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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
25/33

Guns Rhapsody 『Mag Mell』 Ⅱ-Ⅻ

次話です

 巻き込まれたくはないので遠目から傍観する事に徹する。

「やだー! 超可愛いんですけどこの子!」

「えっ、地毛!? これ地毛!? 何か魔法でも使ってるの!?」

「肌スベスベ過ぎじゃないこれ……えっ、何これ……ヤバッ……」

「ねえねえ、使ってる銃とナイフのメーカー教えてよー」

「君、宮原先生の秘蔵っ子なんだろう? 一年生なのに凄いじゃないか」

「おねえちゃん良い筋肉してるねー、これは天然モノじゃな?」

 普通の一般的な会社だったらパワハラで訴えられそうなハラスメント行為を連発する上司(上級生)達。

「おっかないな、人間式洗濯機だなもはや」

「それより合同授業がもうすぐで始まるぜ、俺は柊サンに大目玉食らいたくねえから先に逃げるわ」

「あっこら!」

 足早に教室から出ていく斎藤。

――すると、自分の呼び声が聞こえたのか、肉壁の向こうで動きが。

「あっ、何処へ行くの後輩ちゃん!」

 人混みを掻き分け、這う這うの体で出てくる橘。

「か、影海先輩、早く合同授業をしに行きましょう」

「あ、ああ……」

 これ以上はストレスになる可能性がありそうなので、足早に教室から出ていく。

「影海オラッ! なに可愛い後輩連れまわそうとしてるんじゃい!」

「他の子では飽き足らず今度は後輩にまで手を出すかこの畜生めが!」

「吊し上げじゃ! 捕まえて校門で晒し首じゃあ!」

 地獄の獄卒のような勢いで教室から後を追って来る女子軍団。

「逃げるぞ!」

 廊下を走ってはいけませんと言うお決まりはあるが、非常事態なら致し方ない。

 橘と共に廊下を走り、階段は壁を蹴って下に逆三角飛びをしながら階段を下る。

 手すりをレイジーヴォルトで飛び越え、必死に逃げる。

「先輩方って普段からああなんですか!?」

「珍しいのが来るといつもこんな感じだ!」

 一階へ到着。下駄箱を通り抜け、外へと出るとすぐさま校舎の教室のある方へと移動する。

「一旦上へ避難だ」

 壁に背中を預けて中腰に両手を組むと、こちらへ来るよう促す。

 一瞬だけ躊躇う橘。だが、下駄箱方向から聞こえてくる捕食者共の声に折れてこちらへ走り寄って来る。

 自分の組んだ手に足を掛け、一拍置いてから上に全身を使って振り上げる。

 壁を這うように伸びる排水管のパイプを掴み、軽い身のこなしで二階のベランダの中に隠れる橘。

(よし)

 パイプを伝って上まで登ると、中へと転がるように逃げ込み息を殺す。

 下から聞こえてくる自分らを探す声。

「どこ行ったユウの奴!」

「あんにゃろー! 可愛い後輩連れまわすなんてサイテー!」

「見つけたら小一時間問い詰めてやるわ」

 自分が一体何をしたと言うのか……誰か教えてくれ、俺は何か悪い事をしたのか?

 頭の痛くなる状況に思わず目を瞑って上を見上げてしまう。

「……ふふっ」

 横から小さな笑い声。

「どうしてここで笑うんだよ」

「いえ、先輩は同級生の人達から慕われてるんだなって」

「慕うとマトにするは意味が違うと思うぞ」

「そうですか? 私なんかよりは皆さんから相手されてると思いますけど」

 返答しにくい言葉に思わず黙ってしまう。

 気まずいので恐る恐る下を覗き込むと、追手はいなくなっている。

「もう少ししたら校舎から逃げるぞ。今日は射撃訓練だ」

「分かりました」

「それと、昨日の課題はもう報告してきたから昨日みたいな実地は多分無いと思う。それと、残り期間が暇になったからな」

「暇とは?」

「本来は昨日みたいな依頼は、情報科と前衛科や諜報科の現場組で連携しつつ証拠を見つけてから、現行犯逮捕が鉄板だ。だけど、昨日のやり方はかなりイレギュラーだったから一時間もしない内に終わったんだ」

