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【隠れん坊】


「もういいかぁい?」

 まぁだかな?

「もういいかぁい?」

 もういいかな?

 深い山奥、夕も過ぎ。闇中、人知れず遊戯に興ず。

 潜めた気配が森の中。木陰に震える小さな影。小さく、大きな笑みを浮かべる。

 驚かせようと、踊りだすような心地で素早く駆け寄って回り込む。

「みぃーつけた」

 闇夜に広がる無邪気な声。

 凍りつく様に重い空気。

 驚いた表情を浮かべる相手。

 その顔に、その体に、その影に、手にした牙を突き立てる。

 心地よい悲鳴は乾く腹を満たす。気持ちよい夜を取り込むように、深く息を吸う。

 さぁ次はどいつだ、逃げろ隠れろ。早くしないと食べちゃうぞ。


【鬼】


 それは何時の事だったか、よぅく覚えてはいない。祭りの無い時期はとんと暇で、気まぐれに村の様子でも見に行くかとか、そんな目的も無く山を降りた日の事だったか。

 村への入口に差し掛かったところで、妙な娘を見かけた。

 村へと続く橋を通らず、人目を引かないように下の川原を、ちょうど村へ帰る所なのだろうか、衣服は乱れ、足取りもおぼつかない。

 ただ、それらを差し引いても大層美しかった。もっと近くで見ようかと、川原へ降りてみると、その娘には見える事は無いはずなのだが、こちらの方へと寄って来て、声を掛けてきた。

 思わず咄嗟に……何だか分からない獣の振りをしたんだったかな? その娘は、特に疑問も持たず、軽く頭を撫でて、村へと帰っていった。

 そうだ、コレが確か出会いだった。


【久遠進】


 ざくざくと雑木林を掻き分けて。

 じーじーと五月蝿い蝉の夏。

 この日の仕事は珍しくも観光地だった。と言っても、自殺の名所紛いの森林に失せモノ探し、という今一気乗りのしない内容であるが。

 身の凍る、意識の混ざる、沈んだ闇。

 傾斜の定まらない深い山奥。僕は日差しを遮る樹を潜る。

 もういいかぁい?

 目の前を見た事も無い蝶の幻覚が舞い、耳に聞こえる声真似をする鳥。何処の国かと疑いたくなる光景ではあるが、一応国内であると注記しておこう。良く見れば、ツルや七色の花の隙間に国産樹木が見え隠れしている。

「もういいかぁい?」

 先ほどから声。目の前を進む、黒髪長髪の和服美人は、幻想を追う様に何度も何度も尋ね続ける。

「何ですかそれ?」

 樹海に似合わない服装にも関わらず、黒い小紋に身を包んだ女性は、必死に追いつこうとする僕を引き離しながら振り返る。漆黒の和服が、暗がり一面の視界の中を優雅に飛ぶ。木漏れ日を燐分の様に、その姿は死に誘う夜の蝶。

「知らないか? 隠れん坊」

 意外そうな顔で煽り見るその隙に、僕は離れた距離を一気に詰める。

「いや、ソレは知っていますって、何で今、誰とやってるんですか? って事で」

 生い茂る山奥、地元民も寄り付かない、僕だって仕事じゃなけりゃ近寄りたくないこんな秘境で何故? って事で。

「だってアタシ等は探す側だろ? だったらもう見つけてもいいか、伺わないといけないじゃないか」

 至極当然といった顔で、再び進行を開始する。

 どうにも訳は分からないが、恐らくそういう意味なんだろう、っていうかそう理由にしておく。この人のやる事成す事一々議題にあげていたら、到底一冊じゃ編集しきれない。

 再び距離の空く後姿に、投げやりな返事を返す。

「まぁ、いいですけど別に」

 確かに別段どうだっていい。どうにもならない夏の気温が、徐に体を蒸し上げる。蒼い空の下に隠れるように、陰鬱な木陰が続く獣道。

「にゃ」

 慰めるように、足元の白猫が鳴く。

 動物なだけに、こういった地形は歩き慣れているのか、悠々と僕の周りで、文を巻いたフサフサの尻尾を揺らす。

「お前は歩きやすそうでいいよな」

 いっそ僕も四足歩行に進化しようか、いや、この場合退化かとか、どうでもいい事を本気で考えてしまう。つまりは疲れているわけで。

「にゃ」

「はいはい、真面目に歩きますよ」

 猫に言いなだめられるように、僕は歩みを速める。

 ちなみにこの猫は、別に僕の飼い猫って訳じゃ無いが、かといって赤の他猫と言う訳でもない。ま、時々隣に居たり居なかったりする複雑な関係なのだ。

 生い茂る草木の枝を掻き分けながら、ただひたすら奥を目指す苦労に比べれば、些細な問題には違いない。

「ってか、何処に向かってるんですか?」

 躓きかけた体勢を立て直して、軽やかに前を行く姿を見失わないように進んでいく。

 正直行き先不明じゃドンドン気持ちが遭難者よりに傾いて行くって言うか、まさかもう自分達が探される側に回ってるって事は無いだろうな?

