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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
21/33

Guns Rhapsody 『Mag Mell』 Ⅱ-Ⅷ

少し間が開きました

――幸いにも表の通りでは揉め事や事件は起きなく、何事も無く地下繁華街へとやって来ていた。

「ここに来た事はあるか?」

「一度も無いです。始めてきました」

「ここは都市部の中でも黒寄りの場所でな。私服警官や武学生でもあまり来ない場所だ」

「かなり危険な所じゃないですか」

「まあな、正直に言うと一年坊が来ていい場所じゃない」

 無数のパイプが走る低い天井に、積年の汚れで黒ずんだ床。

 細い通路の左右には細々と店がところ狭しと並び、怪しげな輸入品を取り扱う店から明らかに電波法違反な機械類を素知らぬ顔で販売したりしている店まで様々。

「それなら、どうしてこんな所に連れてきたのですか」

 すれ違う強面のオッサンが尻目でこちらを威嚇するように見てくる。

「コッチ界隈に詳しい人間を知っているんだ。簡単に言えば情報提供者だな。諜報科ではグラスとかフィンクって呼ばれているのは知ってるだろ?」

「一応は。ですが、ここで活動している時点でアウトの人達ですよね」

「まあ、そうなるかな」

 会話しながら細い道を歩き、目的の店の前に到着する。

「ここですか? 普通の店にしか見えません」

 明らかに信じていない表情の橘。

「ああ、表向きは紅茶の茶葉を輸入して販売している所だからな」

 シックな装いの扉を押し、小さなベルの音と共に店の中へ入る。

「いらっしゃい――なんだ、幽くんか」

 店の最奥。カウンターの内側で、分厚い書籍を読んでいた眼鏡姿の女性がこちらを見るや、口を開く。

 相変わらずの窮屈さで、壁には紅茶缶がところ狭し陳列され、扉から入って正面の突き当りにはコーヒーショップの様な陳列ケースが置かれいる。

「どうもっす」

 お土産用にディンブラの小分けパック一つ手に取り、カウンター奥の女性――店主の稗田さんに頭を下げる。

「これ一つお願いします」

「800円だ」

 カウンター越しに代金を支払う。

「それで、今日は何の用だね? 私と単にお茶をしに来た訳じゃないだろう」

「はい、この組織の情報を買いに来ました」

 データーベースにアクセスし、画面だけ見せる。

「――そいつらか。どこまで知りたいんだね?」

 流石はと言ったところか、一見しただけで分かるとは一体どのような情報網を持っているのだろうか。

「いえ、今見てもらった情報の裏取りをお願いしたいんです」

「そういうのは魔女や覚くんに見てもらった方がいいんじゃないのかね?」

 稗田さんの手元に置かれた書籍はA5判サイズで、専門用語らしき単語が印字された学術書らしきもの。

「二人共別件で動いているんで、稗田さんしか空いていないんです。それに、非合法な情報なら貴方のほうが信憑性がある」

 やれやれと言った表情を浮かべ、小さくため息をつく稗田さん。

「仕方がないな……君の頼みだ、少し時間を頂けるかな?」

「はい、アポ無しでこっちは来てるんで後でも大丈夫ですので」

「分かった。そこの椅子に腰掛けて待っていてくれ――その前に、そちらの子は見ない顔だが?」

「ええとまあ、後輩です。色々とありまして……」

「武学園中央支部所属、橘菊花です」

「なるほど、同級生では飽き足らず今度は後輩にまで手を出したという事か。君の年齢差ならまだセーフだな」

 虫を見るような嫌そうな目つきでこちらを見てくる橘。

「無いこと言うのは勘弁してくださいよ!」

「はっはっはっ! 私は稗田涼、紅茶屋と情報屋を営んでいるしがない独身女性だ。よろしくな後輩くん」

 どこか陰を感じさせる雰囲気な顔立ちを綻ばせて笑う稗田さん。

