表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
24/33

Guns Rhapsody 『Mag Mell』 Ⅱ-Ⅺ

遅くなりました次話です

 朝・武学園


「しまった……いない間のアルマの様子見考えてなかったぞ……」

 流石に教室へ連れて行くわけにもいくまい。

「ふむ……たしかにそれは考えていなかったな。どちらも授業に出なくてはならん」

「私も仕事があるから無理なのよねー、ってな訳で行ってきまーす」

 足早に出ていってしまうマルカ。

「どうしたもんかね……」

「一日交代で出席するか? その日の授業内容は放課後に見せ合って復習するということで」

「いや、俺が勝手に決めたことなんだしどうにかするよ……」

 そうは言っても、小さな女の子の面倒見など女子くらいにしか頼めない事である。

 野蛮な男子しかいないこの寮でマトモな奴など――

「あっ」

「な、なんだ」

「一人だけ居るかもしれん。ちょっと待っててくれ」

 ジャケットを羽織り、リビングを後にすると寮の部屋から出る。

 階段を登り、上の階へ。

「合歓の奴ならモール明けだし休暇期間だよなたしか……」

 件の部屋を見つけ、呼び鈴を鳴らす。

 すると、奥から廊下をドタドタと走る音。

「はいはーい!」

 出てきたのは、トースト片手にタンクトップにパンツ一丁の男子――皆川。

「おう、朝っぱらからどうしたよユウ」

「合歓の奴いるか? ちょっと話がしたい」

「朝飯食ってるぜ、上がってけよ」

「すまないな」

 意外と片付いている土間に上がり、靴を抜ぐ。

「おーい合歓! ユウの奴が来てるぜー」

 乱暴にリビングのドアを開ける皆川に続いて入る。

「久しぶりだねユウ。おはよーさん」

 備品の椅子に腰掛け、テーブルに向かってシリアルを食べていた女子――正しくは女子の格好に限りなく近い男子――が、噛みながら挨拶してくる。

「朝飯中にすまないな、ちょっといいか」

「何さ、ユウと僕の仲なんだから気軽に話してよ」

 一体どこ社のトリートメントを使っているのか聞きたいほどのサラッサラな金色の長髪をポニーテールに束ね、ド派手なピンクのパーカーとホットパンツ姿といった奇抜な部屋着。

「なんだなんだ女の話か?」

「お前聞いたぞ、同じクラスの暁さんと同室ってマジかよ」

 食いついてくる皆川ともう一人の同居者、山下。

「お前らは大人しく朝飯食べてろ――それで依頼絡みだ。不定期なんだがとある人物を部屋で預かっているんだ、それで問題なければ休暇期間の合歓に警護見てもらえないか願いできないかなって」

