第6話 一番近い場所で、あたしは見ていた 〜ミア視点〜
今日中にあと1話投稿できたらいいなと思っています!
屋敷の廊下を駆ける。素足で踏みしめる床が冷たいのも気にならないくらい、あたしの胸は騒がしかった。
「ラルーっ!」
思わず名前を呼んでしまう。
だって、信じられないんだもん。あの人が、生きて帰ってきたことが。
もう二度と会えないと思ってた。あの戦場の終わり、何も言わずに去っていった背中。
どんな言葉で追いかければいいのか、どんな顔で待てばよかったのか……。
でも、いいの。今はもう目の前にいるんだから。
ラルが、この屋敷に帰ってきた。
いや、あたしにとっては、「連れてきた」って感覚のほうが近いかも。
ラルがどれだけ疲れ果ててても、どんなにうんざりしてても、
「ちゃんと休む」って選択肢を与えたかった。
あたしにとって、ラルはただの指揮官じゃないから。
──守るべき人であり、心を奪われた相手だったから。
⸻
リビングで、あたしはみんなと顔を合わせる。
セリナも、リーナも、エリスもいる。どれも、あたしにとっては「ライバル」だ。
でもラルは、あたしのことをちゃんと見てくれてる。
一緒に訓練した日々、一緒に走った朝、一緒に笑った戦場。
あたしは、誰よりも近くで、ラルを見てきた自信がある。
「ミアは単純すぎるんだよ」ってセリナに言われたことがある。
……うん。わかってる。
でも、それって悪いこと?
ラルが疲れてるなら、あたしが元気をあげたい。
笑ってほしい。手を引っ張ってあげたい。
そう思うことの、どこがいけないの?
⸻
でも、エリスが来てから、空気が変わった。
あの人は、やわらかくて、優しくて、でも怖い。
「私ね、戦場でラルのこと守ってたのよ」
「わたしも一緒に寝たことあるよ?」
冗談めかして言ってるけど、あたしにはわかる。
あの人、本気でラルに触れてきた過去を誇ってる。
(……あたしだって、負けない)
一緒に剣を交えた日々は、嘘じゃない。
何度も命を預けて、預けられた。
それは、誰よりも深い「信頼」の証だ。
でも、あたしだけはまだ“そういう関係”にはなってない。
ラルに近づく女の子が増えていくたびに、
心の奥で冷たいものが広がる。
(だったら、いっそ全部壊しちゃえばいいのに)
ふと思ってしまった自分に、ゾッとする。
けど、止まらない。
⸻
リーナは不気味だ。
いつの間にか側にいて、記録して、完璧に仕えてくる。
「ラルの食事の傾向はすべて記録しています」
「健康状態、行動パターン、睡眠時間……必要であれば全部出せます」
なにそれ。メイドって、そこまでするもの?
それとも、もしかして……彼女にとって、ラルは“神様”みたいな存在なのかもしれない。
怖いけど、ちょっとだけ羨ましいとも思った。
だって、あたしにはそんな風に、完璧にはできないから。
あたしは、感情で突っ走っちゃうし、泣くし、怒るし、わがままも言う。
でも、嘘だけはつかない。
⸻
夜、あたしはラルの部屋の前で立ち止まる。
ノックしようか、どうしようか、悩む。
(……会いたい)
ただ、それだけ。
でも、扉の向こうに他の誰かがいたら、あたしはどうなってしまうんだろう。
セリナ? リーナ? エリス?
誰かが、あたしよりも先に“隣”を奪っていたら──
(やだ……)
小さく声が漏れそうになる。
手が震えているのがわかる。
気持ちがバラバラになりそうだった。
⸻
次の日の朝、少しだけ早く起きて、あたしは庭で剣を振っていた。
「ミア、早いな」
ラルの声。振り返ると、ちゃんと目が合った。
「おはよ、ラル!」
「ああ、おはよう」
それだけで、一日が始まった気がする。
世界が、動き出す。
「……剣の稽古、付き合ってくれる?」
「いいけど、加減しろよ?」
「しないかも〜。だって、ラルのこと……好きだもん」
言葉が勝手に出てきた。
でも、もう止められなかった。
ラルが少しだけ目を見開いて、それから笑った。
(ずるいな……)
その笑顔ひとつで、また“好き”になっちゃう。
⸻
セリナのように上品に振る舞えない。
リーナのように従順に尽くせない。
エリスのように余裕を持って接せない。
でも、あたしはあたしなりに、ラルを守りたい。
ラルが誰に微笑んでも、誰と話していても――
「……一番近くにいるのは、あたしだから」
そう自分に言い聞かせて、また走り出す。
この気持ちが、愛情で終わればいい。
でも、もしこの想いが“歪み”になったとしても。
それでも、絶対に──
ラルは、あたしのもの。
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