 押し寄せる不安と疲労に、心と体が挫けそうになる。

 陰陰滅滅としそうになる。

 へたり込みそうになる。

 項垂れそうになる。

 しおしおになる。

 諦めそうになる。

「勿論、探し物の元さ」

 先導者の足取りは迷う事無く、暗がりの中でも確固たる己の黒を主張しながら、先へ先へ。どうしてあの人、あんな格好で山登りして疲れないのだろうか、不思議でしょうがない。元より摩訶不思議で形成されているので、尋ねたところで、新たな疑問を生じさせる返答を寄越してくるだろうから、その質問に関しては胸中に埋葬するより他無い。よって代わりの質問を口にする。

「で、何時まで歩くんですか? 日が昇る前から出発して結構経ってますけど」

 コレは聞いておかなくてはいけない。知って然るべき事柄だ。このまま歩き通しで野宿とかは勘弁して欲しい。何かここ変な獣とか、それ以外の何かとか出てきそうで怖いのだ。

「安心しなさいな、もうすぐそこさ」

 そう言って、軽い跳躍。

 蝶は、ひらひらと虚を舞う。

 数メートルはありそうな巨木の根を、軽々と越えて視界から消える。

「ちょっと!」

 慌てて這い上がろうとするが、上手く足場が見つからず、って言うかでけぇって! 無理無理。

 樹齢が軽く人の歴史ほどありそうな、古木の周りを右往左往。

「にゃ!」

 鳴き声の先導で、急ぎ遠回りし、木の裏側に居た後ろ姿に追いすがる。ったくあの人どんな身体能力有してんだか。

 息を整える暇も無く、追いついた頃合を見計らって、ひっそりとした木陰を指差す。

「ほら、ここだ」

 まるで遊戯に興ずる子供のように、無邪気な声色が森に木霊する。

「いったい何が……?」

 覗き込んだそこに死。

 晴れやかな空の下に、陰鬱で不快なモノはいつだって蔓延る。何処でだって繁殖する。

「あんまり子供が見るモンじゃないよ」

「連れて来ておいてそういう事言いますか……」

 確かに後悔はしましたが。

「だから入口で待ってろと言ったのにな」

「こんな自殺の名所で、お留守番とか御免です」

 しかもこの人、うっかり忘れて置いて帰りかねないし。

 ぎゃーぎゃーと木が急かす。早く出て行けとがなり立てる。

「ほらな、お前さん好かれやすいだろ? 色々と連れて帰りそうで厄介なんだよ」

 この人にはそう聴こえたらしい。そう感じたらしい。酷く共感しかねる。

「こんな所で何を拾うって言うんですか? 大体」

 黒髪の女性は、意味深で軽薄そうに口の端を吊り上げて言う。

「色々とさ」

 木々の闇に男の死体。四肢を投げ出して倒れ伏す。

 上半身と下半身が別々に。

 ソレが、この深い山奥に何だか似合って見えた。

 身の凍る、意識の混ざる沈んだ闇に違和感無く。これに怯える事こそ不自然に感じた。

 ぞわぞわと闇が蠢く。息の詰まる金縛り。

 きりきりと心を締め付ける。時間が止まる酸素欠乏。

 人目につかない孤独な樹陰で、密かに息絶えた見知らぬ者に。

「さてと、見つけた者の義理でも果たすか」

 彼女は遊び終わりを告げるかのように。

 コレで家に帰れるとでも言うように。

 告げる。

「みぃーつけた」


 水薦苅、信濃の真弓我が引かば、貴人さびて否と言はむかも。

 と、久米禅師が万葉集で詠う様に、信州は木が有名だ。確かにこの広大な山々は豊かな自然の象徴であり、また人の力の及ばなさの象徴とも言える。

 ちなみにこの歌は。

 水薦苅、信濃の真弓引かずして、弦著くるわざを知ると言はなくに。

 と、返される。歌を要約するならば、誘っても断るでしょう? と言う最初の歌に、そう言う前に本気で誘ってみなさいと返しているわけで。まだまだ歌の掛け合いは続くのだが、今はこの日本の屋根の一角である高山を下山するのに精一杯、身勝手ながら、講釈は終わりとさせていただく。


