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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
32/33

Guns Rhapsody 『Mag Mell』 Ⅱ-ⅩⅨ

半年の空白期間が開いてしまいましたが次話です。


武学園・中央支部


 平和な休日の二日間を謳歌し、あいにくの曇り空の平日初日。

 合同授業は初日の顔合わせの一日目に、都市部の強襲の二日目が過ぎたので残りは三日間となる。

「マルカの奴、結局帰って来たのは昨日の深夜だったな」

 静かな朝。アルマと奏と自分の三人で朝食を摂りながら、今日の午前2時過ぎに帰って来たマルカについて話し合っていた。

「うむ、明朝に織原と月島に確認したところ埋め込まれたGPSの電波が遮断されて追跡出来なかったそうだ。お陰で、二人は土日を返済してマルカの捜索に都市部中を駆け回っていたそうだぞ」

「それまた不幸な……だから、朝の襲来が無かったのか」

「今日も合同授業だというのに酷く疲れた様子だったぞ」

「可哀想に」

 奏がアルマの口についたジャムをティッシュペーパーでふき取ってやる。

「――ああそうだ、思い出した、今日の放課後に幽と二人でブリーチング訓練を行いたかったのだが、それは取りやめにしておく」

「なんだよその話。いつかしたか?」

「いやなに、セレステ号に乗り込むという事は閉所空間での戦闘が間違いなく発生する。だから、今まで以上に精度を上げる必要があるのと、海上での戦闘を慣れてもらおうと思ってな」

「海上か……そう言えば海沿いの学校なのに船を使った訓練はやった事無かったな。フロッグマンの訓練とか?」

「まあそんな所だ」

 フロッグマンは前衛科の専門履修科目だが自分は選択していなかったので、大雑把なところしか分からない。

「まあ、今後も奏と依頼とか要請とかで現場に出ることになるだろうし……そうだな、円滑に動けるようになるためにもそう言ったのは必要か」

「うむ、幽と依頼をこなしたのはまだ片手で数える程度だからな。今までは私がフロントマンでお主が流れで合わせるという大雑把な合わせ方だった」

「ま、何とか時間を作るようにするよ」

「――ご、ごちそうさまでした」

 年齢にしては飲み込みが早いアルマが、数日間で覚えた日本語でたどたどしく手を合わせる。

「――ふむ、そろそろ我々も教室に行かなくてはな」

「ああ……なんでこう月曜日ってこうも動きたくなくなるんだろうな」

「おおむね同感できるが、学業を怠っては将来に支障を来すぞ。学べるという事は我々学生の特権なのだからな」

「へいへい、真面目な優等生サマのありがたいお言葉で」

 空の茶碗や皿をシンクに持って行き、手早く洗い取ると水きり場に置いておく。

 すると、チャイムが鳴る音。

「この時間だから合歓だな」

「それでは私は身支度を整えて来よう」

 黒いハーネスとブラウス姿の奏が部屋へと向かう。

「それじゃあアルマ、学校に行ってくるから留守番をよろしくな」

「ハ、ハイ」

 比較的安定した顔色のアルマ。この調子で生活リズムを整えていけば、誘拐される前と同じくらいの状態まで戻れるだろう。

「――おっはよー! 今日は曇りでいやな天気だねぇ」

 朝っぱらから元気な合歓がリビングに入って来る。

「そのエネルギーは一体どこからやって来るんだお前は」

「そうかい? これが普通だよ、むしろユウが元気が無さすぎるんだよ――Bună dimineaţa.アルマちゃん」

 流暢なルーマニア語で挨拶(意味は分からないがニュアンスとタイミング的に挨拶なのだろう)する合歓。

 少し慣れて来たアルマが顔を綻ばせて挨拶を返す。

「幽、そろそろ出るぞ」

 ドアから頭だけ出した奏が催促してくる。

「分かった。それじゃあ合歓、今日も頼むな。昼飯は冷蔵庫にあるからレンジで温めてくれ」

「おっけい、ユウの手料理を食べれるのは中々の役得だよねえ」

「その言葉、賛辞として受け取っておく」

 二人に別れを告げ、リビングを後にする――そしてタイミングよく開かれるマルカの部屋のドア。

 中から出て来たのは下着姿のマルカ。

「はぁ~っ……もう朝なの?」

「おい酔っ払い、今日も仕事があるんだろきちんと授業しにこいよ」

「今日は午後の授業だけだから平気よ……」

 上の下着のヒモが肩下まで落ちて、色々と危険な領域が見えかかっている。

「全くだらしなさ過ぎるぞマルカ」

 慣れた手付きでマルカを反転させると、部屋へと押し戻す奏。

「随分と慣れているご様子で……」

「昔は酔っ払いの対処など日常茶飯事だったからな」

 土間で履き替え、念の為に外の通路の左右確認。

「――よし、念の為少し遅れて出るぞ」

「うむ」

 先方に部屋を出ると、足早に階段を下る。

(やれやれ……本当、学園側は早急に対応してもらいたいもんだ)

