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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
9/33

Guns Rhapsody Ⅰ-Ⅸ

出来ましたん

 翌日


「今日は平和な1日でありますように……」

 現在時刻は午前7時。

「どうやって本当の事を言えばいいんだか……」

 欠伸をかきながらベーコンエッグを制作していると、廊下から聞こえて来る足音。ドアが開かれると暁がリビングへとやって来た。

「……」

 無言の暁が目を細めてこちらを見て来る。

 暁の間抜けな表情に笑いたいのだが、昨日のように下着一丁だけと言う羞恥心皆無の格好なので笑うに笑えない。

 無言の暁が足取り覚束ないまま台所へやって来る。

「Vesi…」

「日本語で話せ」

 出来た朝食を皿に盛りつけながら再度問う。

「Anna minulle vettä…」

(駄目だ、完全にボケてやがる……)

 下着姿のまま横につっ立ってられると精神的によろしく無いので。食事用のテーブルの椅子に手を引いて誘導する。

「そのまま座ってろよ」

 艶めかしい黒い下着姿に少しドキリとしてしまったが、女子の下着姿程度で揺れ動くような精神では無い。昔から日常的な美夜の接触で鍛えられてきたし、武学園の粗野な女子共のラフ過ぎる格好やトンデモ行動には慣れている。

(慣れちまうのもある意味おかしいんだけどな……)

 ちょうど良くトーストが出来たので別な皿に乗せ、座ったまま虚空を見つめる暁の前にベーコンエッグとトーストを乗せた皿、フォークを置いてやる。

 寝起きが悪いのか眉をひそめながら首を傾げ、眉間にシワが寄っている暁。クラスの野郎共が見たら幻滅してしまいそうな光景。

「んー……」

 不機嫌そうに唸るので、これ以上刺激したら顔面に裏拳が叩きこまれかねない。暁は放置して自分の分の朝食を台所から運び、最後にグラスコップに冷えた牛乳を注ぐ。

「起きろ、朝食だぞ」

 自分のトーストにマーガリンを塗りながら正面の暁に声をかける。

「んー……ん?」

 やっと目が覚めて来たのか閉じられていた(まぶた)を開け、青灰色の瞳が現れる。

「やっと起きたか。意外と朝に弱いんだなお前」

 仕上げにブルーベリージャムを塗りたくりながら話しかける。

「ん……んん……?」

 自分の身体を見下ろす暁。しばしの沈黙が続き――耳が一瞬で真っ赤になる。

(あっ……これ逃げた方が良いんじゃないか)

 しかし予想は外れ。自分の腕で慌てて胸元を抱くように隠すと恥ずかしそうに身体を縮めてしまう。

「ど、どこから見ていた……!?」

「リビングに入って来た辺りから」

 今度は顔を真っ赤にして両手で覆ってしまう。何だか逆に申し訳なくなってきたな……

「ま、アレは見なかった事にしとくから早く着替えて来いって。早くしないと料理が冷めるぞ?」

 未だ手が付けられていない料理を指差す。

「わ、分かった……」

 椅子から立ち上がると、下着に包まれた形の良い自分の尻を隠しながら出て行く暁。

(ま、眼福を得たと思えば……悪くは無いか)

 テレビを点けて朝のニュース番組を見ながらベーコンを口に運ぶ。流れているニュースは土曜の朝には似合わない物騒な物。

『昨夜未明、都市部東区の港で武装学生学園による摘発が行われました。容疑者は――』

 女性ニュースキャスターが真剣な面持ちで内容を読み上げている。

『――違法薬物の使用、売春、人身売買、その他の違法行為を過去に渡りも何度も行っていた事が判明し。押収されたリストには、有力国会議員や地方議員、警察上層部関係者の名前が数多く残っている事が判明し。これにより――』

「よくこんな依頼を引き受ける奴がいたな……」

 普通の犯罪者なら何とも無いのだが、この一件は国会議員や警察と言った政府に関する人間が関与した物。下手したら圧力がかかって来る可能性もあるし、さらに悪ければ報道規制されて一週間と経たずに表から消える可能性もある。

 すると、暁がドアを開けて戻って来る。今度は半袖短パンと言う少し薄手の格好だが先程の下着のみに比べればかなりマシだろう。

「む……朝のニュースにしてはいささか不釣り合いな内容だな」

 椅子に座った暁が牛乳を一口傾けると、流れているニュースに反応する。

「本当だよ。全員の腰に縄繋いで全裸で寒中水泳させるとは……よほどのドSだな」

「失礼な」

「え……」

「守秘義務で詳しくは言えんが請けたのは私だ」

 トーストにマーガリンを塗りながら暁がぶつくさと苛立ちげに言う。

「し、失礼しました……」

「全く……寮に帰って来れたのが深夜の3時だぞ? 日本に来て間もないから数日は指名依頼が来ないと思っていたのに……私を知る者が口を滑らせたお陰で知られてしまった。これだから『上』からの依頼は嫌なのだ」

