者にインタビューする
桜花くらいしか映っていないのだが
ソラには、映し出された映像からの声が聞こえてこない
それなのに観客からは・・・
「映像の中・カメラの先」にある会話の内容が
あちこちで囁かれていた。
今、そんな不思議現象に戸惑うソラが居る場所は・・・
いつの間にか、屋台や出店の出現した立ち見の会場
直接観戦できる場所には、何も無いので放置して
駐車場の大型モニター前にある
テーブル付きの座席チケットを持った、観客整理も終えたので
ソラは、蒙と山都に拉致られて
蒙の娘「雛芥子(ひなげし)」が出店している
「六白牛マーク」のソフトクリーム屋さんに来ている
そこでソラは、薄衣に包まれた・・・
胸だけ「牛クオリティ」の美少女の「爆乳」に
「何故にそこだけが、よりによってリアル牛なんすか!?
もっと別の場所が牛でもよかったっすよね?
ちょっとこれは、理不尽過ぎっすよ!」と
胸が2個で1セットでなく単品1個で
その単品1個に、乳首が4つも付いている「牛さ加減」に
こっそり涙しながらソフトクリームを食べていた
と、言えば・・・気楽そうな感じだが
『次、これ食べてみて!』
雛芥子のソフトクリーム屋さんが比較的に暇だったが為に
勧められるがまま、新作フレーバーを
半ば強引に、無理矢理食べさせられ続けている状態だった。
どれほどの数を食べさせられた頃であろうか?
ソラの体が、ソフトクリームの冷たさで冷え切り
ソラの唇が、尋常じゃないくらい紫色に変色した頃・・・
会場が一瞬、静まり返り・・・
あちこちで悲鳴が上がり、ざわつきだした
雛芥子を観察するのに、画面から目を逸らしていたのと・・・
ソラがいる場所からは、画面がちょっと遠く
はっきり見えていなかったが為に
何がどうなって、こうなったのかが分からないが
『フィン様があんな事を言わはるなんて・・・』とか囁かれ
画面内に、いつの間にか表示された小さな画面に
フィンが映し出されている、気になる状況になっている。
『俺には聞こえないんっすけど・・・
蒙さんと山都さんには、映像の中の会話って聞こえてるんすか?』
振り返った先、ソラが話しかけた相手は・・・
何処から調達してきたのか分からない囲碁台を囲んで
台に収納されていた天板に熱いお茶と碁石を並べ
真剣勝負に勤しんでいた。
話し掛けられたのに気付いた2人も・・・
画面の方は見ていなかったらしい、情報に期待ができそうにない
でも、『何だ・・・ソラには聞こえないのか?』と、蒙・・・
『何それお前!聞こえてんの?凄いなぁ~』と、山都
『え?山都?お前にも聞こえてなかったのかよ?』
蒙が心底驚いてから・・・
蒙が耳にして把握している範囲の事を簡単に説明する
『えぇ~っとだな・・・桜花とフィンがそれぞれ空気読めなくて
トラブル起こして、あぁ~なった』
『それ絶対に、大事な部分が全部抜けてるだろ・・・
ぜんっぜん、意味が分からんわ!』
囲碁台の中から取り出した急須から、湯呑に御茶を注ぎながらの
山都のささやかな突っ込みに、ソラも同意するしかなかった。
仕方無しにソラは、雛芥子に声を掛ける
『雛芥子さんは、何が起こったか見てたっすか?』
『見てないよ、ソフトクリーム作ってたから
でも、多分・・・
鳥さん達がオイタでもして、何人か落っこちたんじゃないかな?
フィンちゃんって、仕事に置いて・・・
その程度で落っこちちゃう未熟な狩人って、大嫌いだから
で・・・これ、出来上がったんだけど・・・
食べて味の感想を聞かせてね!』
ソラは拒否権の無さそうな雛芥子の笑顔に負け、震える手で
カップに盛られた不思議な色のソフトクリームを受け取る
『今度は・・・何の味なんすかねぇ?』
『駄目よ!教えてあげない!