 握手を求められた橘が躊躇い気味に差し出すと、固く握手を交わす。

「それじゃあ適当に時間を潰していてくれ」

「あ、それと出来るのであれば現在、拠点にいる人数も教えていただければ」

「難しいがやってみよう」

 そう言い残し、カウンター奥の部屋へと繋がる扉を開けると奥へと消えてしまう。

「……本当に信用できるんですか?」

「ま、ここらへんで無作為に聞き込みするよりかは信頼性はあるかな」

 本当ならばニアに頼みたい所だが、あちらも合同授業があるだろうし、自分一人に時間を割いてもらうのは気が引ける。

「それに、随分と親しげな様子でしたけど」

「普通に客として使ってるからな。ま、気長に待っていよう」

「そういう意味ではないんですけれども……」

 橘の最後の呟きが聞こえなかったが、なんと言ったのだろうか……?

 立って待つのも仕方がないので椅子に腰掛けて、スマホを取り出して時間を潰すことにする。

 正面の橘と言えば店内を物珍しそうに見回している。

(まあ、普通の一年生ならこんな所には普通来ないわな)

 武学生でも諜報科の一部しか訪れない僻地である。

――そして、十分くらい過ぎた頃か。のんびりと待っていると奥の扉が開く音。

「待たせたね」

 小洒落た絵柄のティーセットが乗った、銀のトレーを手に稗田さんが戻って来る。

「飲みながら説明しよう。別に急ぎではないだろう?」

「ええまあ……」

 慣れた様子でテーブルにティーセットを置くと、慣れた様子で紅茶を淹れ始める。

「ミルクと砂糖はいるかね?」

 橘の手前に置かれたティーカップに澄んだ色合いの紅茶を注ぎながら訪ねる稗田さん。

「頂戴します」

 妙に行儀の良い橘。

「幽くんはいるかね?」

「あ、自分はストレートで頂くんで大丈夫です」

 自分のも淹れてもらい、稗田さんが腰掛ける。

「さて、完結に言うと情報はほぼ合っている。後は幽くんのやり方次第だから私は口出しをしない。それと、追加の要件だが人数は六人居るそうだ。信憑性は無いがな」

「ありがとうございます」

「貴重な顧客の一人だからね。今後もご贔屓願うよ――それにしても、セカンドフラッシュのダージリンも中々に美味しいじゃないか、苦労して仕入れた甲斐があるものだ」

 優雅にティーカップを傾ける稗田さん。

「他には何か聞きたいことはあるかな? もちろん有料だが」

「なんかあったかな……」

 たしか調べる事があった気がするがここ最近バタバタしていたせいで、完全に頭からすっぽ抜けている。

「――影海先輩の情報は売ってもらえるんですか」

 横から橘のとんでもない一言。

「ちょっ、何言ってるんだよ」

「もちろん。今回は初めて利用だろうから無料にしてあげよう」

 どこか悪ノリな様子の稗田さんがニタリと笑みを浮かべながら答える。

「ちょっ、稗田さん辞めてくださいよ」

「私は顧客に商品を求められただけだからね。拘束される権利は無いし、仮に私が情報を言っても君が全てノーと答えれば正しいか間違っているか分からなくなるんじゃないのかな?」

「ぐっ……確かにそうですけど……」

「さて、何を聞きたいのかな? 後輩くん」

「先輩の武学生評価です」

 猫舌なのか、息を吹きかけてから一口含む橘。

「ふむ――影海幽、武装学生学園二年、前衛科所属。武学生のランクは二学年段階ではB-と中程度。身体能力においては比較的優秀な部類だが筆記試験に関しては中の下。性別年齢問わず広い人脈を持ち、Sクラスの生徒にも何人かの知人を持つ」

 つらつらと個人情報をバラしてゆく稗田さん。

「学園による武学生としての評価は高く。射撃、格闘技術の二点に関してはSクラスや政府公認の武装官、武学園教職員に相当もしくはそれ以上に値する。再額中の依頼遂行率は100%で契約不履行は公式では一度も無い――まだ聞くかね? 幽くんのかなり私生活な情報にまで及ぶが、好物とか嫌いな物とか好みの女性のタイプとかになって来るが……」

