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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
27/33

Guns Rhapsody 『Mag Mell』 Ⅱ-ⅩⅣ

続きとなります

 すると、抱擁が解かれて謎の女性の顔が間近に。

「милый! 見れば見る程カワイイ顔……! んむー!」

 迫りくるキス顔。

(やべえ!)

 どうでもいい時でもフローは入ってしまう訳で――極められた関節をズラし、ハグから無理矢理と抜けると女性の後ろに転がって逃げる。

「あら?」

「フリーズ! 動かないでください!」

 すれ違いざまに取り返した銃を構えて警告する。

「не 銃なんて向けないでください。私はアナタとお話がしたいだけです」

 両手を挙げて降参のジェスチャー。

「なら、変な行動は止めてもらえますか」

 若干片言だが日本語がペラペラなので意思疎通は図れるという事である。

「どうどう、ユーくん落ち着いてよ」

 ニアが自分の腕を下ろすようにしてくる。

「……分かったよ」

 銃を下げ、ホルスターに仕舞う。

「ふぅ……これで落ち着いてお話が出来そうですね」

「先程の強盗の件もあるのでご同行願えますか」

「えっ! さっそくデートのお誘いだなんて……!」

 なんだろうか……今すぐにでも自室に帰りたくなってきた。

「まあまあ、立ち話もなんですからね、ここは座れる場所に行きましょうねー」

 ニアがグイグイと背中を押してくる。

 幸いか裏の通りを抜けたすぐ右側に、グローバル展開されているコーヒーチェーン店があったので、仕方がなくそこに入る。

 適当な飲み物を頼み、一番奥の壁際のボックス席に座ることに。

 逃げられないように女性を壁際の奥に座らせ、こちらは椅子に腰かける。

 横では頼んだカエフェオレに卓上に置かれていた大量の砂糖を投下するニア。

「それで……色々と聞きたい事がありますが、貴方は一体何者ですか」

「なるほど……まずは自己紹介からお互いに知っていくということですね」

 曲解にも程があるのではなかろうか……

「真面目に答えて下さい。場合によっては学園に勾留させてもらいます」

「もう……少しお堅い人なんですね、私は嫌いじゃないですよ――私はウクライナの伝統武術『ホパーク』のインストラクターをしています、レーシャ・パリーイと申します」

 途中途中で流暢な単語が出てきて聞き取りにくかったが、どうやら何かの講師的な人なのか。

「ほ、ホパーク?」

 ニアの素直な反応。

「はい、私の祖国であるウクライナに伝わる伝統舞踊です。今はダンスとして認知されていますが、昔はマーシャルアーツ――こちらでいう『武術』だったのです」

「はえー」

 ペラペラな日本語の説明を真面目に聴くニアが感心するような声。

「なるほど……」

 武術に心得がある人なら、先程の動きはなんとなく理解はできる――が、いくら経験者だからといって突き付けられた本物の銃を奪い取って反撃できるなど普通の人ではない。

「失礼ですが……レーシャさんは在留カードかパスポートは今お持ちですか?」

「ええ」

 慣れた様子でバッグの中をあさり、一枚のカードを取り出す。

「拝見しますね」

 在留カードを受け取り、記載を確認する。

「おぉん……本物ですなこれは」

 横から覗いていたニアが断言。

「間違いないか?」

「うん、偽造防止加工もされてるしモノホンですな」

「ご協力ありがとうございます」

 カードを返却する。

(ウクライナか……うろ覚えだけどたしかロシアのお隣だったか?)

 一時期、ニュースで毎日のように放送されていたのでなんとなく記憶にはある。

「それではアナタの事も教えていただけますか? 名前とか好みの食べ物とか好きな女性のタイプとか趣味とか……」

 機関銃よろしく捲し立ててくるレーシャさん。

「武学園中央支部の影海幽です」

 学生証を見せ余計な事は話さないようにする。

「武学園! なるほど、だから銃を持っているのですね」

 感心したような様子。

 ちなみに武学生の所持する武装及び車両や装具類を奪ったり盗むのは犯罪であり、先程のディスアームは普通にアウトなのである。

(シラフでも完全に反応できなかった速度……本当にこの人はただのインストラクターなのか?)

