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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
5/33

Guns Rhapsody Ⅰ-Ⅴ

続きです

都市部・中央区


「あー……疲れた」 

事件の解決後。窓際に立たされていた会社員全員を開放。全員を連れて正面玄関から出

ていくと隊員の人達に引き渡した。せきを切ったように現れる報道メディアの取材陣と救

急隊の車両や警察官。

瞬く間に現場は混乱、面倒な事になる前に3人で現場から逃げ出したのだった。

そして、現場から離れた都市部の中央区。

現在の時刻は午前10を過ぎ。全員の小腹が空いていたので雑居ビルにテナントを構え

る、某黄色いマークのファーストフード店の2階に来ていた。

 午前の平日とあってか店は空いており、2階を使用しているのは自分たちだけ。

「もう、幽が『逃げる』なんて言うから最後の最後で走る事なったんじゃん」

ブドウ味の炭酸ジュースの入ったLサイズ紙コップを片手に、美夜がフライドポテトで

指さして来る。

「疲れてるのに取材なんて受けたくないだろ」

窓側の4人掛けのボックス席に座り。正面には美夜と月島が仲よく腰掛け、こちらの横にはケースに入ったフランス生まれの狙撃銃〈Ultima Ratio〉が鎮座している。

「そう? テレビに映ると話のタネになるから私は嫌じゃないけど……」

 そりゃあ外見だけ可愛らしい美夜ならテレビ映りも良いし、報道側も扱いやすいだろう。

「私は苦手です」

美夜の横でナゲットに大量のケチャップとマスタードを付けながら、月島が呟く。

「理解できるぞ月島の気持ち」

「えー」

 美夜がプラの番号札をいじりながら不満そうに声をあげる。すると後ろから足音。

「お待たせしました。ラージサイズが二つ、ボックスナゲットが二箱になります」

 店員のお姉さんが美夜から番号札を受け取ると、片手の巨大なプレートに乗った注文の品をテーブルの中央に置き、足早と去っていく。

「おいおい頼み過ぎだろ」

直径30センチはある巨大なハンバーガーとナゲット入りの大きな箱が二つ。どう見ても女子高校生1人が食べる量では無い。

「だってお腹空いたんだもん。あ、ナゲットは皆で食べようよ」

 包装を剥がし、小さな口がハンバーガーを食み始める。凄まじい速度で減ってゆくハンバーガー。

「……影海さん。織原さんは普段からこうなのですか?」

「この食いっぷりは昔からだな。体重を聞いたら驚くぞ」

 正面の美夜がテーブルの下から足を思いっきり蹴りあげて来る。

「痛っ!」

「そう言うこと言わないの!」

 この感触は靴を履いていない状態。なのに外靴で蹴られたような痛みなのはどうしてか。

「体重は把握してます」

「月島さん!?」

 よく見かけるのか……

「ちなみに織原さんの体重はな――」

 月島の口に突っ込まれるナゲット×3。まず『な』から始まる数字って一つしかないぞ。その時点で終わってるじゃないか。

「そういう事は男子の前で言わないの、いいね?」

 まあ、知って何の得があるかって言われたら……何もないな。これは下手に口を挟むべきではない。

「以後気を付けます」

「そうそう、素直が一番だよ」

 そう言いながらポテトとナゲットを食べる2人。会話の内容と行動が一致していないのはきっと気のせいだろう。

(それにしてもイモ美味しいなイモ。塩加減が絶妙だ)

 思考を半ば放棄しながら窓の外を眺め。行き交う車の数を数えていると。

「――ねえ幽。今の聞いてた?」

「ん? ああ……すまん聞いてなかった、なんだって?」

「最近多発してる下着泥棒の事だよ! もー、難聴始まったんじゃないの?」

 先程まで存在感を放っていた巨大ハンバーガーは消え失せ、ナゲットも全て無くなっている。

「止めてくれ縁起でも無い」

「それで、幽はどう思う?」

「どうって……どう返答すれば良いんだよ」

「犯人像とか動機とか色々あるじゃん」

「単なる馬鹿だろ。一人で50件なんてアレとほぼ同じ数じゃないか」

――今から約半年前。武学園の敷地内で五日間にわたる大規模な窃盗事件が発生した。被害は当時1年生だった現2年生女子生徒52名。

盗まれたのは金銭やアクセサリー類と言った金品ではなく――下着。被害総額は十数万円に上り、被害者の中に美夜と月島も含まれていた。

もちろん気の強い武学園の女子共がやられっ放しの訳が無く。第一女子寮は24時間体制で厳戒態勢が引かれ、武学園の学校史史上の〈男性立ち入り禁止〉が言い渡された。

 五日間の間、寮外の防犯カメラには不審な人影は無く。武学園の敷地内に設置されたカメラ全部にも不審人物は映り込んでいなかった――が、無情にも一日十人ペースで盗まれる女性用下着。

