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Guns Rhapsody  作者: 真赭
First Bullet
13/33

G&R『Next Bullet To Reload』

間が空きましたが一部の最終話です。誤字脱字に関しましてはご了承ください。

 武学園・某所


「――以上がこの度発生しました事件となります。やはり、例の『犯罪組織』が関与しているのかと思われます」

「ご苦労様です柊先生。学園側の負傷者の容態はどうですか?」

「そちらについてはご安心ください。CTスキャンの結果異常は無し、現在は後衛科の病室で休ませております」

「それは良かった――拘束した武装犯の事情聴取はどこまで引き出せましたか宮原先生?」

「いやあ全く口を割らないですね、久しぶりですよあそこまで口が堅い奴は。そろそろ『道具』使ってもいいですかね?」

 緊張した面持ちの二人の前。重厚な木製の机の後ろに置かれた革張りの椅子に座った――スーツにガスマスクの男性がマスク越しに笑う素振りを見せる。

「宮原教諭、立場を考えて発言していただきたい」

「へいへい、今後は言動に気を付けますよん」

「まあまあお二人共。今後も『彼ら』の観察をお願いしますね、こちらの動向を感づかれると都市部が戦争地帯になってしまいますから」

 物々しい格好に似合わない柔らかな物腰と口調の男性。

「かしこまりました」

「了解っす」

「――さて。報告も済んだ事ですし、お二人共お茶にしませんか? 美味しいジョルジが手に入ったんですよ」

「ご厚意は有りがたいのですが私は仕事がありますので……」

「私も同じですかねえ。ちょっと片付けないといけない用事があるもので」

 二人のやんわりとした断りにオーバーリアクション気味に肩を落とす仕草を見せるガスマスク姿の男性。

「そうですか……次の機会を楽しみにしていますよ」

 部屋から出て行く二人。

「――さてと私も仕事に戻るとしますか。鬼島先生、報告を」

 様々な物で敷き詰められた狭い部屋――用務員室のドアが開く。

「18時より都市部の公安委員会と上半期の会議。その後に19時30から、フィンランド大使館のハルマー大使と対談です」

「うーん、このタイミングで大使館からですか。対談の場所はたしか北区の『バラル』でしたか?」

「はい、35階にある『ペルケレ』と言うレストランのVIPルームです」

「ふむふむ『悪魔』とはヘンテコな名前ですね。あちらからのメッセージなのか、それとも単純なる偶然か……」

「恐らくは前者の方かと」

「酷い物言いですね鬼島先生? なら、一本ほど持っていかないと危なさそうですね」

 部屋に置かれた重厚な机から引き出される、一本の細身のナイフ。

「それでは行きましょうか鬼島先生」

 身に付けたスーツの裏側、脇に通したハーネスにぶら下げると、細身のナイフが完全に隠れる。

「かしこまりました――学園長」

 ガスマスク姿の男性――武装学園中央支部学園長はマスク越しに鼻歌を歌いながら、部屋を後にした。

――そして時刻は過ぎ、都市部・北区『バラル』35階『ペルケレ』

「この度は貴重なお時間を頂戴して誠に有難うございます中央支部学園長殿」

 地上35階。ワンフロア全てが一つの店となっており、表向きは三つ星ガイドブックに載る程の評判と、海外のハリウッドスターや政界の重鎮がお忍びで訪れる程の知る人ぞ知る高級レストラン。

 一般向けに解放されているスペースの裏――このレストランを訪れる利用客の極一部しか入ることのできないVIPルーム。

「いえいえ、この様な高いお店はおいそれと来れませんからね。こちらこそ光栄ですよハルマー大使」

 ワンウェイミラー加工に加え、防弾処理の施された窓を横に奥の席へと座った学園長が冗談交じりに返す。

 二人の間には白いクロスの掛けられたテーブルが置かれ、その上には色彩豊かな料理が並んでいる。

 学園長のすぐ後ろには無表情の鬼島が立ち。ハルマーの後ろには体格の良い筋肉質の男が二人、同じように直立している。

「ここのレストランはフレンチが主なんですが、フィンランド料理と北欧周辺の料理も作っておりましてね。よくフィンランド料理は不味いと言われるんですが、ここのはその真逆なんですよ」

「ほうほう! ちなみに、このお肉はなんでしょう?」

「トナカイの肉ですね。少し癖がありますが濃いめのソースとよく合いますよ――あ、ちなみにフィンランド語でトナカイは『Poro』って言うんですよ」

 テーブルを挟み、牧歌的な会話を続ける二人。

「――そうそう、少しお話は変わりますが。ミス・アカツキが中央支部の方でお世話になっているとか」

「おや、お知り合いなのですか?」

「ええ、彼女とは日本に来る前から知り合いでしてね。時々、護衛の依頼なんかを頼んでいましたもので」

「そうなんですか! 暁くんはとても優秀な生徒でしてね。留学して間もないと言うのに、この短期間の間にいくつも事件を解決して活躍しておりますよ。つい先日の暴走族の事件や――クルーズ港での捕り物とか」