 考えつつコーヒーを傾ける。

「フフ……ユウさんのその考える表情、とてもカワイイですよ」

 テーブルに頬杖をつき、どこか艶っぽい笑みを浮かべてくる。

「ゴホッゴホッ!」

 レーシャさんの言葉に思わずコーヒーが気管に入ってしまう。

「あのー、少し私からもご質問してもいいですか?」

 自分の背中を叩きながらニアが問う。

「ええもちろん」

「レーシャさんは幽のどこか気に入ったんですか?」

「ちょっ――」

「1つ目は好みの顔、次に職務熱心な所、最後にその――刃物のような雰囲気デスね」

「なるほどー、守備範囲がだいぶ離れていてそうでもOKなんですね」

「はい、私の求める全てを満たしているのがユウさんです。日本語でいう『一目惚れ』って奴ですね」

 言われてるこちらが恥ずかしくなってきてしまう。

「モテモテだねえ幽、満更でもないんじゃないのぉ〜?」

 肘で脇をつついてくるニアがニヤニヤと笑みを浮かべる。

「私はいつでもバッチコイですよユウさん」

 両手を広げて催促してくるレーシャ氏。

 裏があるようにしか思えないのは自分の心が狭いか、それとも武学生としての勘か。

「ご好意はたいへん嬉しいのですが、自分はまだ学生の身ですので早いというか、身に余るというか……」

「なるほど……それならゆくゆくはOKと言うことですね」

 喜喜した表情のレーシャさん。

「良かったじゃん幽、超絶美人ゲットだよ。皆にバレたら撃ち殺されるんじゃない?」

「冗談に聞こえないから止めてくれ」

「あー、でも恋敵が増えちゃうかあ」

 氷の入ったアイスコーヒーをストローでカラコロとかき混ぜながらニアが渋い顔。

「あら……アナタももしかして?」

「ニア・コレットです。レーシャさんと同じくらいユーくん大好きですからね」

 右腕にわざとらしくしがみついて来る。

「店の中で暴れるなっての」

「えー、いいじゃん減るもんじゃないしー」

 こちらの抱擁はなんとスペースに余裕があることか……精神衛生に全く響かないぞ。

「これは由々しき事態ですね……」

「レーシャさんも真に受けないでくださいね?」

 何故に初対面の人にここまで好意を寄せられるのか、自分は単純に生きていただけなのに。

「それとユウさん、昨日渡した私のアドレスと番号は登録してくれました?」

「えっ、やっぱりあのメモはレーシャさんのですか」

「はい、すれ違いざまにポケットへ……してくれました?」

「あー……ええと、まだですね」

「分かりました、それなら私が登録してあげます」

 そう言い、レーシャさんがブラウスの胸ポケットから取り出したのは――自分のスマホ。

「えっ⁉」

 思わず制服のポケットを探してしまう。

「フフ、うっかり屋さんもカワイイですよ」

「いや、スリは犯罪ですからね⁉」

 いつの間にスられたのか……完全に気付かなかった。

「ハイ、既に登録済みですので」

 笑みと共にスマホが帰ってくる。

(おいおい……マジで登録されてるよ)

 どうやらウクライナ語で入力したらしく、電話帳のその他欄にで登録されてしまっている。

(これ普通に考えたらヤバイよな……色々と)