「いいよー」

「アッサリだな」

「モール明けっの調整期間で一週間ぐらい島の外に出ちゃいけないしから暇なんだよねー。だからいいよ、引き受けようじゃないのさ」

「勝手ながらすまない」

「いいってことよん。それならちゃっちゃと向かった方がいいカンジ?」

「出来るなら」

 すると、残りを勢いよく口にかっ込み、水で無理矢理と流し込む合歓。

「それじゃあ二人共、てきとーに帰ってきたりするから部屋の掃除とかよろしくね!」

 合歓に手を取られ、ドタバタと部屋から連れ出される。

「それで対象はどんな人なの?」

「あー……ちょっと訳アリなんで部屋で話していいか?」

「ほほう? 察するに女性だね、しかも後ろめたい事があるからあまり表沙汰にしたくない、って感じかな」

「近からず遠からずだな。それとお前って何か国語喋れる?」

「うーん、日常会話程度であれば大体の国の言葉はいけるけど……まさか国外の人?」

「まあな、ルーマニア語は分かるか」

「ルーマニア本国なら大丈夫だけど、モルドバとかギリシャ訛り、地方の方言が入るとさっぱり分からないね」

「その返答が返って来る時点で大丈夫だ」

 懐かしの我が部屋へ入る寸前、ドアノブに掛けた手が止まる。

「……それともう一つ、かなり重要な話がある」

「なにさ、やっと諜報科のモール要員になってくれるの?」

「違う。ちょっと、他の奴らには言いづらい事だ」

「……ああ、同じクラスの暁さんと一緒に暮らしてるって話でしょ――えっ、あれマジ話?」

「まあそれもあるんだけど……お前だから信用して言えることだ」

「勿体ぶらないでよ」

「それ以外にも入居者がいるんだ。この間新しく学園に来た臨時講師の先生は知ってるか」

「マユツバだけどロシアの元空挺の先生でしょ? メッチャ美人らしいじゃん」

「その人もいるんだ」

 素っ頓狂な合歓の表情。

「マジ? プレイボーイどころかハーレムじゃん」

「とにかくだ、部屋で見ること全ては他言無用でお願いできるか」

「了解了解、僕だって一応はプロですからね。情報の秘匿義務はキチンと守りますよ」

「本当、頼むぞ」

 そう言い、ドアを開けて合歓を中へと通す。

「む、確かに女の子の匂いがするねえ……いいコロン使ってるね一人は」

「犬かよ」

「職業柄臭いに聡くないと大変なんだよねえ。毒物とかガスとか諸々でね」

 サラッと恐ろしい事を言う。さすがは諜報科といったところか。

「奏、戻ったぞ」

「意外と早いな……後ろの人は?」

「まあ、男子の中ではある程度分別のあるやつだ。あくまで武学園内でな」

「酷い物言いだなぁ――あ、始めまして僕は白木合歓って言います。諜報科の潜入専門やってますんで」

「うん……? 男子と言ったか?」

「ああ」

「いや、その何というかそちらの者は……」

 珍しく言い淀む暁。

「あー、これは趣味というか性癖というかそういう類だ」

「酷いなあ、日頃から変装訓練してるって言ってよ」

「まあ、そこまで深く考えなくていいから」

「そ、そうなのか……」

「そうそう、軽い感じでいいよ。全く気にしてないし、見られるの嫌いじゃないし?」

 ケラケラと笑う合歓の奴。

「それで、対象はどちらにいるんだい?」

「ああ、そこの子だよ」

 向いた先にはソファに座り、朝の教育番組を見ているアルマ。

「わお、未成年どころか子供じゃないか」

「あんまり大きくは言えないが犯罪の被害者だ」

「小さな女の子って言うと……誘拐か売春あたり?」

「そんなところだ」

「そっかー、またユウが女の人連れ込んで今度は子供にも手を出したのかと思ったよ」

「誤解されるような言い方はやめろっての」

 隣の奏がジッと剣呑な眼差しでこちらを見てくる。