「つまり、昨日のやり方は普通ではないと?」

「ああ、武学生というよりかは諜報機関や警察の裏方のやり方だな。裏社会の人間を使って同業者の情報収集なんて違法行為を黙認しているような物だし」

 とある諜報科の友人から教えてもらった抜け道のようなやり方だが、ハイリスクなため滅多に使う機会は無い。

「そうだったんですか」

「ま、諜報科の奴らなんて日常的に使ってるからあんまり珍しい事でもないんだけどな」

 逮捕できるネタで強請って情報を吐かせたりするやつもいれば、身分を盾に越権行為紛いな事を平気でしている奴もいる。

「それで、君の方で問題が無ければ残りの期間は訓練の予習復習とか現場目線での諸々を教えたいんだが……面倒なら正直に言ってもらって構わない」

 教師三人組が危惧していた所も自分の方から直すよう干渉すれば、普通より早く矯正できるかもしれない。

「私は別に問題ありません。これも授業の一つなんですよね」

「ああ、サボったら相応の評価が下されるし、相応の努力をすればそれに見合った結果が返って来るぞ」

「……なら残り期間、ご鞭撻お願いします先輩」

 どうやら真面目に取り組んでくれるようである。

(最初は不愛想な子かと思ったけど、蓋を開けてみれば少し人見知りなだけなんだな……恐らく)

 話して二日程しか経っていないが、ここまですんなりと話せるようになったのは幸いである。

「ひとまず下に降りるか」

「はい」

 警戒しつつ地上へと降りる。

「今日は改めて基礎の射撃訓練から始めるか。昨日のレーンタイプじゃなくてキルハウスを使うからな」

 午後の授業は二コマ分だから100分間の1時間と40分。ダレることなくやれば十分に訓練に打ち込めるだろう。

(放課後にニアと会わないといけないしな)

「分かりました。拳銃以外にも使うのですか?」

「まあ早い内に色々な得物を使っておくのは一つの訓練だな。一芸に秀でるのもいいけれど、偏って変な癖が付いたりすると、いざって時にヤバい事になる」

 角をクリアリングしながらキルハウスのある方へ。

「先輩は武装が拳銃だけですが、他も使えるんですか」

「ああ、基本一通りはな。一つに秀でたのが無いから器用貧乏って奴だ」

 近接戦闘の美夜、格闘戦の暁、狙撃の月島、総合力の葛葉、爆破専門の土谷、メカニックの斎藤、情報戦のニア……どいつも一芸に秀でているか総合スペックが高いかのどちらかである。

「そうでしょうか? 先日の顔合わせの日とか、先日の一件でも十分凄かったですけれど」

「ありゃあ偶然と幸運だ」

 最近はフローが意識せず無意識の内に入ってしまうようになってきている。ドクターストップがかかっているのに、このままでは想像したくない未来が早く訪れてしまうかもしれない。

「偶然で片付けるのは難しいと思いますよ。それに、昨日の紅茶屋の店長さんが仰っていた事も覚えていますので」

 自分の武学生的な評価の事か。

「あれは学園が勝手に過大に評価してるのであって、実際はそんなに優秀じゃないから俺は。ポカやらかしまくってるし、武学生的に優秀ってのは美夜や生徒会の土御門みたいなのを指すんだ」