 テレビを眺めながら不満そうに言うとベーコンを頬張り、咀嚼(そしゃく)する暁。

「お前って本当に腕利きの武学生なんだな……」

 暁の言う『上』とは――恐らく『政府』かそれ相応のデカイ組織。そこから指名依頼が来るとなると普通の武学生が出ていい次元の依頼内容では無くなる。

「単に使い走りされる事が多いだけだ。それと、昨日から気になって仕方がなかったのだが『お前』ではなく、名か姓で呼んでくれぬか? どうも居心地が悪い」

「は、はい……」

 会って一週間も経っていないのに名前で呼ぶのは流石に馴れ馴れしいので、姓で呼ぶ事にしよう。

「……そうだ。おま――じゃなくて暁に言う事があったんだよ」

 昨晩、柊から告げられた事を話す。

「――今年の冬か……随分と時間が掛るのだな」

「それと、生徒会と風紀委員の人間には同居している事を察知されないでくれ。特に風紀委員の蓮野藤(はすのふじ)って奴は絶対だ。アイツに知られたら汗臭い筋肉ムキムキの野郎共が銃持って部屋に押し寄せて来るから」

 顔をしかめる暁。

「その蓮野と言う者は何者なのだ」

「中央支部の風紀委員会のトップに立つ人間だ。普通に話せば真面目な奴なんだが、厳格な性格で冗談が通じない」

 風紀委員とは分かりやすく言うなら『軍隊の憲兵(けんぺい)』みたいなもの。普通学校なら『生徒の見本として振舞う』と認識されているが武学園の風紀委員は少し違う。

 学園内で問題を起こした生徒の処罰や後の処理を教師達から一任されており、逆らおうものなら容赦無く散弾銃や大口径をぶっ放す非常に危険な集団。一見物騒な集団に見られがちだが、キチンと校則や武学生則を守っている勤勉な奴らでもあるので一概に物騒な集団とは言えない。

「分かったが……もう一つの生徒会は警戒しなくてよいのか?」

「ああ、そっちのトップは大丈夫だ。顔見知りと言うか知人だからなんとかなる」

 しばらく会ってないから様子は分からないが、丈夫な奴だしピンピンしているだろう。

「ふむ、今年の冬か――それまで世話になるぞ」

「ま、自分の部屋だと思って使ってくれ。それと、この部屋を使うに当たって注意事項があるんだが――」

 壁の時計を見れば、もう少しでアレが部屋に来襲して来る時間帯。ここ2日間は正面玄関から入って来ているので、そろそろ違う所から侵入して来るはず。

 閉めていたカーテンをのけてベランダに出る。

(来るとしたら……下か)

 身を乗り出して見下ろすと――

「あ、幽だ。おはよー」

 自分の階から三つほど下の階。黒いエナメル製のスポーツバックを斜めに掛け、ベランダを器用に利用して登って来る美夜がいた。

「今、織原の声がしなかったか……?」

 座っていた暁が腰を上げてベランダに出て来ると、自分と同じ下を見る。

「あ、暁さんおはよー!」

 見上げてくる美夜の姿を捉えると、隣の暁が見下ろしたまま固まってしまう。

「な、何なのだアレは……」

「猿だろ。部屋に入られると厄介だから閉めるぞ」

「う、うむ……」

 窓を閉めて施錠した所でタイミング良く美夜がベランダの手すりを乗り越えて来る。

『開けてよー』

 見慣れない手袋を嵌めた手で窓を小突いて来る。

「どうするよ?」

「私に聞くな」

 このまま放置したらガラスを割って侵入して来そうなので仕方が無く開錠してやる。

「お邪魔しまーす」

 靴を脱ぎながらリビングへとサル(美夜)が入ってくる。

「あらっ、食事中でしたか申し訳ありませんなぁ」

「本当だよ。さっさと靴を置いて来い」

「はーい」

 玄関へ行ったのを確認。中断された朝食を再び食べ始める。

「どうした暁? 冷めたベーコンはあまり美味しくないぞ」

「いや……なぜ織原はあのような場所からやって来たのだ……?」

「それは意外性を求めた結果です!」

 ドアを勢いよく開け放ちながら騒がしくリビングへと戻ってくる。一体何を摂取したらここまで騒がしく出来るのだろうか……

「あ、それとパン1枚もらうねー」

「冷蔵庫の扉開けっ放しにしたらゴボウで尻引っ叩くからな」

 笑いながら台所に向かう美夜。

「スマンな暁、さっきの話はコレを言いたかったんだ」

「織原の奇行か」

「そうだ……今日は2週間ぶりにベランダから入って来たが、普段は正面玄関の鍵をピッキングして侵入して来る。この寮部屋に対しての侵入行為は美夜にとって日課――いや、呼吸と同じだから改善しろと言っても無駄だ」

 戻って来た美夜が隣の椅子に座ると、ジャムを大量に塗りたくったパンを片手に会話に混じって来る。

「ちなみに一般的な鍵なら1分以内に突破できます! 電子キーは専門外だけど多列ピンタンブラー錠なら5分くらいかな?」

「要らない情報ありがとうな、枕元にコンディション1の銃を置かないと安心して眠れ無くなったよ」

 その内音も無く寝室に忍び込んで来るのではないか。いや、最強のセキュリティである暁が増えたから大丈夫か?