「だから辞めてくださいって。場合によっては逮捕しますよ」

「おっと、これ以上喋るのは難しそうだな。申し訳ないな後輩くん」

「いえ、ご厚意感謝します」

「感謝するなよ……とりあえず自分達はここらへんで失礼しますね」

 一体どこからここまでの情報が漏れたのか……というか、最後の方がかなり不穏な情報だった。

「おや、もう行くのかい?」

「職務があるので。あと、あまり派手に動かないでくださいよ? たださえ灰色な立ち位置なんですから」

 ぬるくなった紅茶を一気飲みし、席を立つ。

「分かっているさ。私は客に肩入れはしないし、干渉もしない」

 橘も椅子から立つと、ペコリと頭を下げる。

「紅茶、美味しかったです」

「苦労して取り寄せているからね。気が向いたら来ると良い――まあ、武学生はここいらに近寄らないほうが身のためだがね」

 先に店から出ていく橘。

「それじゃあごちそうさまでした稗田さん」

「またのご来店をお待ちしているよ――ああ、そういえば伝えてもらいたい事があったんだった」

「自分ですか?」

 珍しい事もあるものだ。

「ああ、中央支部に柊由香と言う女性教諭がいるだろう? 大柄で熊を素手で殴り殺しそうな」

「ええまあ……お知り合いなんですか?」

 あの物理型生物兵器と稗田さんにどんな関係があるのか……

「遠からず近からずといった所だな。彼女に『榊を咥えた鳶』と伝えておいてくれ。私の名前を出してもらって構わない」

「なんですかそれ?」

「言えば分かる。それじゃあ頼んだよ」

「分かりました、伝えておきますね」

 頭を下げ、店を出る。

 店のすぐ目の前で待っていた橘がこちらを向く。

「すまない、ちょっと話が長引いた」

「お気になさらず」

「それじゃあ、気を取り直して……今から件の犯罪組織が拠点にするビルへ突入する」

「いきなりですね」

「ああ、犯罪者の罪を知っているのに野放しにするなんてよろしくないからな。さっさと終わらしてさっさと帰る」

「ですが、私は今回が初めての実戦なんですけれども」

「誰にだって最初はあるさ。ヤバくなったらフォローする――それとも、俺だけで片付けて君は外にいるか?」

「馬鹿にしないでください」

 キッとこちらを睨むように見てくる橘。

「なら尽力しろ。訓練を思い出してリラックスするんだ。」

 初めて人を撃った日、初めて人を切った日。腰の下辺りに嫌な感覚が生まれ、真夜中までひたすら胸やけと身体の震えが続いた思い出がある。

「いざとなったら俺が出る。君は普段通りに行けばいいんだ」

「……分かりました。影海先輩、何かあったらお願いします」

「ま、木っ端の犯罪組織じゃあ持っていてもナイフやスタンガンとか警棒みたいな護身武器程度だ。そこまで心配する必要は無いさ――さ、ぼちぼち向かおうか」

 場所は地下繁華街からそう遠くないので、急がずに普通のペースで向かう。

「ちなみに確認なんだけどブリーチング訓練はもう始まっているのか?」

「はい、まだフラッシュバンを使ったのは行っていないですけどシュートオアノットシュートは毎日訓練しています」

「精度は?」

「九割です」

「まあ、ギリ実戦投入できるレベルか。フロントマンの経験は」

「あります。フロント、テールのどちらも」

「分かった……そうしたら初実戦だから銃は無しで行こう」

 最悪、フローでなんとかゴリ押しは出来るので問題は無いだろう――かなりの反動が来るけど。

「問題ないんですか?」

「万が一あちらが銃を所持していたら抜いていい。だが、基本的には徒手かナイフだけだ」

「……分かりました、お願いします。影海先輩」

 怖いくらいに素直な橘。

「さ、ぼちぼち着くから意識を変えいこうか」

「はい」

 やがて前方に見えてくる五階建ての雑居ビル。

 件の犯罪組織は最上階に居を構えており、その下4フロアは順番に居酒屋、ハーブショップ、個室サウナとその事務所の4つから成る。

 荒立てて入ると他のテナントにも被害が及ぶ可能性があるので、迅速かつ静かに事を運ぶ必要がある。

(遅くても5分以内。犯人確保が最優先だな)