最初の事件から四件目の被害にあった被害者達は防犯用に女性教師で最も危険な人物である〈柊由香〉と〈宮原巴〉を投入した。

 呼ばれた二人は子供の遊びに付き合うような態度で女子生徒達をあしらっていた――だが、五件目の被害は生徒では無く教師の二人だけだった。

 犯行現場は第一女子寮の宿直部屋。ある女子生徒から聞いた話によれば、警備に出ていた宮原が交代するために部屋へ戻って来ると、爆睡する柊の真横に脱がされた下着一式が置かれ、ご丁寧に綺麗に折り畳まれていたらしい。柊はあまりのショックに三日ほど有休を取り、宮原は笑い過ぎて顎が外れて病院送り。

 それを期に窃盗事件はパタリと途絶えるのだが――実はその裏で俺、美夜、月島の三人が暗躍していた事は誰も知らない。

「うえぇ……もしアレが都市部に戻って来てたら泣き出しそう……」

 美夜が思い出したのか苦い顔で呻く。

「この話題は変えましょう。苦い記憶しかありません」

 月島が少し嫌そうに話題を変えようとする。

「そうだ。せっかく都市部に来たんだし、色んな店とか見て行かない?」

「賛成。月島はどうする?」

「銃砲店に寄りたいです」

 どうやら完全に遊ぶ気満々な様子。まあ、治安維持の巡回してました先生に言っておけば大丈夫だろう……たぶん。

 すぐさまテーブル上のゴミを手早く一つにまとめると、行儀悪くテーブル下をくぐりぬけてゴミ箱へ叩き捨てる。

「ほらほら、早く行こうよ2人とも」

 まるで散歩に誘う子犬の様なはしゃぎっぷり。

(完全に遊ぶ気満々だな)

 店の外に出て見渡すと、平日の正午でも結構な人が道を行き交っている。道行くサラリーマン、子連れの家族、私服に身を包んだ若いカップル。ポケットティッシュを配る女性やタイムセールの呼び込みをする男性店員。

「ねえねえ、月島さんの言う銃砲店って裏通りの地下一階の店でしょ?」

「はい。最後でも構いません」

「私も銃砲店に用があるからさ。お店巡ってから最後でも良い……?」

「私はお二人に合わせます。気にしないでください」

(月島の頼む物……パウダーとかケースあたりか? 狙撃手はハンドロードがほとんどって聞くし)

「ごめんね、後で幽が月島さんに美味しいお菓子買ってくれるって」

「財布の中見るか? 悲しさで涙が出て来るぞ?」

「あのビルに美味しいクレープ屋があると聞きました」

 月島の指さす先には大きな百貨店のビル。壁面には大きな薄型の高解像度テレビが設置され、今朝方起きたビルジャックの事がニュース番組で取り上げられている。

「本当!? 行こうよ行こうよ!」

 左腕を引っ張ってくる美夜……欲しい物をせがむ子供か。

「まだ食うのかよ。太るぞ」

「私の燃費の悪さ知ってるでしょ? 余裕余裕」

「デザートは別腹です」

 実に真剣な表情の2人。やはり食い物の話になると目の色変えるのは女子共通なのか。

「分かったよ。あまり高い物は頼まないでくれよ?」

 暖かな日差しに照らされながら歩道を歩き始める。さほど離れていないので5分と経たずにビルの前に到着。先頭を切り意気揚々とビル内へ入ってゆく美夜と、その後ろを付いて行く月島。

「どうか穏便に過ごせますように……」

 遅れてビルの中へと入ると、早速2人は正面手前の洋服屋を徘徊し始めている。店内は店員を含め女性しかいないので、店の前の通路に設置された木製ベンチに腰掛ける。

「ふー……」

女性店員さんと話に盛り上がる美夜。一方の月島は表情変えず黙々と品物達を見定めしては次へと移っていく。

 美夜は童顔なので着る物によっては中学生、下手すれば小学生と間違えられてもおかしくない程。

……1年生の時か。都市部へ武学園の女子共と私服姿で夜遅くまで遊び回った際、若い警察官2人から美夜だけ年齢確認されたらしい。

 もちろん一部始終を見ていた周りの女子達は大爆笑。それ以降はかなり服装に気を使うようになったらしく、少しは年齢確認が減ったと聞く。

(たしかにあの容姿で夜遅くぶらついていたら確認されるわな)

 少し真剣な表情で2着のスカートを両手にスタンドミラー前で比べている美夜。

すると、鏡から目を離すやこちらを見て来ると顎で『こっちへ来い』と合図をしてくる。

「えぇ……」

 頭を横に振ると睨みを利かせてくる。このまま無視すると後で投げられる可能性が高くなってくるので、仕方が無く腰を上げて美夜の元へ。

「自分にどの様なご用でしょうか……」

「なんで畏まった口調なのさ、店員さんじゃないんだから」

 そりゃあ、睨み効かせて来たら誰だって敬語なってしまうだろう。

「で、俺に何の用だよ。まさか『どちらが似合う?』とかじゃないだろうな」

「その通り。幽はどっちが好きー?」

 右はプルシャンブルーの膝丈スカート。対して左はシェルピンクの少し明るめな色のすね丈のスカート。

「これは武学生的な目線で答えるべきか? それとも個人目線?」

「武学生目線で答えたら後で路上ブレーンバスターね」

 背面落下式だったら呼吸困難と背中への大ダメージ。垂直式だったら……割れるか首がやられる。

「そうだな……左の方とか意外と似合うんじゃないか?」

「なるほどなるほど。理由はいかに?」

「ほら、美夜っていつも脚を出す格好だろ? 気分転換と言うか意外性を込めての左側と言う事で……」

(間違ってないよな、ちゃんと答えられたよな……?)