 まず、年頃の男女が一つ屋根の下にいること事態が色々とよろしく無いのだ。

「……まあ、悪い気はしないわな」

 トウヘンボクとか朴念人とかヘタレとか色々と酷いことを言われているが、自分だって一応は年頃多感な男子高校生である。

(彼女かぁ……)

 斎藤や他のカップルを見てると、温かい目半分羨ましい所も少しくらいは感じてしまう。

(でも、武学園の女子は……どっちなんだろうな……世間一般的には可愛い部類に入るか、一応は)

 校舎行きの循環バスが停まる、停留所へ。

 混雑時間より少し早く出たので、並んでいる生徒は僅か。

「おう、朝からしけた顔してんなユウ!」 

「お前こそな水無瀬」

「おやおや、織原さんは同伴じゃねえのか珍しいな」

 その隣でスマホを弄っていた別な男子――野宮が珍しそうな表情。

「用事だそうだ」

「俺達とは違って優秀な武学生だもんなぁ」

 最後の男子――日下部がゼリー飲料を片手に返してくる。

「全くだ……所で、毎朝一緒の暁さんはどうしたんだよ」

「なんの事だ」

「おいおい、バレてないとまだ思ってるのか? 第二男子寮のメンツは全員知っているんだぜ、お前が同居してるの」

「なんの事を言っているかさっぱりだな」

 あれだけ外に出たりコインランドリーに行ったり、色々としていれば目撃される訳である。

「まあまあ、そう身構えるなよ。風紀委員にチクったりはしねえさ」

 声を落とす水無瀬。

「……何が目的だ」

「目的? いやいや、俺達みたいな落ち葉の下の丸まったダンゴムシみたいな存在は見ているだけで満足さ」

 水無瀬の自虐的な言葉。

「俺は千野原みのりちゃんが居れば問題はねえ」

「お前の答えは求めてないっつうの――それより、あれだよ。お前、同居してるんだからキャッキャッウフフな事毎日してるんだろ?」

 どストレートな日下部の質問。

「んなわけ無いだろ。お前はエロゲーのやり過ぎだ」

「あれぇ? おかしいな……俺のやったゲームじゃあそれが普通なんだがな……」

 どうしてこう、武学園の男子はろくでもない奴か癖のある奴しかいないのか……

「――で、正直なところ暁さんとはイチャイチャしてるんだろ? お前のその女運を分けてくれよ、幾らがいいんだ」

「だからしてないって。大体、そういうのはお互いの気持ちが同じでないと――」

「かーっ! これだからニブチンはよ! お前は大昔の真面目くんかよ」

「失礼な事をいってくれるな」

「据え膳食わぬは男の恥って言葉を知らないのか、お前さんは」

「知らねえのか? 後衛科の錦戸と衛生科の古畑、既にヤッてるぜ」

「朝っぱらから生々しい話はやめろ」

 下ネタ全開の会話をしている内にバスがやって来る。

 ギュウ詰めのバスに乗り込み、なんとか吊り革に掴まる。

「――とまあ、俺達が日照っているのはこの学園にいるからだ」

 アホなことに話が続行される。

「それは同感だぜ日下部。ここは顔のレベルは高いが、中身が野蛮過ぎる」

「珍しく気が合ったな」

 ボロクソ言う二人。

「そうかあ? たしかに化粧より銃の塗装に凝るやべー女子しかいねえが、普通にありだと思うがなぁ」

 下ネタ担当体表の水無瀬。

「お前は節操が無さ過ぎるんだよ水無瀬……」

「でもよ、中央支部の女子は可愛いか綺麗かどっちかだべ? 荒くれ要素なんざ性格の一種みたいなもんだし、そこに目を瞑ればあまり問題ないだろ」

 さも当然のように言いのける水無瀬。

 この男は毎度の様に下ネタを放ってくるが、たまにこう言った事を軽く言い放つから恐ろしい。

「……やっぱ、お前はスゲーわ」

「ああ……誰も真似できねえよ」

 戦々恐々とした日下部と野宮。

 下らない会話をしている間に校門へ到着、気怠く楽しい授業が始まろうとしている。

「今日の合同授業は放課後からかあ」

「だな、早く課題を終わらせねえと柊サンから投げ飛ばされちまうよ」