「ほら暁さん、幽の寝顔って意外と可愛いんだよー?」

 自分の携帯電話を操作すると正面の暁に画面を向ける美夜。

「やめろ」

 横から取り上げて画面を見てみれば、自分の間抜けな寝顔がアップで映し出されている。

「返してよー! 一部の客層に需要があるんだよ? 中には1枚3000円で買ってくれる人もいるんだから!」

「なんちゅうパイプを持ってるんだお前は」

 外部メモリをスロットルから引っこ抜き、携帯電話本体に保存されていた画像を全て一括消去。

「バックアップは取ってるから痛くも痒くも無いもんね」

「無駄に用意周到なのがムカつくな」

 ニアに頼んで外部から――いや、アイツは逆に購入する側だから無理だ。

「暁さん、幽の寝顔は種類が色々あって面白いから一見する価値あるよ」

「お、おう……」

 暁の生返事。

「ほら、馬鹿に構ってないで皿片付けるぞ」

 そろそろ登校準備しないと時間に余裕が無くなってしまう。汚れた皿を台所の流しに置くと、皿洗い用のスポンジを手に取る。

「もう、幽は自分の事になるとすぐ逃げ出すんだから……」

 美夜が呆れたような表情を浮かべ、やれやれと頭を横に振る。

「暁、洗い物はいいから着替えてこいよ。あの装備の量だと時間がかかるんだろ?」

「すまぬな」

 リビングから出て行く暁。パンを口に(くわ)えながら後ろ姿を眺めていた美夜が口を開く。

「……なんだか幽と暁さんのやり取りカップルみたいだね。ちょっと妬けちゃうわー」

「はあ?」

 突然、何を言い出すんだコイツは。

「私と言う女がいるのに浮気しちゃうなんて、最低3人までですからね!」

「八代にカウンセリングしてもらったらどうだ? お前と会いたいって嘆いていたぞ」

「酷いなー」

 ケラケラと軽く笑う美夜。

 両手の水気を拭き取り、部屋着の上に着ていたエプロンを脱ぎながら自室へと向かう。

「覗くなよ」

「はーい」

 リビングから出ると洗面所で歯磨きを済ませてから自室へと戻る。時間の食う弾倉の弾詰めは既に終わっているので、部屋着を脱いでさっさと制服へと着替える。

 今日は休日なので銃は1丁だけ携行する事にする。銃の入ったホルスターと予備の弾倉が収納されたマグポーチをベルトに通し、余計な重量を増やすフルタングナイフは持っていかず、折り畳みのナイフと制服と同じ繊維で編まれた手袋を持っていく。

 授業は1教科だけなので普段の通学鞄では無く、たすき掛けに背負う私用の鞄に授業道具一式詰めて身体にかける。

 部屋から出ると既に美夜と暁が廊下で待っていた。

「ほらほら早くしないと遅刻しちゃうよー?」

「すまんすまん」

 男子寮を後にしてバス停へ。タイミング良く来たバスに乗り込み、目的の停留所まで立つ事に。

 最初に衛生科の校舎前の停留所で美夜が下りてゆき、しばらく走ると後衛科の校舎が見えて来る。

「じゃあ、授業が終わったら駅前のロータリー広場な。場所は分かるだろ?」

「うむ、何かあったら連絡してくれ」

 バスが停車。降車する生徒に混じってバスから降りる。

(無駄に広いんだよなー……後衛科の校舎)

 後衛科の正門をくぐり抜け、正面玄関で上履き代わりの突っ掛けに履き替え。選択科目の授業を行う教室へと足を進める。

 後衛科の校舎内清潔的で、どこかの大学の構内と見間違えてもおかしくない程。2年校舎のようにガンパオイルや火薬臭くなく、無機質な匂いが鼻をくすぐる。

 5階にある目的の教室に到着。授業が始まる時間まで10分ほど時間があるので、窓から外の様子を眺める。この校舎の裏手にはロングレンジの射撃に対応した大きな屋外射撃場が存在し、どうやら下の射撃場では1年生の一団と数人の教師達が複数の車両を使った大掛かりな射撃訓練をしている。

(ああ、車を使った伏射訓練か。向きによって薬莢が吹っ飛んで来るから最初はとても怖いんだよなー……懐かしい)