 美人局か詐欺か犯罪系統の臭いがプンプンする。

「ン?」

 思わず見上げた自分の視線に傾げて笑顔が返ってくる。

「はぁ……」

「もー、ため息なんかついちゃってぇ。細かい事なんざ考えなくていいんですよ! 何事も経験が一番!」

 オッサン臭い発言のニアが肩に手を乗せて、ムカつく顔を浮かべてくる。

「当事者じゃない奴には分からないだろうな」

――すると、レーシャさんの方からメロディ。

 レーシャさんが電話を取り、聞き取れないほどの流暢なウクライナ語(多分そうなのだろう)で会話し始め――通話が終わる。

「Прошу прощения! 用事があったのを忘れてました……! 私はここで失礼しますね!」

 残りを一気飲み、バタバタと身支度を整えると席から立ち上がるレーシャさん。

「それじゃあユウさん、また時間のある時に――」

 すれ違い様、レーシャさんの顔が近付き――頬に柔らかな感触。

 引き止める間もなく足早に消え、二人取り残される。

「うわぁお……凄いねぇー……海外勢」

「ああ……嵐のような人だ」

 思わずキスされた頬に手が伸びてしまった――


 都市部・某所


「ねえ、ミドヴィッドはまだ合流しないの?」

 薄暗く窮屈な空間に一つの声。

「今さっき電話して呼び出したよ。また、男探しに街をほっつき歩きやがって」

「そのうち警察に捕まるかも……」

 答えるように新たな二つ目の声。

「ったく……今から荒事しに行くってのにするってのに呑気な奴だよ全く」

 窓一つない空間には三人の人。

 皆一様に同じ格好で、首から下は灰色の無骨な一続きの作業着。

「偵察から連絡は?」

「相変わらずの動き無し。見張りも日和って、無警戒みたいね」

 窮屈な空間――トラックのコンテナ部を改造して作り出された移動拠点。コンテナの内壁に設えられた小型のベンチに、銃火器が掛けられたラックと、大型の無線機が。

 無線機の前に腰掛けた赤髪の一人が、小さな机の上に置かれていたボトルのコーヒーを傾ける。

「はあ……簡単なシャワーじゃなくて綺麗なバスタブにゆっくりと浸かりたいわ」

「全くだ。このコンテナ内、かなりの酷い臭いなんじゃないか?」

 運転席部分の小窓から顔を覗かせた金髪の一人が悪戯な笑みを浮かべる。

「ちょっと、やめてよサバカ」

 すると、ベンチに腰掛けて読書していたプラチナブロンドの3人目が腕や纏めた髪の毛を嗅ぐ。

「確かにちょっと臭うかも……コーシュカ、気付いて無い?」

「フィリュンも冗談に乗っからないでよ! そう言われたらますます気になってきたじゃない……」

 通信機器の前で狼狽する赤髪の一人――コーシュカ。

――すると、トラックのコンテナが叩かれる音。

「やっと帰ってきたか」

 次いで、トラック側面に設えられた小さなスライドドアが開かれ、一人の人物が乗車してくる。

「おうおう、どこほっつき歩いてたんだ?」

「お茶をしてきた。サバカ、それより動きは?」

 新たな四人目。

「なんも無し、しいて言えば何も変化が無さ過ぎて怖いくらいさ」

 タバコを灰皿に捨てる金髪の女性――サバカが答える。

「それなら10分後に状況開始だ。標的は公社に関与の疑いのある造船会社の社長。対象を回収したら倉庫に帰投、コーシュカは尋問、サバカは車の解体、フィリュンは証拠類の処分を」