「さて、フロントマン。突入口はどこからにする?」

「それも自分が決めるのですか」

「ああ、実戦こそ最高の訓練だ。机に座って話し合うなんて誰でも出来るからな」

「言ったもの勝ちですね――それなら外の従業員用の階段を使用して五階まで進み、裏口から侵入します」

 ビルの見取り図も資料でキチンと目を通していたらしく、よどみなく答える。

「了解した。ピッキング用の道具は持ってきてるよな?」

 すると、若干ばつの悪そうな顔。

「持ってきてないのか」

 無言の肯定。

「それなら開錠は俺がやる。それでいいか?」

「はい」

「柵を越えたら全てハンドサインで会話だ。大丈夫だよな?」

「はい」

 いざ拠点へ。不意打ちを警戒しつつ、橘を先頭にビルの裏手側に回るとビルとビルとの細い路地が現れる。

「やっぱり防犯はされてるよな」

 侵入防止の鉄格子が設けられており、登るには少々面倒な高さ。

「先に中へ入って警戒をします。その間に先輩が登って来てください」

「ああ」

 橘が僅かに後ろに下がり、助走をつけて走り出す。

 壁を蹴ってさらに登り、鉄格子の上を掴んで身体を捻りながら飛び越えると音も無く着地。

(まるで猫だな)

 橘ほど身軽ではないので、鉄格子に足を引っ掛けて腕の力で登る。

 乗り越えて着地。

(さてと……宮原の秘蔵っ子はどれほどなのかね)

 橘が前を警戒しつつ、ビルの奥へと進み始める。

 追従するように後ろを進み、背後や頭上を警戒しつつ進む。

 やがて前方に現れる従業員用の無骨な階段。

 腐食防止に黒く塗られており、屋上まで螺旋を描くように伸びている。

(さて、一年生には難しい場所だな)

 普通、人間は目の前や足元に注視してしまう傾向がある。

 そのため視界内や足元への意識は向きやすく対処速度は早いのだが、そこに『上』が絡むと格段に対処能力は落ちてしまう。

 そこを武学生はパルクールという移動法で犯罪者の不意をつくように訓練されているのだが、逆となると話は別になってくる。

 戦闘における高所というのは非常に優位性があり、致命となる頭部への被弾が増えるし下からの銃撃は非常に当てにくいと散々である。

 だが、臆せず階段へとアプローチをかける橘。

 まるでクライマー顔負けの身軽さで階段の手すりと、階段の突っ掛かりを使ってスルスルと音も無く登ってゆく。

(やるな)

 続けてパルクールで階段を登り――そして、目的の階へと到着する。

 橘の肩を叩き、後ろに下がるようハンドサイン。

 無言で頷くと、下を警戒するように立ち位置を変える。

(ここからは俺の出番か)

 ナイフを抜き、扉の隙間に刃先を入れて罠や仕掛けが無いか確認する。

 一般的なディスクシリンダー錠で、型式は十年前程に普及し始めた昔基準の標準型。

(これくらいなら行けるな)

 制服の内ポケットから生徒手帳を取り出し、テンションとピックが入った薄型ケースを抜き取る。

 鍵穴にテンションを引っ掛け、ピックを挿入。

 ディスクシリンダーは比較的簡単に開けられるので、いいとこ三分ほどか。

 カリカリと中を引っ掻く音が、ビルの空調設備の騒音にかき消されてゆく。

 徐々にテンションが回ってゆき――錠の突破が成功する。

『侵入開始』

 サインを出し、橘がドアを静かに開けて中へと入る。

 築年数が古いのかそれとも管理がずさんなのか、中は結構な汚れがあり、踊り場に置かれたダンボールの山にはホコリが積もっていた。

 下を警戒しつつ階段を降り、屋上からすぐ真下の5階へ。

 どうやら階段の踊り場からすぐ目の前がフロアになっており、件の犯罪組織の拠点が。

(数と位置は不明、武装も不明だが……どう出る?)

