表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
17/33

Guns Rhapsody 『Mag Mell』 Ⅱ-Ⅳ

読まれている方はいないとは思いますが続きです

      都市部・南区


「そろそろ、例の銀行が見えて来る頃です。全員警戒を」

 自分の後ろを歩く土御門が注意を促す。

「了解」

 殿を務める暁が返事。

「りょ、了解です」

 遅れて土谷も返す。

「おおっと、目視距離内に目標の建物を視認。狙撃に注意」

 ハンドサインを挙げ、運送業者のトラックの陰に隠れて停止。

 拝借してきた単眼鏡を取り出し、銃撃に注意を払いつつ観察する。

「うーん……銀行前にて交渉人が犯人を説得中。防弾バスを盾にしてるから横から襲われなければ大丈夫そうだ」

「中の様子は確認できますか?」

「あー……丁寧に全部の防火扉が降ろされてるな」

「そうなると裏手から制圧ですね。一点突破は無理そうです」

 単眼鏡を返却してもらい、懐に仕舞い直す。

「ここからは迂回ルートだな。交渉人が目線を集めてくれている間に裏へ回るしかない」

「そうですね、迅速に移動しましょう」

 姿勢を低く保持しつつトラックの陰から縦列でビルへと進む。

「しかしまあ白昼堂々と銀行強盗とは奴さんもようやるな」

「ふん、武学園のお膝元で犯罪とはいい度胸だ。全員刑務所に叩き込んでくれる」

 今度は自分の後ろに順列が変わった暁が血気盛んな発言。

「暁、あまり過激にやるとマスコミが騒がしくなるから抑えてくれよ」

「報道機関が騒がしいのは毎回の事だろう」

「まあな」

 停められた車の影や、建造物の屋上や中に気を配りつつ、通りをクリアリング。異常が無いことを確認し、進んでゆく。

「皆、そろそろ裏口側だ。不意打ちに気をつけてくれ」

「了解した」

「了解」

「わ、分かりました」

 都市部の立地上か、銀行の裏側には省スペースのために地下駐車場へと繋がる大きな車両用出入り口があり、普通であれば利用客用に解放されている筈の出入り口にはシャッターが下ろされて閉め切られていた。

「予想通りだな、どうやら機械系統も乗っ取られているようだ」

 暁がシャッターに近づき、足で軽く小突く。

「シャッターに金網の組み合わせですか、やはり金融機関が入ってるとなると防犯が強固ですね」

「そ、それなら私が何とかします」

 土谷がビクビクと怯えながら前に進み出る。

「よし、土谷のブリーチング準備が出来るまで警戒だな」

 アサルトライフルを持った自分と葛葉が道路の左右を警戒、暁は土谷の横で護衛兼ヘルプ。

「一般的な二重構造ですか、これならテルミットとプリマで大丈夫そうです」

 チラリと土谷の方を一瞥、バッグの中からスプレー缶の様な円筒状の何かを取り出す。

「暁さん、少し離れていてください。触れると骨まで焼けちゃうので」

「う、うむ」

 暁が離れると、スプレー缶の先端に付いたプラグの様な物を取り外し、シャッターの上を覆う金網に射出口を向ける。

 耳に残る特徴的な音と共にスプレーのノズルから、眩く白熱した酸化鉄とアルミニウムの混合物が噴出される。

 熱に臆する事無く土谷がスプレー片手に、人一人通れるサイズに金網の一部分を焼き切る。

「影海くん、この金網を取ってくれますか」

「お、おう」

「触ると火傷じゃ済まないので端は触らないで下さいね」

 恐る恐ると切られた金網の中央部分を掴み、力一杯引っ張る。金属がぶつかり合う音と共に金網が外れ、触るのも怖いので道路に放っておく。

「ありがとうございますね」

 土谷がスプレー缶にプラグを付け、バッグに仕舞うと今度はパラコードの様な束紐と黒いケースを取り出す。

「土御門さん、穴のサイズはどうしますか?」

「成人男性が二人通れるサイズでお願いします」

「分かりました」

 紐束を解き、露出した白いシャッターに紐を慣れた様子で貼り付けて行く。

「皆さん、少し大きな音がするので耳は閉じて口は開けていて下さいね」

 横が二メートル程の大きな正方形を描くように紐を付けると、最後に土谷が黒いケースから小さな筒を一本取り出し、紐の先端を差し込む。

「ブリーチング10秒前、10,9,8,7,6――」

 土谷がカードサイズの小さな機械を取り出すと、暁と葛葉が耳を塞ぐ。

(やべっ)