 一瞬、弛緩していた空気が張り詰める。

「……やはりお気づきになられていましたか。かなりの注意を払ったのですがね」

「当学園にはとても『眼』の良い子がいるんですよ。どこにいてもすぐさま見つけてくれますよ?」

 学園長がグラスに注がれた赤ワインを一口含むと、ハルマーの後ろに立った二人の男達が肩を回して首を鳴らす。

「なるほど、それなら今後は細心の注意を払って行動した方がよさそうですね」

 肉厚のステーキを容易く噛みちぎるハルマー。

「その方が賢明かと。それと、暁くんはハルマー氏の部下とは言え現在は当学園の生徒です。身勝手ながら申し訳ないのですが、ウェットウォーク紛いの依頼は控えさせていただいても宜しいですかね? 一応、武学生は中立的組織ですので」

「そうなると身内の人員を使わないといけなくなってしまうんですよ。それに我々は立場上、対立する者が一人ではないので」

「ですが、武学園は世界的な中立組織です」

 ガスマスクをずらし、狐色に程良く焼けた鶏肉を口に含む学園長。

「そうですね……美味しい料理は美味しいまま楽しみたい――今後はミス・アカツキへ私からの依頼は控えさせていただきましょう」

「お願いしますね、こちらも先生方が人員不足なもので遠出させるわけにはいかないんですよ」

「それなら本国の有能な隊員をお貸ししましょうか? 教導でしたら気軽に派遣できますが」

「特殊部隊員が教導とは贅沢ですね。後ろの護衛の方々も部下なので?」

「ええ、選りすぐりの二人ですよ」

 襟元を直す後ろの男一人。

――突如、学園長が窓の外を振り向くと小さく手を振る。

「狙撃手ですか。たしかにこのレベルの防弾ガラスでは抜けますねぇ」

「……いつからお気づきで?」

「部屋に入った瞬間からですね。いつ撃たれるかワクワクしていました」

「やはり冷戦を生き抜いた兵士と言うのは格が違いますね」

「いやあ、ただの『亡霊』ですよ。私は表舞台に立つべきではない人間だ」

 学園長がナプキンで口元を拭き取ると、僅かにずれたタイを締め直す。

「――それではハルマー氏、暁くんの事に関しては本当にお願いしますよ。もし守られない様であれば、私から大使館へお邪魔させて頂きますので」

 そう言うと椅子から立ち上がり、後ろの鬼島が椅子を引く。

「おや、もういかれるので?」

「ええ、食後の運動が待ってますからね。殺しはしないので安心してください、流石に校則を教師が破る訳にもいかないですからね」

「それではまたお食事出来る事を願っていますよ」

「そうですね、今度は学園で美味しい紅茶をご用意しましょう。それでは失礼します」

 学園長が部屋の出入り口へと歩みを進めようとした瞬間、ハルマーの後ろにいた二人が身構える。

「鬼島先生」

「はい」

 身に付けたジャケットの前を開きながら、鬼島が無造作に前へと出る。

 二人の内一人。口髭を生やした巨躯の一人が、キレのあるジャブを放つ――が、鬼島が慌てる様子もなく男の拳を叩き落とし。躊躇無く鼻頭へ軽いストレート。

 上がる悲鳴。屈み込んだ所に膝蹴りが打ち上げられ、男の顎が打ち据えられてノックダウン。

「ほう! これはまた凄いですね」

 もう一人が咄嗟に懐から無骨なナイフを抜き、肉薄。

 腹部を狙った的確な突き上げ――が、怯む素振り無く鬼島が素手でナイフの刀身を殴りつけ、叩き落とす。

 男の膝を外側から蹴り、無理矢理と膝を付かせた所に肘鉄で顎を打ち抜く。

「ご苦労さまです鬼島先生。それでは学園に帰るとしますか」

 学園長がのんびりとした調子で喋ると――半歩後ろへと下がる。

――窓ガラスが割れると同時に、先程まで学園長の立っていたすぐ横の壁に小さな穴――銃創が生まれる。

「うーん、惜しいですね。もう少し早ければ危なかったかもしれない」

 呑気な調子で窓の外を一瞥すると、鬼島を引き連れてVIPルームを出てゆく。

「……狙撃を避けるとは、やはり噂は本当のようですね……これだから武学園は面白くて飽きない」

 白ワインの入ったグラスを傾けるハルマーの表情は、新しい玩具を与えられた子供の様に満面の笑みを浮かべていた。


「――さて、鬼島先生。ここから1階まで降るのは大変そうですねえ。パラシュートでも持ってくればよかったでしょうか」

「学園長、高度が足りないかと」

「高度があればやりそうな口調ですね鬼島先生」

 VIPルームから表へと繋がる隠し扉から出てきた二人の目の前には、スーツに身を包んだ筋骨隆々の男が五人。

