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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
14/33

Guns Rhapsody Ⅱ-Ⅰ 『Mag Mell』 

お待たせしましたガンラプ二部です。

始めて読まれる方は一部の方を読んでいただいてからのほうが宜しいかと思います。

短めですのでご了承ください

   武学園中央支部・キルハウス


 霧ヶ峰楠嶺を逮捕してから早2週間が経過した、平日の午前――

「今日は合同授業の初の顔合わせと言うことで、キルハウスを使って簡単なゲームを行ってもらう」

 黒のワイシャツに緑のカーゴパンツと言った姿の鬼島先生が一声。

「内容は訓練弾を使った時間制の殲滅戦だ。バイタルゾーンに被弾したらキルハウスから退場、最後まで両陣営が残っていた場合は生存者の多い方が勝ちだ」

 掛けたゴーグルが若干合わなくてもどかしい。

「ナイフは支給した刃引きされた物を必ず使用。それ以外は実戦と同じだと考えるように」

 ホルスターに納めた新しい相棒《M&P9》のグリップを握って感触を慣らしておく。

「さて、記念すべき最初のゲームだが……」

 鬼島先生が値踏みするような眼差しで地面に座る1年&2年の一団を見回してくる。

「……そうだな、経験の違いがどれだけ大きな物か――影海、お前が一番目だ」

「えっ」

 思わず驚きの声が漏れてしまう。

「行ってこいよユウ。負けたらステーキな」

 後ろからクラスの男子――水無瀬がバシバシと背中を叩いてくる。

「早く来い影海。時間は有限だぞ」

「はっ、はい」

 急いで立ち上がり、視線が集まるのを感じながら鬼島先生の元へと行く。

「さて、1年生からは誰が行く?」

 誰も手を挙げず、むしろやりたくないと言ったような雰囲気。

(そりゃあ知らない先輩と撃ち合うなんて嫌だよなあ……俺だって嫌だよ)

 すると、1年生達が固まった辺りのど真ん中。一人の女子が手を挙げる。

「橘が相手か、面白くなりそうだな」

 ざわつく人を掻き分けてやって来る一年生の女子生徒。

(げっ……入学試験で話題になった例の女子じゃないか)

 肩口まで伸びたミディアムヘアーに、乱雑に切られた前髪。顔立ちは整っている方だが、不機嫌な猫のような目付きとヘの字に曲がった口元が近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

 自分の記憶が正しければこの1年女子の名はたしか……橘菊花とか言ったか。

 噂によれば宮原に気に入られている唯一の1年生で、年頃の女子高生には不釣り合いな『キナ臭い技術』を叩き込まれているらしい。

「すげえ組み合わせが来たな」

「ユウが勝つに100円」

「いやいや、宮原のお気に入りだぜ? あえて俺は負けるに100円だ」

「まーたユウに女子かよ」

 外野共の喧しい野次が飛んでくる。

「それでは残りの者はキャットウォークに移動。影海は北側へ、橘はここで開始のブザーが鳴るまで待機」

 キルハウスを囲むように設えられた、工事現場の足場の様なキャットウォークへと移動し始めるクラスメイト達と1年生達。

「頑張れよユウ」

「間違っても頭撃ち抜かれるなよー」

「俺の生活費が掛かっているんだ、負けてくれ」

 キルハウスの北側へ向かうべくキャットウォークを歩いているとクラスの野郎共が肩やら背中やらを叩きながら声を掛けてくるので中指をおっ立てる。

「幽、頑張ってね~」

 背中に30センチ程のスティックが納められた鞘を背負った美夜が小さく手を振ってくる。

「1年生だからと言って油断するではないぞ影海」

 キャットウォークの手すりに寄りかかった暁が真面目な表情。

 最後に月島はいつも通りの無言&無表情。今日は珍しく自動小銃を持ってきているようで、おそらく最近出たモデルの《SIG 716》か。狙撃用のスコープを乗っけており完全にCQB用の装備ではない。

「へいへい、頑張ってきますよ……」

 宮原に気に入られているとは言え1年生は1年生である。入学前にぶっ放していた奴でなければ負ける事は無い――はず。

 キルハウスの北側に到着し、腰のホルスターから新しい相棒《M&P9》を抜く。

  メインにポリマー素材が使われ、フレームにはスチール製のインナーフレームが埋め込まれており、レールももちろん完備。

 グリップ部は背面から側面までを覆うストラップの着脱式となっており、万人に使い易くするよう手のサイズに合わせて交換可能な特殊な機構も付いている。

 口径は9㎜×19口径とオーソドックスで、装弾数はフルに入れて17発と薬室の1発と並み程度。

 本体価格は記憶が正しければ六万円くらいだったか……

――ちなみにバヨネットは非常時に持ち出すと言うことで平時は机に収納。

 肝心のFive-seveNは備蓄の弾が30を切ってしまったため、まとまった補充が出来るまで封印。

 仕方がなく予備用の銃を入れていたガンケースを開けて探した所、この《M&P9》を引っ張り出してきたのである。

 スライドを少し引いて薬室に弾がないか確認。ベルトに通したマグポーチから15発入りのマガジンを取り出し、挿入してスライドを引いて初弾を装填。

(宮原のお気に入りってことは余程の曲者か変な奴か……どちらにせよ警戒しておくべきだな)