 やがて前方に見えてくる見慣れた建物――キルハウス。

「そうなんですか?」

「ああ、今挙げた二人は指標にしても問題ないと思うぞ。現実的なのは土御門の方だけどな」

 二年生内で総合的に優秀な武学生は誰か? と問われれば、ほとんどの奴らは土御門の名前を挙げるだろう。

「……一つに気になっていた事があるのですが、ご質問良いですか?」

「なんだ?」

「先輩と織原先輩は付き合っているんですか?」

「はい?」

「いえ、随分と仲が良さそうなので」

「いいや、美夜は昔からの馴染み――幼馴染ってやつだよ。武学生になる前からの付き合いだ」

「なるほど……それでは暁先輩とお付き合いしているんですね。それなら納得がいきます」

 明後日の方向な言葉に思わず横を見てしまう。

「いやいや、アイツとはそういうのじゃないって」

「本当ですか? とても親し気な感じでしたけど」

「まず、アイツは同じクラスなだけでそういったのは一切無いから。それに暁と釣り合う男ってなかなか居ないっての」

 容姿端麗、文武両道、博学多才、マルチリンガル、富裕層(あくまで憶測の域だが)の欲張りセットみたいな奴と付き合える男なんて、同スペックのスーパーマンかそれ以上の人類の上位互換みたいな化け物スペックの奴だけだろう。

 なぜか訝しげな表情でこちらを見てくる橘。

「……たしかに先輩が色々な人から弄られるのが分かったような気がします」

「えっ」

「それよりキルハウスで射撃訓練するんですよね?」

 タイミングよく到着するキルハウス。

「あ、ああ……時間を目一杯使って訓練するからな。まずは中に置かれたターゲットを全部撃つまでのタイムを計る、そこからバイタルゾーンへの命中率と有効箇所の命中率を上げていくようにさせる」

「はい、指導お願いします」

 こうして二日目の合同授業が始まるのだった。

――そして、流石は宮原の秘蔵っ子といったところか、三周目からは指摘した部分を全部修正しつつも一周目より早いタイムで出て来た。

「よし、少し休憩だ。ぶっ続けでやるのはあんまりよろしくないからな」

 キルハウスを見下ろすように設えられたキャットウォークから出て来た橘に指示を出す。

「はい」

 ホルスターに銃を仕舞い、ため息を一つ吐くとキャットウォークへ登って来て、手すりに腰かける橘。

「どうでしょうか自分は」

「俺が言っても説得力は無いと思うけど十分に優秀だよ君は。この時期の一年生にしては十分動けている」

「そうなんですか」

「ああ、普通の一年坊ならまだガンハンドリングの授業で教師共から質問攻めに会ってる時期だからな。やっているだろ?」

「はい、お陰で耳にタコが出来そうです」

「ははっ、基礎中の基礎だからな。銃を取り扱うに当たっては一番重要な事だからしつこくなるのさ」

 自販機で買っておいたスポーツドリンクを手渡す。

「いいんですか?」

「そりゃあ後輩が必死に頑張ってるんだから、先輩は労ってやらないとな。流石に喉乾いただろ?」

「……ありがたく頂戴します」

 封を開け、一気に呷る。

「さてと、一息つけたら今度は俺も同行してキルハウス内のターゲットを撃ってもらおう。後ろからしつこく指摘するからな」

「分かりました」

「それと、マグチェンジやクリアリングの事も色々と言うからな――まあ、俺目線の指摘だから教師程説得力は無いと思うけど」

「いえ、二年生の方の言葉なら説得力があります」

「そうか、それならまた始めるけど大丈夫か?」

「はい」

 素直に聞き入れてくれる橘に何故か涙が出てきそうになる。

(後輩ってこういう事なんだな……去年の畝傍先輩の気持ちが分かったような気がするぞ)

 しみじみとしながらキャットウォークを降り、訓練を再開した――


  そして、時刻は過ぎ――放課後。


「ご鞭撻ありがとうございました」

 深々と頭を下げてくる橘。

「ああ、今日は地味な内容ですまなかったよ。次はどうするかな……何かやりたいメニューとか訓練とかはあるかな?」

「いえ特には……」

「遠慮しなくていい。折角の合同授業なんだから何でも言ってくれ」

 去年の自分はどうしたんだったか……?