 案の定、担当の教師から注意される数人の生徒。遠目からでも分かるあのガタイの良い女教師は柊の奴だろう。

「ライフルや短機関銃の者は銃口を地面に付けるな! 隣の薬莢が飛んで来るのは距離が近過ぎるからだ! 常に隣との距離を把握しろ!」

 こちらまで聞こえて来る怒鳴り声。

「おい見ろよ『獄卒』が1年共を扱いてるぜ」

「しゃーない、アイツは俺達に怒鳴る事でストレスを発散しているんだ」

 後ろから聞こえて来る男子生徒2人の会話。

「柊はもうちょい大人しくなれば普通にイケると思うんだけどなー」

「中央支部の女教師全員に共通して言える事だな。絶対に無理だと思うが」

 本人に聞かれていたらRHIB(複合艇)の後部に紐で結ばれ、島の周りを引きずり回されかねない危険な会話。

「あれ……よく考えたら中央支部の女教師ってマトモなのいなくね……?」

「いやいや、それは無いだろ。せめて1人くらいはマシなのが――いないな」

 聞き耳たてながら知っている中央支部の女性教師を思い出してみるが……マジで誰もいない。

 一般教科を担当する先生に数人ほど女性教師はいるが。どの人も個性的過ぎる人しかいない……

「この話止めるか……」

「ああ、止めた方がいいな。部屋に手榴弾投げ込まれるわ……」

 すると、教室の前のドアが開かれ。担当の先生が入って来ると選択科目の授業が開始された。

――そして、時刻は過ぎ正午前。無事に授業が終わると、待ち合せの場所である駅前のロータリ広場へと向かい、ベンチに座って暁を待っていた。

 すると、見慣れた顔の男子3人がやって来るや親しげに話しかけて来る。

「おうおう、女と待ち合わせか?」

「お前の周り女ばっかりだもんなー、漫画か何かか?」

「エロゲだべ。それも18禁のハーレム物」

 蹴りを入れるが全く効いていない。これだから無駄に頑丈な奴は嫌なんだ。

「もう少しで中央支部全科をコンプリートしそうだもんな。残るは諜報科の女子か?」

「節操無しのコイツでもさすがに諜報科の女子は相手に出来ねえだろ。アイツらは暇さえあれば近接格闘と射撃の訓練だぜ?」

「アレは前衛科の女子が一般人に思えるレベルだもんなー」

 どこからか金属同士がぶつかり合う小さな音。自分の斜め前に立って笑っていた男子――佐々木の持っていたお茶入りのペットボトルが突如弾け。内容物が地面へとこぼれ落ちる。

 薬莢がコンクリートの地面に落ちる澄んだ甲高い金属音。音の方向を見ると、冗談に笑いながら駅の方へと歩いてゆく女子が数人。その内の1人が制服の内側に身に付けたショルダーホルスターに銃を仕舞いこんでいる姿を目撃してしまう。

『……』

 自分を含めた男子一同が沈黙に包まれる。

「今のって威嚇射撃……だよな?」

「威嚇じゃなかったら全員袋叩きだろ」

 幸いか内容物はこちらに振り掛っておらず、被害を受けたのは佐々木だけ。

「俺……コレ捨てて来る……」

 少し涙声の佐々木がトボトボと駅の方へ歩き出す。

「そ、そろそろ俺達も行くわ……じゃ、じゃあなユウ」

「おう」

 心なしか小さく見える3人を見送り、地面に落ちた薬莢を拾い上げると先程とは違うベンチに腰掛ける。

(22口径か……そりゃあ銃声がほぼ聞こえない訳だ)

 そのまま地面に放置するのは忍びないので制服のポケットに仕舞いこむ。

(その内、無言で背中に撃ち込まれるんじゃないか? 気をつけないとな……)

 そんな事を考えているとバスがロータリーへと入って来てバス停の前で停車。ぞろぞろと降りて来る武学生の一団の中に暁の姿が。

 武学園の通学鞄を片手に持ち。何故か朝とは少し髪型が変わっていて、長い髪をポニーテールに結っている。

(んん? 何か違和感が……)

 こちらに気付いた暁がやって来る。

「待たせてしまって申し訳ない」

 朝と微妙に何かが違く見える暁。何だろうかこの違和感は……?

「気にすんなって、たったの数分だろ」

 ロータリーから駅の構内へと入り。改札を通り、南区の駅行きの電車が来るのを待つ。

 既に駅のホームは都市部へ行く武学生で溢れかえっており、案の定と言うか予想通り自分と暁の組み合わせが珍しく。ひそひそと周囲の人間達が会話している。

「あれ? 私、あの女の子見た事無いんだけど……」

「知らないの? 『北ヨーロッパ支部から来たSクラス』の話。二日前から持ち切りじゃん」

「ああ、2組全員がのされたって噂の?」

「そうそう、一クラス全員を相手したのも十分凄いんだけど。ミヨちゃんから徒手格闘で無傷のまま一本取ったって言うのがヤバくない?」

 改めて2日前の話を聞いてみると結構凄い事かもしれない。

(もし、武学生じゃなくて現役の軍人36人抜きだったら本当に人間辞めてるな。さすがにプロ相手には無理だろうけど……)

「ヤバ過ぎでしょ!」

 女子2人がこちら――隣の暁――を興味津々に見つめる。

「どうしよう、メッチャ興味あるんだけど……話しかけてみない?」

「えー、でも隣に男子いるじゃん」

「影海だから大丈夫でしょ」

(俺だから大丈夫ってどう言う事だよ、随分と言ってくれるじゃねえか)

――すると、タイミングよく電車が駅のホームに入って来て2人の会話が中断される。

 停止線の手前に並んでいた奴らがぞろぞろと電車に乗り込んでゆき、やっとの思いで車内へと入る。既に2人掛けのシートやボックスシートの座席は占領されており、仕方が無いので吊革に掴まって立つはめに。車内は武学生でごった返しており、吊革を握った暁との距離が非常に近くなってしまう。

(近い、近過ぎるぞ……)

 暁は自分より数センチ小さいので頭部が自分の鼻と非常に近い位置あり、香水の良い匂いに混じって風呂場に置いているシャンプーの香りが漂って来る。

「か、影海……近いぞ」

 暁が瞳だけでこちらを見上げると、周りに話声が聞こえないように小声で話しかけて来る。

「しょうがないだろ! 後ろがメチャクチャ幅取ってるんだよ!」

 間近の暁が暑そうにネクタイを緩めると、ブラウスの第一ボタンを外して中に風を送る仕草。隙間から覗く暁の健康的な白い肌と、僅かに漂って来る香水の良い香り。

(いかんいかん……上を見るんだ。ばれたら首が掻き切られる)

