012「11 遠征中5」
「11 遠征中5」
これから作業が行われる場所の逆側と
その場所から下った場所にある駐車場に設置された
大型モニターに・・・
アラブ系の王様が着用していそうな
生地を大量に使った民族衣装っぽい物に身を包んだ
人影と漆黒の烏が映し出される
ざわついた会場から更に・・・
ライブ会場に居る様な錯覚を起こす程の歓声が上がった。
『うわぁ~・・・帰りてぇ~』
『私もそう思うよ・・・
フィンの事が無かったらきっと即効、帰ってただろうな』
レイブンとセレスが、自分達が寛ぐ場所から斜め下のモニターを
伏し目がちに眺め、深い深ぁ~い溜息を吐く
『あはは、2人とも・・・
アタイを見捨てないでくれてありがとう!』
フィンは、モニターとは対極の場所・・・
作業に向かう為の荷物を乗せた
宙吊りになっている滑車付きの台の上から2人を見上げる
3人、いや・・・2人と1羽は、自分達から見てほぼ真下・・・
オペラグラスや望遠鏡を抱えた一番近くで観戦できる観客近く
ライブ映像を撮影するカメラを持った小動物に向かい
ファンサービスを繰り広げる1人と1羽に対し
「残念なヤツ等」と言う共通認識を胸に
複雑そうな顔を見合わせして、更に深い溜息を同時に吐いた。
会場中に『王子!愛してるぅ~』と、言う感じの言葉が
何箇所かで、何度も木霊している
2つの会場に狂気と歓喜、その近くで殺気が湧きあがっていた
殺気の正体は、今回も・・・
レイブンとモニターの中で場を盛り上げている人物以外の
狩人達、ほぼ全員からの様だ・・・
『怖いね、女の嫉妬心は・・・
今回の仕事で「桜花(おうか)嬢」
今度こそ冗談抜きで、暗殺されちゃうかもしれないな』
「殺気の正体・殺気が湧き起こる理由」に気付いているセレスが
意味有り気にレイブンの背中を翼で軽く叩く
『うわぁ~・・・面倒くせぇ~・・・
山都さんの親戚の娘を見捨てる訳にいかないけど
アイツ助けると、本気で怒って襲って来るんだよなぁ~
邪魔にしかならないから、参加取止めてくれないかなぁ~』
レイブンは前髪を掻き上げ、恨めしそうに
「王子」と持て囃される混血猿系人種の「桜花」を睨んだ
『無理だよぉ~桜ちゃんってばさぁ~
レ~君と競い合いたがってるんだもん、レ~君が参加する限り
100%参加しちゃうよ、しなくても参加するだろうけどね
桜ちゃんは、正義の味方になるのが夢なんだから・・・
そぉ~だ!レ~君ちっちゃい頃、同じ事言って同じ様な事して
やまちゃんやも~ちゃんに迷惑かけてたじゃん
恩返しのチャンスだよ!頑張れ』
『そうだそうだ!レイブン、御仲間だぞ?手伝ってやれ
お前・・・そう言う理由で昔、私に弟子入りしたんだから
ヒーローらしくヒロインを護ってやればいい』
レイブンは本気で嫌そうな表情を浮かべ
『2人で押し付けて来るなよ・・・やる気、萎えるから・・・』
と、言いながら・・・
何かあった時、助ける為に必要になりそうな装備を整えた。
レイブンの装備の起動確認が終わった頃
桜花が観客を喜ばせるのに満足した頃
点滅を繰り返す、ノイズを発する
放射状に広がる1列の照明の電源が山都の手で落とされ
世界が少し陰りを見せた。
暗くなった照明の右側へと、真っ白なセレスが飛び立ち
レイブンが無言で、一足早く出発する
『先に行くなんてズルイぞ!
