プロローグ
ざっざっざ・・・
6月も終わりの近付くそんな夜の事、その日は朝から続く雨がこの町を濡らしていた。
その中を男が1人歩いている。全身黒ずくめの男、手に持っている経典からギリギリ宗教関連の人物である
ことが分かる。
その男が静かな町の裏道に入ると小さく鳴き声が聞こえてくるのに気がついた。
「こんな夜に子どもの泣き声が聞こえる・・・だと」
少し怖くなったのか、それとも雨で冷えたのか体を震わすと足早にその場を立ち去ろうとする。
しかし、どうも泣き声が気になるようで自然と足は泣き声の方に向かっていく
「家から聞こえるならよし・・・、何もいないとこからなら逃げる・・・よし」
どうやら冷えたわけではないようだ。ぶつぶつ呟く姿は不審者そのものである。
何個目かの角を曲がった先に子どもがいた。小さいパンを入れるバスケットに入っている赤ん坊だ。
酷いことをするもんだ、と思い赤ん坊に近づく。
しかし、次の瞬間男は上からさかさまに吊りあげられてしまった。
「ちょっ・!何だこれっ!?」
「ふっふっふ・・・かかったわね」
そう悪役としか思えないセリフを吐いて、青い髪が特徴的な女が出てきた。
全身青一色の良く分からない女だ。すっぽりとフードをかぶっており顔は見えない。
きっと綺麗な顔なのだろうな・・・、吊るされながら考えるこの男はのんきである。
「あなたの資質を確かめさせてもらうわ」
「へっ?資質って・・・?」
その疑問は解決されることなく、女がせっせと男の下にわらを集めていく。
男の中に、かすかな悪い予感がよぎる。そのせいだろうか、尋常じゃなく汗が垂れてきた。
そんな汗だくの男をほっておいて、わらの山に謎の液体をかけていく。
「お姉さん、何をしようと・・・って待って!ホントに待って!!!」
男が突然声を荒げるのも無理はない。女の手には火のついた棒、男の下には謎の液体のかけられたわらの
山。何をするかなんて一目瞭然だ。
「待ってくれ!話しあいと言うのはいつの時代も必要ではないか?うん、そうだな!!必要だな!!」
男の必死の声かけも聞こえていないかのように、わらの山に火を近づける。女の唇が笑みを浮かべている
のがはっきり分かる。
これはホントに今日が命日になるのか、最後にシチューが食べたかった・・・
こんな危機でもこんなことを考えるあたりが、やっぱり呑気だと思う。
「何をしたかは分からないが、すまない。いくらでも非礼は詫びよう。どんなことでもする、なので見逃
してはもらえないか?」
こんな口調で一回喋ってみたかったんだよな、これで人生の悔いは減ったな。
そんなことを考えているとあることに気付く。女の手にあるはずの火が消えているのだ。
この展開に戸惑っている男に、女から声がかけられる。
「ホントに何でもするのね?」
「へ?ひゃい?」
噛んだ恥ずかしさよりも、生き延びれそうな安堵感のほうが強い、はず。
「ホントに何でもするかって聞いてるんですよ?」
「ひゃいっ!何でもする所存でゃっ・・・!!」
今度は安堵感が恥ずかしさに負けたようだった。顔を手で覆い体をくねくねと動かしている。
「気持ち悪いわね・・・まぁ、いいわ。お願いがあるの、この子を育ててくれないかしら」
・・・ん?ナニヲイッテイルンデショウネ?
男の思考は完全に停止してしまっているようだ。ボー然と女を見ている。
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「男が混乱から立ち直ったときには、女の姿はなく腕には可愛らしい赤ん坊が抱かれていたんだよ
ね・・・いやー不思議だ不思議だ」
男は最後にそう締めくくると静かに目をつぶった。昔を懐かしんでいるのであろう。
「なんでそんな満足そうな顔なんだよっ!!俺の事何一つとして分からないじゃねぇかっ!!」
目をつぶっている男の横には、声を張り上げ暴れる12歳の子どもがいる。
慣れているのだろう、男は微笑みを浮かべその様子を眺めている。
「あーーっ!!もういいっ!!」
そう叫ぶと少年は自分の部屋に駆け込んで行った。
ここから始まる、少年の静かで小さい物語・・・