 ……ォン

 反響して、周辺の木々を震わせながら、重く独特な調子を持つ楽器の音。麓に近づくにつれてはっきりと聴こえてくる。地元では鬼の縊り歌と言われているらしい。

「はっ、首から上が無くなりそうな音だね」

 この和服美人は、好いてはいないらしく、坂道を下りながら皮肉気に顔をしかめる。

「童歌って奴ですかね? この辺でよく聞きますが」

 地元の子供が歌っていたのをを思い出す。その時の曲調はこういった重々しい物では無かったが。その疑問を口にすると。

「祭囃子は幾つかの楽器が合さって、子供が歌うような陽気な曲になるのさ、笛は主旋律だからな、単品では味気ない」

 長々と、これまた見解は続くのだが、疲れるので割愛させていただく。

 喉かな陽気の下、ようやく歩きやすいなだらかな道になる。朝から歩き詰めで足腰も限界に近いのだが、前を行く人は疲れなど微塵も見せず、先ほどから語り続けている。まだまだ余裕であるようだ。

「和声と律動は確かに重要な構成要素ではあるが、印象的な主旋律は……おや?」

 講義を唐突に止め、先を行く和服の美人は目の前を指す。

「見ろ、しょうぐんだ」

「あ、ホントだ、いつの間に」

 目線の先の大岩の上に、白い猫。

 いつの間にか居なくなっていた先ほどの白猫が、待ち惚けたと言う表情で、欠伸をする。真っ白な毛並みの尻尾の先に、やはり文を括り付けているのが目印だ。

「相変わらず神出鬼没だね、ご主人?」

「だから、飼ってる訳じゃ無いですから」

 一応しょうぐんと言う名前を付けたのは僕である。名前の由来は昔の知人のあだ名から。飼い主と言われても、僕はこの白猫の事を殆ど把握して居なかったりする。って言うか特に世話もしていないし。よくよく僕の行く先々に現れるって程度だが、妙に僕を好いており、手を伸ばせばこの様に頭を預ける懐きよう。

「神崎さんは猫嫌いですか?」

 僕等のじゃれ合う様子を傍らで眺めている事務所の先輩に気を回すも、片手を制止の形に持って行き。

「この前引っかかれた。やはりコイツはお前の飼い猫だよ」

 やれやれと、道なりに進みだす。

「にゃ……」

 仕事途中に挨拶がてら寄っただけなのか、そのまましょうぐんは立ち上がり、岩の向こう側へと姿を消してしまった。はてさて尻尾の手紙は誰宛か。相変わらず正体不明な猫である。

「後で民宿に顔出せよ? 飯用意しとくから」

 声を投げかけると、にゃっ……と軽い返事が聞こえた気がした。

 撫でたやわらかい毛並みの感触を掌で反芻しながら、先行き置いていく神崎さんを追いかけて小走りになる。


 ……ォン

 次第に、中腹の山道流れる民謡歌の音が大きくなっていく。坂も落ち着いたところに、音源は居た。その音を奏でる主には思い当たるところがあり、僕は声を上げる。

「やっぱり、待っていてくれたみたいですよ」

 背の高い木々の脇に、地味めな紬を来た村娘風の女性が、手にした横笛を鳴らしていた。

 ……ォン

 音の余韻が、木々を震わせる。何でも、山奥に行った者が、無事帰ってくるための呪いで、鬼避けの音だとか。

 僕等のために朝方からずぅっと鳴らしていたと言うのにこの人は。

「ああ、頭が消えるかと思ったね」

 労う素振りも無く、村娘の手前を通り過ぎて言った。しょうがなく、代わりに僕が挨拶を交わす。

「ただいま帰りました。朝からご迷惑をおかけしまして……」

「いえ、祭り稽古も兼ねてますので」

 娘さんは、大きめな横笛から唇を離し、こちらに清楚で垢抜けていない純朴そうな笑顔を向ける。

「それに準備の期間村の人が山に入るのは禁忌ですので、ご案内できなかった分のせめてもの気持ちと受け取って置いてくださいまし」

 小柄な体に詰まった精一杯の誠意とやらがあふれ出すように、つられてこちらも優しい気持ちになってしまいそうな、そんな言い方だった。

「ありがとう」

 年の頃は僕より二つ三つ下くらいか、ソレにしてはしっかりした物腰だが、ソレもそのはず、彼女は、この村でお世話になっている宿場の若き仲居さんなのである。仕事着に身を包んだ彼女の佇まいは大人顔負けで、僕がこのくらいの時は馬鹿ばっかりやってた事を思い出すと、自然と頭が上がらなくなる。

「さぁ、早く宿に戻って煙草だ酒だ! 食って寝るぞ!」

 駄目大人を自己表現するかのように叫ぶ神崎さんとは大違いだ。と言うか、未だにこの人を大人扱いするには若干抵抗があるので、その時点で勝負は決している。

「他の皆様も、すでに帰っておいでです、宿でお待ちですよ」

 そう告げてから、お荷物を預かりますと言うので、僕は丁寧にお断りした。そこまで尽くされては申し訳ないと言う気持ち半分と、神崎さんから預かっている仕事道具なので、手放す事に抵抗があったのとの半々だ。このリュックに詰め込まれずっしり重く、そのくせ結局使わなかったと言うオチも含めて、やはり最後まで僕が持つべきだろう。