 皆一様にナイフ、サプレッサー付きの拳銃や短機関銃を携えており、出てきた二人を見るや銃口を向ける。

「わあ、確かにこれはVIP待遇ですね――鬼島先生」

 学園長が言い終えた瞬間、足元にゴトリと落とされる鉄の塊――破片手榴弾。

 一斉に男達がバーカウンターの後ろやテーブルを倒して反射的に遮蔽物へと隠れる――が、爆発は一向に起きない。

 絨毯を靴が蹴る音。

「最近の玩具は凄いですよね、重さまで実物と同じにするとは制作側もこだわりがある」

 倒されたテーブルの上に音も無く学園長が飛び乗ると、隠れた二人の間に降り立ち――ナイフを振るう。

 一瞬で四肢の重要な筋肉部が切り裂かれ、一分と立たずに無力化される部隊の精鋭達。

「学園長、さっきのは本物です。レプリカではありません」

 拳銃の銃口を向けた一人の手を払い上げ、矢継ぎ早に顎へ掌底を打ち込み無力化。

 そのまま襟首を掴み、後ろから飛びかかろうとした一人に背負投げで気絶した隊員を投げつける鬼島。

「あれ、もしかして箱を間違えちゃいましたか? まさか箱まで似せるとは……ちょっと似すぎるのも危ないものですねえ」

 突き出されたナイフを往なし、手首の関節を極めて後ろのテーブルへと突っ込ませた学園長が間伸びた調子。

「かしこまりました、それなら明日メーカーへ意見書を提出しておきます」

 拳銃を向けられた学園長が銃口をナイフの刃先で撫でるようにずらし、背後のバーカウンターに置かれていたグラスが流れ弾で破砕する。

「鬼島先生、あんまり強く言ってはいけないですからね」

「承知しております」

 ものの三分足らずで五人が無力化されてしまい、二人は息を荒げることなく佇まいを直す。

「いやあ、それにしてもここまで大体的に直接来るのは久しぶりですねえ。立場的に大丈夫なんでしょうか?」

「ハルマー大使の噂は昔から聞いております。火消しとして欧州諸国を常に巡っており、これ程度の騒ぎなら片手間に消してしまうかと」

「おや、鬼島先生が昔の話をするとは珍しい。顔見知りなのですか?」

「……はい、東欧で一度だけ目にした事が」

 二人が外に出ると騒ぎから逃げ出す客達でレストランは混乱に包まれていた。

「おやおや、これは申し訳ないことをしてしまったようですね……」

 次いで飛んでくる閃光手榴弾。

 鬼島がその場で跳躍。空中で手榴弾を靴底で蹴り返し、閃光手榴弾を投擲した本人――倒されたテーブルの影に隠れていたハルマーの部下へと返される。

「Vau!?」

 閃光と破裂音がレストランに響き渡る。

「ナイスキックですね鬼島先生」

 至近距離で閃光手榴弾を食らった部下は意識が朦朧としており、呆気無く無力化。

「……さて、我々も学園に帰らねばいけませんね。しかし、どうやってこのビルから出るか」

「エレベーターは危険かと。定石に行けば非常階段、あれば要人用の非公式な通用口が得策かと思われます」

 辺りを見回す学園長。

「そうですねえ、折角高層ビルに来たんですし。ここはパラシュート降下で脱出しましょうか」

「はい?」

 鬼島の若干上ずった声。

「ほら、これですよ。海外の高層ビルで一部導入されてるって噂の避難用パラシュートですよ」

 学園長がバーの内側へ入ると、カウンターの内側から大きめのアタッシュケースを二つ取り出す。

「……なぜ、ご存じなのでしょうか」

「いえ、ちょこっと前にここで一杯引っ掛けましてね。その時にバーテンダーのお兄さんから教えてもらったんですよ」

 アタッシュケースが開かれると中には折り畳まれたパラシュート。

「いやあ、ヘリボーンやHALOは経験があるんですが低高度の降下は経験が無いのでワクワクしますよ――たしか、ベースジャンプって言うんでしたっけ?」

 心なしか声を弾ませた学園長がパラシュートを背負い、ジャケットの上からハーネスを固定する。

「失礼ながら……正気ですか学園長?」

「私は至って正気ですよ鬼島先生。ほら、急がないと下から増援が来ちゃいますよ――それに、ハルマー氏も近づいてきている」

「……分かりました」

 意を決したような表情を浮かべ、鬼島もパラシュートを身に着ける。

 学園長が懐に手を入れ、取り出されるシグアームズ自動拳銃の『GSR』

 銃口を夜景の広がる窓へと向けると――銃声と共に窓ガラスが割れ落ちる。

「それじゃあちゃんと着いて来て下さいよ?」

 散歩に出るような軽い調子で学園長は窓辺へ歩み寄り――躊躇い無く飛び降りる。