「奏、ひとまずこいつは信用してもらって大丈夫だ。腕っぷしは前衛科程じゃないがある程度はあるし、ルーマニア語もなんとか話せるらしい」

「ほう」

「そんじゃま失礼して――」

 合歓が足取り軽く近付くと、臆することなく知人と会話するようなノリでアルマに話しかける。

 一瞬驚くアルマ。だが、合歓の喋る聞き慣れた言葉に表情が普段のものに変わる。

 ペラペラと会話をする二人。

「たしかに語学は堪能のようだな。何者なのだ?」

 小声で囁いてくる。

「諜報科のエース級だ。キナ臭い方じゃなくて、完全に変装潜入を専門にしている。多分、どんな人物にも化けれるぜ」

「『マスケ』か。こっちの国ではあまり需要はないのではないのか?」

「それが意外にも必要とされてるらしくてな。合計して一年の半分くらいは潜入捜査しているんじゃないかな」

「多忙なのだな」

「まあ、今は次の依頼が来るまでの休暇みたいなもんらしいから今の所は受けてくれるそうだ」

「なるほどな、そうなるとなるべく早くに打開策を見つけなければならなさそうだ」

「ああ、どうしたもんか……」

 関係の無い奴は極力関わらせたくないし、アルマの存在をあまり口外もしたくない。

 だが、自分や奏は学生だしあの変態は仕事があるから頼むに頼めない。

「ねーねー、清掃課の卜部さんとかいいんじゃない? あの人子持ちだし、呼ばれない限りは暇だって言ってたよ」

 ソファから身を乗り出す合歓。

「卜部さん? いやいや、たしかに学園の関係者だけれどよ……」

 というか、あの人が子持ちという事に驚きである。

「でも、二人共学生だし一日中部屋にいるってわけにもいかないでしょ? それとも、後衛科とか教職員組に預ける?」

「いやあ……後者は無いな」

 妻子持ちや夫子持ちの職員など片手で数える程度しかいないのは少し不安が募る。

「ふむ……その卜部という者がどういう人物かは分からないが、頼ってみるのは一案として数えるべきではないのか?」

「奏はそう思うか?」

「ああ、子供の我々で無理なら大人に潔く頼るほうがいいだろう。それに、昨日に言っていたではないかいざとなれば学園に頼れと」

「まあ、言っていたけどよ……」

 自分で勝手に招いた事態なのに、自分では扱いきれないというのは口惜しいく、不甲斐ない自分に苛立ってくる。

「うーん……二人共、まるで子持ちの新婚さんみたいだねえ」

「なっ⁉」

「さしずめ僕は親戚のお兄さんか、近所の優しいお兄さんかな」

「馬鹿言うなっての」

 ケラケラと笑う合歓。

「――それはそうと、学校に出なくていいの二人共? 時間、あと十分もないけど」

「「えっ」」

 見れば朝のホームルームまで本当に十分を切っている。

「やべえ! 急ぐぞ奏!」

「おう!」

 のんびりしていたらまさかこんな時間になっているなんて。

 身支度を急いで済まし――

「頼んだぜ合歓!」

――暁と共に急いで部屋を飛び出た。


「……ははっ、相変わらずユウは騒がしいなあ。それにしても転校生さんの事、下の名前で呼んでたけど――」

 部屋に残った合歓とアルマの二人。

「……ユウ?」

 突然のアルマの発した言葉に振り向く合歓。

『そうそう、君を助けてくれた男の人だよ』

 ルーマニア語で返す合歓。

『あの人が……』

『まだ何もわからなくて怖いとは思うけど、ゆっくりと慣れていこうねアルマちゃん――さて、何して時間を過ごそうか?』

『に、日本語を……』

『日本語?』

『わたしに日本語を教えてください』

 意外な言葉に眉を上げる合歓。

『いいよぉ、それじゃあ紙とペンで書きながら覚えよっか――』


 時刻は過ぎ――昼休み。


 島内ランニングという非生産的極まりない体育の授業が終わり、着替えて飯を買いに行くのもかったるいので学食へと訪れていた。