 山間、山々に囲まれると言う事は、同時に自然の驚異に囲まれると同義だ。住んでいる人から言わせれば共存していると言うし、自然から言わせれば勝手に間借りしているとも表現できる。いくら木々を切り倒し家を建てたところで、日々の手入れを怠ればたちまち草木に飲み込まれ、元の自然に戻ってしまう、そういった狭間の駆け引きが、人によっては風流で優美な物に映るのかもしれない。そういった理由でか、僕等が訪れているこの山村は観光地としてはそれなりに名が通っていた。

 だが、その名声もここ最近では朽ち掛け始め、少し前の土砂崩れが致命打となったようで、伝統的な祭りも近いというのにこの村に滞在している観光客は僕等だけであった。しかも僕等は仕事で寄っているので、実質来客は皆無と言える。

 しかし住民にとっては、観光客など気にするものか、自分らは単に年中行事を行うだけという認識であり、来客望めずとも準備に手抜かりは見られない。

 木造の家々には、由来は知れないがそれらしい飾り物が付けられ。家戸を大きく開けた民家の奥では、服飾、飾り作り、祭り稽古、菓子作りなどが盛んに行われていた。やはり祭りとはその準備の時も祭りなのだ。今夜から数日間行われるという祭りにかける村人達の意気込みが、口に出さずとも伝わってくるようで、見ているこっちまで何故か参加している気分になってくる。

 無邪気そうに、気早に装飾を手に駆け回る子供を避けながら、神崎さんに声を掛ける。

「こんな山奥だと言うのに、随分と手の込んだ祭りをしますね?」

 対比的に神崎さんは、少し機嫌が悪そうに見えた。気乗りのしない口調で返事する。

「ああ? 馬鹿を言っちゃいけない、山奥だからこそ信仰が根強いんだろうが」

 元より混雑とか祭りが嫌いそうな神崎さんは、微かな視線を投げながら続ける。

「帝都の祭りなんぞ、多宗多教が信者を奪い合って混沌としている、規模だけでかくてもあれじゃ単なる大騒ぎにしか見えない」

「じゃあ、僕が知らないだけで、都心よりも盛大な祭りとかって沢山あるんですか?」

 神崎さんは、分かっていないなぁと言うような仕草と表情で、先ほどの様に僕を煽り見る。

「祭りはね、祀ると書くんだよ。神霊を祀る儀式や神事の事だ、規模とか華やかさが問題じゃない」

「はぁ……」

 またこの人の私説が始まったようだ。語りだすと長いんだよなぁこの人。

「ま、もっとも。騒ぐ事が悪い事じゃない、神道においての神々は比較的身近な者として扱われるし、人が好む物を同じく好むと考えられているからな、楽しい事は大いに結構だ」

 次なる発言へと息継ぎする隙間を縫って、宿泊先へと案内をする若き仲居さんが感嘆を挟む。

「凄いですね、もしかしてお二人とも、お偉い学者さんか何かですか?」

 高説が途切られ、少し不機嫌そうにするが、すぐに気を取り直して、神崎さんは仲居さんに告げる。

「いや、学者では無いよ、単なる専門家さ」

 そのまま先へと促すように前へと進みながら、ポツリと続ける。

「超常現象のね」


 仲居さんは先に部屋の用意を終えておきますと言って、一足先に宿に戻って行った。その後姿を見送ってすぐに、視界に大きな屋敷が入ってくる。

 立派な外観に、年代を感じさせる風格をまとい、元々は武家の屋敷かと思わせる、その名も旅館「ひもろぎ」の前にて、白く煙を漂わせ、佇む影二つ。

 神崎さんは何を躊躇うものかと、進んで煙の中へと入って行き、人影の片割れに声を投げかける。

「鬼が出るか蛇が出るかと身構えただけ骨折り損だ、そっちはどうだ?」

 煙の向こうから返事が返ってくる。

「狐にも天狗にも出会わなかったのかい? それはついていないねぇ、ボク等はねぇ野槌蛇に出会ったよ」

 さりげなく口から、煙とか嘘とか真とかを吐き出す、異国の外観を纏った男性。

「ほう、まだこの辺には居るのか、とっくに絶滅したと思っていたが」

 この手の話には、疑いもせず、腰も折らず付き合う神崎さん。男性は話にさらに輪をかける。

「大っきかったよ、その上首が八つもあったもんだから、咄嗟に酒で酔わせてね」

 途中から、別の化け物の話になっている気がしないでもない。

「それで寝込みを襲ったわけか、で、草薙の剣は手に入ったか?」

 しかも、神崎さんも話に悪乗りをするから始末が悪い。

「生憎ハズレを引いたみたいだ、しかし収穫はあったな」

 そう言って、何やら走り書きのメモを施した地図を手渡す。

「宝の地図か?」

 いつまで続くんだろうこのやり取り。

「そう、謎を解かねば辿り着けない秘宝のありかを示している」

 地図はこの辺の地形を示しており、×印の代わりに地図には神社を示す記号が書かれている。

「行っては見たのか?」

 黄金色の髪を軽く書き上げ、男は答える。

「すでに盗掘済みだったけどね」

「ふぅむ」

 よく分からないやり取りが交わされる。

 すると、煙の影のもう片割れが、僕の名を呟きながら抜け出てくる。

「進……」

 小袖にあんどん袴という典型的な女学生の姿をした同年代くらいの女の子が、泣きつくように僕の元へとおぼつかない足取りで辿り着く。ちなみに、僕も小走りに走ろうものなら、登山の疲労で彼女のように千鳥足になるだろう。

