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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
26/33

Guns Rhapsody 『Mag Mell』 Ⅱ-ⅩⅢ

次話です


(まあ、確かに外見だけなら可愛いしな、外見だけなら)

 淡い黄金色の地毛にシミ一つ無い白い肌と、透き通った緑色の瞳。

 小動物を彷彿とさせる顔立ちは西洋人形顔負けなまでに整っているし、口を開かなければ引く手あまただろう……中身さえバレなければ。

「ところで、消耗品諸々もを買い足すって言ってたけど具体的にどこを回るんだ?」

「とりあえずこの間リリースされたワクステ用のグラボと自作基盤用のパーツ類かなぁ」

「うーん、つまり足りない物を補充しに行くって事だな」

「そ! でも、持ってもらうのは数個しかないから大丈夫ですぞ」

「それを聞いて安心したよ」

 すると、何をトチ狂ったのか往来にも関わらず自分の左腕にしがみついてくる。

「ちょっ、なんだよ突然!」

「いやあ、何となく?」

 後ろからはキャアキャアと黄色い声が聞こえてくる。

「何となくしがみつくって何なんだよ……!」

 慎ましやかな体型とはいえ、ニアも一応は同い年の女子。

 腕に伝わってくる柔らかな感触が状況判断を妨げてくる。

「――あのね。私、最近ブラのサイズ合わなくなって来たんだよねぇ。一年生の時より大きくなったんだけれど……触って確かめてみたい?」

「なっ……⁉」

 蠱惑的な笑みを浮かべ、こちらに爆弾発言を囁いてくる。

「さあさあ行きましょうねー」

 グイグイと引っ張られて中央通りから一本外れた道に連れて行かれる。

「歩き辛いっての」

「あぁん、もうちょっと優しくしてよぉ」

 ここが武学園でニア以外の女子――その時点でおかしいが――なら、投げ飛ばしている。

「それとも何かなユーくん、女の子にしがみつかれるのがそんなに恥ずかしいの〜?」

「そういう訳じゃない、ただ……」

 言えば間違いなく弄られる、だが言わなければこのままの状態なのだろう。

「――ブブー! 時間切れでーす」

 そう言い、腕から離れていくニア。

「もー、そこがヘタレって言われちゃうのよユーくん。もう少しグイグイ行かなきゃ、そんなんじゃぁ気になる女の子に逃げられちゃうよ?」

「うるさいな、武学生はそんな色恋沙汰に構ってる暇なんて無いだろう」

「そんなこと無いよー? 結構付き合ってる子多いし――ってな所で目的地に到着でーす!」

 ニアが立ち止まったのは、全国的に展開しているがそこまでメジャーではないパソコンショップの店。

「へへ、それじゃあキャリー役お願いしますぜ旦那」

 そう言い、軒先に積まれていた買い物かごを押し付けてくる。

「はいはい……分かったよ」

 なんだか会話が途切れたような気がするが、あの手の話は苦手なので願ったら叶ったりだから喜ばしい限りである。

 店内には所狭しと商品が陳列されており、山積みになった見たこともないパソコンのパーツや、用途がよく分からないパーツ類まで様々な物が。

「凄いな……全く分からないぞ」

「そうだねえ、ユーくんで言えば銃の内部パーツ屋さんみたいなものかな」

「なるほど……このパーツはなんだ?」

「それはパソコンの電源ユニットだね。横のはサウンドカード」

「へー……分からん」

 時折、ニアの言っていることがほぼ分からなくなる時がある。

「まー、物好きの世界だからねえ」

 そう言いながら店内を進み、レジカウンターの方へ。 

「すみません、先日こちらで商品の取り寄せを依頼していた者なんですけどー」

「お名前よろしいですか?」

 眼鏡をかけた若いお兄ちゃん店員が対応する。

「ニア・コレットです」

「コレット様ですね、少々お待ちください……」

 ガサゴソとレジカウンターの奥に消える。

「取り寄せなんかしてたのかよ」

「いやあ新型グラボが出たからさー」

「そうなのか」

「そーそー、一枚はエンジニアリング用で、一枚はサブ用、もう一枚はお土産かなあ」

「――お待たせしました」

 お兄ちゃん店員が戻ってくると抱えられたダンボール箱。

「一応、不備が無いか一回だけ開けてますので」

「大丈夫ですよ、そしたらお会計お願いできますか?」

「かしこまりました。配送無料ですけれどもいかがしますか?」

「それじゃあ配送で、送り先は武学園中央支部宛でお願いします。住所とかネットに載せてるんでそこの転載しても問題ないありませんので。あ、あと配送日は何時でも問題ありませんから」