「おいコラ横入りすんなっての!」

「唐揚げ定食2つ!」

「野菜炒めとチャーハン1つ!」

 食べ盛り育ち盛りな少年少女のいる高校の学食は血気盛んなまでに賑わっており、頼んだラーメンを待ちながら横の販売カウンターを恐々としながら眺めていた。

「相変わらずおっかねえよなあ、購買部のカウンターって、野郎がひっきりなしに押し寄せてくるんだぜ」

「ああ、一年生が怖がって近寄ってないしな。まるで肉に群がるハイエナだよ」

「まだいいべ、女子共が来た暁にゃあ商品選びで休み時間の半分消えるんだぜ」

「あー、催促するとヤッパチラつかせてくるもんなあ。もう少しおしとやかさはないのかね武学園の女子共は」

 並びながら横の斎藤とボヤく。

「――山の猿みたいな男子共に言われたかないね」

 後ろから罵声。振り返れば瓜二つな容姿の女子生徒が二人、トレーを抱えて立っていた。

「んだよ、百合シスターズ。猿ほど原始的じゃねえっての」

 二人の髪型は鏡合わせのように左右対称のサイドテールで、片方の背中には長モノ――半自動狙撃銃の『MR762A1』が背負われている

「閃光手榴弾で草野球して、職員室に呼び出される奴らのことを馬鹿にして何が悪いんだよ」

「ぐっ……なんで知ってるんだよその事」

「後衛科の備品庫からパクったぐらい、すぐ分かるっての」

 銃を背負った方、右テールの女子――百合岡那智が呆れ顔を浮かべる。

「な、なっちゃん言い過ぎだよ」

 その横、左テールの女子――百合岡麻智の方がボロクソに言う妹をなだめる。

「いいのよ、面と向かって言わないと学習しないもの」

 外見は同じだか中身がまるっきり正反対な双子の姉妹。

「ま、こっ酷く叱られたんだろうし、二度としないでよね」

「わーってるよ」

 すると、先に頼んでいた斉藤のラーメンがカウンターに載せられ、引き換え札と交換する斉藤。

「ユウ、先にショバ取っとくぜ」

「おう」

 足早に去ってゆく斎藤。

「逃げやがったわね斎藤の奴」

「そりゃ、おっかないからな」

 ガン飛ばしてくる那智。

「そういうアンタも関わってたでしょうか」

「俺は審判役だから備品には触ってないぜ」

「不真面目ねえ、真面目にやれば武装官だって推薦で通れるっていうのに」

「固っ苦しいのは苦手なもんでね――そういや二人共、この間のAランク昇格試験どうだったんだよ」

「なんで知ってるのかは突っ込まないけど、全く自信がないわ……ワンホール狙えなかったし、時間を掛け過ぎたわ」

「しょうがないよなっちゃん。あの日は風が強かったんだもの」

「いいえ、私の計測ミスよ麻智姉。湿気と温度の計算に狂いがあったんだわ」

 なにやら、試験内容に自信が無い様子。

「大丈夫だって、お前らの腕前は天野先生や月島とかも認めてるんだからさ」

「アンタに言われると悔しさもあるけど元気づけられられるのもあるね」

――そうこう話していると、頼んでいたチャーハン定食がやってくる。

「ま、後はなるようになるさ、じゃあな二人共」

 別れを告げ、斎藤の待つ席へ。

「待たせたな」

「んむ、伸びちまいそうだったから先に食ってたぜ」

 窓際のカウンター席。先に座っていた斎藤が麺をすすっている。

「ああ……この後はどっちも合同授業か。暇になるな」

「えっ、なんだよ昨日の内に課題終わったのかよユウ」

「まあな、飯食った後に柊先生の所へ報告しに行ってくる」

「いいなあ、後は自由時間みたいなもんじゃねえか。やっぱり例の一年生ちゃん、優秀だったか」

「一年生にしては動けてたし、現場でブルったりしてなかったな」

「ほー! 流石は宮原の秘蔵っ子だな」

「射撃技術もそれなりだったよ。実戦的な面で見たら学年上位レベルじゃないかな」