「……はあ」

 深いため息を吐き、額に手を当てると、躊躇い無く飛び降りる鬼島。

 夜の都市部に落ちる白いパラシュートが二つ。

「まさか、強行突破せずにパラシュートを使うとは……本当、武学園の人間は思いつくことが異常ですねえ……?」

 一歩踏み出せば落下してしまう危険があるにも関わらず、割れた窓の傍でワイングラスを傾けながらハルマーが間延びした様子で一言。

「――お前程じゃない」

 全身の随所に刃物が装着された黒い恰好に身を包み、表情の見えないガスマスクを身に着けた謎の人物が奥のVIPルームから歩いてくる。

「どうやら二人とも、貴方の正体に気づいていたみたいですよ」

「……また飛ぶのか?」

「いえ、我々はまだここで活動を続けなければなりません。それに、公社が都市部で活動しているのが分かったとなると余計に動くわけにはいかない』

 ハルマーと謎の人物は会話を続けながら、レストランの非常階段を登り――ビル屋上のヘリポートへと出る。

「そうか」

「今日はご苦労様でした。EPOのブラックリスト入りを片づけたのは大きな成果ですよ」

 聞こえてくるヘリの駆動音が二つ。

「ふん、アレ程度でブラックリスト入りするとは程度が知れるな」

 ガスマスク姿の人物は不機嫌そうな調子で言葉を返し、鬱陶しそうにガスマスクを脱ぐ。

「まあ、ただの傭兵崩れですからね」

 黒くコーティングされたヘリ――『NH90』がヘリポートへと降り立つと、中から暗視装備を身に着けた男達が音も無く出てくる。

「それじゃあ島まで送っていきますよ。お疲れでしょうからね」

「手前でいい。お前が来ると厄介な事になる」

 二人が乗り込むと、男達を置き去りにしてヘリが飛び立つ。

「いやあ、それにしても学園長さんは面白い方ですね。部下達を一瞬で無力化するの分かりますが、狙撃を避けるなんて普通の兵士でも無理な芸当だ――それとも『彼』も出来るんですかね?」

「なぜアイツを持ち出してくる」

「今までに見たことの無いタイプですからね。どう思います?」

「知らん」

「いつか手合わせしてみたいですねえ、絶対に楽しいはずだ……ああ、興奮してしまうなあ」

「変態が」

 夜景を見下ろしていた青灰色の瞳が不快そうにハルマーを睨みつける。

「酷いなぁ」

 ハルマーのわざとらしい素振りに大きな溜息を吐くと、再び視線が外へと戻されるのだった――


 武学園・中央支部第二学年棟


 ほとんどの人がいなくなった職員室。置かれた回転椅子に腰かけた、女性教師――柊の前には三人の生徒が立っていた――

「――以上で報告となります柊先生」

 事の顛末を柊先生に報告すると、腕組みしていた柊先生が小さく息を吐く。

「……ふむ、ご苦労だったな三人共。まさか、去年の下着泥棒がテロリスト紛いの奴だったとは意外だ」

「はい、自分も意外に思います。それと柊先生、一つ質問があるのですがよろしいでしょうか」

「なんだ?」

 霧ヶ峰から聞き出した気になっている単語を口にする。

「引き渡す前に主犯格に尋問を行ったのですが、『公社』という単語を聞き出しました。先生はなにかご存知ないでしょうか」

「公社? ……私は聞いたこと無いな」

「……そうですか、失礼しました」

――『公社』と言う単語を思い出したのは、ヘリから降りた瞬間だった……そう、暁が先日言っていたのだ。

 たしか不良グループを摘発する直前だったか。

(暁が知っていて柊先生が知らないとなると、海外で活動している犯罪組織か何かなんだろうな……)

 聞きたい事が沢山あるのに肝心の暁は電話が繋がらない。一体、何処で何をしているのだろうか。

「まあいい、とりあえずその『公社』とやらも学園側で調べておこう。それと織原だが異常は無かったそうだ、一応今日いっぱいは衛生科の病室にいてもらうがな」

「それは良かった……」

「報告は以上で十分だ、後は清掃課の者と確認するから戻っていいぞ」

「はい、それでは失礼します」

 礼をして、踵を返して職員室を出る。

「ぬぅあぁー……疲れたぁ、ユーくん抱っこしてー」

 ニアが引っ付いてくるが、こちらはそんな余裕は無い。

「勘弁してくれ」

「ええー、いいじゃん私メッチャ頑張ったんだよ~」

 確かに後方支援でさんざん世話になったし、調査でも大分助かっている――が、こちらは先ほどから酷い頭痛でゲロってしまいそうなのだ。

(八代の所に行くか……)