 美夜の何か考える表情。

「――いいねいいね。そう言う言葉を聞きたかったのよ」

 満足げに喋りながら選ばれなかったスカートをキャスター付きの服掛けに戻す。

(命拾いした……)

 すると、背後から右肩をつつかれる感触。振り返ってみれば――

「月島、お前もか……」

「どうでしょうか」

 右は灰色のシンプルなボタンシャツ、左は構造がよく分からないヒラヒラがあしらわれたベージュのブラウス。

「どうと言われてもなあ……」

 一瞬だけ見えるブラウスの値札……ん? ゼロの数が四つなかったか?

「ちょ、ちょっと失礼していいか」

「どうぞ」

 月島から左側を受け取り慎重な手付きで値札を確認。

「じゅういちっ……!?」

 上ずった変な声が出てしまう。

「首絞められた様な声出してどうしたの?」

 横から覗きこんで来る美夜。

「ウハッ!?」

 女子らしからぬ奇妙な声を上げ。ポカンと口を開けたまま固まる。

「つ、月島さん?」

「なんでしょう」

「この服、値段設定がおかしい気がするんですが……」

 11万円ってなんだよ。下手すれば中古の原付買えるぞ!

「そうでしょうか?」

 ついでに右のシャツを拝見。こっちは……6万円。美夜の選んだスカートが15着分。

「よ、予算の方は大丈夫なんですか?」

「はい。今日は比較的余裕がありますので」

 上着の内側から取り出される黒革の折り畳み財布。そして、表には見覚えのあるブランドマークが。

(あっ、これ駄目なやつだ)

 開かれる財布。中には見た事も無いカード達。そして手前で圧倒的存在感を放つプラチナ色のカード。

「影海さん。両手が震えていますが……大丈夫ですか?」

 手元を見れば服を手にした右手がわずかに震えている。

「あ、ああ大丈夫。大丈夫だから……」

 震える手で2着の服を月島に返却。駄目だ、手の震えが止まらない。

「どちらが良いでしょう」

「そそ、そうだな……どっちらも似合うと思うぞ」

(いかん変な言葉が出てしまった。なんだよ『どっちらも』って)

 ほんのわずかだが微妙に口元が弛む月島。こんな適当な選択で良いのか。

「選定して頂きありがとうございます」

 小さく頭を下げると近くにいた女性店員に話しかけ、二つを抱えたままレジへ。

「わ、私も買って来るね」

 震え声の美夜が足取り覚束ないままレジへと向かう。

(もう数字の事を考えるのは止めよう。このままじゃ涙が出てきそうだ……)

――2人の会計が終わり。クレープ屋へ向かうべくエスカレーターを使って上階へ。

 月島はライフルケースがあるので購入した物は寮へ先払い配送。さらに美夜に気を利かせたのか同じ荷物として送る事に。

「いやー……本当にビックリしたね。まさか洋服で万行くなんて」

 前の段に立った美夜は未だ驚きの余韻にひたっている。

「そんなに驚くような事でしょうか」

 その横に立つ月島が不思議そうに言う。

「十分驚くから……って言うか、月島さん含め一体ご家族は何者?」

「それは俺も気になる」

 プラチナカードってかなり限定された人間じゃないと手にしていないよな……それこそ資産家とか、どこかの国の大富豪とか。

「……申し訳ありません。それだけはお答え出来ません」

 しばしの間を置き。目を伏せて俯き気味に小さく答える。

「あ、プライベートにズカズカと足踏み入れちゃ駄目だよね……」

 気まずそうな美夜の顔。

「落ち込まないで下さい。美味しい物を食べて気を紛らわしましょう」

 月島先導の元、エスカレーターから降りると。雑貨類を扱う店が並ぶフロア内を進む。

「あれ、この先ってたしか屋上に続く階段しかないんじゃないか?」

「クレープ屋はその手前にあるそうです」

 さらに進むと件の店はあった。階段のすぐ手前、小さな木製の看板がひっそりと置かれており、その横の店からは食欲を刺激する良い香りが漂って来る。

「美味しそうな匂いが……」

 透明なショーケース台が仕切りの店構え、その横にはクレープを焼く大きな丸い鉄板が2枚並んでいる。

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

 小綺麗なエプロンを身に付けた若い女性店員が内側から話しかけて来る。

「ええと……この〈宇治抹茶黒蜜バニラアイスクレープ〉のLサイズを一つ」

大仰な名前のクレープを注文すると代金を支払う美夜。名前からして甘そうだな……

「かしこまりました。そちらのお客様はお決まりでしょうか?」

「月島は何にするんだ?」

「チョコバナナクレープのMサイズで」

 オーソドックスな物を選ぶ月島。

「すみません、チョコバナナのMサイズを一つ」

「はい、かしこまりました。出来るまで少々お待ちくださいね」

 代金を払い終えると店員さんが手を綺麗に洗い。奥の冷蔵庫から大きなステンレスボウルを取り出す。手慣れた様子で鉄板に薄く広げられるクレープの種。先ほどより濃い良い匂いが辺りに漂い始める。