「かしこまりました。それではグラフィックボードが三点税込で――4,600,800円になります」

「え」

「え?」

 財布からクレジットカードを取り出していたニアがこちらを向く。

「あれ……今、何円ていった?」

「んー、よんひゃくまん」

「そうか、なんだか疲れてるのかな俺……」

「最近忙しいもんねー、あっ支払いは一括でお願いします」

「かしこまりました」

 レジにクレジットカードがスキャンされ、店員さんが操作すると小気味いい音と共にドロアーが開く音。

「こちら、金額と回数お間違いなければご署名をお願いします」

 流麗な字でサインするニア。

「それでは発送準備させて頂きますので、お受け取りの程よろしくお願いします」

「分かりましたー。さ、ユーくん次回る所あるから行こうよ」

「あ、ああ……」

 なんだろうかこの例えようの無い感覚は……

 店から連れ出され、手を引かれて裏通りを歩く。

「いやあー、お高い買い物しちゃいましたよ」

「よんひゃくまん……」

「アレね、本当は購入者に直納なんだけど今住んでるところ寮じゃん? だから仕方がなく店頭に納品してもらったんだよねえ」

「よんひゃく……」

「ユーくん? ああ、なんか意識がお空に逝っちゃってるなこりゃ……」

 一体何十回の依頼こなせば貯まるだろうか……下手すれば薄給アルバイターの年収より上である。

「うーん……ちょっと刺激が強過ぎたかな」

 新車の普通乗用車が買える金額、自分の弾代何箱分だろうか? 百で足りるだろうか? いや、もっとだろうか……

「もー……オラッ!」

「ほああぁっ⁉ お前、ナニ握ろうとしてるんだよ!」

「おチンチ――」

 アイアンクローで口を塞ぎ、アウトな発言を阻止する。

「町中でそれは止めろ」

「むー」

 縦に頷くニア。手を離し、やっと意識が戻ってくる。

「もー、女の子の顔面掴むなんてデリカシー無さ過ぎですよ」

「どストレートに言うよりマシだ」

「そんなことより、たかが400万でビビるなんて情けなさ過ぎですよお兄やん」

「し、仕方が無いだろ。あそこまでの高額の買い物初めて見たんだよ」

 初めて自分の銃を買った時はかなり緊張した記憶がある。

「マジぃ? Sクラスへの指名依頼とか富裕層からの依頼だとそれくらい軽く行くよ」

「マジかよ」

「マジマジ。この間の渥美っちが請けたプロテクションの依頼は前金200の後金300だったし」

「ひえっ……」

 どこかの大手企業の重役でも警護したのだろうか……

「ミーちゃんとか暁さんもそれくらい稼いでるだろうね。暁さんなんて海外組なんだからレートによっちゃあもっと稼いでるでしょ」

「そうだったのか……」

 道理で美夜や暁は羽振りが良いはずである。

「ちなみに私はユーくんを養えるほどの貯金があるからね。何時でもウェルカムですよ」

「なにがウェルカムなんだよ」

「えっ、そりゃあ将来設計でしょ。私は在宅ワーク、ユーくんは主夫、家から出ずして生活できる。幸せの家庭だね!」

「パソコンやりすぎて頭が馬鹿になったか」

「まーた、おじいちゃんみたいなこと言ってぇ。本当は嬉しいんでしょー? 私、こう見えても金銭管理キッチリしてるんだからね。ねえダーリン、サッカーチームと野球チームどっち作りたい?」