 慌てて耳を塞ぎ――1拍置いて衝撃が身体と鼓膜を打ち据えた。

 若干鼓膜が馬鹿になってしまったのは爆破に慣れていないせいか、それとも塞ぎ方が甘かったか。

「行くぞ」

 暁が切り抜かれたシャッターを蹴り飛ばし、散弾銃を構えて地下駐車場へと入る。

「急ぎますよ! 音を聞き付けて敵が来ます!」

 葛葉が遅れて銃を構えて突入する。

「行くぞ土谷、離れるなよ」

「は、はい……!」

 シャッターを抜け、地下駐車場へと続く車両用の通路へと突入する。

 中は薄暗く、地下へと斜路が下へと伸びている。

 既に暁と葛葉が先行して、斜路を進んでいる。

(あの二人なら余程の事がない限りは大丈夫だな)

 斜路に遮蔽物が一切無いというのが非常に怖かったが、幸いか駐車場へ到着するまでは接敵は無かった。

 停められた車を遮蔽物にしつつ、進んでいると先方の暁が立ち止まり、同時に停止のハンドサイン。

『前方から敵接近、私が不意打ちして迎撃する。他は待機』

 よくと耳をすませば、前方から足音が反響する音。

(よくこんな小さな音まで聞き取れるな)

 葛葉が反対側のボルボの後ろに隠れ、自分と土谷はトヨタの黒いZVW55の陰に隠れて、音の方向に目を細める。

(数は……三人か)

 黒い目出し帽に防弾チョッキと無骨なズボンにゴツいブーツ。

 黒い服装で細かい体格は分からないが、間違いなく国内の犯罪組織では無いだろう。

 次第に距離が近くなってきて、三人の持った銃がすべて同じ物と発覚する。

(かなり統率されてるな……これはちょっと厄介かもしれないぞ)

 先頭の一人が銃を構えながら進み、その後ろを横列に進む二人。

(あれ……そう言えば暁はどこだ)

 見える範囲で探すが、姿が全く見えない。

 武装犯の三人が間近まで迫った瞬間――天井から影が落ちた。

 影が先頭の一人の頭に蹴りを入れながら、そのまま地面へと蹴り倒す。

「Co⁉」

 後ろの二人が突然の事にたたらを踏む。

 影が低空タックルのように二人の間へと肉薄する。

 目にも止まらぬ速さで振るわれる黒刃の――トマホーク。

 峰の部分が膝を砕き、腕を打ち据え、足元をすくうように地面へと投げ飛ばされる。

 一分と経たずに武装犯三人を無力化。影――暁が落ちた銃を蹴ってこちらに飛ばしてくる。

(とんでもないな)

 土谷と共に車の陰から出て、寄越された銃を確保する。

「Uhh…」

 倒された一人が呻き声を上げる。

「Kim jesteś?」

 暁が意識のある一人の腹を蹴り、トマホークの刃を首筋に当てて何やら聞いたことの無い言葉で話しかける。

「Nie będę mówić!」

「Ciężko z prawą ręką zniknąć?」

 刃が右手に当てられ、必死に逃げようともがく男。

 だが、ひっくり返せないようにグラウンドポジションを綺麗に決められており、上の暁はビクともしない。

「Pytam jeszcze raz. Co robicie obiekt?」

「S…spółki publicznej!」

 男が叫ぶと、暁の険しい表情。

 後頭部を掴んで顔面を打ち据え、完全に戦意を消失させると手足をタイラップで手早く拘束する。

「厄介な相手だぞ影海」

「おいおい、奴さんは一体何者なんだよ」

 残りの二人も縛り上げ、転がしておく。

「国外の民間軍事会社の兵士だ。今ではテロリスト紛いだがな」

「なんでそんな奴らが日本にいるんだよ……つうか、とんでもないのが来たな」

「今では?」

 葛葉が兵士の出てきた方向に銃口を向けながら暁に問う。

「ああ、東ヨーロッパで活動している『ブリーチナイ』と呼ばれる会社だ。昔は普通の警備会社だったのだが不況で左寄りの活動家に肩入をしてな。CBŚPの対テロ部隊と共に本社のビルを制圧して全員逮捕した筈だったのだが……」