「ありゃ、幽は食べないの?」

「ちょっと経済的に余裕が無いからな」

 クレープの制作過程を眺めながら適当に返事を返す。なるほど、返しにコツがいるみたいだな。

「そんなに真剣に眺めて……また自分で作る気でしょ?」

「もちろん」

 設備は何とか揃うから大丈夫だが。あの生地を極薄に延ばす感覚が大変そうだ。

「影海さんは料理がお得意なのですか?」

「そうだよー、無駄に料理の腕が良いから時々食べに部屋行っちゃうんだよね」

「お前が沢山食べてくれるお陰で冷蔵庫の中身はスッカスカの状態だ」

 すると、美夜がいたずらな笑みを浮かべながら肘で脇を突いて来る。

「またまた~、自分の作った料理を食べてくれるから本当は嬉しいんでしょ~?」

「痛っ、少しは加減しろよ」

 ふざけている内に注文したクレープが完成。2人がクレープを受け取る。

「そうだ、天気も良いし屋上で食べようよ」

 美夜の提案で屋上へ向かう事に。階段を登りビルの屋上テラスへ出る。申し訳程度に置かれた観賞用の大きな植木鉢が数個、その他は休息用のガーデンテーブルとベンチがあるだけ。やはり時間的な問題なのか自分達以外に人がおらず、完全な貸し切り状態。

テラスの一番端に置かれた木製のガーデンテーブルに座り。2人がクレープを頬張り始める。

「美味しいねー」

 顔をほころばせてクレープを頬張る美夜は完全に小学校の女子児童にしか見えない。

「……」

 何も喋らずに黙々と食べる月島。がっつく程美味しかったのだろうか。

「――んむ。そうだ、飲み物買ってきてよ幽」

 上着の胸ポケットに手を入れ、500円硬貨を1枚取り出してこちらに差し出して来る美夜。

「パシリってか」

「そう言う事。月島さん何飲むー?」

「微糖の缶コーヒーを1つ」

 たしかここから一番近い自動販売機は、2階分降りてしばらく通路を歩いた所にあったはず……知っていて頼むつもりかコイツは。

「むっとしないの。好きなジュース一本おごってあげるんだから」

「分かったよ。お前は炭酸ならなんでも良いんだったよな」

「そうだよ、ほらほら早く行かないと幽に一口あげないよ~?」

 意地悪そうな笑みを浮かべクレープこちらに突き出して来る。適当に返しておいてテーブルの椅子から立つと、下の階へと向かう。

「む……」

突然の催し。最悪な事にこのフロアに男子トイレは無く、さらに下の階へ降りるはめに。途中、通路を幅広に占領して歩いてゆく学生達の集団とすれ違う。

(あの制服はたしか近くの私立高校だったよな。サボリか……まあ、同類だし大きい事は言えないか)

 そんな事を考えつつ。通路を進み、エスカレーターを使って下のフロアに降りると足早に中へ。

「ったく、なんでトイレが別々なんだか……」

 愚痴をこぼしながら出ると500円玉を手の中で転がしつつ自販機へ。美夜と月島の要望にあった物を購入し、自分はボトルの雑穀茶を購入。

 屋上テラスへ戻ると端の方――美夜と月島が座っているテーブルの前に何やら人だかりが出来ている。

(あの制服……さっきの学生達か)

 聞こえてくる男子の怒声。距離が少し離れているので話声は分からないが、間違い無くもめ事が発生しているのは明らかだろう。

 ジュース達を抱えつつ端の方へ歩いて行く。全員が制服を着崩しており、何人かは髪を染めたり脱色していたりと、絵に描いた様な〈不良少年〉が6人。

(ああ、どうか2人が暴れ出しませんように……)