「――それは聞き捨てならないっすね影海先輩」

 後ろから聞き慣れない声。上半身だけ振り向くと、居たのはどこかで見たことのある一年生。

「ええと、たしか昨日の……」

「芦屋祝って言います、同席いいっすかね」

「あ、ああ」

 コーヒーと惣菜パンを手に、一年生男子――芦屋が横に座る。

「おろ、たしか合同授業で同じクラスだよな君」

「そうッス、斎藤先輩ですよね」

「よく覚えてんなあ、それで俺らに何か用か?」

 ラーメンすするかたわら、斎藤が尋ねる。

「いやあ、先輩方が気になるお話しているもんですから」

「宮原の秘蔵っ子の事か」

「そうですそうです、それと宮原先生って諜報科科長の女性の先生ですよね」

「ああ、一年生授業の担当もやってるから分かるだろ?」

「スパルタというか精神的に攻めてくるというか、そう言う方ですよね」

 どうやらあの諜報員モドキは一年生にも容赦が無い様子である。

「慣れれば耐えきれるようにはなるさ」

「言葉の重みがダンチっすね」

 だが、慣れる事が出来ないのが奴の特性である。

「おっと、肝心なレンゲ忘れてたわ」

 斎藤が言い残し去っていってしまう。

「――そういえば」

 コーヒを一口傾け、芦屋がポツリと口を開く。

「影海先輩って暁先輩とはどういったご関係なんすか?」

「アイツと? 単純に同じクラスメイトだけれど……」

「本当っすかー? 仲良さそうですし付き合ってるとかじゃなくて?」

「まさか」

 最近、言われるのが多くなってきたが暁と自分とでは雲泥の差がある。身分相応という言葉が一番当てはまるだろう。

「それに、影海先輩って女子の先輩方と結構交流があるらしいじゃないすか。その極意を教えていただけたらなぁって」

「おいおい、武学生の生活が本格的に始まったら色恋沙汰なんてマトモにする暇なんてないぞ」

「そうすっか?」

「ああ、やめとけやめとけ。武学園の女子なんて物騒な奴らばかりだ、せめて外部の子にしとけ」

 化粧品と銃のカスタムパーツの話が同じくらいと認識している蛮族共はありえないだろう、たしかに美人や可愛い子は多いが中身が凶悪すぎる。

「なるほどー」

 すると、戻ってくる斎藤。

「お、なんだよ仲良く話してるじゃないかよ」

「影海先輩からナンパの極意をご教授頂いてました」

「はっはっはっ、コイツは天然だから全く参考にならないぜ」

「なんだよそれ」

「そういう事だ、天然野郎には分からんさ」

 かくいう斎藤は女子と付き合っているのに、よく言えるものだ。

「うーん、自分としては女子のレベルが高い学校に入学できたんで学生生活を謳歌したいんすけどねぇ」

「不純な動機だなあオイ」

 ゲラゲラと笑う斎藤。

「それと、影海先輩の強さも知りたいッスね。昨日、相手していた暁先輩と織原先輩って二人揃ってSクラスの武学生ですよね?」

「よく知ってるな」

「まあ、目立つ先輩方はあらかた覚えてますんで」

 目敏いというか、世渡り上手そうな奴である。

「俺は万年Bマイナスだから参考なんかにならないぞ。そういうのは本人に聞けばいい」

「えっ、Bマイナスなんすか……? てっきりSかAだと思ってましたよ」

 意外そうな芦屋の表情。

「コイツ、実技は出来ても筆記が駄目なんだわ。有りに体でいえば脳ミソ筋肉って事だよ」

「言ってくれるな、俺と同じくらいじゃないかお前」

「理数系は自信あるぜ、文系はさっぱりだけど」

 低能レベルな言い争い。

「なるほど――あっ! 自分、用事があったの完全に忘れてましたわ。お食事中の所、お邪魔しました失礼するッス!」

 壁の時計を一瞥した芦屋がまくし立ててくると、一礼してから足早に去っていってしまう。

「なんだか後輩がいるってのは不思議な感覚だよなー」

「そうか?」