 しかし、こちらの苦悩を知らない暁。

「暑い! もう少し離れられぬのか!」

「無理言うなって、これ以上下がると後ろの奴から尻をナイフでぶっ刺される」

 電車が揺れライフルケースの角が自分の後頭部を小突く。

「いっ!?」

「あっ、ゴメン影海」

 声から察するに同じクラスの山瀬だろう。

「あー、非常に申し訳ないんだが山瀬。もうちょい下がれないか? 前の奴が少し大変そうでな……」

「おっとゴメンゴメン」

 山瀬が謝ると、圧迫していたライフルケースの感触が無くなり。少しだけスペースが生まれ。半歩の半分程後ろへ下がると前の暁との距離が僅かに離れる。

 そして、振り返った際に気付いてしまった最悪な事――それは自分の周りが女子ししかいないのだ。年頃の多情多感な普通の男子高校生からしたら、非常に喜ばしい状況だと思うのだが。いかんせん周りの奴らはとても凶暴な人間ばかり。

(下手に動いたら即終わりじゃねえか!)

 肝心の男子と言えば、車内の端で細々と個々が小さく固まり電車に揺られている。

 電車の位置を知らせる乗降口上に設えられた電光板を見れば、あと1分ほどで南区の駅に到着する。そうすればこの地雷原から逃げ出せるのだ。

 息を殺して耐え忍んでいる間に電車は南区の駅敷地内へと入り、やっと電車がホームに停車する。

(気付かなければよかったな……)

 少しげんなりしつつも人混みに流されるように電車から降りる。

 降り立ったホームは別な方向へと走る電車のホームと併用されているので、結構な数の利用客がいる。土曜日とあってか利用客は平日よりも少し多く感じ、背広姿の人間より私服姿の者の方が心なしか多い。

 人の荒波に流されるように改札口を通り抜け、駅の構内からやっとの思いで抜ける。自分は都市部の混み具合に慣れてしまったが、来て間もない暁は少し心労がたまり気味な様子。

 とりあえず中央区へ向かうべく駅前のロータリー広場を抜け、中央区へと歩き始める。

「とりあえず適当な店眺めて時間潰すか。都市部の案内は美夜が来てからと言う事で……」

 しかし女子向けの店など全く知らないし、暁がどの様な趣味を持っているかも全く知らない。

「ふむ……なら今後の事を考えて衣類を揃えておきたいのだが、どこか良い店は知っているか?」

「ご大層なブランドの店は全く分からないぞ。全国展開の大手くらいしか知らん」

「構わん、服など着れれば適当で良いのだ」

「分かった、とりあえず中央区まで歩くぞ」

 ここまで無頓着な奴は始めて見たかもしれない……

(でも、超が付く高級ホテルのスイートを借りれる程の財力を持っていて。大使館の人間を荷物運びに使う奴ってかなり限定されて来るよな……)

 横を歩く暁をつい見つめてしまう。

「な、なんなのだ? 人の顔をジロジロ見おって」

「いや、ここまで変な奴は珍しいなって――」

 キレのある右フックがボディを抉るようにめり込む。

「うぐぉおお……」

 呼吸がマトモに出来なくなり、足取りがふらついてしまう。

「面と向かって『変な奴』とは言ってくれるな影海。次は鳩尾か急所に膝蹴りを叩き込むぞ」

「ゴメンナサイ」

 どうか今晩血尿が出ませんように……

「大体変な奴はお主の方だろう。1年生の時から格上とも言える者達と組み。2年生になってから請けた依頼の完遂率はほぼ100%……随分と優秀ではないか」

「なんだよ、勝手に人の身辺調べたのか?」

「いや、ニアが勝手に話して来たのだ」

 満面な笑顔でダブルピースしてくるニアのツラが脳裏に浮かぶ。

「はあ……請けた奴はどれも平和的な物だったからたよ。施設の警備員とか人物警護とかそう言った物だ」

「違うな。お主が請けて来た依頼はどれも危険な事件だったはずだ、嘘を吐くでない」

 間髪いれず暁がこちらの言葉を否定して来る。

「柊殿や他の教師達からも聞いたぞ。お主は1年生の一時期『特待生』の一団に混じって依頼を請けていたそうだな? Sクラス候補の武学生の一団に混じって、それも自ら志願したそうではないか」

「……誰から聞いた? その話は喋ったのニアじゃないだろ」

――遠い昔……と言っても半年前だが、自分は一時期だけ依頼を馬鹿みたいに請けていた時期があった。

 本来、技術や知識が習得段階の未熟な1年生は依頼を請ける事は原則として不可能である。しかし、何事にも例外はあるもので――『成績が非常に優秀な武学生』もしくは『各科の科長を担任する教師に自ら志願し。試験に合格した武学生』の場合。入学して間もない1年生でも2年生や3年生と同じように危険な依頼を請ける事が出来るのだ。

 その二つの条件の内どれかを満たした者を『特待生』と呼ぶのだが。先程挙げた後者の条件である『各科の科長を担任する教師に自ら志願し。試験に合格武学生』は特待生の中でも非常に珍しい存在。

 試験は在籍する科によって違く、自分が受けた試験は思い出すのも嫌になるほどの非常にエグイ物だった――

(1年生の時は本当にヤンチャし過ぎたんだよな……恥ずかしい)