 近頃、事件の後に決まって頭痛が発生するようになって来た。今までは時々だったが、ここ最近はほぼ100%の確率で発生している。

「すまんが衛生科に用があるんだ、すまんがここで失礼するぞ」

「大丈夫ですか? 顔色が優れませんが」

 心なしか疲れた表情の月島が見上げてくる。

「大丈夫さ。じゃあな二人共」

「もー、あんまり無茶しちゃ駄目だからねー」

 強襲用の装具から着替えに二人は地下へと降りていくが、自分は薬を貰いに行かないといけないので校舎から外へと出る。

「はぁ……最近、休む暇がないな……」

 歩くのが非常に堪えるが、この酷い頭痛で運転したら校舎に突っ込むか何処かに引っ掛けてしまいそうな予感がするので徒歩で向かう。

 暮初めの夕日が海に反射し、春の生暖かい海風が肌を撫でてゆく。

 遠くから聞こえてくる断続的な銃声。おそらく誰かが屋外射撃場で撃っているのだろう。

(……もう一回、暁に電話してみるか)

 腰のポーチに入れた私用のスマートフォンを取り出し、暁の電話番号に掛けてみる。

 数コールが鳴り――電話に出る音。

『影海か?』

「ああ、一体どこにいるんだよ暁」

『今、武学園の駅のホームに着いた』

「あの後は大丈夫だったのか」

『私を誰だと思っている?』

 確かに自分や美夜より倍の修羅場を潜り抜けているであろう暁なら大丈夫だと思うが、心配はしてしまうのだ。

「お前にはいらない言葉だったな。それと、ちょっと衛生科に用事があるからそれを済ましてから部屋に戻る。飯とかはそっちで適当に済ましていてくれないか」

『分かった――お主、大丈夫か? 若干だが呂律が回っていないぞ』

「そりゃあ、酷く疲れてるからな。明日はズル休みしたいぐらいだよ……それじゃあな」

『うむ、ちゃんと帰ってくるのだぞ』

 電話を終え、スマホをポケットに仕舞い込む。

 会話をしている内に衛生科の校舎に到着。八代は地下の研究室が主な活動場所だから、そこに行ったほうが合う確率は高いだろう。

 衛生科の校舎内は前衛科や諜報科の汚い物とは真逆で、病院の様な無機質な印象を与える白を基調とした配色になっている。

 ゴミの一つも見当たらない管理の行き届いたな廊下を進み、地下の研究室へ。

「いてて……酷くなって来たな」

 脈打つごとに鈍い頭痛が頭を打ち据えていく。頭全体もそうだが、特に酷いのは目の奥辺り。

 手すりに手を付きながらなんとか階段を降り、地下の八代の研究室にたどり着く。

 ドアの上のプレートには『第四研究室』と書かれ、部屋の責任者の場所には八代の名前が書かれたプレートが設えられている。

 ノックするが――反応が無い。

(この時間なら研究室に居るはずなんだがな……)

 試しにノブに手を掛けて力を入れると――呆気なく扉が開く。

「し、失礼します……」

 ここは諜報科のようにドアにブービートラップが仕掛けられているわけではないのだ。まず、罠があること自体がおかしい。

 研究室は照明が点いておらず、全体的に薄暗く、医療施設特有の独特な匂いが鼻を突いてくる。

 奥の方を見てみれば机の上に置かれたPCモニターから光が漏れ出している。

 足元に気をつけながら進み――ぐにゃりと何か柔らかい物につま先があたる感触。

「……?」

 恐る恐る足元見れば――

「ひぇっ……」

 銀色のボディバッグ(死体袋)に入った八代が横たわっていた。

 一気に頭痛が吹き飛び、朦朧としていた意識が一瞬で覚醒する。

「う……んん……」

 顔だけボディバッグから出ており、苦しそうな唸り声が口から漏れる。

「んん……うん……?」

 緩慢と瞳を開いた八代がこちらに目を向けてくる。

「なんだ、影海くんか……一体何の用だね? 安眠していた所なんだがね」

「ええと……」

「もしや、ムラムラっと来て性欲のはけ口に私を襲いに来たのかい? 確かに今の状況なら好き放題できるからな」

「何変な事言っているんですか……それより、頭痛薬を処方して貰いたくて来たんですけど」

「頭痛薬? 一週間前に渡したばかりじゃないか」

 もぞもぞとボディバッグから這い出ようとする八代。

「そうなんですけど、備蓄が切れそうでして……って、ちょっと!?」

 這い出て来た八代はどう言う訳か衣類を何も着ておらず、胸元の辺りが出たところで異変に危うく気付く。

「ん? なんだね」

「なんで何も着ていないんですか!?」

「寝る時にブラジャーを着けていると息苦しいんだ」

 確かに八代は色々と大きい。白衣と野暮ったい恰好であまり目立っていないが普通に『デカい』。

「だからって……校舎内ですよねここ。大体、なんで死体袋で寝てるんですか」

 後ろに振り向き直って突っ込みどころ満載の箇所を訪ねる。

「意外と寝心地がいいんだよコレが――影海くん、何故後ろを向いて話すんだい?」

「いやいや、先生が何も着ていないせいですからね? せめて何か羽織ってくださいよ」

「そう言えば、腐っても君は一応年頃の青少年だったな。大人の色香は強すぎたかな?」

 クスクスと後ろから小さな笑い。次いで衣擦れの音が聞こえてくる。

(本当、武学園の教師共はどうしてこうもおかしいのしかいないんだよ……!)