「そんなもんよ。それに、話題な一年生の一人と喋れただけ有意義だったぜ」

「え、彼も何かあるのか」

 空になった器をトレーごと戻し、自販機で飲み物を購入。

「知らねえのか? 入学試験で射撃の試験があるだろ」

「あったな、拳銃とライフルの2つでブルズアイ撃つやつだったな」

「そうそう、それの試験がよ、さっきの芦屋くんワンホールショットの満点合格だったらしいぜ」

「一年がワンホールショット⁉ とんでもないな……立射、座射、伏射の三射全部を?」

「そ、天野サンと柊が驚いたらしいぜ」

「ほー、それまた凄い腕前だな」

「それ以外も満点近い点数だったらしいぜ」

 チャラそうな外見だが中身は高性能という事か。

 階段を登り、我が教室に帰ってくる。

 血の気が多い武学園は野郎も女も豪胆な奴が多く、普通に女子がいる前でパンイチ姿で着替えているやつもいれば、上半身裸のまま飯を食っている野生児じみた奴まで。

「次は合同授業かー、着替えるの面倒くせえ」

「流石にバレたら怒られるんじゃないか」

「だよなあ」

 ボヤきながら体操着のジャージから制服に着換え始める。

「さ、俺は柊先生に合同授業の依頼の報告してくるよ」

「おう、ぶっ飛ばされんなよー」

「冗談に聞こえないからやめてくれ」

 腰のホルスターの位置を確かめ、上着を羽織って教室を再び出る。

「ありゃ、幽じゃん。どっか行く感じ?」

 ちょうどばったり出くわしたのは、ブラウスとスカートだけの軽装な美夜。

「職員室にな」

「購買部なら付いてくけど職員室はNGだね」

「薄情な奴だ」

「そういう時もあるもんですよ」

 尻をパシリと叩いてくると教室へと入ってゆく。

「さてと……」

 意を決して職員室へ。

 廊下を進み、階段を降りて職員室のある階へ。

 出来るならなるべく近寄りたくない場所なので、なるべく手早く手短に済ませないといけない。

 ネクタイを締め直しつつ、ドアをノックして開ける。

「失礼します、前衛科2年の影海幽です」

 静かな職員室に自分の声が響く。

「おや、影海か。どなたに用かあるのか?」

 入ってすぐ手前のデスク。

 椅子に腰掛けてデスクトップのモニターと向き合っていた男性の先生――朝木先生が取り次いでくれる。

「はい、合同授業の報告について柊先生に用があって来ました。先生は今居られますでしょうか」

「柊先生か? ちょうど五分前くらいに出ていってしまったよ、卜部さんの所だったかな」

「あー……いつもの奴ですね分かりました。ありがとうございます」

「合同授業の報告という事はもう終了したのか?」

「ええまあ……」

「随分と早く終わったんだな。たしか、担当の生徒は一年生の橘だろう?」

「はい、よくご存知で」

「お前みたいに目立つ奴だからな。職員室内でも話題で持ちきりだぞ」

 そんなに有名人なのか橘の奴は。

「影海はやればキチンと結果を出せるんだから、しっかりと面倒見てやってやれよ」

「は、はい……!」

 武学園でも数少ない聖人からのお言葉、身が引き締まる思いである。

「それでは失礼します」

「ああ、気をつけてな」

 礼をして職員室から出る。

「卜部さんの所か」

 清掃課の局長を務める卜部さんは実にフリーダムな人で、用務員としても武学園に従事しており、その活動拠点的な場所は2年生校舎の横にある小さなプレハブ棟。

 そして、そこを教師陣が使うというのは一つの暗黙的な用途があり、それはズバリ『喫煙』である。

 教育機関の敷地内での喫煙は禁止されているが、教師陣の暗黙の了解で『用務員室の敷地内だったら喫煙可』という物があるらしく、ヘビースモーカーな宮原を筆頭に何人かの教師は利用しているらしい。

(たしかにこんな所で働いてたら色々とストレスは貯まるわな……)