「俺の依頼は今日で片付けられるぜ。お前ら、せいぜい苦労するんだな」

 野宮がいやらしい笑みを浮かべて、見下してくる。

「ユウはどうなんだよ、噂の一年生ちゃんとだろ? 最悪なファーストインプレッションだったから、四苦八苦してるんじゃねえか」

「いいや、課題は初日で終わったよ。無理矢理突入して、現犯でしょっ引いた」

「マジかよ、一年生と一緒にか?」

「ああ、お陰でやること無いから基礎訓練だけになってるがな」

 今日はたしか徒手格闘の訓練だったか……キルハウスを使った実戦的な物にするか、単純なる打ち合いだけにするか……考えておく必要がありそうだ。

「そういやお前さん、去年の合同授業は前会長にしごかれてたもんな。そりゃあノウハウは知ってるか」

 同じクラスだった水無瀬が思い出したように呟く。

「前会長って……畝傍生徒会長だよな」

「ああ、途中から訳あって高千穂先輩も加わったけどな」

「たしか二人共、卒業後に同じタイミングで武装官になったんだっけか。学園の掲示板で見たような記憶があるぜ」

「そうだ、外務省の武装官管理局から推薦貰って卒業と同時に現場部隊に入ったって聞いてる」

 かれこれ一年ほど会話をしていないから、少し気になる所はある。

「凄えなぁ、前会長って言ったら開校以来の優等武学生って言われてた人だろ?」

「本人はあまり認めていなかったけどな」

 会話をしている内に教室に到着、見慣れたドアを開けて教室の中へと入る。

 見慣れた面子がおり、長い付き合いの奴も。

「よう、ユウ。今日は夫妻で登校していないのか?」

 早弁していた手前の席の桑名が茶化してくる。

「お前こそ、そろそろお相手見つけたらどうだ? 何時までも独り身はキツイだろ」

 他三人は各々の席へと座りにゆく。

「耳にタコが出来そうだ――そうそう話は変わるんだけどよ」

「なんだ、また乗り物の話か?」

「ったりめえだろ。それでよ、この間話したマリーズ・セレステ号の話覚えてるか?」

「えっ? あ、ああ……あの豪華客船だろ」

「そうそう、そのセレステ号なんだけどよ。本来の寄港予定日より早まるらしいんだぜ」

「そうなのか?」

「ああ、船旅ってのは寄港予定の国とか気候とかてたまにズレるんだが、大半は嵐とか寄港先の国が戦争状態の時とかなんだよ。だけど、ここ都市部こと日本は戦時でもねえしここ一週間は晴れの予定だろ?」

「天気予報だとそうだったな」

「特に変更する理由もねえのに前倒しになったのが滅茶苦茶珍しいんだよ。これは何かありそうだよな」

 実はその船がかなりヤバイ物だなんて口が裂けても言えない。

「その情報ってどこから情報なんだ?」

「公式の案内さ、ホレ」

 桑名がスマホの画面を向けてくる。

 サイトは英語表記で記載されており、情けない読解力でなんとか約する。

「マジだな……寄港は三日後の夜か、随分と前倒しになったな」

「そうそう、夜中に見に行かねえ?」

「たしか写真とか動画を撮ったら訴訟されるんだろ」

「それはバレた時だよ。俺達は武学生だぜ? パンピーより上手く隠密行動できるから大丈夫だべ」

「発想が完全に犯罪者だぞ……まあ、噂の豪華客船だし少し気になるな」

「だろ? だからよ、記念に見に行こうぜ」

 正直な所、奴さんの所に近付きたく無いのはある。だが、事前に下見をしておくのは理に適っているし、あわよくば有益な情報が手に入るかもしれない。

「うーん……分かった、一緒に行くよ」

「やったぜ、詳細は前日の夜に送るからよ。事前に準備しとけよ」

「了解した、念の為言っておくけど依頼とか別件が入ったらそっち優先するからな?」

「構わんぜ、よっしゃ倉庫から暗視用カメラ借りてこないと……」

 どうやら本気で見に行くつもりらしい。

 一人でキャッキャッする桑名から離れ、自分の席へ。

 見れば美夜が机に突っ伏して豪快に寝ている。

(大変なもんだ)