――刃引きしたナイフの位置を調整しながら呑気に考えていると、キャットウォークに立った鬼島先生が開始の合図を鳴らす。

「まあ……やるしかないか」

 窓枠に手を掛けキルハウスへと入る。

 記憶が正しければここのキルハウスはちょっとした迷路になっていた筈だから、一人でクリアリングしながら進むとなると多少の時間がかかる。

(奴さんがどう来るかだな……)

――前方から木の板を蹴りつけるような異音。

 キルハウスを囲むように設えられたキャットウォークに立つギャラリー達が驚きの声。

「なんだ……?」

 自分のいる所からすぐ近くで一際大きな異音がするや否や――橘菊花が拳銃片手に降ってきた。

「まじかよ!」

 反射的に前へと飛び込み、さっきまで居た地面に訓練弾が突き刺さる。

 起きると同時に背後へ銃口を向けるが、数秒と経たずに壁を乗り越え姿を消される。

(おいおい……霧ヶ峰と暁を足して二で割ったような動きだぞ)

 つまり、とんでもなくヤバいと言うことである。

 急いでその場から離脱するべく壁に設えられた窓に手を掛け、隣の部屋に飛び込む。

頭上と視角に意識を向けつつさらに前進する。


 一方、キャットウォークのギャラリーでは――


「わお、凄いね」

 眼下のキルハウスで逃げ回る幽を眺める美夜。

「諜報科らしい動きをしている」

 隣の渚がキルハウス内を縦横無尽に動き回る菊花を眼で追いながら呟く。

「ふむ……動きは悪くないがパターンが一定過ぎるな」

 キャットウォークの手すりに肘付き、奏が値踏みするような眼差しで様子を眺める。

「そうなんだよねー、上からの奇襲は有効的なんだけど慣れられちゃうと悪手になっちゃうんだよね」

 女子高生の会話とは思えない内容を世間話の様に軽い調子で話す美夜と奏。

「まあ、何にせよ――」

 奏がどこか哀れむような表情を浮かべ……

「「「相手が悪過ぎる」」」

 三人の言葉が同時に被る。

「まあ、幽だからね……どうせ変な事して勝っちゃうでしょ」

「ありえない返しをするはず」

「酷い物言いだなお主ら……まあ否定は出来ぬが」

 そんな女子三人組は地上のキルハウスを眺め下ろしていた。


「クソったれ!」

 三度目の襲来をなんとか回避し、牽制に撃ち過ぎて空になった弾倉を交換する。

(あまり人前で見せたか無かったが……このまま行くと衛生科送りになっちまうな)

 橘菊花はこれでもかと言うほど致命致死箇所を狙ってぶっ放して来る。

 撃ち合い切り合い取っ組み合いがコミュニケーションの武学生だから日常茶飯事なので気にも止めないが――生えたての一年生に上級生が負けるのは非常に不名誉である。

(悪いが少しだけ痛い目に遭って貰おうか)

 可愛い後輩に銃口を向けるのは少しだけ忍びないが、ステーキが懸かっているので仕方がない。

 脳裏を過る八代の言葉。だが全力を出す訳ではないので負荷も若干は少ないだろうし大丈夫だろう。

 瞼を閉じて呼気を整え、頭の中を一旦リセット。心臓の鼓動が身体の端々を駆け抜けたような感覚が頭に伝わり――『フロー』に入る。

 五感が一瞬で切り替わり、身体の感覚が例えようの無い感覚に満たされる。

(橘菊花は……八時方向五メートル弱か)

 置かれた机と壁を蹴ってキルハウスの上部へと跳躍し――バッチリのタイミングで橘菊花がキルハウスのすぐそこの壁を登ってきた所だった。

 驚愕の表情に変わるが、反応素早く片手のまま顔面目掛けて銃口を向けようとしてくる。

(言い訳を考えておかなくちゃな……)

 勢いをつけたままキルハウスの壁端を蹴りつけ、さらに跳躍して宙返り。

 反転した視界のまま、銃撃で橘菊花の銃を掠り落とす。

 体勢を直しつつキルハウスの仕切り壁の上に着地。地面に危なっかしく降り立った橘菊花を見下ろす。

「まだやるか一年生?」

 銃が向けられているにも関わらず、橘菊花がナイフを抜いて投擲してくる。

 飛んできナイフの刀身を指で摘まんで寸止め。仕切りから下へと降り立つ。

 どこに隠していたのか、橘菊花が別なナイフを構えて間髪入れずに突っ込んでくる。

(やはり、まだまだ一年生だな)