「鬼島殿と柊殿の二方から直接聞かされた。もちろん試験の事も聞いたぞ」

「試験に受かったのは運が良かったんだよ。それに美夜が『特待生になれ』って無理強いしてきたから仕方がなく受けたんだ、俺の意志で自ら受けた訳じゃないぞ」

 ちなみに試験の内容は『柊由香と防具無しのフルコンタクト戦。鬼島一(はじめ)とゴム弾を使用したモックアップ内での実戦訓練』と言う。2人を知っている人間からしたら地獄すら生ぬるく思えてしまうような内容。

「運が良かった? お主は私を馬鹿にしているのか」

 暁の左手に現れる歪な爪の形をした小さなナイフ。明らかに戦闘用の物で、刃全体が黒く艶消しされている。

「街中で物騒なモンを抜くな!」

「お主が人を小馬鹿にしたような答えを言うからだろう、正直に言え」

「嫌だ……無理に口割らせたら、今晩の晩飯と明日に作る予定だったパンの制作を打ち切るぞ」

 暁の驚愕の表情。

「私を脅迫するか!」

「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」

 ナイフをチラつかせて喋らせるとかマフィアのする事だぞ。

「くっ、炊事の主導権を握っているから強気になりおって!」

「お前の嫌いな食べ物だけでフルコースしてやろうか?」

「や、止めろ! 春菊だけはどうしても慣れないのだ――」

(暁って春菊が嫌いなのか……たしか、にあの独特の風味は好き嫌いがハッキリ別れるのも無理は無いか)

 うっかり口を滑らしてしまった事に気が付く暁。本当にコイツはSクラスの武学生なのだろうか……アホ過ぎる。

「姑息な手を使いおって……やってくれたな影海!」

「勝手にそっちが自爆したんだろうが。諜報科の1年坊主でもこんな初歩的な手法は引っ掛からんぞ」

 悔しそうに下唇を噛みしめる暁。すげえ、耳まで真っ赤だ。

「今晩、安心して眠れると思うなよ。恥辱の限りを尽くしてお主を貶めてやるわ!」

「おうおう上等だよ全力でかかって来い、安眠妨害する野蛮な輩には容赦しないぞ」

 半ば笑いを堪えながら暁の一喝に啖呵を切る。日頃から美夜に来襲されてるしどうと言う事は無い。

 馬鹿らしいやり取りをしている間に都市部の中央区に到着。見慣れた街並みが目の前に広がってくる。

「話を逸らすようで悪いが……到着したぞ中央区」

「――なに? ここが都市部の中心地なのか」

「そうだ、外国の中心都市と比べたら少し見劣りするかもしれないが……結構な賑わいだろ?」

 休日とあってか人数は物凄く、様々な格好の人間で混雑としている。

 子連れの家族、スーツに身を包んだ男性や女性、制服姿の高校生に私服姿の大学生や専門学生。大きなバックパックを背負った旅行者と思われる男女に、ツアーガイドさんを先頭にゾロゾロと歩く外国人観光客の一団。

「凄い人の数だな……で、件の服屋はどこにあるのだ?」

 周囲に存在する無数の店を見まわす暁。

「ほれ、あのデカイ液晶画面が壁にあるビル。あそこの2階にあるぞ」

 指差す先には先日訪れた大きな百貨店のビル。巨大な画面には昼前のニュース番組が流れている。

『武学生による摘発で発覚した、複数の政界関係者による違法行為は各界に波紋を呼び――』

 休日の昼前だと言うのに、街頭テレビで放送しているのは昨晩の暁が関わった依頼の話題。

『――それにしても今回の件の武学生側……いくらなんでも過剰じゃないでしょうかね。 逮捕した10人の内9人を病院送りでしょう? しかも内1人は指を数本失ったとか……』

 眼鏡をかけた少し神経質な印象のコメンテイターの男性が渋い表情で批判気味の発言。

(指数本って……どれほど暴れて来たんだよコイツは)

 隣を歩く暁を尻目に見るが、キョロキョロと街を見回しており。完全に報道番組の内容は入って来ていない様子。

『つい先日に起きたビルの一件でも武学生が現場のSATと連携せずに独断で突入して犯人へ発砲したそうじゃないですか? 別に私は犯人側を擁護する気では無いのですが、無力化にも限度と言う物が有ると思いますよ』

 今度は自分と美夜が関わった一件が掘り返される。

(でも、実際に銃持った相手を前にしたら呑気にしてられないのが現実なんだよな……)

 だが、武学生は『可能な限り血を流さず』と上(教師)から教え込まれており。本来ならば自分と美夜の2人だけで突入せずに、警察の特殊部隊と連携してビル内へ突入するのが『文面上の原則』である。

 しかし、実際の現場では何が起こるか分からないし、予想やセオリー通りに上手く事が進むわけではない……だから、武学生の多くは状況が変化する前に素早く行動し。均衡や悪化する前に、犯人側の虚を突いて無力化するのがほとんどなのだ。

(ま、こう言う手の話は聞き流しするのが一番だろ)

 どうせ1人の未成年が難しく考えた所で、何かが大きく変わる訳ではないのだ。

――そんな自分らしくない事を考えている間にビルの中へ。フロアの中は空調が効いており、外よりは幾分か涼しく。ビルの中は買い物客で賑わっていた。

「おお、沢山の店が入っているのだな」

 ヨーロッパ圏の買い物事情は全く知らないので、暁の反応を見るからに日本のは珍しいのだろう……多分。

「フィンランドにもデパートとかこう言う大きな雑貨店はあるのか?」

 2階へと伸びるエスカレーターに乗りながら暁に尋ねてみる。

「沢山とまではいかないがHesaの中心部にはいくつかショッピングセンターやデパートはあるぞ。Hesaで一番大きいItisと言うショッピングセンターがあるのだが、半日が潰せてしまうほど非常に大きいのだ」

 饒舌に説明してくれる暁、どことなく嬉しそうなのは気のせいだろうか……?