「何でもいいんですか」

「ああ、常識の範囲内でな」

「……でしたら、次の授業まで考えさせてもらってもよろしいでしょうか」

「問題ない。だけど、緊急の依頼が入ったら行けそうにないからそこの所は了承してくれるか」

「はい、携帯やスマホを持っていない私のせいなのでそこは分かっています」

「仕方がないさ。それなら待ち合わせ場所は一年生棟の正門前にしておくか、もし17時を過ぎても俺が来なかったら自習ってことでいいか」

「はい、それではお先に失礼します」

「ああ、また今度」

 再び頭を下げると、一年生棟のある方向へと去ってゆく橘。

「――さて……そこに隠れてる奴、いい加減出て来いよ」

 訓練の終わりごろから何度か感じていた『視線』の主がいるであろう方向――キルハウスの外壁の向こう側へ声をかける。

「……来ないならこっちから行くぞ」

 見学者なら一言掛けてくるだろうし、盗み見するとはいい度胸である。

 わざと聞こえるように銃のスライドを引いて初弾を送り込む。

「――ちょっ、すみません! 冗談キツ過ぎますって!」

 物陰から出て来たのは見覚えのある男子生徒――芦屋祝くんではないか。

「なんだ君か」

 すまなさそうに笑いながらこちらへ歩み寄って来る。

「なんで盗み見なんかしていたんだよ」

「いやあ、影海先輩と橘さんの組み合わせって中々じゃあないっスか。それで訓練見て、何か学べないかな~って」

「まあ理由は分かったとして……担当の奏はどうしたんだよ」

「暁先輩っすか? なんだか急用で都市部へ行っちゃったっス、それで暇なんでブラついてたらキルハウスに先輩がいたもんで……」

「それなら一言かけてくれよ、全く」

 やましい事はないが人から何も言われずに観察されるのは結構なストレスなのである。

「すいません――それにしても、影海先輩よく自分の事が分かりましたね。結構、気をつけて隠れていたんすけど」

「まあなんだ……経験のある二年生ならではの勘だよ」

 実の所、指導に熱中してしまって勝手にフローに入ってしまったのが原因である。

 戦闘時の時のような痛みが伴うタイプではなく、運動時に起きる正常なフローでありがたいことに後遺症の頭痛は全く出ていない。

「本当っすかあ~? 自分、こう見えても隠れるの得意なんですけどね」

「一年生に負かされてちゃあ立つ瀬無いからな。それと、すまないがこの後に用事があるんだ、話は今度でもいいかな?」

「いえいえ、自分が悪いんで。申し訳ないっス」

 踵を返し、都市部行きの電車が行き来する駅へと向かうことにする。

――首筋に刃先が突き付けられたような、嫌な感覚。

 思わず振り向くと、後ろの芦屋が制服の内側に右手を差し入れていた。

「どうかしたんすか?」

 出て来たのはCMとかでよく見る最新機種のスマートフォン。

「……いや、何でもない。それより遊んでないで予習とか復習しおけよ? 実技だけよくても座学の成績が悪かったら、相殺されるからな」

「大丈夫っす。自分、勉強には自信がありますんで」

 気を取り直して駅へと向かうべく、若干急ぎ足に歩き出した――


「……へえ、あれも気付くのかあの人。やっぱり噂は本当みたいだな」

 身体の後ろに伸ばしていた左手を前にやると――握られていた拳銃が露わになる。

 ポリマーフレームにステンレス鋼の黒色のフレーム。

 グリップの底から僅かに飛び出た拡張マガジンと、銃口の先端から伸びるショートタイプのサプレッサ―。

「何度か見てたのも分かってたみたいだし……あの人、どうやって俺の事が分かったんだろ?」

 慣れた手つきでマガジンを抜き取ると、ノールックのままベルトのマグホルスターに差し込む。

「……ますます気になって来たなあの人。噂じゃあ、教師より強いって噂だし……」

 スライドを引いて薬室に残った弾丸を強制排出すると、地面に落ちた9mm弾を摘まみ上げる。

「……明日は徒手格闘の訓練って言ってたな――お邪魔しちゃうか」

 手の中で弾丸を弄びながら歩き出す男子――芦屋祝は唇をほころばせた。


――やっとのことで駅に到着。辺りを見渡すと、ホームへと上がる階段の手前。壁に寄りかかった小柄な女子、ニアの姿が見えた。

「ん……? 誰だ横のデカイ奴」

 その隣、自分と同じかもしくは若干自分より高い背丈の女子が何やらニアと話している。

(六人部や渥美だろうか……いや、あの二人はガタイはいいが自分よりは若干だけ小さい。そうすると、あのデカイ女子は誰だ?)