 喉元目掛けて突き出されたナイフの刃身をスレスレで避け、つんのめった所を手首の関節を極めて捻り上げる。

「観念してくれ、女子と闘うのはあまり好きじゃないんだよ」

「……」

 無言のまま後ろに鋭い蹴りを入れてくる。

 脚でブロッキング、膝裏を蹴って地面に膝を付かせる。

「一年、現場じゃあ後ろ取られた時点で終わりだぞ。潔く負けを認めろ」

 若干ドスの効いた声で言い、ダミーのナイフでバイタルゾーンを軽くタッチ。

 関節を解くと終わりのブザーが鳴り響く。おそらくキルハウスの端々に設置されたカメラで鬼島先生が確認したのだろう。

『影海、橘はキルハウスの外へ出るように。次は少人数戦だ、以下の者は準備しろ――』

(はあ……宮原の奴め、なんちゅう人材を育成しているんだ)

 ホルスターに銃を仕舞い、ナイフを鞘に収める。

 ひたすらに沈黙を貫く橘菊花を置いていき、トボトボとキルハウスを出る。

「おー、やっぱり勝ってきたなユウ」

 だらしなくネクタイを緩めた斎藤が笑いながら迎えてくる。

「一年坊に負けてられるかよ」

「お前に賭けておいて正解だったぜ。今日の弁当代が浮いた」

 ジャリ銭をもて遊ぶ斎藤。

「おうおう、やるじゃねえかユウ! 相変わらず大番狂わせだな!」

「お前のせいで賭けに負けたぞコンチクショー」

「十六連敗目しちまったじゃねえかよ!」

 キャットウォークから降ってくる野次に再度中指を立てて返してやる。

「しかし、噂の一年生もよう動くよなあ。あの練度は良い方じゃねえの?」

「確かにな」

 身体能力も中々の物だし、射撃の腕もこの時期の一年生にしては上手いものである。

「まあ、去年の俺達もこんな感じにあしらわれてたからな」

「懐かしいな」

「それに、俺達はもう二年生だ。今日から一年生の面倒見なきゃいけねえからな、彼我の実力差ってのを見せて来てやるよ」

 階段を使い、キャットウォークへと登る。

「おつかれユウ、ドタマぶち抜かれればよかったのに」

「年下なんだから手加減してあげなよ、女たらし」

「可愛い後輩をイジメんな!」

 女子軍から言葉の猛攻撃と尻への蹴りが飛んで来る。

「イテッ、手加減できるほど余裕あるわけ無いだろ」

 やはり武学園の女子は野蛮すぎる。

 満遍なく全体を見下ろせる位置まで来ると、下で始まった二回目の模擬戦を観戦する。

「おうおう、一年生も頑張るなあ」

 一年生の男子生徒が物陰から自動拳銃でブラインドファイア。

 その死角からクラスメイトの水無瀬が手首を掴んで引っ張り体勢を崩す。

「やはり人を撃つ事に慣れていないな。動きがぎこちない」

「まあなあ、この時期ならまだ現場に出た事無いだろう」

 迷路のようなキルハウスを上手く使って裏を取った荒田と今木の二人組が、ダミーナイフで一年生組を不意打ち。

 五分と立たない内に勝負が付いてしまう。

「おいおい、俺達何もしてねえぞ」

「ったく、人の手柄取りやがって」

 帰ってきた山渕と桑名がブーブーと三人に文句を垂れる。

「へいへい、援護射撃サンキューな」

 水無瀬の小馬鹿にしたような口調。

「いやあ去年の俺達もあんな感じだったと思うと何だか感慨深いよなぁ」

「おめえは女子の先輩にぶん投げられて気絶してたもんな。今でも覚えてるよ」

 ワイワイと昔話に盛り上がり始める。

『次は包囲戦だ。織原と暁の二人対一年生の八人で行ってもらう。織原、お前は近接武器のみの使用。暁は素手のみの近接武器は禁止』

 普通であればありえないマッチングに二年生の方向からざわめきが。

「鬼島先生も中々に酷えな」

「ああ、美夜ちゃんなら最低でも十人はいるだろ。それに暁さんプラスしたら誰も手え付けられないぜ」

「トラウマものだな……」

 キャットウォークの地べたに座った男子の面々が憐れむような表情。

 美夜と暁がキャットウォークから直接キルハウスへと降りていく。

「瞬殺だろうなあ、何分持つと思うよユウ?」

「五分持てば御の字だろうな」

 二年生内で最も近接戦闘に特化した一人と、反則レベルの身体能力の一人が組んだ時点でほぼ負けは決まったような物。

「まあ、どれだけ持つか眺めてるか」

「だな」

 そして、始まりのブザーが鳴り響き、授業が再開される――

次の投稿は未定です。なるべく早くに出したいです

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