 しかも、運が悪い事に後ろを向いた先には散乱した女性下着が無造作に置かれており、上下の下着が一瞬だけ視界に入ってしまった。

「――こっちを向いても大丈夫だぞ影海くん」

 椅子の軋む音。どうやら椅子か何かに座ったのか。

「本当に大丈夫ですよね?」

「ああ、白衣を着たから安心してくれ」

 八代の言葉に安堵して振り向くと――さらに事態が悪化していた。

 白衣を身に着けたと言うのは確かに正しいが、白衣の下には黒い下着しか身に着けていない。

「これで文句は無いだろう?」

 幸いか前を閉じているからダイレクトに見えてはいないが、隙間から覗く肌や下着のレース部分が余計に危ない。

「はぁ……とにかく頭痛薬を貰えますか……」

「渡すのは構わないがその前に検査をさせて貰おうか」

「え」

「今、酷く意識が朦朧としていて立っているのがやっとだろう? それに、眼が霞んでほとんど見えていないはずだ」

「いや、そんなことは……」

「医師に嘘を吐くのはよくないぞ影海くん。それとも、無理やり診療台に括り付けてやろうか?」

「……はい、先生の言う通りの症状です。ほとんど見えていないです」

「よろしい、MRIと脳波検査を行うから病衣に着替えてくれ。早急にだぞ」

 投げ渡される薄い緑色の病院患者が来ている衣服。

「……また面倒な事になりそうだな」


――そして一時間ほどの簡易検査を受け、下着白衣の八代と机を挟んで結果を告げられた。

「脳に外傷は無いし、衝撃による脳出血や腫瘍も見受けられなかった。だが中身の方で何個か引っ掛かったぞ」

「マジすか」

「専門用語を交えると君の知能では理解できないから端折って端的に説明するが、頭痛の原因は君が昔から行っているトンデモ行為だ」

「フローがですか?」

「厳密に言うとフローは精神的起因によるパフォーマンスの良質化だ。君のようなスーパーマンじみた行為とはまた違うな」

「そうだったんですか……」

「頭痛はいわば脳の悲鳴みたいな物だ。君の場合だと、普通の人間の倍以上の負荷を脳に与えているから絶命してしまいそうな程の絶叫なんだろうな、下手したら脳死してしまうぞ」

 八代の言葉に背筋がゾッとする。

「ちなみに今までで今日レベルの頭痛はあったか?」

「進級試験の次の日に一回だけで、それ以降は今日までありませんでした」

「なるほどな、葛葉くんの話は本当だったのか……ちなみに今回は一体何をしでかしたんだ?」

 今更隠す訳にもいかないので正直に告白する。

「近距離の弾丸を見切って弾き逸らすか……君は本当に人間かい?」

「普通の高校生なんですけど」

「普通の人間は亜音速の弾丸を目で追える訳がないだろう……どんな風に世界は見えたんだ?」

「全てがルーペで拡大したみたいにハッキリと見えて、全てがスローモーションに見えました。弾丸、服や髪の毛の揺れ、空中に浮いたチリから弾頭の傷まで」

「とんでもないな、他には何ができる」

「他にですか?」

 フローで今までにやって来た事を思い出しながら語ると、八代が興味津々な表情で紙に文字を書き込んでゆく。

「なるほど……視覚だけではなく、他の聴覚や嗅覚もか……」

「先生、俺の『コレ』って一体何なんですか?」

「ふーむ……それが私にも分からないんだよ。海外でも君のようなケースを聞いたことが無いからね」

 八代ですら分からない事もあると言うのか。なんだか新鮮味を覚えてしまう。

「とにかく、今後は『ソレ』を出来るだけ使わないようにしたまえ。それは諸刃の剣だ、使えば使うほど君の脳は悲鳴を上げる」

「……使い続けると死ぬということですか?」

「それは極論の答えだな。バッタリと倒れて死ぬ可能性もあるが、一番起きやすくなるのは記憶障害、注意障害、遂行機能障害……要するに脳機能障害が発生しやすくなるということだ。健忘、注意能力低下、遂行能力低下……挙げだしたらキリが無い」

「先生、これは治せる物なんですか?」

「無理だな。それこそ武学生を辞めて、普通の高校生になるしかない」

 八代の言葉に心臓を掴まれたような例えようの無い不安感。

「それこそ極論じゃないですか。他には無いんですか?」

「無い物は無い。君で言う『フロー』は意識的に行っているのか、それとも無意識に行っているかによって返答が変わるぞ」

「意識的です。今すぐ出来ますけど……」

「ふむ……少々心苦しいが、患者の症状はこの目で見ておかないとな。お願いできるかな?」

 視線を落とし、ピントを虚空に置く。

 息を吸い、息を吐き。感覚が――鮮明な物へと変化する。

 視界に映る物全てが微細な部分までハッキリと見え、鼻腔が地下研究室の様々な臭いを嗅ぎ取る。耳から入ってくる音が一気に増し、身に着けた病衣越しに伝わってくる感触がさらにリアルな物へと変化する。