「それは凄いな」

 2階の全国にチェーン展開する赤地と白文字の服屋に到着する。

「ここがそうだ……さすがに女性物と男性物の区別は付くだろ?」

「馬鹿にするでない」

 店の自動ドアが開かれるたびに、客の話し声や店員の声がいたる所から聞こえて来る。

「俺はベンチで待ってるから。気にせず見てこいよ」

「そうか」

 暁と別れて服屋の前の通路に置かれたベンチに腰掛ける。

(もし武学園の奴らに見られたらロクな噂を流されないからな……ここは下手に動き回らずにした方が良いだろ)

 先日もこんな風に待機していて美夜と月島に決断を迫られたが、今回は暁なので何も起きないはず……

 通路を行く人々を眺めていると、突如ポケットに入れていた携帯電話が振動。取り出して開いてみるとニアから電話が。

「もしもし」

『あっ、ユーくん? ちょうど今調べ終わったよー』

「本当にありがとうな。それで結果はどうだった?」

『警察、公安、武学園のデーターベースで該当する情報は無し。完全にシロの銃だね』

〈シロ〉とは武学生内の隠語みたいな物で。民間市場、警察、法的機関、軍……と言った組織やマーケットに納入または売り出される前の出荷前状態の銃を指す意味。つまり今回のビルジャックで使用された銃火器は全て『検品の終わった出荷寸前の銃』と言う意味である。

「ますます分からなくなってきたな。入手経路は分かったか?」

『事件の日から5日前の東区の倉庫地域だって。ヤバそうな人達が船から大量のトランクケース運び出していて隙を見て一つだけ窃盗。帰って開いてみたら銃がぎゅう詰め』

「窃盗の余罪も追加だな。銃は結局国外の物なのか?」

『たぶんね、どこかの工場から横流ししてもらったか〈シロ〉が必要なヤバい所なんじゃないの?』

「ますます都市部が物騒になって来るな……」

『この地球上で物騒じゃない所なんて無いよユーくん。生き物がいる限り争いは無くならないのさ』

「随分と高尚なお答えをくれるな……と言うか、これは個人で対応できるレベルじゃ無くなってきたぞ」

 非常に悔しいが自分はただの武学生。国際的発言力は持ち合わせていないし、今は霧ヶ峰と言う面倒な奴を相手しなければならない。

『正直言ってこの件はこれ以上首を突っこまない方が良いよユーくん』

「だな……非常に悔しいが、17歳そこらで外国の厄介な人間と関係は持ちたくない」

『ま、公安か武装官、ユーくん以上の武学生が動くから大丈夫でしょ。それに、今は暁さんと一緒に都市部にいるんでしょ? お邪魔しちゃってごめんね~』

「また防犯カメラをピーピングか? 次にあったら尻引っ叩くぞ」

 ベンチに腰掛けながら目だけでビル内の防犯カメラを探すが見当たらない。

『違うよ酷いなー。今さっき、中央支部のネット掲示板に2人が並んで歩いている光景を撮影した画像が貼られたんだよー』

「肖像権もクソも無いな」

『大丈夫よん、私が引っかき回してそのスレ潰しておいたから、画像も消しておいたし』

 よく分からない単語が出て来たが、恐らくニアが何とかして証拠を消してくれたのだろう……多分。

「本当に色々とすまないなニア。今度何かお礼をするよ」

『マジで!? それじゃあユーくんの下着を一枚……』

「よし、美味しい料理を持って行くからな、それじゃあ」

 終話ボタンを押して鞄に放り込み、後は完全に放置を貫く。

(ニアの変態具合が日に日に増して来るな)

 きっと変な物でも食べたのだろう、そうに違いない……

 溜め息を吐いていると店から暁が出て来る。

「待たせたな」

 隣に腰掛ける暁。

「なんだ、意外と短かったじゃないか。十分くらいかかると思ったぞ」

「特に欲しい物は無いのでな、それに手元を塞ぐのはあまり好かん。咄嗟に抜けなくなる」

「昔の武士かお前は」

「うむ、時代劇は好きだぞ。見るのは主に剣劇だがな」

 駄目だ、話が微妙にズレている。

「とりあえずお前さんの映画趣味は分かった――で、残りの時間はどうするよ。まだまだ余裕があるぞ?」

 授業が終わるまで軽く30分はある。適当にビル内を巡るのも良いが、暁と二人きりで歩き回ると人目――主に中央支部の奴ら――に付くので迂闊に動きたくない。

(人気の無い所で時間を潰すか、それとも本屋で静かにしているか……)