 橘のセンスなら何とか出来そうな気がしなくもないが、現場というのは常にイレギュラーが発生する場所。

『ファイブカウント後に突入、右側をカバー』

 了解の合図に橘の肩を叩く。

 片手で橘がカウントを始め――ゼロと同時にドアを全力で蹴りつける。

 勢いよく開かれるドア。

「武学園だ! 全員動くな!」

 部屋には情報通りの六人。スマホやパソコンやらを弄っており、一瞬だけこちらに反応が遅れる。

 武学生は先手必勝がモットー。

「なんだテメエら!」

 奥のデスクに向かってパソコンを操作していた一人が立ち上がり、怒声を浴びせてくる。

 無言のまま突入。一番手前の一人に近づく。

「テメエ!」

 ポケットから抜いたフォールディングナイフでこちらの腹部目がけて突き出してくる。

 防刃グローブを嵌めた手でナイフの刃を掴み止め、空いた手で手首を強打してディスアーム。

 片手で刃を仕舞い、床に放り投げると男の腹部目がけて蹴りを放つ。

 呆気なくくらった男が勢いに後ろへ転び、背の低いテーブルの上に転倒する。

「ぶち殺せ!」

 ナイフや警棒、スタンガンを手にした三人が間抜けに椅子や机を乗り越えて近づいてくる。

 耳の真横で風切り音。

 スタンガンを持っていた男の腕に細身のナイフが突き刺さり、情けない悲鳴が上がる。

 思わず自分の耳に手をやってしまう。

 後ろの橘が音も無く前へと飛び出す。

 武術に心得でもあるのか警棒を持った奴が半身に構えると、距離を詰めた橘の顔面目掛けて警棒を振り下ろす。

 先日の徒手格闘の時の様な身軽さで躱すと、いつの間に手にしていたのかスチールタイプのボールペンを振るう。

 機械のような正確さで、男の関節や膝を刺突し、ものの数秒で二人を無力化する。

(クボタンとは随分と珍しいのを使うな)

 感心している間に三人目の膝関節を押すように蹴って転ばすと、容赦なく顔面を蹴って無力化する橘。

 残るは二人。

「やりやがって……!」

 一人が身に着けていたジャケットの内側に手を差し入れ――反射的にフローに入ってしまった身体が動く。

 腰のホルスターから銃を抜きながらスライドを引いて初弾を薬室に装填。取り出された回転式拳銃の銃口が向けられるより早く、腰だめに銃を構えて――発砲。

 狙い通りに銃のフレームを掠るように命中。音を立てて落ちた拳銃が、テーブルの下に転がってゆく。

「銃刀法違反も追加だ」

 パッと見て小口径のリボルバーのようだったが、銃を持っている時点でアウトである。

 銃口を向けると、萎縮してその場に座り込んでしまう男達。

「橘、全員を拘束するから見張っていてくれ」

「はい」

 橘が慌てて銃を抜き、若干銃口を下に向けつつ構える。

 ベルトに銃を挟め、拘束用のタイラップを取り出すと窃盗団の男達をパッキングしてゆく。

(銃の入手経路も調べる必要がありそうだな。この間の一件もあるし)

 全員を転がして、テーブルの下にいった銃を拾い上げる。

「他の所をクリアリングしてくる。君は犯人を廊下に出して学園の清掃課へ通報してくれ」

「応援は必要無いのですか」

「ああ、電話のかけ方くらいは分かるだろ?」

「はい」

 拳銃を抜き、部屋の奥へと進む。

(イテテ……少しだけでも頭痛が発生しやすくなって来たな)

 八代に言われた言葉が脳裏を過る。

「……制御しないと早死にするってか」

 フロアを区切るように設えられたドアに手を掛け、開けながらクリアリングを行う。

 どうやら奥側の部屋は盗んだ物品を保管する場所らしく、いたるところに精密機械や貴金属を保管するケースなどが詰まれている。

 周囲の音に意識を向けつつ、隠れている奴がいないか部屋を探し回る。

(残るはここか……)