「……自分が来る前に宮原先生と喫煙してましたね? 煙草の臭いが先生からします、銘柄はカナビス・フリーですか」

「いかにも」

「それと、自分が来る前に飲食をした。食べた物は栄養調整食品のチョコレート味、飲み物はロブスタコーヒーに砂糖と大量の牛乳ですか」

「正解だ」

「あと、壁際の棚の後ろに脱走したマウスがいますよ。数は三匹、もう二匹はそっちの積み上げられた段ボールの中です」

 驚いた八代の表情。

「とんでもないな……マウスの脱走は誰にも言っていないんだがな」

「音が聞こえました。捕まえます?」

「いいや、既に罠を仕掛けているから大丈夫だ。なぜ、巴と会ったのが分かったんだね? 一応、消臭は行ったんだがね」

「髪の毛から宮原先生が吸っている煙草の匂いが僅かにだけしました。基本、学園内は禁煙ですよね?」

「まあ、そこは大人の事情と言うやつだよ影海くん。しかし、本当に細部まで当てられるとはな」

 不意を突くように八代の右手が閃き、寸前の所で手首を掴み取り――メスの刃先がギリギリの距離で停止する。

「これも止めるか。視覚と反射も鋭くなるのか?」

「だからって生徒に刃物向けないで下さいよ」

 恐らく普通の奴だったら反応できてなかっただろう、それほどに八代は速かった。

「研究者と言う生き物は試行錯誤を糧に生きているようなものだからね――そろそろ、止めて貰っても大丈夫だ」

 深呼吸、頭頂部分から『何か』が抜けていく感覚が体を通り過ぎてゆく。

 次いで頭に小さな鈍い痛み。

「痛むかい?」

「はい、支障の出ないレベルですね」

「ふむ……なるほどな――影海くん。少し休んでいてくれ、情報を整理させて貰いたい」

「分かりました。もう着替えていいすかね?

「ああ、特にやることも無いからな」

「分かりました。あと、外の息を吸ってきますね」

「うむ」

 部屋の端で強襲用装具のインナーだけを身に着け、病衣は丸めて置いておく。散乱した足元に気をつけながら地下研究室の外へと出ると――盗み聞きしていた奴の面を拝みに一階へと階段を足早に昇る。

『フロー』――正確には違うので何と名付ければいいのか、考えておかなければならない――に入った時、研究室の外に人の気配がしたのだ。

(誰だ? フローになるまで完全に分からなかったぞ……)