 次第に近付いてくる二人。

 すると、こちらに気付いたニアが子供のようにその場で飛び跳ねながら両手を振ってくる。

「悪い、待たせたな」

「海溝よりも深い懐のニアちゃんは全く気にしてないから問題ナッシィングですよん」

 ニコニコと笑みを浮かべるニア。

「ところで、そちらさんは?」

 自分よりも拳一つ大きな背丈の見知らぬ女子を指差す。

「この子? 合同授業で一緒の一年生ちゃん」

「一年生なのか」

 自分が見上げる程ということは180越えである。

「うん。あ、郁ちゃん、こちらが前から話していた例の男子よん」

「てっ、天日い、郁です……よろしくお願いし、します……」

 しどろもどろに言葉を詰まらせながら引け腰気味に挨拶してくる。

「あ、ああ、どうもよろしく」

 デカい……二年生でここまでデカい奴はいただろうか?

「それじゃあ、用事で都市部行ってくるから後は好きにしていていいよ~」

「は、はい。明日もよろしくお願いします」

 頭を下げ、若干猫背な背中を見せて帰ってゆく。

「ガサツ系の武学園では珍しいタイプだな」

「そう? 情報科ってああいう子うじゃうじゃいるけど」

「そうなのか……」

「郁ちゃんってね、猫背だから目立ってないけどおっぱいが大きいから肩凝って大変なんだってさー」

「そういう事は言わんでいい」

「えー、彩華ちゃんとか葛葉ちゃんのはチラチラ見てるのにー?」

 パシリと頭を叩いて黙らせる。

「この話はやめだやめだ、都市部へ買い物しに行くんだろ」

「もー、正直に言っちゃいなよユー」

 脇を指で突いてくる。

「聞かれてたらリンチされちまうだろ」

「だいじょーぶ、ユーくんの骨は拾っときますから」

「冗談に聞こえないんだよ」

 階段を登り、駅のコンコースへ。

 放課後とあってか、遊びや依頼で都市部へと向かう生徒が何人もいた。

「あ、そうそう。約束の品がこれね」

 襷がけに背負ったコンパクトなバッグを前にやると、ジッパーを開けて中をガサゴソとあさり始める。

 渡してきたのは二年前くらいに出た大手メーカーの機種。

「モニタリングのアプリはユーくんのメールにリンク送っとくから、そこからダウンロードしてね。めっちゃ簡単に操作できるようUI作っておいたから」

「怪しいサイトをわざと送るなよ」

「へーきへーき、それとも私の方でやっとく?」

「プログラミング系はさっぱりだからお願いできるか」

「りょうかーい、ちょっとスマホ借りるね」

 やましい物は入れていないので、自信を持ってスマホを渡す。

 改札口を通り、駅のホームへ。

 折り返しの電車を待つ生徒の中には何人か顔見知りや知人が。

「それにしてもこんなもの何に使うの? まさかストーキングとか……」

 作業が終わったのかスマホが帰ってくる。

「んな訳ないだろ、依頼でちょっと入り用なんだよ」

「はぇ~」

「それと、あんまり他の奴に言わないでくれるか」

 若干声を落として念を押しておく。

「分かっていますよん。顧客第一ですからね、キチンと情報はお守りしますよ」

 電車がやって来て、何人かの生徒が出てくる。

 入れ替わるように乗り込み、二人掛け用のシートに座る。

「――あっ、そうそう、この間の司法取引の件、柊先生から聞いたよ」

 近い距離とあってかニアの人形の様な整った顔が見上げてくる。

「監視任務の奴か?」

「そそ、とりあえず現場組であるユーくんとかみっちゃんのバックアップって事しか聞かされていないんだけど……ヤバげな人?」

 どうやら本人の名前を明かされていないらしい。

「あー……たしかにヤバイな。出来ることなら二度と担当したくない程だ」

 出来ればそこらへんの山に捨てて、記憶からさっぱり消し去ってしまいたい。