 部屋の最奥。鍵付きのドアが。

 試しにドアノブに手を掛けてみるが、案の定鍵がかかっている。

(現場を荒らすと怒られるからあんまりやりたくないんだけどな……仕方がない)

 僅かに後ろへ下がり――ステップを踏んでドアに中段蹴りを放つ。

 幸運にもドアの立て付けが緩く、内側にドアが倒れ込む。

「うっ……」 

 鼻を突く異臭。

 部屋に窓が無いのか中は薄暗く。腰のホルスターからフラッシュライトと銃を抜き、ライトを逆手に握って頭の横に構えて点灯。

 部屋の中を照らし――奥の壁際を照らした瞬間、心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。

「マジかよ……」

 ライトに照らし出されたのは壁際で蹲る――小柄な女の子。

 下着姿でそれ以外には何も身に着けておらず、ライトに照らし出された白い肌がやけに生々しい。

「Nu,Nu mă împușca…」

 掠れた聞きなれない言葉で何かを言ってくる女の子。

「だ、大丈夫だ」

 英語じゃないのは確かか。

 あまり考えたくはないがこの女の子はおそらく――人身売買の被害者だろう。

 銃を下げ、一応警戒しながらホルスターにしまう。

 すぐ横の壁に手をやって明かりのスイッチを探し、ボタンの感触。

 明かりを点けると、部屋が一気に明るくなった。

「……っ」

 言葉に出来ないほどに部屋の中は酷く、不快感に下腹部がキリキリと痛んでくる。

「あー……アイムナットエネミー」

 たどたどしい英語で意志疎通を図ろうとすると、腕で覆った顔を上げる女の子。

「アイム、ポリス」

 警察ではないが近い存在だから大丈夫か。

「Po,Poliția…?」

 多分、意味が通じてくれたのかどこか安心したような表情に変わる女の子。

(橘に見せる……訳にはいかないな。アイツにはまだ早い)

 制服の上着を脱ぎ、警戒されつつ近づくと身体に制服を羽織らせる。

 スマホを取り出し、助けになりそうな奴に電話を掛ける。

『もしもし?』

「暁か」

『どうかしたのか? 今は合同授業の時間の筈だぞ』

「そうなんだがかなりヤバい事になった」

『……詳しく効かせてくれ』

 事のあらましを電話越しに説明する。

『――なるほどな。少々面倒事になりそうだ、今どこにいる?』

「都市部の南区繁華街だ。住所は――」

『すぐ向かう。同伴の一年生はどうしている?』

「制圧した犯人を見張らせている。まだこの事は知らない」

『刺激が強すぎるな。極力見せないようにしておいてくれ』

「分かった」

 通話を終え、制服のポケットにしまう。

「……大変な事になったなこりゃ」

思わずため息が出てしまう。

 人身売買が絡むとなるとこの犯罪組織はそこら辺の十把ひとからげでは無く、後ろに大物が控えている末端組織の可能性が高い。

 そうなると、個人で片づけられる範囲から大きく逸脱するし、目を着けられたらいつ何時襲われるか分からなくなる。

(橘を巻き込むのは避けなくちゃいけない……そもそも暁に電話するのも止めるべきだったんだがな)

 このまま暁が来るまで待っていたいのは山々だが、廊下で待機している橘が様子を見にこちらへ来る可能性がなくもない。

(ひとまず人払いするべきだな)

 女の子に向き直り。

「ぷ、プリーズ、ウェイト」

 無言で頷く女の子。

 心配しつつ部屋を出ると、ドアを閉めて橘の方へと向かう。

「先輩」

 廊下では壁際で跪いた犯罪者達を威嚇する橘がいた。

「待たせた。ちょっと、こいつらと話したい事がある、申し訳ないんだがもう少し待っていてくれるか?」

「尋問ですか」

「ああ、絶対に覗くなよ。これは冗談じゃないからな」

 若干ドスを利かせると、一瞬だけ橘が怯えるような表情を見せる。


次はもう少し早く出せたらなと思います

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