 とんでもない暁の過去話に土谷が目を丸くする。

「待て待て、お前本当に同い年だよな?」

「なんだ、私が年上に見えるとでも?」

 確かに暁は雰囲気と外見の影響で大人びていて見えるが……

「いや、そうじゃ無くてな。暁って同い年だよな?」

「当り前だ。Syntymäpäivä 15. lokakuuta 今年で17歳だぞ」

 先程の刃物の様な鋭い雰囲気が嘘みたいな天然の返しに思わず脱力してしまう。

「あー……分かったよ、とにかく今回の犯人は元兵士なんだな?」

「そうだ、絶対に気を抜くなよ」

「分かってるよ――そうなると、武学園の応援が早く来てもらわないと厳しいな」

 銃を持った素人の犯罪者と、戦闘経験のある犯罪者とじゃ力量が倍以上に違くなってくる。そうなると、切った張ったが日常の武学生と言えども防弾ベスト一枚程度の軽武装で相手するには荷が重すぎる。

「影海の意見は分かるが、籠城戦での長期化は悪手だぞ」

「それ位は分かってるよ」

 土谷と葛葉を一瞥。

「――影海さん『二人は外で応援を待っていてくれ』なんて言ったら。膝に銃弾を撃ちこみますよ」

「そっ、そんな事言わねえよ」

 どうしてこう武学園の女子は血の気が多い発言をするのだろうか……おまけに勘も良いし。

「なら話は早い。急いで進むぞ、先程のように増援が来る」

 暁の言葉で話を終了。今度は葛葉が先頭の隊列で地下駐車場を進み始める。

 幸いか増援は無く、地下駐車場の端――建物内へと繋がるエレベーターと階段が見えて来た。

『上方からの不意打ちに注意、階段を使う』

 先頭の葛葉が後ろの自分らにハンドサイン、ライフルを構え直す。

 死角に敵がいないか確認しながら踊り場へ、頭上に銃口を向けつつ階段を登り始める。

 続けて暁。葛葉をカバーするように散弾銃を構え、同じように登ってゆく。

(暁が銃を持つのはなんだか新鮮だな)

 土谷をカバーするように進み、殿の仕事である後方を警戒する。

 緊張した空気の中、踊り場を抜け一階へ。

 階段を登ってすぐに見えてきたのは小綺麗な窓口の空間。

『前方敵三名、受付のカウンターの後ろ』

 葛葉が踊り場の陰から覗きこみ、片手でハンドサイン。

「Hej Usłyszałem odgłos z dołu」

『Zapraszamy do sprawdzenia』

 さっぱり分からない会話を聞いていると――前の葛葉が銃を足元に突然置き、躊躇い無く角から出ていく。

『Kto!』

 男の叫び声。

「たっ、助けてください……」

 壁の向こう側から聴こえて来る葛葉の今にも泣き出しそうな声。

『Jest studenta??』

「ひっ……!」

『Haczyk』

 言葉が分からないが、何となくだが不穏な空気。

――突如、壁の向こう側から靴が鳴る音。

 くぐもった悲鳴が聞こえ、次いで大きな物を叩き付けたようなけたたましい音が聞こえてくる。

 銃声、隠れていた角の壁を弾丸が削り、思わず身を屈めてしまう。

「二人共出てきて下さい。音を聞きつけて増援が来ます」

 壁の向こう側から葛葉の声。注意しながら覗きこむと、ライフルを武装犯に向けた葛葉が。

「大事ないか土御門よ」

「私は何とも、それより警戒を」

 葛葉の足元で気絶した一人を自分が拘束し、残りの二人は暁と無力化した張本人の葛葉が行う。

(本当、生徒会だけは敵に回したくないな)

 風紀委員の藤や、その取り巻きも恐ろしいがやはり一番怖いのは生徒会。

 聞いた噂じゃ、武装官の約三割は元生徒会役員だとか。

(生徒会と言えば畝尾先輩と高千穂先輩がいたっけな。あの人達、武装官になったって聞いたけど……)