 歩く生体兵器に同情してしまいながら、校舎の北側――裏側の出入り口から出る。

 目の前にはこじんまりとしたプレハブ棟があり、スモッグの掛かったアルミサッシのドアが。

 ガンガンと殴るようにノックして開けると案の定、中に目的の人物がいた――それも、厄介なのを二人も付けて。

「あーら、ユウじゃない。何しに来たのかしら」

「おうおう、先生達の目の前でヤニかぁ? 火ならあるぞー」

 円筒状の大きな灰皿を囲むように置かれたパイプ椅子に腰掛けたパンツスーツの二人――マルカと宮原が話しかけてくる。

「柊先生を探しに来ました」

 すると、その二人の反対側でコーヒー片手に一服していたもう一人――柊が反応する。

「私をか?」

「はい、合同授業の報告です」

「ああ、そういえば一日目で終わらせたんだったな」

 まだ吸い始めだったのだろう、まだまだ残った煙草の火を名残惜しそうにもみ消し、灰皿に入れる柊。

「はい、ですので完了報告しに来ました。後の処理は自分の方で行うのですか?」

「いや、私の方から確認して内容を精査させてもらう――ちなみにどうだった?」

「どう……とは?」

「橘菊花だ。現場での動きはどうだったんだ」

 パイプに腰掛けた柊が無駄に長い脚を組む。

「初めてなのにも関わらずよく動けていたと思いますよ。指示もキチンと聞いてくれましたし、制圧スピードも申し分なかったですね」

「なるほどな、悪い点はあったか?」

「悪い点ですか? そういうのは宮原先生の方がご存知かと思いますけど……」

「違うんだよ影海ィ、由香が知りたいのは同じ目線の奴から見た意見だ」

 香のような独特な匂いの紫煙を吐き出しながら宮原が付け足してくる。

「同じ目線ですか……変な事言いますけど『投げ出してる感』がありますね」

 傾げる三人。

「命の危険に顧みないというか、驚異に対して無頓着というか……なんでしょうね、いい例えが見つかりません」

「あー……なんとなく分かるぞ、お前の言いたい事」

 宮原が煙で輪っかを作りながらばつの悪そうな顔。

「どういうことだ宮原」

「橘の奴はちょっと鈍感でなあ。弾受けすらピクリとも反応しないんだわ、本物使ったナイフの戦闘も眉一つ動かず急所狙って来たりとかな」

 さらっと恐ろしい事を言う宮原。

「先生、弾受けって現在は禁止されてますよねたしか」

「あん? そんな事言ったか私?」

――弾受けとは少し昔の武学園の悪習で『制服の防弾性に無理言わせた耐ショック訓練』の事である。

 内容は簡単、制服を着た奴に向かって発砲するだけ。

 たしかに、どの口径がどれくらいの衝撃か身を持って知れる理に適った訓練ではある。 

 自分が入る前の年まではあったらしいが、弾受け訓による怪我人が多い事から禁止令が敷かれ、現在は発覚しただけでも風紀委員会と教師陣からタコ殴りにされる程。

「軍人としては優秀ね。その子、本当に一般人?」

「ああ、素性調査では一般家庭だ。これ以上の事は生徒の前では言えないがな」

「一回手合わせしてみたいわ柊センセ」

「駄目だ。貴方の担当学年は2年生でしょう、もし本当にやりたいなら学園長に掛け合ってください」

「もう、無理難題吹っ掛けるんだから」

 吸い終えると、短くなった煙草を灰皿の中に投げ入れるマルカ。

「だが、その行動傾向は早期的に直さなければならないな。今の所支障は出ていないようだが、いつかはそれが原因で事故の起因になる可能性があるかもしれん」

「まあ、それは同感だわな。早めに直すよう訓練メニュー変えとくよ」

 珍しい宮原の教師的な言葉。

「――あら、そろそろ次の授業ね」

 マルカが手首の時計を見ると、座っていたパイプ椅子から立ち上がる。

「それじゃあ戻るかね。由香は授業だろう?」

「まあな、それと勤務中は下の名前で呼ぶな」

「いいじゃないか、アンタとあたしの仲だろう?」

 プレハブから出ていく二人。

「さて、次は合同授業か。しっかりとやれよ影海」

「ぜ、善処します」

 柊と共にプレハブを出て――ふと、先日の稗田さんから柊宛に預かっていた伝言を思い出す。

「あっ、先生もう少しよろしいですか?」

「ん? なんだ」

「いえ、外部の方から先生に伝言預かってまして」

「外部の?」

「はい、まだ名前はちょっと明かせられないんですけれども『榊を咥えた鳶』と。そう伝えるよう言われました」

 単語を言うや、初めて見る柊の険しい表情。

「榊に鳶だと? 本当にそういったのか」

「は、はい。その人からはそれで分かると」

「……どこの誰から教えられた」

「ええとですね、特区の地下繁華街で紅茶の輸入販売をしている稗田涼っていう人です」

「近い繁華街で? どっち側の人間だ」

「中立ですかね。どちらも肩入れしていないそうです、言質ですけど」

 珍しい柊の悩む表情。

「次から次へと問題がやってくるな全く……分かった、報告ご苦労だった」

「はい」

「それじゃあ合同授業頑張ってこいよ」

 バシリと背中を叩き、校舎の中へと足早に去ってゆく柊。

「頑張れって……何すりゃいいんだよ」

 行き場のないボヤキが漏れてしまう。

――サボるわけにもいかないので、教室へ戻ると何やら廊下が騒がしくなっていた。

「なんだ?」

 見れば自分の教室の前。

 ギャラリーを掻き分けて突き進み、全開になったドアから入ると、騒ぎの原因となる者こと――橘菊花が見えた。

 どういうことか自分の席に座り、その周りには暁や美夜、月島を初め他の女子共が。

 席を追いやられて可哀想な目にあっていた斎藤に尋ねる。

「おいおい、これはどういう事だ?」

「お前の可愛い後輩ちゃんがわざわざ迎えに来てくれたみたいだぜ」

「はっ?」

「午後授業は全て合同授業に割り当てられてるだろ? それで、昼休みの終わりごろにやって来たんだよ」

「それとこの人混みになんの関係があるんだ」

「そりゃあ、宮原のお気に入り生徒で入試試験で話題になった子だろ? 野次馬精神旺盛な二年生からしたら恰好の的よ」

 地面に落ちた砂糖菓子に群がる蟻のごとくワラワラと集まる女子軍団の隙間から、一瞬だけ橘を目視する。

(普通の一年生は上級生のクラスなんかに普通は来ないもんな……そりゃあ目立つわな)


次はもう少し早めにだしたいと思います。

それと余談ではありますが、現作品と並行して違うジャンルの別作品を現在執筆しております。

出せる分まで書き溜まったら出してみたいと思っております(場合によっては出さない場合もあります)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