聖女の予言で婚約破棄をすることになりました
「アリアナ、お前との婚約を破棄する!お前と婚約していてはこの国にとって良くないことが起こるのだ!私は聖女フールー様と婚約をする!」
ワルツナ第一王子が、自身の誕生パーティでそう宣言した。誕生パーティに呼ばれている有力貴族の間に、静かにどよめきが走る。動揺していないのは、ワルツナ王子の右手側にいる、聖女フールーぐらいのものだ。
聖女フールーは未来が断片的に見えるらしい。神の声が聞こえるとかではなく、将来起こりえる事象が画像として夢に出てくるのだそう。これまでカリーナダンジョンの魔獣暴走やゾグラ子爵領へのドラゴン襲来、コランツ村に眠る聖剣の発見など、数々の事象を予知してきた。
本来聖女は浄化や聖結界等も使えるのだが、聖女フールーは未だに使えない。一部の者は、まだ能力が目覚めていないだけで本物の聖女だと言い、一部の者は、本物の聖女ではないのではと疑っている。――もうわかっているかも知れないが、ワルツナ王子は前者思想の持ち主である。
「私は予知してしまったのです!あなたとワルツナ様が婚約を結んでいると訪れてしまう災厄を!あぁ、なんて恐ろしい事なのでしょう!これを止めるにはアリアナ様が婚約破棄を受け入れられ、私がワルツナ様と婚約するしかないのです!」
聖女様はそう言って、両手を胸の前で握り合わせ、祈るようなポーズをする。フールーの芝居がかった大げさな動きに、会場の貴族は大きく沸く。現在貴族界隈では、ワルツナ王子同様、フールーを聖女だと考える者達が多い。今歓声を上げたのも、その派閥だろう。
――正直婚約破棄はどうでもいい。ワルツナ様とは家の取り決めで義務的に婚約していただけで、そこに愛情はなかった。
だけど……このまま、はいそうですかと、私だけが引き下がって終わるのは、何か釈然としないものがある。
「ワルツナ様、フールー様、ありがとうございます。婚約破棄について、謹んでお受けいたします。――ただ、急な話で混乱していることもあり、少し聖女様にお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「何なりと」
「確認なのですが、聖女様が見られる予知夢は、断片的な画像が見えるのですよね?」
「そうですわね。声などは聞こえたことがございませんわ。ですので不完全な所もあるかと思いますのよ。予知とは大変なものなのです。能力を持たないものにはわからないと思いますがね!」
「ありがとうございます。では――魔獣暴走の起きた場所がカリーナダンジョンであると、どのようにして突き止められたのでしょうか?カリーナダンジョンは洞窟型のよくあるダンジョンです。画像を一瞥するだけでわかるような物ではないと思いますが」
私の質問に聖女フールーの顔は石のように固まる。まるでそんなこと考えてなかったと言わんばかりに。ワルツナ王子、先ほどまで歓声を上げていた周りの貴族も皆まとめて押し黙る。
当たり前だ。専門家でも無い限り、写真からどこの洞窟型ダンジョンか当てるなんて、はっきり言って不可能なのだから。
「そ、それはその、なんとなくというか。勘が働いたといいますか。その、雰囲気でカリーナダンジョンだなぁと……」
「勘ですか……しかしそれ以外の件はどうなのですか?ドラゴンが来る場所も、聖剣がある場所も、画像記憶だけでどのように突き止めたのですか?――まさか、全て勘とはおっしゃられないですよね?」
聖女の予知を聞いたときから疑問に思っていたのだ。どうして夢に出た画像記憶のみで場所まで特定したのだろうかと。まるであらかじめ答えを知っていて、その答えに合うように、夢を見たと嘘をついているようにしか、私には感じられなかったのだ。
「その……従者にこの国をよく知っている者がおりまして、私が見た光景を詳細に話すと、場所を当ててくださいましたの!すごい従者がいたのよ!そう!そうなの!チート級――ゴホン!えっと、特別な従者なのよ!」
急に饒舌になる聖女フールー。チート級とは一体どういう意味だろうか。たまに変な言葉を使うのも聖女フールーの特徴だ。
……というか、元々あなたは平民の出。初めから従者なんていないでしょうに。
「なるほど。主張はわかりました。では最後に一つ、ワルツナ様と私が婚約破棄をしなければ災厄が訪れるという予知は、具体的にどのような光景を見られたのですか?……私には画像で表すのはかなり至難の技かと思いますが」
「そ、それはその、それは……」
聖女は私の質問に対し、押し黙って下を向いてしまう。
少し待っても言葉を発する気配がない。自分の殻の中に閉じこもったみたいに、ジッとして動かない。そんな聖女を、隣のワルツナ様はオロオロと眺めているばかりだ。
ちょっと言い過ぎたかしら。
「困惑させる質問をしてしまい、大変申し訳ございません。――改めて、お二人の婚約を心から祝福しております。それでは、これにて失礼いたします」
私はそう言って、会場を後にした。残された会場では、しばらくの耳が痛い沈黙と、観衆のざわざわとした憶測が飛び交っていたそうだ。
******
それから、フールーは聖女ではないのでは、という噂がまことしやかに広まった。フールーが現れてからは行われていなかった聖女を探す活動も、多くの貴族の協力の下、再度本格的に始動し、数ヶ月後、聖女と思われる少女が外れ村で見つかった。少女は予知夢だけで無く、浄化や聖結界も展開することができる、誰も疑う余地のない、完璧な聖女だった。
元聖女フールーは、現在地下牢に閉じ込められている。聖女ではないのに予知を行っていたのだ。王国貴族の間では、もっぱら悪魔の眷属だという説が有力視されている。
フールーを聖女としてあがめていた者達は、人を見る目がなかったと、軽い嘲笑を受けている。私を婚約破棄したワルツナ第一王子は、元々次期国王候補筆頭だったが、現在ではその面影もない。国王からは見限られ、忠信も多く失ったようだ。最近婚約破棄解消の申し出があったが、丁重にお断りしておいた。
次婚約する人は、安易な嘘に騙されない、そんな人間が良いなと思う今日この頃だった。
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