 ライフルを構え、上に繋がる階段側の通路を注視する。

――フローで鋭敏になった聴覚が近付いてくる足音を聞き取る。

「階段側から敵、数は四人!」

 足音を殺し、手早く前進。

 階段に差し掛かる寸前、ベストに納めた閃光手榴弾を取り出し、ピンを引き抜く。

 投げ返しを考慮し、一拍置いてから投擲し腕で顔を隠す。

 閉じた瞼を僅かに貫通する眩い閃光と、鼓膜を震わす破裂音。

 反撃を警戒しつつ階段の手すりから上を覗き込むと、階段を上がってすぐの位置に敵がいた。

 流石は元軍人と言った所か、隊列や体勢を崩す事なく銃を保持している。

(流石は傭兵だな)

 麻痺した聴覚を逆手に取り、手すりを踏み台に跳躍。

 向かい側の壁に一歩足を付き、さらに跳躍して背後を取る。

 最後尾の一人の脚と腕を打ち抜き、反撃が来る前に膝裏を蹴り抜いてストックで頭を打ち据える、最後の二人は蹴りで階段から蹴り落とす。

 落ちた衝撃で武装犯の持ったライフルが暴発、踊り場の窓ガラスを破砕し、続けて天井の蛍光灯が壊される。

 下から暁と葛葉の足音。

 このまま悠長に進んでいては武装犯が厄介な事をしでかすかもしれない。

 ライフルを置き、武装犯からナイフを拝借。

 鋭敏になった聴覚が前方、奥の方から聞こえてくる物音を聞き取る。

 拝借したナイフを振りかぶって投擲。読み通り五メートル程離れた部屋から出てきた武装犯の肩口に半回転して突き刺さる。

 くぐもった悲鳴。残りの一本をベルトに挟み、懐からM&P9を引き抜き、手足を撃って無力化。

(――やっぱりコレだな)

 若干使い慣れていない銃だがそこはフローでどうにか出来る。

 すぐさま走り出し、先程武装犯が出てきた部屋へ間髪入れずに突入。

 部屋の中は狭く、置かれた本棚やスチールラックからして資料室的な物か。

――遅れて反応する武装犯。その周りには跪いた人質が六人。

 反射的に身体を後ろに投げ出し、数える間もなく頭上を弾丸が通過。

 仰向けの状態で撃つ。

 ベストに守られていない肩と腕に命中、もんどり打って倒れる武装犯。

「いってえ……」

 痛む背中に顔をしかめながら荒い呼吸のまま何とか立ち上がり、倒れた武装犯を拘束する。

 落とした拳銃を拾い上げ、不調がないか確認する。

 外から足音、音からして暁と葛葉だろう。

 銃を構えた葛葉を先頭に突入してくる三人。

「人質は無事か」

「ああ、全員怪我は無いみたいだ」

 すると、銃撃戦で縮こまっていた人質の一人がこちらを見る。

「お、奥にて、店長が……」

「それは本当ですか?」

「は、はい……連れて行かれて、それで……」

 即座に踵を返して部屋から飛び出る。

(奥は……事務所か!)

 二丁拳銃のまま廊下を駆け抜け、右手側の壁から生えたプレートを視界に捉える。

(あそこか!)

 左手の拳銃をベルトに挟み、持ってきた閃光手榴弾を取り出し安全装置のピンを引き抜く。

 ドア越しに罠がないか探るのが定石だがそんな悠長にやっている隙は無い。

 僅かに隙間を開け、中に閃光手榴弾を投げ入れる。

 ドア越しに伝わってくる破裂音と白い閃光。

 前蹴りでドアを強引に開けて突入――フローによって全てが遅く動く視界の中、真横から不意をつくように拳が右から飛んでくる。

 体をずらして回避。左の銃で両膝を撃ち抜き、交差した右の銃で正面から銃口を向けてくる奴のマガジンを撃って出鼻をくじく。

 左側の首筋に寒気、反射的に身体を前に投げ出して置かれたデスクにダイブ。

 頭上スレスレを弾丸の雨あられが通過、痛む体に鞭打ちながら撃ってきた奴の肩と手の甲を撃ち無力化。

(あと三人!)