「奏、大蛇が出たんだって?」

 僕の片袖につかまってようやく立っていられる風で、返答する。

「さぁ……青大将が上から落ちてはきたけど」

 正体見たり枯れ柳と言う事か。

「まったく麗滋さんは……」

 呼吸と共に虚実と煙を吐く、異国の男性を僕は見る。

「異国風にレイジーって呼んでって言ってるのに……キミ達も浴びておくかい?」

 焚いている香の煙の向こうで、ヒラヒラと手を振る。

「香はね、焚く行為に浄化の効果があるのさ、身は清めておいて損は無いぞ?」

 神崎さんが、香を焚いているレイジーさんの横で一服吹かしながら注釈を加える。

「そんなヤニ臭い煙はご遠慮です」

 一応は森の中と言う事で先ほどまで火気厳禁を強いられていた神崎さんは、早速とばかりに、現在気持ち良さそうに煙草を味わっていらっしゃる。その幸せそうな顔を見たら、文句を言う気も失せると言うもの。

 ようやく自分の足で立てる様になった奏が、僕を見上げながら弱弱しい声を上げる。

「進、ひ、人が……死んでた……」

 ああ、まったくそこら彼処に死体が転がってるなんて、どんな観光名所だ。年々名探偵でも迎え入れているに違いない。

「こっちにもあったよ、上下真っ二つの仏さん」

 あの人達も、よく年頃の女の子に死体見せて平気で居られるもんだよまったく。ま、そういった非難をしたところで、君、それは過保護と言うモノだとか、真実を包み覆い隠すのは卑怯者のやる事だねとか、逆に僕が非難されるのは経験で分かっているけどね。

「ば、ばらばらだった……ええっと、その前に社があって……」

 何とか僕にあった事柄を伝えようとしている気持ちは汲み取れるのだが、思い出したくない映像が頭を過ぎってか、説明に纏まりがない。聞き終えた話を要約すれば。

 奏は僕等と早朝別れ、レイジーさんと共に反対側の山へと探し物を求め散策に向かって、その先で壊れた社を発見、軽く調査を終えて帰路の途中、四肢をばらばらにされた男の死体を発見したというわけだ。

「そして、僕等が帰るのを待ちながら、色々と準備をしていたと……」

「そう……」

 意図が伝わって、満足そうに震えながらも奏が頷く。

「これで、死体が二つ、村で見つかった死体を合わせて三つ、壊れた社も話通りだし、依頼内容の下調べには十分だな」

 神崎さんが、依頼の手紙を再確認しながら頷く。

「言われた通り、注連縄で結界は作ったけどね、専門分野じゃないから完璧とは言いがたいよ?」

 レイジーさんが、紙垂をつけた縄を取り出す。

「構わん、元から目印のような物だからな」

 よく見れば、村を囲うように木々に渡されているのが分かる。僕等が来るまでやっていた準備とはこの事だろう。

「結界って……何かが襲って来たりするんですか?」

 ふとした問い掛けに、神崎さんは意地悪そうな笑みを浮かべる。

「ふふ、当たらずとも遠からずさ」

 妙に機嫌よく、笑っていて質問に答えてくれない神崎さんの代わりに、レイジーさんが答える。

「逆だよ、この結界はこの村を神域とするために用いている」

「神域、ですか?」

 聞き慣れない単語に、奏が首を傾げる。

「つまり舞台は整ったわけだ、さぁ後はお客を待ち受けるだけ……」

 神崎さんの気持ちの高まりが、周囲を震え立たせたのか、それとも他の何かがお越しになったのか、異質な音。

 木々が喚き、命ある者が逃げ惑う。注連縄の結界を踏み越えて、村全体が震え上がる。

……ォン

 実体の無い重苦しい、音すら無い存在感が、姿気配なく這入り込む。

「……やはり、少年。お前を連れて行ってよかった、案の定良いモノを連れて来てくれたな」

 心底楽しそうな、神崎さんの声だけが、不可解な気配に静まり返る村に良く響く。

 始まりに過ぎない序章、語る必要も無い事前説明、他愛無い前説を終え、今正に、仕事は、事件は、物語は始まったという錯覚を覚える、明瞭にして曖昧、簡潔にして難解な、凡そ語る必要も無く、しかし語らなければ始まりすらしない、本題を、今を持ってようやく彼女は告げたのだ。