 すると、こちらに気付く不良少年達。身長と制服のボロさからして1年生か2年生辺りだろう。

退路を塞ぐように囲んでいたので空いていた少年らの隙間を通り抜けると、ガーデンテーブルの椅子に腰掛ける。

「一体何が起きてるんだよ」

 炭酸ジュースと缶コーヒーを手渡しながら尋ねる。

「未成年のくせして煙草吸おうとしてたから注意したの。そしたら突っ掛かって来た」

 不機嫌そうな美夜の表情。これは宜しく無い兆候だぞ。

「手を出すのは止めろよ。訓練も何もしてない一般人だぞ」

「分かってるって」

 月島と言えばうっとうしそうに表情を曇らせている。こちらも何をしでかすか分からないから要注意だな。

「オメー、馬鹿にしてんのか?」

 横から少年らの1人が威嚇するように啖呵(たんか)切って来る。

「はあ」

たしかに少し馬鹿にした行動だったのかもしれない。

「お前なんなの? ツレか何かか?」

「友人ですが……」

 本当の事を返すと、話しかけて来た少年の後ろにいた別な一人が軽薄に笑う。

「止めとけって。こいつ武学生だぜ? 銃とか刃物とか持ってるから危ねえよ」

 笑い出す他の4人。

「マジ? それじゃあ俺らだけでフクロにしたらお笑いモンじゃん!」

「こいつヒョロいしワンパンじゃね?」

 一般人に『ヒョロい』と言われるなんて恥ずかしい……帰ったら食事のメニューを見直さなければならないな。

「で、どうする? こいつボコるの?」

「人来ないし行けるっしょ」

(どうして最近の高校生はこう好戦的なのだろうか……そう言う時期なのか?)

「とりあえず立てよお前」

器用に胸ぐらを掴まれ、無理矢理と立たそうとして来たので逆らわずに立ってあげる。

引っ張られるようにガーデンテーブルから離れさせられ。前方を囲むように6人が立つ。

(本当に袋叩きにするつもりか)

正面の一人が何も言わずに軽いパンチをみぞおちに一発。先手を取ったつもりなのだろうが、体重が乗って無く腕の力だけで殴られたので、さして痛みが無い。

(一般人ならここで正当防衛が成り立つのだろうけど……こっちは武学生だからなあ。武装類出るまで反撃出来ないし)

一応、殴られたので返すには返せるが。相手は格闘訓練も何も積んでいない高校生。地面に投げ飛ばすのはいささか過剰だろう。

「う……」

仕方がないのでわざとらしく呻く。追い討ちをかけるように膝裏目掛けて飛んでくる横からの蹴りをあえて受ける。

だが全く衝撃が無いので体勢を崩すまで至らない。

(衛生科の一年生でも、もう少しマシな蹴りを放つぞ……!?)

後ろで人の動く気配。案の定、後ろから羽交い締めにされる。さすがに無抵抗すぎるのも少し癪なので軽く仕返しをしてやる。

羽交い締めにしてきる奴の首に手を掛け、飛んできた前蹴りに合わせて身体を半回転。放たれた蹴りが運悪く、割り込んだ奴の横腹を蹴りつけてしまう。

拘束が呆気なく解かれ。足元には仲間の蹴りに悶絶する少年。

「テメー!」

叫びと共に左横から飛んでくる拳。軽く左手で払い流し足を引っ掛けて反対側の一人に突っ込ませる。

(あと三人か)