 入って来た女性――ミドヴィッドが無造作に服を脱ぎながら淡々と指示を出す。

「了解」

「了解したわ」

「それじゃあ銃のチェックをしておく」

 三者三様の返し。

「倉庫組には準備をしておくよう連絡を」

「あいよ――それで、お探しのボウズはどうだったんだ?」

 車のエンジンを点火させ、シフトレバーを操作しながら尋ねるサバカ。

「……過去最高の人だ。場所が場所じゃなかったら持ち帰ってた」

 ミドヴィッドから返ってくる言葉に恐々とする三人。

「おいおい、お前さんが言うと洒落に聞こえないっての」

「たしかに……写真撮った?」

「もちろん」

 赤信号のタイミングで差し出されたスマートフォンの画面を覗き込む三人。

「ほおー……ガキだがこいつは中々じゃあないか。たしかにアンタ好みだな」

「普通にイケるわね。ちょっと暗めな感じ?」

 画面に映るのは、どこかの学校の制服を身に着けた黒髪の青年。

「一般的に悪くはないけど、私の好みではないかな」

 三種類の反応。

「でも、この男の子の服装……学生服?」

「この制服……たしかASSだったかしら」

「ああ、警察紛いのガキ共か――って、私達の立場的に一番絡んじゃいけない存在じゃあないか」

「そうだ――だがな、この子から嗅ぎ慣れた私達の『匂い』がしたから問題はないと思う」

「こんな子供がか? ASSは不殺だって聞いてるぜ、こんなのが私達の『同類』ってか」

 車が行き交う交差点を曲がり、猥雑とした通りから小綺麗なオフィス街に出る。

「ああ、彼の動きに私が反応できなかった時がいくつかあった。それに完全に気配を消していたのに振り向かれたりしたしな」

「えっ、それって隊長と同じレベルかそれ以上って事じゃない」

「少ししか会ってないから確証はないがな」

 髪留めで髪の毛を結い上げながらミドヴィッドが答える。

「そりゃ面白そうなガキがいたもんだ。次のデートの日時は決まってるのか?」

「……未定だ。連絡先は入手できたから、何時にしたものか……」

 どこか恥ずかしそうな表情を浮かべる姿を見た三人の慣れた反応。

「よかった、それなら次会うときは私も着いていくからな」

 車が停車。横には国内展開されている高層ホテルの裏側。

「よし、私語は終了だ。迅速に済ませるぞ」

 車がホテルの関係者用の車両口へ。

 中年の男性警備員に引き止められ、車のウインドウが降ろされる。

「リネンサプライの人達かい?」

「ええ、本日の担当の者です」

 そう言い運転席のサバカが身分証を提示する。

「はいはい、通って大丈夫だよ」

「ありがとうございます」

 車止めのバーが上げられ、車が進む。

「案外すんなりと行けるもんだな」

「偽造だけどかぎり無く本物だもの、コレだけで判別つけるはずが無いわ」

「しかし、犯罪者のくせしてグレードの高い高級ホテルとはねえ。羨ましい身分だな全く」

 車が駐車場のスペースに停車、中の四人が降りる準備をし始める。

「よし、それでは可及的速やかに済ませるぞ。関係者以外は絶対に殺すな、撤退する時は打ち合わせ通りに」

 威勢のいい返事が返され、四人が降車。

 清掃用具の大荷物とカートを押し、四人は従業員用のエレベーターに乗り込む。

「清掃する部屋は18階だったかね」

 ボタンが押され、エレベーターが上へ。

 道中に止まることなく目的の階へと止まると、四人が音も無くエレベーターから降りる。

「見張りをよろしく頼むぜ」

「了解」

 そう言い、サバカが作業着の前を開けると――ホテル従業員の女性用制服が現れる。

 手早く着替えると、汚れ物を入れるカートに放り込む。

 従業員用の通路から、一般客も通る廊下へ。

 カーペットの敷かれた廊下は誰も居らず、不気味な程に静かな空間が広がっている。

 無言のままハンドサインで会話をする四人。

――そして、サバカが変装用の眼鏡を掛け、佇まいを直してドアをノック。

「恐れ入ります、ルームサービスです」

 流暢な日本語で呼びかけ、中から足音。

「――なんだ? 呼んだ覚えは無いぞ」

 ドアを開けて半身だけ出してきたのは、くすんだ金髪の男性。

「えっ? こちらの部屋からルームサービスのコールがあったのでお伺いしたのですが……」

「こちらからそんなものはしていない、間違いじゃないのか――」

 男が僅かに視線を外した瞬間――喉を鷲掴みにされる。

「邪魔するよ」

 男の喉元を掴んだまま、先頭を切って部屋へと入り込むサバカ。

 続けるようにミドヴィッドが入り、残りの二人は外に。

 男の喉が呆気なく潰され、声も出せぬまま床に突っ伏す。

 作業着の前を僅かに開けながら横をすり抜けるミドヴィッド。

 部屋の中には男が三人。

 一人は窓辺でラップトップを操作しており、残りの二人はテーブルを挟んでトランプに興じていた。

 突然の事に反応が遅れる二人。

 ミドヴィッドが作業着の中に手を入れ、取り出されたのは短く太い鞭――『ナガイカ』。

 黒と緑の緑暗色で彩られ、柄に当たる部分には落下防止の紐のリングが。

 ミドヴィッドがコンパクトな動作でナガイカを振り、一人の首を打ち据え、鞭が肌を叩く鋭い音。

 衝撃と痛みに男が呻き声を上げて倒れ込む。

「Ty draniu!」

 もう一人が怒声を上げ、懐から無骨なナイフを取り出すやミドヴィッドの後ろ――最初に突入したサバカが替わるように飛び出る。

 流体の様に()()()ながらナイフを受け入れるように捌くと、身体の振りを使って肩でナイフを弾き飛ばす。

 驚く男が反応するより早く拳が振るわれ、レバー部分を殴り抜く。

 肝臓の部分を殴り抜かれ、激痛に蹲る男。

「Kim jesteście!」

 最後の一人がラップトップを抱き消えて窓際に逃げる。

「Бог смерти」

 ミドヴィッドがポツリと一言返し、ナガイカを振るい最後の一人を無力化する。

「――さてと、ずらかるかね」

 呻く男の四肢を慣れた様子で拘束、口に布切れを突っ込み、テープを貼るとミドヴィッドは軽々と男を抱え上げる。

「ああ、合流時間に遅れるなよ」

「あいよ、道中で道草食わないでくれよ?」

 内側からドアをノックし、応答するようにノックが返ってくる。

 入って来たカートに男を入れ、作業着姿だった残りの二人が着替え始める。

 部屋のドアノブにDNDプレートを掛け、四人は音も無く部屋の外へと出て行った――


次回はなるべく早くに出したいと思います

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