「ほうら、鬼が来なすった」


【水仙寺奏】


 昔々、山間にて鬼巣くう。

 この鬼、嵐を呼びては、水害や土砂崩れを起こし、近隣の村人を困らせた。

 ある時、立ち寄った修験者が鬼を笛にて洞穴にて封ず。

 以後、再び鬼が暴れんように、年に一度、祭りを行うよう村人に言い、笛を残す。

 以後、年に一度の祭りを欠かす事は無く、鬼も水害や土砂崩れを起こさなくなった。


 と、言う伝承が、この村には伝わっているらしい。

 もっとも、先月辺りに土砂崩れが起こっている時点で、眉唾物だとは思うけど。

 コレだけ聞けば、取るに足らない寓話の一つとして、宿の主人等が観光案内ついでに話す程度で済むのだろう、だが今回の仕事はその話を端にしているので無下にはできない。

 事の発端を紐解けば、先月の土砂崩れであるらしい。

 伝承を別としても、この近隣での地すべりは百年ほど無かったらしく、村人にとっても始めての脅威に、周辺の村々から応援を呼ぶほどで。幸いにも村に被害は無く、コレも鬼を祭っていたおかげとより信心を深めたものだが、しかし驚倒。その信仰の要である鬼を封じた洞穴が土砂で埋まってしまったという。何とか掘り起こすも、社はめちゃくちゃに壊れてしまった。

 それからしばらくして、村の若者一人が、山中にて鬼に会ったと言う。その若者は、そのすぐ後に鬼に食われて死んでしまった。

 若者の友人が勇猛果敢にも敵を取るべく山に入り、帰らず。またもう一人の勇敢な友人が、二人の敵を取るべく山に入り同じ。そこでようやく専門家の所に文を出すに至ったという。

 私、水仙寺奏は、進、レイジーさんと別れ、同姓の神崎さんと共に女性部屋に向かうべく、大きな廊下をギシギシと行く。

「何で、警察や憲兵には要請しなかったの?」

 事件のあらましを整理しながら、私は疑問を口にする。事件や事故は、本来お役所の仕事であるはずだ。

「信仰心が深そうだからな、信心の無い者になど頼めるかと言う事だろう」

 宿の廊下を先に歩きながら、神崎さんが私の呟きを拾って返す。

この手の事件と言うのは、普段は役所をたらい回しにされた挙句、二、三業者に騙されてようやく私達本業に声が届くのが通例で、今回の様に一足飛びに専門家に話が行く事など希な話である。

「ま、でも、神崎さん達が動いたのなら、もう解決済みも同然ですよね?」

 運が良かったのか、間に何者かが介入したかは分からないが、ここに連絡を回すのは最善以外の何者でも無いと思える。少なくとも、この着物の女性は、私の知る限り、この手の事件を未解決で終わらせた事は無い。

「さぁな、それはどうとも言えないが」

 珍しく謙虚な仕草で、神崎さんは頭を振る。

「そんなに手強い事件なんですか?」

 木枠の窓に、深く生い茂る森林が人の領分を侵すため、今か今かと鎌首を擡げるように鶴を伸ばす。山の中では人は異物だという事実を妙に実感させる。

「手強いかどうかは、事がおきてみないと判断しようが無いのさね」

 ん? ちょっと理解しかねる言葉を耳にした。

「え? 起きてみないとって……もう三人も死んでるじゃないですか」

 そもそも、事件が起きていないのなら、私達がここに居るはずないのだから。

 古びた木造廊下が、外から聞こえる野鳥のさえずりと唱和して、緊張を張るような音を立てる。

「うちの専門は何だったかな?」

 唐突に振り返り空の質問、翻る黒髪が、薄暗い廊の微かな日差しに照り返る。

「え? ……ち、超常現象……ですよね?」

 超常現象、と一口に言っても取り扱う事柄は様々。曰く人外の良し悪し事、奇妙珍妙な怪事件。狐狸に猫に魚、虫から、奇病、奇行、狂人数多に手を伸ばす。

 近年、西洋の文化を取りいれた事で、生活用式は混ざり合い、確実に時代は推移変移して行くし、それは人の歴史でも珍しい事では無い。だがそういった節目には、必ず巷で様々な問題が生じるのが世の常である。