 そうこう話している内に表通りにぶつかり、街の喧騒が大きくなる。

「それはそうと、後の買い物はどこに行くんだ?」

「一世一代の告白をスルーとは……えーとね後は電子基板用のパーツ発注だね、めっちゃ数あるからちょっと時間かかるかも」

「そうしたらその時間中は外で時間潰してるよ」

「ごめんね〜、十分くらいは超えちゃうと思うから」

「なんだ、それくらいなら何ともないよ。適当にブラブラしてるさ」

「おっけい、そうしたら行きましょかー」

 ニアに連れられ、先日訪れた記憶のある繁華街近くへ。

「――はい! ここがそのお店でーす、それじゃあダーリン大人しく待っててね」

 立ち止まったのは全五階建ての雑居ビルの前。

 わざとらしくウインクすると、到底店があるとは思えないビルの中へと入ってゆく。

「さてと……コンビニで立ち読みでもしてるか」

 ちょうど斜向かいにチェーン店のコンビニが。

 道路を横断し、自動ドアをくぐって店内へ。

「いらっしゃいませー」

 店内を軽く見渡し――折り悪くもよおしてきたので、奥のトイレを借りる。

「ふぅー……」

 手を洗い、ハンカチで拭き取っているとスマホが振動。

 画面を見ればチャットアプリに着信が。

 開いてみると差出人は合歓の奴から。

 画像が添付されており、開いてみると一枚の写真。

 写真にはアルマが写っており、何やら文字が書かれた紙を両手に持っている。

「はは……」

 紙にはたどたどしいひらがなで『ありがとう』の文字が。

『どう? 頑張って覚えたんだよ』

 合歓からトークが送られてくる。

『俺からも、ありがとうって伝えといてくれ』

『そういうのは本人に言ったほうがいいんじゃないかな?』

『正論過ぎて反論出来ないな』

『ま、ニアちゃんとのデート頑張って来なよ』

 なぜあいつと放課後に都市部に来ていることを知っているのか合歓の奴は。

『もう依頼に戻るからアルマの事は頼んだそ』

『了解』

 スマホを仕舞い、店内へと戻りると――丁度、自動ドアが開かれて、入ってきたのはフルフェイスのヘルメットを被った客。

 武学生の勘が警鐘を鳴らし、反射的に姿勢を低くして棚の陰に隠れる

「おい! 金を出せ!」

 外国からの旅行者らしき女性客を捕まえると、怒鳴り声を上げながら取り出した拳銃で店員を脅すヘルメット男。

 店の中には店員、捕まった女性客、自分の三人だけ。

「放課後だってのに、なんでこんな目に合うかな……」

 銃は……捕まった女性客が重なって使えない。

 遠目からだが男が持っているのは安価そうな回転式、おそらく違法入手した物だろうか。

(最近、銃絡みの事件が多いような気がするな)

 銃を持った犯罪者はとにかく刺激を与えないことが優先される、人質がいたら尚の事である。

 フローの状態で銃を弾き落とせることは可能だろうが、暴発して店員に当たったなんかりしたら非常に不味いことになる。

 注意しつつ、陳列棚に隠れながら強盗の死角へと近付く。

「もたもたしてんじゃねえ! 早くしないとこの女を撃ち殺すぞ!」

 怒声が響き渡り、店員の女性が半泣きになりながらビニール袋にレジの中の金を入れ始める。

(ハンマーは……落ちてるな、引き金を引いたらズドンか)

 下手に動いたら本当に人質の人が死んでしまう。

 どうしたものかと考えていると――捕まえられた女性に動きが。

 女性が手にしていたコンパクトなバッグを下に落とし――強盗のメットが僅かに下を向く。

 否や、こめかみに突きつけられたリボルバーを無造作に掴むと、絡め取るように拳銃を呆気なく奪い取る。

「へ」

 男の間抜けな声。

 女性が反転、リボルバーの銃把をハンマーのようにして、ヘルメットを被った強盗の頭を打ち据える。

 暴発しなかったのは一瞬でデコックを済ませたのか――目を凝らしてみるとハンマーが落ちている。

 鈍い音に混じって硬質的な物が割れる音。

 突然の事にたたらを踏む男。女性が合わせるように一歩前へと進み、踵を引っ掛けて男を転ばす。

 盛大な音を立てて後ろに転倒する強盗。

(今しかない!)