 微妙に残っている鋭くなった嗅覚で辺りを嗅いでみると――花のような良い匂いがする。

「んん? なんか何処かで嗅いだことあるな。何だったっけ……」

 独特な花の匂い。何処だったか……この思い出せないのもフローの反動のせいなのか。

 階段を昇るが、廊下には誰もいない。

「逃げられたか……戻ろう」

 踵を返し、地下へと戻ろうとした時――

「わ、ユウじゃん。こんな時間に衛生科でなにしてんの?」

 上、階段の上階から降りて来た女子生徒――クラスメイトの東辺葵が驚いた表情で話しかけて来た。

「ちょっとした検査を受けにな。東辺こそこんな時間まで何してたんだよ」

「馬鹿なユウと違って私は勉強してたのよ。どうせアンタ、また現場で馬鹿やったんでしょ」

「う……」

「ほーらやっぱり。本当、アンタはヤワよねー、諜報科でマスケでも履修すればいいんじゃない?」

「んだと、脳筋衛生兵」

 中指を立てると、東辺もレスラーのヒールばりの表情を浮かべて歯を見せて威嚇しながら中指を返してくる。

「けっ、私は忙しいから見逃してやるわ。明日、椅子にエポキシ塗りたくってやるから」

「一昨日きやがれ」

 喧嘩腰の会話は武学園の日常。本当、武学園はとんでもない奴しかいない。

 気を取り直して階段を下り――

「ここに居たのか影海」

――後ろから聞き覚えのある声。振り向けば制服姿の暁が。

「暁? どうしてここに」

「帰りが遅いから様子を見に来たのだ。下はMRIのある階層ではないのか?」

 暁の手には大き目の紙袋。

「ちょっと頭を打っちまってな、それで検査をしてた」

「大丈夫なのか」

「何も異常は無かった。しかし、お前が心配するとはなあ……何だか意外だな」

「美味い食事を作る同居人がいなくなるのは生活に支障が来してしまうからな」

「ひどい扱いだな――その紙袋はなんだ?」

「お主の制服と装備だ。回収する手間が省けただろう――しかし、お主が医者に掛かり付けるとはな。意外だ」

「他の連中とは違って俺は繊細なんだよ。着替えてくるから待っててくれ」

「衛生科の主任とやらを一目拝んでおきたいのでな。着替え終わったら呼んでくれ」

「止めとけ止めとけ、自ら関わっていくとロクなことにならないぞ」

 性別年齢問わずセクハラ発言してくるし、平気でメスを突き付けてくるし……近頃、柊や鬼島先生の方が普通に見えて来た。

「――ほう、私と関わるとロクな事にならないか。確かに私は破天荒で自由気ままな性分だからな」

 後ろから声。恐る恐る振り返れば八代がドアの隙間から顔だけ覗かせてこちらを見ていた。

「貴方が衛生科科長の八代早苗先生でしょうか?」

 佇まいを直し、暁が真面目な表情で問う。

「いかにも。武装学園中央支部衛生科科長の八代早苗だ。そう言う君は――ほうほう……この間の影海くんから漂った香水の持ち主くんか。だが、二人から同じヘアシャンプーの匂いがするのはどう言う事かな?」

「そ、それは……」

 珍しく言い淀む暁。

「近頃、影海くんが女子生徒を部屋に連れ込んでいるという話は本当だったか。一体学園長は何を考えているのやら」

「俺が聞きたいくらいですよ本当」

「たしか暁奏くんだったかな? 北ヨーロッパ支部のエースの噂はかねがね聞いているよ」

「恐れ入ります」

 普段は強気な暁も教師の前では普通の学生。

「中央支部でも同じような依頼を請けているのかい?」

「いえ、前のような依頼は辞退しております」

「日本は日和った平和な国だからな。君が出る依頼は滅多に起きないさ――それと影海くん、先程の件で話がある。中へ来てくれないかな?」

「分かりました。暁、申し訳ないんだが外で待っててもらえるか?」 

「うむ」

 研究室に引っ込む八代。続いて自分も研究室へと入ると、奥の八代のデスクの方へと向かう。

「先生、それで整理はついたんですか?」

「大雑把だがね。推測の答えだが君は脳の処理能力を自在に出来るようだ」

「えーと、どういう事ですか?」

「分かりやすく例えると『回数制限のついたブースト機能』みたいな物だな。一定数までは使えるが、制限に達した瞬間に壊れていしまう」

「……つまり、自分のココは普通のモノじゃないってことですか?」

「傷つくかもしれないが、そうだ」

 八代の容赦の無い言葉。

「極力それは使わないように意識しろ、やむ負えない場合は仕方がないが些細な事で使うには代償が大きすぎる」

「明確な名前とかってないんですか?」

「申し訳ないんだが無いな。初めて見る症例だ、まあ今までフローと呼んだ方が君的にはしっくりくるんじゃないか?」

「まあ……そうしときます」

 まさか自分の頭の中にとんでもない爆弾があったとは……何というかやるせない感が半端ない。

「以上で診察は終了だ。それと、今後の頭痛薬の処方は終了させてもらう」

「えっ」

「君が飲んでいた物はあくまで普通の鎮痛剤だからな。頭痛は脳の負荷による物だ、その負荷による頭痛を薬で抑えると言うのは余計に危険な行為だ」

「……分かりました。とにかく『アレ』――フローはなるべく控えます」

「ああ、早死にしたくなければな――さ、外で君の彼女が待っているから早く帰るといい」

「暁とは違いますって」

「個人的な見解だがお似合いの二人だと思うがね? ま、短い青春を精一杯楽しむんだな少年」

 老人臭い事を言ってくる八代。

 制服の入った紙袋を手に取り、床に置いた強襲用の装具類を抱え上る。

「……失礼します」

 頭を下げ、僅かに痛む頭のまま研究室を出る。

「大事なかったか?」

 壁に寄りかかって待っていた暁が、開口一番。

「――ああ、単なる疲労みたいだ。栄養取ってキチンと睡眠しろだとさ」

「ここの所は多忙だったからな仕方があるまい」

 途中で着替えるのも面倒だし、このまま帰ろう……今日は色々と疲れた。

「本当にな、明日の授業休みたいよ」

 衛生科の校舎を出ると、日は完全に落ちており。夜空が広がっていた。

「あっ、そうだ。美夜なんだが命に別状はなかったそうだ」

「それはよかった」

「頑丈さだったら中央支部イチだからなアイツは。多分車にはねられてもピンピンしてるぜ」

「ふっ」

 小さく笑う暁。

「――さてと、夕飯は何にするかね」

「ステーキがいいな、肉厚の噛み応えのあるリブだ」

「おいおい、そんな気力は無いぞ俺……軽い物しか作れんぞ」

「ふむ……それなら私がお主の為に体力の付く料理を作ってやろう。真冬のケミ川で水中訓練出来るほど体力が付くぞ」

「それ、絶対にヤバい奴だろ」

「二日ほど不眠できるほどだ。慣れると美味いぞ」

 にっこりと笑う暁。どうしてこういう時に限ってそんな顔ができるのか。

「と、とにかく夕飯は俺が作るから……!」

 こうして、騒がしい休日は静かに終わりを迎えるのだった――

細々と続けてきた一部が終了となります。

現在二部を執筆中ですので、気になる方はお待ちくださいスミマセン。


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