「そうだな……人の少ない所に行かぬか? 人が密集し過ぎていて、どうも落ち着かん」

「平日だったらここの屋上テラスがおススメだが、休日だから混んでるからな……隣のビルの休憩スペースなら静かだぞ、滅多に人来ないし」

「おお、良さそうな所ではないか」

「そんじゃまとりあえず行くか」

 どうやら暁も自分と同じ『静かな所を好む種類』の人間のよう。ひとまずビル同士を繋ぐ通路のある8階フロアへと昇り、知人と出くわさないよう内心祈りながら通路を通過。

 やって来た隣のビルは3フロアを使用する大型の本屋を始め、雑貨用品店、小物家具店、チェーン店のコーヒーショップと言った比較的静かなテナントで構成されている。

 先程とは雰囲気が大きく変わり、騒がしい声や活気のある店員の声は全く聞こえて来ない。

「こっちはさっきのビルみたいに騒がしく無いだろ?」

「うむ、やはり静かな方が落ち着く」

 目的の階へとエスカレーターで登りながら暁と呑気に話す。

「それについては同意見だな」

 意外な意見の一致に思わず暁と小さく笑い合ってしまう。

「お主は男子内でワイワイと遊び回る方だと思ったが……」

「その一面も有るってことだ。正直に言えばのんびりと静かにしている方が良いんだけどな」

 しかし、周りの知人や友人は騒がしい奴が多く。静かな気性の奴は数人程しかいないが現実である。

「そう言う暁も俺と似たような物だろ」

「まあ、否定は出来ぬな。静かな所で素振りをしていた方が有意義に感じる」

「おいおい、それを言ったら他の女子共から笑われちまうぞ」

 話している内に目的の階へ到着。静かな通路を歩き、休憩スペースへと足を進めと。途中で奥――休憩スペースの方から聞こえて来る、少し品の無い大きな笑い声と臭って来る煙草の臭い。

(おっと先客がいたか。どうか善良な一般市民でありますように……)

 しかし、最近は不運な事が続く自分の運気。休憩スペースが見えて来ると、自分の運の無さに思わず悲しくなってしまった。

 休憩スペースのいくつかを占領する、制服をだらしなく着崩した高校生が5、6人といかにも『柄の悪そうなチャラい兄ちゃん』と言った格好をした20代前半か20代手前の男が数人。

(なんでここにいるんだよ……溜まり場なら他にも有るだろうが)

 静かな休憩スペースには似合わない違和感バリバリの一団。

(あれ……? あの高校生達って先日、喧嘩をふっ掛けて来た奴らじゃないか?)

 非常に面倒な事が起こりそうな気がしたので、横の暁に話しかけようとした所で――

「あっ!」

 こちらの方向を向いて椅子に座っていた高校生の内の一人が、大きな声を上げてこちらを見て来る。一斉にこちらを向くヤンチャ(ヤン)で危険そう(キー)な達。

「あいつです高橋先輩! 昨日、俺達をボコッた武学生!」

 親しい仲でも無いのに正面から指差して来る高校生――たしか羽交い絞めにしてきた奴だったかな彼は。

 すると、『高橋先輩』と呼ばれた金髪の男を始め3人程の兄ちゃん達が椅子からフラリと立ち上がると、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらの方へとやって来る。

「へー! 一丁前に女ヅレじゃん! やるねキミ」

「しかもメッチャ可愛いし! なになにカップル~? アッツイいねぇー」

「おいおい止めろって。怖がってるだろ女の子。あ、名前なんて言うの? 番号教えてよ」

 まさに『模範』とも言っても過言ではない言葉に、思わず噴き出しそうになる。

(くっ……もう少しマシな事を言えないのかよ……)

――この時、隣にいる人間が『織原美夜』ではなく『暁奏』と言う人物だと言う事に頭から完全に抜けていた。

「臭い」

 周りを飛び回る羽虫を払いのける様に手を振るう、暁の冷やかな一言。

「はっ?」

「臭い。私に近寄るな、ドブ臭さが移る」

 鼻を指で摘まみ、顔をしかめながら後ろに半歩後ずさる暁。

「女のクセして舐めてんじゃね―ぞ!」

 臭いと言われた男――『高橋先輩』の隣。茶髪の男が暁の髪を掴もうと手を伸ばすが、パシリと手を払い落される。

「影海よ、ここは普段からこう言う輩がたむろしているのか?」

「偶然だろうな。普段はリーマンか静かな大学生しか来ない」

「そうか……この者達はどうする? ここで暴れる店側に迷惑がかかると思うのだが……」

「そりゃあ屋外しかないだろ。でも、ここのビルは屋上を開放していないぞ」

 恐らくこちらの馬鹿にしたやり取りとナメた態度に怒りが湧いたのだろう、暁に手を払われた男が拳を振るう。

 隣の暁が顔面狙いに飛んで来たストレートをスウェーバックで避け。ガラ空きになった腹の高さに左膝を入れる。前のめりになった男の腹が暁の膝にめり込み、情けない悲鳴と嗚咽(おえつ)を上げて崩れる男。

「テメー!」

 殴りかかろうとして来る前の二人を両手で制止する。

「まあまあ、ここだと店の迷惑になるんで他の場所でしませんか?」

「は? 何言って――」

次回もこんなペースで行けたらなぁ……

ASAPに書き上げてますのでどうかお許しください

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