 陰から飛び出て、強盗の元に駆け寄ると仰向けに転がして利き手の手首を極める。

「武学生だ! 現行犯で逮捕する!」

 素手で拳銃を奪い取る女性も気にかかるが、今はそれどころはではない。

「店員さん、警察への通報と何かロープはありますか」

「へっ? あ、ああはい……!」

 慌てて事務所の奥へと消える店員さん。

 片手で捩じ上げつつ片手でスマホを取り出し、ニアに電話をかける。

『はいはーい! 今どこにいるのさユーくん?』

「斜向かいのコンビニだ強盗と鉢合わせたから来てくれ」

『うぇっ!? わ、分かったすぐ行くから!』

 逃げようともがく男の背中を膝で押さえて、関節を極める手に力を入れる。

「…Бачу тебе」

 電話の最中、謎の女性が聞きなれぬ言葉を投げかけてくると、拳銃を置き――逃げ出してしまう。

「ちょっと!」

『えっ⁉ なになになんなの⁉』

 タイミング悪く戻って来た店員さんの手には雑誌やダンボールをまとめる際によく使われるビニール紐の塊。

「警察が来るまでここで待機して下さい」

 追いかけたいがこの場を放棄したら後で教師陣からしばき倒される。

「はっ、はい」

 逃げられないように両手首を掴み、ガッチリと固定するように紐を巻きつける。

 すると、店の外にニアの姿。

 慌てて自動ドアをくぐり、店の中にやって来る。

「ちょっとちょっと! どういうことなのさユーくん⁉」

「強盗を現行犯逮捕した、通報はしてもらってるからここで待機だ」

 五分ほど待っていると外の駐車場にパトカーが勢いよく止まり、出てきた警官らが入って来た。

 事情を説明し――謎の女性はあえて言わなかった――警察に身柄を引き渡して、逃げるようにコンビニの外へ。

「こっちだ」

 騒ぎを聞きつけたのか店の外にはギャラリーが湧いており、目立ちたくは無いので店の裏の方へと回る。

(さっきの女性を探さないと……目立つから見かけたらすぐ分かるんだがな)

 身のこなしと言い、銃の取り扱いといい、間違いなくカタギの人間ではないのは確か。

「ねえねえユーくん、さっきから黙りっぱなしだけどどうしたの?」

 横からニアがこちらの顔を見上げてくる。

「いや……ちょっと気にかかる事があってな」

「さっきの強盗?」

「まあそれもある」

「たしかに銃の入手経路とかは気になるよねー」

 とりあえず人気の少ない通りを歩いていると――首筋に小さな違和感。

「……?」

 思わず手をやり後ろを振り向いてしまうと、少し後ろに先程の女性が。

 反射的に腰の銃に手が伸びてしまう。

「ちょっ、どうしたのユーくん!?」

「……ニア、下手に動くなよ」

 こちらが臨戦態勢なのにも関わらず、無防備にこちらへと近づいてくる。

 そして5メートルも無い距離まで迫った時――謎の女性がサングラスを外し、素顔が現れる。

 珍しい灰色の瞳に茶色みがかった金髪と、ハリウッドスター顔負けの整った顔立ち。

 やはり先日のファーストフード店で見かけた謎の美人である。

 なぜかとても喜んだような表情を浮かべており――突然、両手を広げてこちらに近づいてくる。

「……っ!」

 反射的に銃を抜いて構えてしまう――が、女性が地面を蹴って一瞬で間近まで肉薄される。

 こちらが反応する早く女性の手が動き、手への衝撃と同時に銃が消えていた。

「えっ!?」

 女性の手には自分の銃。

 フローに入っていないとは言え武学生の自分から、しかも真正面からディスアームするなど一般人ではない。

 女性が奪った銃をベルトに挟むと飛びついて来て――勢いよくハグされた。

(はぁっ!?)

 顔面に当たる、弾力性と柔軟性を兼ね備えた豊満な――胸。

 コロンでも着けているのか花のような良い匂いが鼻腔をくすぐる。

「――やっと会えマシタ……!」

 どこかイントネーションがおかしなカタコトの日本語。

(どういう事なんだ!?)

 逃げようにも両腕がバンザイするような体勢で抱きしめられ、両手が使えない状態。

「昨日、一目見た時からアナタの事をずっと考えてマシタ……もう離しマセン!」

 本当、どういう事なのか。それよりも呼吸が出来なくて意識がヤバくなってきた。

 今度は頭に何かが擦り寄せられる感触。

「ちょっ! 助けてくれニア!?」

「いやあ、ちょっと私には荷が重すぎるかなぁ。体格差あるし無理っしょ」

 無情な一言。


もう少し頻度上げたいと思います

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