しかし、内二人は呆気なく戦意を喪失しておりビビっている。

すると、最後の一人が身に付けたスラックスのポケットから小さな折り畳みナイフを抜く。

「怪我するぞ」

刃渡りは6センチに届くかギリギリの物。

「う、うわあぁ!」

情けない叫びと共に突き出されるナイフ。咄嗟に半歩下がり、左手でナイフを払い落として右手で内側の肘裏を叩く。

曲がった手首の関節を極めながら上から下へ押し込むよう体重をかけると、簡単に地面へ突っ伏してしまう。

「ほらほら、全員連れてさっさと逃げろ。早く去らないと全員交番に連れてくぞ?」

 完全に萎縮した二人へ告げてやると、倒れた四人を必死に起こして屋上テラスから逃げて行く。

「ったく……刃物は人に向けちゃ駄目って教えられなかったのかよ」

落としたナイフを拾い上げて刃を畳んでポケットにしまい込み。二人が座るテーブルへ戻る。

「お疲れ。ストレッチみたいなものだったでしょ?」

「準備運動にもなりやしない」

お茶を飲むため手に取ると中身がわずかに軽い。

「勝手に飲みやがったな」

「甘分摂りすぎたら、苦いのが恋しくなっちゃった」

「出資はお前だから文句は言わないが……」

キャップを開けて軽く一口。渇いていた喉を香ばしいお茶が通る。

「いやぁ~ん関節キッス~」

正面の美夜が黄色い声を上げながら頬に手を当て、わざとらしく恥じらう。

「月島、そいつの二の腕を掴んでいいぞ」

躊躇い無く月島が両手を伸ばして美夜の二の腕をつまむ。

「うひゃぁっ!?」

奇妙な声を上げ、素早い身のこなしで逃げる姿はまさに猫そのもの。

「意外と固い……」

自分の手を見つめながら感触の余韻に浸る月島。固いのか……

「もー、月島さんのも掴んでやる!」

「どうぞ」

真顔のまま平然と差し出す月島。

「あっ、はい」

肩透かしをくらった美夜が、落ち着いた様子で月島の二の腕を触り始める。

「これは中々……」

何とも形容しがたい奇妙な絵面だな。

「満足したら出発だからな?」

すぐに満足したのか一分も経たずに移動することになった。


都市部・中央区〈繁華街〉


一時間ほど百貨店ビル内を巡ると女子二人は満足。最後の目的地である銃砲店のある通りを三人で歩いていた。

表通りから少し離れた中央区より少し南下した位置にある繁華街。無数の店が並び、観光客や近隣に住む地元の住民で賑わっている。

 この通りは自転車意外の車両が通行禁止のため、道のど真ん中を歩いても何も文句は言われない。

銃砲店のある雑居ビル前に到着。金網が張られたドアを開け、鈴の音と共に中へ入る。中は小綺麗で、壁のフックには無数の銃器が掛けられており。店の床に置かれたガラスケースには『新商品!』と書かれたポップが並んでいる。

 他にも壁一面を占める棚に並ぶ古今東西の銃弾。視認性を向上させる各種サイト類や、関連アクセサリーが鎮座するスチールラック。客の姿は一つも無く、突き当たりのカウンターの奥で新聞を読む店員だけ。

「それでは」

月島がカウンター奥の店員さんの元へと行ってしまう。

「うわー! 最新モデルだよこれ!」

ガラスケース内に飾られた綺麗な銃器達に美夜の瞳が輝く。

「あまり騒ぐなよ」

「はーい」

 ケースにへばり付く美夜の後ろを通り、奥のブーツやグローブ、ホルスター類と言った衣類が陳列された棚へ。

 デザートカラーのタクティカルシューズや、薄地ながらも丈夫な合成革で作られた手袋。コンシールドキャリー(秘匿携行)用のホルスターや、珍しいアームホルスターなんかもある。

(へー、貼るタイプのホルスターか……画期的と言うかなんと言うか)

 ハンガーに掛けられた長袖シャツを手に取り、商品概要のポップを眺めながらシャツを見回す。

(でも私服用だからな……制服の上からじゃ無理か)

 武学生としての活動は制服が原則なので、余程の事が無い限り私服時での活動は起きない。

「幽、見て見て~」

 後ろから美夜の声。振り返ってみれば奇妙な生物が目の前に。

 緑の苔のようなモジャモジャで全身が覆われ、パッと見たら緑の化け物にしか見えない。

「市街地のギリースーツは浮きまくりだろ」

〈ギリースーツ〉とは森林や草原で絶大なカモフラージュ効果を発揮する偽装用スーツ。着用時は露出した肌の部分にペイントを施すのだが。身に付けた美夜は素っぴん状態なのでモジャモジャから顔が生えているように見え、とても気持ち悪い。

「凄いねコレ。立ってるだけで暑くなって来るんだけど!」

 ギリースーツを脱ぎ出す美夜。なんで着たんだ。

「ほら、さっさと戻してこい。壊して弁償するはめになっても知らないぞ」

 壁際に飾られていたマネキン人形にギリースーツが戻される。

「一度着てみたかったんだよね」

「月島や後衛科の狙撃手やってる奴なら持ってるんじゃないか?」

「一人くらいは持ってそうだね」

 会話しながら衣類の棚を見始める美夜。

「ユニークな物とかないかなー。ブラジャータイプのホルスターとか、モーリーシステムが付いたスカートとか」

「限定的過ぎるだろ」

(なんだよブラジャーホルスターって……スパイ映画のヒロインか)