 身体をよじってデスクから落下。机越しに隠れていた奴の足首を撃ち――自分を撃とうと身を乗り出してきたもう一人を反対の銃で無力化する。

(最後の一人の位置は把握している、後はすぐさま無力化して――)

「Freeze!」

 頭上から声。反射的に振り向きかけるが、見えなくとも分かる鉄の威圧感で無理矢理と首を固定する。

(突っ込み過ぎたな)

 反転して、構えて、撃って――する前に自分は撃たれるだろう、それは分かり切ったことだ。

(一瞬でもいいから何か起きれば助かるんだがな……)

 背中に衝撃。不意打ちに思わず冷たい床に身体を打ってしまう。

「Hold up」

 言われた通り突っ伏したまま両手を挙げる。

 手首を捻り上げられ、背中にムリヤリと回されると硬い紐――おそらくはタイラップか――で拘束される。

(ミイラ取りがミイラになっちまったな)

 具合からして外すのに苦労するタイプ。ナイフかニッパーでもないと外せそうにない。

(結構ヤバイかも)

 身体をよじり、自分を拘束した奴の姿を拝む。

 他の武装犯と同じ出で立ちだが、微妙に違う装備を身につけている。

「……やってくれたなガキ」

 こちらに気付いた武装犯のリーダーと思しき男が、突然流暢な日本語で喋る。

「日本人か」

「時間稼ぎか? コミックと映画の見過ぎだな」

 トリガーに掛けられた指が絞られ―― 

 一瞬、頭上を何かが通り過ぎ、武装犯の人差し指に黒色の小さなナイフが突き刺さる。

 突然の痛みに動揺するリーダーと思しき男。

 不意を突いて足払い。無理やりと脚を絡めて男を転倒させる。

(こんな所で死んでたまるかよ!)

 極度の緊張により、本日何回目か分からない『フロー』に入る。

 落ちたナイフを転がって拾い上げ、テコの原理でタイラップを力任せに切り裂く。

 フローのお陰でスローモーションのように緩慢な動きに見える視界の中、腰の拳銃を引き抜く武装犯。

 距離は5メートルも無い超近距離。腰だめに構えられるより早く、左手で抜いたナイフで手の甲を切り付け――振り切った態勢のまま右手へ持ち替え。ベストに守られていない肩口に突き刺す。

「がぁっ!」

 男の獣のような雄たけび。切られたにも関わらず、武装犯が左手でパンチを放ってくる。

 右頬に衝撃。火が付いたように頬が熱を持ち、意識が一瞬だけ持っていかれそうになる。

 お返しにコンパクトな下段蹴り――だが、大腿でブロッキングされ。怪我をしているにも関わらず右の拳がボディを的確に突いてくる。

 胃の中身が込み上げる嫌な感触。思わず膝をついてしまう。

(クソったれ……!)

――背後から大きな物音。意識が向いた時には、視界の頭上から人――暁が降って来た。

 矢継ぎ早に振るわれるトマホーク。肘と膝を叩き砕き、トドメに暁の上段蹴りが男の首に巻き付くように打ち込まれる。

 一瞬で意識が飛ばされ、デスクを巻き込んでひっくり返る武装犯。

 小さく息を吐いた暁が慌てて振り返ると、顔を寄せて覗き込んでくる。

「大丈夫か影海」

「ああ、俺は何ともない……それより人質は」

「安心してください影海さん。最後の一人も怪我はないですよ」

 後ろから葛葉の声。痛む首に顔をしかめながら振り返れば、両手を拘束されたワイシャツ姿の男性従業員が。

「他の人達は」

「先ほどの小部屋に避難させている。後は警察に任せる」

「その方が手っ取り早いだろうな」

 小部屋へと戻って全員の安否を確認。全員に異常が無いことを確かめ――無事に事件は解決した。

 後から突入してきた特殊部隊と合流し、周囲を念のため警戒しつつ銀行から人質を連れ出す。

「やれやれ……よりによって街中でこんな事件が起きるとはな」

 銃を身体の前に保持しながら、殿を四人で努める。

「本当です、しかも外国人とは……」

「素性が素性だからな。もしかしたら後ろに何か組織が付いているかもしれん」

 暁の神妙な面持ち。

「おいおい、また厄介事かよ。休む暇が無いな」

 警戒しつつ指揮所へと帰還。指揮官の元へと向かう。

「武学生の諸君、事件解決に協力して頂き誠に感謝する。これから自分は報告書と戦わなくちゃいかんから、後処理は任せてくれ」

 目出し帽姿の指揮官が敬礼。同じように敬礼を返すと、小さな溜息をついて軽い冗談を飛ばしてくる。

「恐れ入ります、それでは事件資料は後日中央支部宛てにお願いしますね」

「了解した。それじゃあ勉学に励むんだぞ学生諸君」

 軽い調子で言い残し、足早に去っていく指揮官。


次こそは早めに出したいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