 そして人知の及ばない出来事の多くは、そういった世の暗がりを好んで繁殖するのである。

 うちの会社は所謂一つの便利屋で、凡そ表立った会社では扱いきれない、厄介事を引き受ける事を生業としており、依頼があれば海へ山へ、事件解決のために足労するのである。

「ま、そう言う事さ」

 どう言う事なのかさっぱり分からない。

「いえ、だから意味が分かりません……」

 あっさりと説明を端折る様子に縋り付くも、神崎さんは底意地の悪そうな笑みを返してくる。

「それよりもお前さん、何だって学生服なんだい、あの坊主に意識させるなら、私服とか色々あるだろうに、どうだ? ここの浴衣でも着ていくか?」

 私の小袖の袖を取って、ため息混じりに尋ねる。

「えっと……誰が何を意識させるって言うんですか?」

 神崎さんの小悪魔的微笑は変らず。

「おや? 分かってるくせに、坊主が行くと知って、我先にと手を上げたじゃないか」

 何とも、嫌味たらしい響きを伴って私の袴を摘む。

「な……バっ! そ、そんな事は決して!」

 急な話の振りに、平時を装う事もできず、ただたじろぐ私に、今度は悪戯な笑みで神崎さん。

「どれ、下はどうだ? 何だ、やる気は満々じゃないか安心した」

「ちょっ捲らないで下さい!」

 神崎さんに捲くられた袴を、慌てて手で押さえる。

「レイジーの海外土産その一、ちゃんと穿いてるじゃないか」

「別にいいじゃないですか何履いたって!」

 虐めっ子な笑みは、ますます力強くなる。

「レイジーの奴がアタシと相部屋じゃ貞操が危ないとか言ってたが、やはり同年代同士の方がいいとか、進言し直してきてあげよう」

 踵を返しかける神崎さんの肩を、咄嗟に掴む。

「か、神崎さん! よ、余計な……じゃなくって! わざわざそんな事しなくても今の部屋割りで満足しています!」

 何とか足を止めて、しかし、これまた特大な悪笑みを浮かべる。

「しかし、今のままじゃ、御嬢ちゃんの水色下着の活躍どころが無いぞ?」

「あー! もう! 別に何処でも活躍しませんってば!」

 まったくこの人は、子供っぽいと言うか大人気ないというか。

「何だったら、この一晩で仲睦ましくなれるよう手引きしてやっても」

 私は、遠慮がちを通り越して迷惑そうに首を振る。勿論横に。

「仮に神崎さんが縁結びの神様であろうともお断りします、って言うか、そんな暇があるなら仕事に集中してください」

 私の断固たる意思が通じたのか、茶化すのは止めるものの、ただでは引き下がらない。

「よし、なら自分で何とかして誠意を見せろ」

 だから誠意って何のですか! とか、そもそも別に進の事は……とか良い訳じみた弁明をこの人は元より受け付けてはくれない。私達に出来る唯一の抵抗は、この人の投げかける無理難題の無茶振りを見事乗り越えて、この人を見返してやるしかないのだ。

「あんまり……その、過激なのとかは無しの方向で……」

 この人に、この手合いは無意味とは思うが、進言してみると。

「ならば選択方式にしてやろう、次の内一つでも出来たら、お前の恋心は本物と認めてやる」

 ……別に神崎さんに認めて貰う必要は一つも無いんですけど、とか、そもそも何で私がやらなくちゃいけないんですか、とか色々と頭には過ぎったが、ここはひとまず選択肢を聞いてから考えるとしよう。簡単な項目があれば、それを済ませればこの人のやや鬱陶しい絡みからも開放される訳だし。

「一つ目だ、ちょっと処女喪失してこい」

「ちょっ!?」

 難易度高!

「相手は誰でも構わん」

「逆に意味が分かりません!?」

 そこは進に限定するでしょ普通!

「二つ目は、夜の相手を勤め上げろ」

「ええっ!?」

 それ、一つ目と意味同じ。

「相手はアタシでも構わん」

「それは逆にお断りです!」

 何その譲歩。嬉しくない。

「三つ目はそうだな、裸を見せ合え」

「うぇっ!?」

 これまた、倫理的に無理難題を。

「相手は誰でも構わん」

「意味が分かりませんってば!」

 だから、そこは進に限定すべきでしょーよ。

「四つ目はな、唇を奪ってこい」

「はい?!」

 さっきより難解さは低いけど、やっぱり無茶苦茶だこの人。

「相手は人で無くても構わん」

「それこそ本当に意味が分かりません!」

 何この人! 何がしたいのか全然分からない。

「五つ目はだな、手を握れ」

「え?」

 あ、これはかなり簡単そう。

「その人との間に生まれてきた子供の手をな」

「じゃ無かった!」

 何ソレ、何年越しの計画!? 何かいい台詞みたいに聞こえるけど、要約すると結局最初のと同じ意味だから、所帯持っちゃうから。

「さぁ、どれだ?」

「どれも実行に移す気が起きません!」

 駄目だこの人、絶対楽しんでる。絶対お節介なおばさん的なノリでいちゃってる。話し合いは無駄な存在だ。

「お節介まではいい、だが、おばさんは頂けないな!」

「内心とか読まないで下さい!」

 小袖を脱がしにかかる神崎さんを必死で組み伏せながら、何とか宛がわれた部屋へと辿り着く。

「くっ、流石護衛として雇っただけはある、素手では敵わんか……」

 別に乱捕りとかしてないのに、何故か着物を色っぽく着崩して、科を作って部屋に伏す神崎さん。

 一応コレでも私は道場の跡取り娘で、男相手に二、三人なら互角に戦える実力を自負している。この会社でも、その実力を遺憾なく発揮し、逆上した犯人を取り押さえたり、要人の護衛だのといった用件でよく呼ばれる。