 見る物も無くなり刀剣類、警棒、テイザーガンと言った棚へ移る。

「このナイフって幽が持ってるメーカーと同じのだよね」

「だな、安価だけど造りは良いぞ」

「でもなあ、私はフォールディング(折り畳み式)で十分かな……棒あるし」

「ああ、そう言えば刀剣類は持たない主義だったな」

「棒とか殴る方が加減しやすいからね。下手に怪我させないし」

 しかし、コンクリブロックを軽々と破砕する膂力で殴られるのは、下手したらナイフより危ないのではないだろうか。

「そういや、最近カリスティックと棒術始めたんだろ? 沢山の奴から聞いたぞ」

「そうだよ。棒術は比較的出来る人がいるんだけど、スティックで打ち合える人が少ないんだよねー……」

「鬼島先生辺りなら知ってるんじゃないか?」

 美夜が顔をしかめて露骨に嫌がった表情。

「無理無理、絶対に無理。鬼島先生と組み手やるなら柊先生とやった方がマシ」

「そこまで嫌がるって……そんなに鬼島先生が怖いのか?」

「幽は怖くないの!?」

「全く。教育熱心な人だし丁寧にレクチャーしてくれるから最高じゃないか」

 さらに渋面を浮かべる美夜。

「やっぱり幽は頭イっちゃってるよ……一緒に病院行こう?」

「気付けに横っ面叩いてやろうか」

 面と向かって『頭イっちゃってる』とは失礼な奴め。

「……もしかして幽ってマゾ?」

 側頭部目掛けて手刀を放つが頭を後ろにのけ反らせてスウェーで躱される。

「次は蹴るぞ」

「ごめんごめん」

 軽い様子で謝ってくる美夜の後ろ、用が終わったのか月島がやって来る。

「お待たせしました」

ほんの僅かで判別が付きにくいが、心なしか月島の表情が明るい……気がする。

「お二方の用事はお済みなので?」

「うん」

「特に買うものは無いな」

 こうして月島の用も無事に終わり、ぶら下げられた鈴の音を背中に銃砲店を後にした。腕時計で時刻を確認するとちょうど正午を過ぎた時。

「早速パトロール開始しちゃう?」

「せめて巡回区域くらいは決めるべきだろう」

「大通りは人の目があるから大丈夫だとして……この繁華街近辺とか」

 ここ〈都市部〉はとても特徴的な構造をしている。都市部は大きく分けて五つの区画が存在し。最も人と建造物が密集する〈中央区〉その四方向から中央区を囲む四つの区画がある。

 造船所や機械工場、都市部のインフラを支える大きな施設が多数存在する〈東区〉

〈西区〉はほとんどが住宅街で大きな臨海公園があり。海沿いには様々な分類に対応した港がある。

 次に〈南区〉は都市部全域を回る交通機関のターミナルがあり。国内と国際の二つの便に対応した大きな海上空港が陸地から少し離れたメガフロートの上にある。

 そして最後に〈北区〉ここは大小様々なビルが立ち並ぶオフィス街。約六割が国外の大手企業で、残り四割は地元企業と国内の中小企業が占めている。

――ちなみに武学園は陸地から1キロメートル程離れた埋立地の上にある。入学時に武学園の説明をされ、たしか空港のメガフロートと同じ位の大きさだったはず。

 現在いる繁華街は中央区より少し南下した位置にある。昼夜を問わず沢山の人で賑わう地域なので様々な犯罪や揉め事は絶えない所としても知られている。

「だろうな。それに三人固まって動き回るのは非効率だ、別々に分かれよう」

「えー」

 右腕に引っ付いてくる美夜。顔面を鷲掴みにして引き剥がしながら月島にパス。

「集合場所は南区駅前のロータリー広場。あと、申し訳ないんだが美夜を頼めるか月島」

「善処します」

「じゃあ二人は中央区寄りの方を頼んだ。俺は裏通りを見回りする」

「お一人で大丈夫なのですか?」

「おいおいこう見えても同じ武学生だぞ? 戦車でも持ち出されない限り大丈夫さ」

 冗談混じりに軽く返して二人と別れる。現在いる通りから二本ほど離れ、中央区で最も治安の悪い地域へと足を踏み入れる。

(昼間から恐ろしいのがワラワラいるな……)

 路上駐車や敷地内の駐車場に停まる車のほとんどが、窓にスモッグ加工が施された黒塗りの高級そうな外国車。しかし、道行く人達は静かそうな雰囲気の人がほとんど。

今し方すれ違った柔和な顔つきの男性が身に付けた背広の袖からチラチラとスミが覗き、思わず顔が強張ってしまう。通りの左右には看板はカラフルに彩られ雑居ビルしか存在せず、居を構える店々の大半がパブやマッサージ店、ハーブショップと言った。明らかに一般人が足を踏み入れない物ばかり。

 ここは普通の人間なら絶対に立ち寄らない都市部の〈裏通り〉。

 文字通り裏社会の人間か裏社会に縁のある人間、もしくは警察や公安委員会の荒事担当の者しか訪れない、都市部で最も危険な地域。しかし、都市部の中で犯罪発生率が最も低い地域がここ。その事から警察関係者や武学生からは『〈裏通り〉で犯罪を起こす人間は馬鹿か死にたがり屋』と言われるほど。

(今朝の犯人達が持っていた短機関銃は全部フルオート機構の付いた物だった。普通ならフルオートの付いた銃は一般人に所有は出来ないはず。となると、違法に入手したかどこかのガンショップから強奪したか……)

 低レベルの防弾ベストなら一般人でも購入できるので珍しくは無い。しかし、全員が同じ銃で統一していたと言うのが違和感を覚える。

(ガンショップに押し入って強奪……てのは無いな。どの口径がどの銃に対応しているかなんて普通なら知らないはず)

 それに銃砲店を強盗するのはリスクが高過ぎるし、下手したらその時点で捕まる可能性がある。

(残るは国外から自分達で密輸したか、第三者を通して入手したかの二択か)

 だが前者は十中八九ありえないだろう。ビルを襲撃する前に捕まる可能性があるし、犯人達が国外で銃を入手出来るツテを持っているとは思えない。

「やっぱり第三者がいるよな……」

 無意識の内に呟きが思わず漏れてしまう。

(こう言う話題は諜報科か情報科の奴の方が知ってるからな……でも椎名の奴、電話に出るか?)

 裏社会の話題や黒い噂に詳しい奴を一人だけ知っている。しかし、今は手が空いているか分からないの。

(あれ、椎名って今武学園にいたっけ?)