 月島は変わらぬ様子で、静かに読書をしている。

「おーい月島」

「なんでしょう?」

 本を閉じながら面を上げる月島。

「昨日の夜、散々な目にあったって本当か?」

「はい、監視対象が色々と羽目を外しまして……お陰で都市中を走り回っていました」

「そりゃまた難儀な……」

「そのおかげで睡眠時間が大幅に削れてしまいました」

「いっそ休んだらいいんじゃないのか。美夜みたいに寝ちまうとか」

「それは出来ません。いつ何時事件が発生するか分かりませんので」

 真面目な奴である。

――話していると、教室のドアが開き奏が入って来る。

「おはよう月島。夜分遅くまで大変だったな」

「問題ありません暁さん」

「何か問題が発生したのであれば気軽に呼ぶのだぞ、お主のその狙撃の腕は代わりになる者がいないのだからな」

「はい」

 どこか似ているようで、絶妙に似ていない二人。

「ま、いつもと変わりなさそうなら大丈夫そうだな、じゃあ」

 席へと戻り、そろそろ読み終わる文庫本を開き、久し振りの静かな朝を満喫するのだった。


 そして、小テストだらけの午前コマが終わり――昼休み。

「あー……疲れた……」

 昼食を買うか学食で済ませるか悩ましい所である。

「なんだ、これ程度で泣き言とは情けないぞ」

 眼鏡を掛けた奏が呆れ顔を浮かべる。

「そっちと違ってテストは平均ぎりぎりなんでね」

「ふむ、それなら私が教えてやるか?」

「流石に自分の面倒は見きれるっての」

「……よくと考えれば幽と同じ部屋に住んでいるのだし、何時でも教えられるな」

 声を落とした奏が恐ろしいことを言ってくる。

「オフの日に仕事は勘弁したいな」

 たしかに優秀な奏に勉強を教えてもらえるのはありがたいが、自分のせいで迷惑かけるのは心苦しい。

「不真面目な奴め」

「まあ否定は出来ないかな――それで、奏ちょっと大事な話がある」

「大事な話?」

「ああ。そうだな……ちょっと人気なの無い所に行くか」

 流石に誰が聞いているか分からない教室で公社の話をするのは避けたい。

「まあ別に問題はないが……」

 ひとまず奏と共に教室から出る。

 昼休みとあってか廊下は生徒でごった返し、友人らと共に何処かへ行く奴、装備担いで依頼を受けに行く奴、学食弁当片手に教室へ帰投する奴、と様々。

「あ! カナちゃん学食行こーよ!」

 出るやいなや、廊下にいた他クラスの女子軍団が食らいついてくる。

「今からか?」

「そうそう! 先に他の子がショバ取りしてるから後は行くだけー」

「好意は有り難いが今回は遠慮しておこう」

「えっ、どうしてさ」

「幽と大事な話があるのでな。次の誘いは必ず行こう」

 実にイケメンな対応の奏。

「フ○ック! このタラシ!」

 不意打ちのローキック。危なっかしく避けて着地する。

「どうして蹴ってくるんだよ!」

「むぎいいぃぃ!」

 仕込みナイフ片手に素早いパンチが飛んでくる。

「まあまあ、落ち着いてくれ」

 素早い身のこなしでナイフを捌くと、腰に手を回して抱き寄せる奏。

「私は逃げないし時間が無いわけではない、ここは少しばかり辛抱してくれないか?」

 女子にしては少し低めな奏のイケボ。

「う、うん……」

「さて、行こうか幽」

「あ、ああ」

 とりあえずあまり人の来ない屋上へ。

 普通学校であれば立入禁止の屋上だが、武学園ではヘリポートやVTOL機の発着場として使われるためいつでも使えるように開放されている。

「やれやれ、とんだファンクラブだな?」

「共に食卓を囲む者が多いのは悪くはないがな」

「概ね同意は出来るが……というか、随分と手慣れた様子だったな」

「うむ、前の支部でもああいった者が居たからな。対処している内に慣れてしまった」

「まあ、両性共にモテそうだもんな」

 男子からしたら華麗系女子だし、女子からしたら憧れの女子、人気な訳がない。

「そうか? 私以上に女性らしい者は学園に沢山いると思うが……」

 無自覚とは恐ろしい奴だ。

「……ちっ、ちなみに幽はどういったタイプが好みなのだ?」

「俺か? その手の話はNGだ、他の奴を当たってくれ」

「はぐらかすとは恥ずかしいのか?」