「――あっ、もしかしてそのスマホって司法取引した人が使う感じ?」

「そうだ、情報提供してやるから使わせろってな」

 嘘は言っていない、嘘は。

「随分と生意気な奴だねー」

 電車が発車。海洋上の路線を電車が走りはじめる。

「だけど、美夜が一方的に負かされる奴だからニアは絶対に近づくなよ。一人でリカバリーできる自信が無い」

「え゛っ、みっちゃんが負ける程? それってヤバくない」

「それほどに厄介だって事だ。面白半分で絡みに行くなよ」

「うわー……ガチっぽいね、気をつけ付けますワン」

 だが、監視があるとはいえ武学園の敷地内に野放しの状態である。気の弱い女子生徒を言いくるめていかがわしい事をしていなければいいのだが……

「それとさー、めっちゃ話変わるんだけどいい?」

「なんだよ」

「いやあ、昨日だかにさ臨時講師の先生来たじゃん?」

「ああ、ロシア人の先生だろ」

「そうそう、その先生なんだけどさ、なんかどこかで見たような気がするんだよねー……チラッと廊下で見てからずっと引っ掛かっているのよさ」

「ボケるには少し早すぎじゃないか?」

「うーん……確かについ最近見た記憶があるんだよね……メッチャ美人だから忘れる筈は無いんだけれど」

「映画とか何かのニュースで似た人を見たんじゃないか?」

「そうなのかな……ここ辺りまでは来てるんだけどねえ」

 そう言い、喉元でジェスチャーをするニア。

(この間逮捕した犯罪者です、だなんて絶対に言えないぞ)

 というか、学園長や柊はマルカの事をニアに説明していないのか……情報共有が杜撰すぎじゃないか武学園側。

そうこう話している内に都市部のターミナルへと到着。ゾロゾロと降りていく学園生徒に交じって降車する。

「それで、依頼の報酬はニアの荷物持ちって事でいいんだろ」

「え? 何言ってるのさユーくん、デートですよ、デート。買い物、遊び、夜景の見える高級レストラン、そして最後はホテルのベッドの上で――」

 勝手にキャーキャーいいながら腰を引っ叩いてくる。

「――とまあ、本当はそうしたいんだけど実際は消耗品とかパーツ系統の買い出しってのが正直な所です」

「だろうな」

 後半に関しては未成年ではアウトである。

「あ、でも美味しいスイーツとかお店とかは見て回りたいなーって思ってたり?」

「構わない。報酬になりうるかの裁量ははそっちに任せる」

「うっしゃ! それじゃあ、最初にパーツ屋でいい?」

「ああ」

 ターミナルを出て中央区へと歩き出す。

 放課後と夕方少し前とあってか都市部は人で賑わっており、都市部内に居を構える有名私立女学園や他の高校の生徒が何人も見受けられる。

――後ろ。おそらく、自分たちの後ろを歩いているのだろう女子高生の一団の話し声が聞こえてくる。

「ねーねー、前の制服ってさー」

「南区のなんだっけ、武学園? って高校の所だよねー」

「そうそう、あそこ男女レベル高くない? イケメンが多いっていうかさー」

「分かる分かるー! 体育会系か爽やか系多いよね」

「四組の杉下が確か武学園の二年生と付き合ってるんでしょ?」

「え、マジ? あの地味子が? チョウ意外~」

 武学園のアマゾネス軍団とは違ってごく一般人の会話。

「つうかさ、前の女の子メッチャ可愛いくなかった? 金髪似合ってたし、外国人の子?」

「かもねー、何ていうんだっけああいうの……ロリータ?」

「そうそう! 人形みたいだよねー」

 チラリと横を僅かに見てみれば、したり顔のニア。

「口元ニヤケてるぞ」

「えっ!? やだなあ、そんなことある訳無いじゃん」

 まんざらでもない様子。

次もこれくらいの頻度で出せたらなと思います

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