 思い出そうにも最後に会ったのがいつだったか思い出せない。もしかしたら外界と接触を断っている依頼を請けているかもしれないし、下手に連絡するのは止めておいた方がいいのかもしれない。

「仕方が無い。ニアの奴に連絡してみるか……」

 上着の内ポケットに入れていた携帯電話を取り出し、履歴からリダイヤル。すると、即座に回線が繋がり――

『やっほ~! こんな時間に電話なんて珍しいねユーくん。ハッ……もしかして呼び出しなの!? 人気の無い所に呼び出されてメチャクチャにされちゃうのワタシ!?』

 携帯電話のスピーカーから機関銃の如く吐き出される甘ったるい声。思わず耳から離してしまったのに鮮明に聞こえてくるとは一体どういう喉を持っているのか。

『どうしよう今日の下着メッチャ地味な奴だ! 今から派手なのに着替えるから待っててねユーくん!』

 どうか人のいる前で喋っていませんように……

「とりあえず落ち着いてくれ」

『ハイハイそれで何の用? 北ヨーロッパ支部からやって来た噂の編入生さんの情報? 半年前の事件の情報? それとも柊ちゃんのスリーサイズ情報?』

 一個目はとにかく三つ目は知った時点で色々とヤバいな……二つ目はパスだ。

「どっちでもない。ちょっと調べて欲しい事があるんだ、今大丈夫か?」

『次の授業が体育なんだよねー、内容によっちゃ半日かかるかもしれないけど……』

「そっちのペースに合わせる。で、調べて欲しい事なんだが――」

 朝に起きたビルジャックの話と気にかかる点を説明する。

『オッケー! それだと夜か明日の午前中くらいまでかかるかも。……あ、そうだ。ビルジャックの謝礼の話なんだけど――』

「高向、美夜、月島、俺の四人で等分されるように頼む」

『――分かった、生徒個別の口座に振り込むように伝えておくね』

「色々とすまないな」

『ヴェッヘッヘッヘ……後が楽しみですよホント』

 だらしない笑い声がスピーカー聞こえてくる。

『そうそう聞いてよー。今日の休み時間にさ、噂の編入生さんが来たんだ』

「へえ」

『でさ最初に私になんて尋ねたと思う?』

「さあな、趣味とか?」

『それがね『〈魔女〉と呼ばれる人物を知っているか?』って面と向かって尋ねて来たんだよ』

(あー、そういえば昨日そんな事言ってたな……美夜から話聞いたんじゃなかったのか?)

『その本人が目の前にいるのに随分と失礼な事言うからさ。スカート思いっきり跳ね上げてパンツ撮影してやったよ』

 んん……? 今、色々と突っ込み所満載な事を言わなかったか……?

「ちょ、ちょっと待ってくれ。その編入生さんはニアに〈魔女〉の事を聞きに来たんだよな?」

『そうだよ。私が〈魔女〉って呼ばれてるのユーくん知ってるでしょ?』

「いや全然」

『えぇっ!?』

 割れた高い声に思わず携帯電話から頭をのけ反らせてしまう。

『今まで知らなかったの? マジ? マジで!?』

「ああ、たった今知った」

 今まで名前でしか呼んだ事無かったし。それに、ネット関係の話はそこまで詳しくないからな。

『うわー……そうだったのね。ユーくん知らなかったのね……』

 呆れた様子の声。そんなにショックだったのだろうか。

「それより時間は大丈夫なのか? そろそろ授業始まる時間だけど……」

 時刻的に四時間目の授業が始まる頃。

『うわっ、話し過ぎた……! じゃ、情報が集まり次第連絡すからまたね~』

 終話音が鳴り。畳んでスラックスのポケットの方に戻す。

(そうか暁の探している〈魔女〉って奴はニアだったのか……)

 今まで普通に名前で呼んでいたものだから気付かなかった。たしかに情報通信関連の能力は情報科の中でもずば抜けて優秀だと聞いていたが……まさか海外の武学生でも知っている程だとは。

 すると、ポケットに仕舞ったばかりの携帯電話が振動。取り出してみればニアから一通のメールが送られてきている。

「なんだなんだ……」

 件名は『感想を10文字内で』と奇妙な物。メール本文には画像が1枚だけ添付されているだけ。選択して開いてみると中身は――

「これはイカンだろ……」

 艶めかしい色白の大腿と黒い無地の下着。おそらくこの画像は先程ニアが言っていた暁のスカート内を激写した物だろう。

「これ誰かに見られたらかなりヤバい物なんじゃ……」

 ついつい背後に誰かいないか振り向いてしまう。しかし後ろを歩く人は誰もいなく、顔を前に戻す。

(……まあ、バチは当たらないだろう。うん、撮影したのは俺じゃないし)

 外部のメモリに保存。適当に返事を返しておいてから証拠のメールを完全消去しておく。

「しょうがないしょうがない……」

 本来の目的に意識を切り替え。なるべく先程の画像を思い出さないようにしながら巡回を開始することにした。


アクセス数が一気に跳ね上がって歓喜する夢を見ました……


次話も頑張ります

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