「って、何で脱ぐんですかいきなり……」

 神崎さんは脱ぐ。むしろ脱ぐこそが神崎さんとでも言わんばかりに、この人は露出する。

「折角の旅館だぞ? 浴衣を着んとな、秘湯もあるらしいぞ?」

「って、脱がしに掛からないで下さい!」

 帯に掛かる手を取って、神崎さんを半円に投げる。ホントにこの人懲りないな。

「ぐうっ……見事だ、アタシが教える事はもう無い、後は自分の望むままに脱ぐが良い」

「脱ぎ道とか伝授されても……」

 全身強打の後遺症で起き上がれないのか、単に体を起こすのが面倒なのか知らない神崎さんを部屋の隅に放置して、私は荷物の整理を手早く終える。

「ふっ……合気道っ娘に放置されるとは、貴重な体験だ、萌えるな」

「訳のわからない事言ってないで、早く起きて荷物整理手伝ってください、って言うかその前に服着てください」

 まったくこの人は……どう評価していいのか分からない。大人と子供の狭間で、善と悪の混沌で、仕事と遊びの境界で、行ったり来たりを繰り返す。定義など無く、定石など無く、法則など無く、浮世場馴れした様子が実に似合っている。

「常世隔離世に踏み入るならば覚悟せよと、よく言うがな」

 唐突に脈絡の無い会話を始めるのも、この人ならではの特性だ。

「この世に浮世と現世の境など無い、あるのは変えようの無い酷い現実一つだけさ」

 専門家としてはどうだろうという気持ちになってくる。不可思議の全否定、夢物語も覚める呟きだ。

「だが、見えるモノと見えないモノは確かに存在する」

 枯れ柳の幽霊、葉っぱを乗せた狸、百年たった骨董品、河童、人魚、人面犬……噂、マヤカシ、世迷言、狂言、幻覚、絵空事。

 超常現象を取り扱う。それは、裏側であり、人知れぬ事であり、しかし、裏も表も合わせて一つには違いない。

「目に見えるモノが全てじゃないって事ですか?」

 神崎さんは寝返りのようにごろりとこちらに体を向ける。

「いや、この世は見えるモノが全てさ、見えないモノは、見えない者には何の影響も無いし、存在するかすら不確かさ」

 さて、このまま神崎さんを放置しては、折角の上質な着物がシワになってしまう。妥協案として、私は用意されてある浴衣を二着手に取って言う。

「でも、今回の……は鬼、ですよね?」

「ああ、そうだ」

 一着を手にとって、肌蹴た和服を浴衣に着替えながら、片手で慣れた手つきで畳む。

「鬼って……姿形があるモノなんですか?」

 こういった仕事に所属しておいてなんだが、私はそういった非科学的なモノをどうにも素直に信じる事の出来ない人間だ。つまらない人間の価値観に囚われた、何処にでもいる一般人である。

「なぁに、無いなら作ればいい」

 浴衣の帯を締めながら、神崎さんは悟った様に語る。

「え? 自作自演ですかアタッ!」

 軽く私の頭を叩いた手を、そのまま髪を撫で付けるように頭に置く。

「姿無きモノを姿形あるモノに貶めるのさ、誘い込むのさ、そのための準備なのさ」

 浴衣に似合うように、私の髪を縛りながら、神崎さんは続ける。

「屏風の虎を退治するには、虎を屏風から出さないといけないからな」

 私は、アタシのも頼むと、私に髪を結わえさせる神崎さんに、思った疑問を投げかける。

「……屏風から虎を出したら、危なくないですか?」

 虎は屏風に居るから安全なのだ。見えないモノは、見えない者には無害だが、見える様になったら?

「ふむ、ま、その時は……」

 部屋からの景色は、一面山一色、緑いっぱいの屏風絵で、その中に虎が潜もうとも誰も気づきはしないだろう。見えないモノを気にする事など無いのだから、当然だ。しかし、そこから誘い出しおびき出したのなら、見えてしまったのなら……。

「その時は、アタシ等の仕事さ、依頼をこなすだけ。結果がどうなろうとね」

 その真意は、深き山の様に底知れない響きを持つ。

 やはりこの人は分からない。俄かに曇り始めた山の天気の様に。


短編を投稿し終えたので、ついでこれもまた古い作品ではありますが長編を、分割して連載形式で投稿したいと思います。既に完成しているので随時更新していきますので途中で更新がされないという事は無いと思います。

趣味に塗れたやや重い伝奇物ではございますが、楽しんでもらえればと思います。

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