 ニヤニヤといやらしい笑み。

「そんなわけ無いっての――それより、大事な話だ大事な話」

「そうだったな、公社の話か?」

「そうだ、朝の話は聞いてただろ」

「うむ、私の方でも色々と調べておいたが本当のようだな」

「ああ、悠長に下調べと準備している時間は無さそうだ」

「なら、可能な時間の限り準備するしかあるまい」

 期限は三日後、それまでに近接戦闘とフロッグマン、変装に他にも色々と身につけなければならないことが多い。

「いきあたりばったりなんて毎度だから慣れてるさ。だけど、船の中には武装は持ち込めないんだろ?」

「何回か招待されている者は顔パスだ。初めて乗船する者はボディチェックとX線ゲートを通る必要がある」

「なるほど、仕込み武器もアウトか」

「うむ、例外的にセレステ号が認めた上客や公社関係者は甲板のヘリポートに来るらしいがな。秘密裏に調べていた情報だから変わっている可能性がある」

「本当に分からずじまいなんだな」

 僅かに高くなったヘリポートの縁に腰掛け、横に奏が腰掛けてくる。

「それと、セレステ号で働いている船員の全員が元軍人だったり公務執行機関の元オペレーターだ。船員の服を奪って誤魔化すなんてことは出来ないぞ」

「バレた瞬間自分以外の人間が敵に回るってか、おっかないな」

「うむ、だから任務は静かに秘密裏に行う必要がある。申し訳無いが船の中に入ったら私の言う事を聞いてもらう事になる」

「キャリア的にも奏の言うことを聞くさ。武学生いっても国内でしか活動したことないし、グローバルに活動していた奏と比べたら経験不足だしな」

 どんなに優秀でも『井の中の蛙大海を知らず』と言う言葉があるので、慢心やナメてかかるのは愚か者のする事。

「だが、場合によっては幽に判断を仰いだりお主だけに任せる場合もある」

「了解した。無茶ぶりは慣れっこさ、心配しないでくれ」

 奏のどこか悲しそうな表情が一瞬だけ現れる。

「私は本当に申し訳ない事をした……お主を巻き込むべきではなかった」

「おいおい今更だろ。ここまで来たら後戻りは出来ないし、目の前の犯罪を見過ごすのは嫌だって前もいっただろ」

「だが……下手すればどちらも捕まって拷問の末に殺されるのだぞ?」

「拷問されるのは心底怖いし、殺されるなんてもっと怖いさ。でも、アルマみたいな子を一人でも増やさないようにする事が少しでも出来るなら――死んでも文句は無いさ」

「献身にも程があるぞ」

「たしかにな。それでも子供を餌にする奴は絶対に許せないんだ、例え死ぬと分かっていてもな」

 いつもの鋭さが引っ込んだ奏のどこか弱々しい眼差し。

「……それに、皆が羨む高嶺の花と一緒の秘密を持つってのは約得だろ?」

「肝心な所で茶化すな」

「酷いな、必死の痩せ我慢だったんだけどな」

 まあ、美人と一緒に死ねるなら男冥利に尽きるから有りといえば有りか。

「――ま、そういう訳だから俺の意志は変わらないって事だ。流石に寄港早々に突入はしないから安心してくれ、様子見がてら情報収集してくるさ」

「やめろと言っても止まらないだろうから先に言っておく、セレステ号は寄港先を公表はするがそれはフェイクだ。大半はだいぶ離れた港に停泊する、もしマリーナと公表していたら留まるのは人気の無い工業区などだろうな」

「そうなのか? かなりのグレードの高い船じゃないのか」

「表はな。裏社会の人間からしたら何処で乗っても変わらないし、人目につかない事は望ましい事だしな」

「なるほど、そうしたら反対側を探せば行けるってことか」

「そうだ、くれぐれも顔を見られるなよ」

「大丈夫さ、いざとなったら全力で逃げる。まあ言っても三日後だからな、」

「気をつけるのだぞ」

「へいへい――さてと、そろそろ昼飯買いに行ってくるかな俺は」

「それなら私も行こう」

「購買部でクレカは切れないぞ?」

「馬鹿を言うな、全く生意気な奴め」

 こうして長閑な昼休みが静かに過ぎていった――


流石に次はもう少し早めに出したいです。

細かい修正、改変等々を行うかもしれませんのでご了承ください。

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