勝負だレイブン!今日こそお前より手柄を立ててくれる』
桜花が次に出発し、暗くなった照明の左側を
桜花のパートナー漆黒の嘴太烏の「ジャンゴ」が飛び立つ
後に続いて・・・
他の狩人達とパートナー達も走りだしたり、飛び立って
フィンが安全に仕事をする為の下準備が整っていく。
照明を固定する為に幅広く、四方八方に繋がった古いワイヤーに
それぞれ思い思いに狩人達が、スタンバイした
ソラと一緒に観客管理をしていた蒙が、フィンの元に現れ
「フィンと荷物」を一緒に乗せた滑車付きの荷台に繋いだ
細いワイヤーを駆使し、一つ目の照明まで移動させる
現場に到着したフィンは蒙が運んでくれた分
疲れる事無く、仕事を始める事ができた。
フィンは、重力の無い場所でロッククライミングをするかの様に
手で、ぶら下がり・・・足を掛け・・・
尻尾を上手に駆使して、逆さ吊り状態になったりしながら
バスケットボールより大きな電球を持って
作業現場に近くまで、ワイヤーと滑車で運んだカゴと
作業場所を繰返し、行ったり来たり
何度も往復して、一つづつ着実に光源を交換していく
配置された狩人達が、無用に感じる程・・・
前半の照明に付いた電気の交換は問題なく
捕食者の襲撃の気配も無い状態で進んでいた。
観客の為に設置されたモニターの中で、長い沈黙が続く
時々、一部の狩人に対し歓声が上がる程度で
観客は、いつの間にか出展されていた屋台で買い物し
ビールサーバーを背負い売り歩く人員に声を掛け
飲み食いしながら、お楽しみの見世物を待っている。
カメラの自動色彩調整の為
モニターからは感じ取る事ができないのだが・・・
現場では、電気の交換が半分まで来た頃から
進むにつれ、視界が暗くなっていっている
暗くなり、捕食者からの襲撃のリスクが高まり
緊張感も、一緒に高まっていっていた
ライブ中継のカメラを回す小動物達の緊張感も
レイブン達以外の狩人と、パートナー達の緊張も
否応無しに高まっいるのだが
只、今は・・・
フィンの作業している音と、フィンの鼻歌だけが
場を支配していた。
フィンが仕事をする現場から遠く離れた下の方・・・
落ちてきた物を街中にまで、落とさない様に
それを空中で拾い、片付けるのを仕事にしている
大きな猛禽類達の中から
1羽が暇を持て余し、急に上昇してくる
慣れていない狩人だけが武器を手に身構え
そうでない者達と、フィンは・・・
翼によって巻き起こされるであろう、突風に備えた。
武器を構えた者が数人の落ちた
落ち掛けただけの者には・・・
近くに居た者が各自で判断して、手を貸し引き上げる
大きな猛禽類が・・・
落ちなかった者、引き上げられた者に対し
舌打ちして、帰っていく
「食べ物」が落ちてきた場合・・・
それがフィンであろうが、自己判断で「片付け」て良い為
落ちた者の未来がどうなったかは想像に任せる事にしよう。
『レ~君!今の人がねぇ~!
商店街で、ソラを食べようとしてた人だよぉ~!』
『へぇ~・・・そうなんだぁ~・・・』
フィンからの情報に、レイブンは気の無い返事を返し
『アイツ、美味そうだな・・・
レイブン!私は鳥の唐揚げが食べたいぞ!』
『機会があればね・・・って、師匠!
鷹は、美味くないんじゃないかな?トマト煮のが良くないか?』
他の狩人達を余所に・・・
一角だけ和やかなムードの中、笑い合っていた。
『レイブン貴様!この状況で笑うとは、不謹慎だぞ!
落ちた者の身内の気持ちを少しでも考えたらどうだ!
そして、フィン様も御自分の立場を考え
この状況で笑顔を見せるのは、どうか少し御控下さい!』
桜花が、抜き身の刃をレイブンに向け会話に乱入してきた
『桜花は・・・今回も若干、的外れに熱いなぁ』
セレスの呟きに、フィンもレイブンも困った顔で同意する
『何処が的外れか!?
落ちた者達は、フィン様を護る為に此処に居たのだぞ!』
桜花の発した言葉にフィンの眼差しが剣呑さを帯びた
フィンが手にしていた古い方の電球が鈍い音を立てて砕け散り
フィンから、にこやかな表情とフワフワした雰囲気が消え去った。
他人様の失敗を笑うのは不謹慎だが、しかし・・・
その場で笑っている人がいるからと言って
その話題が「失敗した人の話」ではない場合もあります。
「笑っている事」を指摘する際は・・・
「何で笑っている」かを「ちゃんと確認」してからにしましょう!