私は正直な味の感想が聞きたいんだって、ずっと言ってるでしょ?』
ソラが助けを求める様に、眼差しを向けた先にいる蒙と山都は
視線を故意に逸らしていた。
唯一の救いは、山都さんが熱いお茶を
ソラの座るベンチに置いておいてくれた事、それだけであろう・・・
ソラは山都の心遣い「熱い御茶」を吐息で冷ましながら少し飲み
カップに盛られたソフトクリームを一匙、口に入れる
想像通り・・・
何とも言えない不可思議な味が、ソラの口の中いっぱいに広がった
但し、それは・・・
今日、ソラが口にした物の中で最強の味だった
腹の底から冷たい物が、迫り上がって来る感覚に悶え
ソラはそれを必死に堪え、冷たい汗を流す結果となる
見る間に、顔色が変色していく
『雛芥子さん・・・味見って単語、御存じっすか?
絶対に味見してないっすよね?これ・・・』
『する訳ないでしょ?
そんなに頻繁に味見してたら、太っちゃうじゃない!
私の味覚はね、美味しい物を味見する為に存在しているのよ?
で、どんな味がしたの?美味しかった?』
ソラの視界の端で・・・
蒙が手を合唱して、ソラに向かって微笑んでいる
ソラは雛芥子の質問に答える事が出来ず、力尽き
その場でリバースして、雛芥子を驚かせる
『っうわぁ~!ちょっとぉ~!
此処は食べ物を売る御店なのよ!なんて事してくれるのよ!』
雛芥子の怒号と観客の歓声が響いたのは、ほぼ同時刻だった。
画面の中には・・・
ソラの想定を越えた大きな蜥蜴が映し出され
天井にくっついて、逆さのまま猛スピードで動き回り
この世界の人を一口でパックンと数人、食べてしまっている
目が点になったソラは、山都に持ち上げられ
口元を乱暴に拭かれ、されるがままに
蒙と山都が囲碁をやっていたベンチに寝かされる
その場所からは、遠くても画面が良く見えた。
映像の中で、レイブンが・・・
ピンチの場面に出て来るヒーローよろしく
敵を圧倒する強さで戦っている
『レイブンさんって・・・
どう言う種類の人間なんなんすかねぇ~?』
そもそも、ワイヤーの上を普通に動き回る時点で変なのだが
猿系の桜花より素早く身軽に動く、レイブンの人間離れした動きに
ソラは「自分と同じ様に、この世界にレイブンも迷い込んだ」
と、思っていた事を羞じ
レイブンが「どう言う人種なのか?」
と、言う疑問を蒙と山都にぶつけてみた。
蒙が『ん?知らなかったのか?』そう言って
山都が首を傾げ、蒙と視線を合わし・・・
蒙がソラを指さしてから、上を指示し・・・
山都が『道理で貧弱や思たわ』と呟いた
蒙が複雑そうな表情を浮かべている
『昔、検査した時はレイブンも
お前と一緒で、生粋の人間だったんだぞ・・・』
『そうやな・・・ほんま、貧弱でちっこかったわぁ~
今では、「セレスタイトの投薬実験」言う改造で
人間ですら、のぉ~なってるけどな』
山都も溜息混じりに同じ表情を浮かべていた
『そうそう!レイブンは、セレスの投薬実験で
廃人にならなかった第一号の実験体なんだよね!凄いよね!』
会話に乱入してきた雛芥子の言葉で
ソラの背筋に、冷たい物が走った。
セレスが時々・・・
『これ飲むのも仕事としてカウントされるんだぞ』と、言って
頻繁に勧めて来る「謎の液体」の正体、もしかしてそれは・・・
ソラには、嫌な予感しか思い浮かばなかった
『それって、もしかして・・・
セレスさんって、マッドサイエンティスト的な
人って言うか、鴉で・・・
俺の事とか、実験動物にしようと企んでたり・・・
しちゃうんすかね?やっぱり・・・』
冷や汗の出る状態のまま、ソラは軽い笑いを浮かべ
顔を引き攣らせている
『セレスには・・・新鮮な「それ」にしか、見えてないやろうな
頑張って、自分の身は自分で護りぃ~や』
救いの無い山都の台詞にソラは・・・
セレスの勧める物は、絶対に口にしないと心に決めた。
説明力の無い人に、代わりに話を聞いて貰っても・・・
その人が、自分に正確な話を伝言してくれないので意味が無い!
そんな経験した事ありませんか?