斯して古希請謡は諦めた
現実とは実に残酷なものである。
人々は生まれながらさも当然と言いたげに現実を受け入れ、驕りなく意識さえせずにそれと向き合い出し、苦悩し“成長”を重ねながら社会にまで出るのだろう。
そして働く中でふと、思い出すだろう。
「学生時代、色んな苦労もあったけど青春してたなー」
などと最早当たり前過ぎて面白みも感じない話だ。そして私の語りもまた、そうなのだろう。なんにしても彼らは苦労をし事実そのような生活は私のような者からは大変羨ましくもあるし惨めになる。折り合いをつけるのも大人というものだろうけれど。
話しは逸れたが現実が何故残酷と当たり前の事を語ったかと言えば
「時間経つの早っっっっっ」
俺の青春時代はもう、終わりが近いかった。
自己紹介をしよう。俺は古希請謡。
精神保健福祉士を目指す中学生で、文芸部の部長をしている。また古典的な語りですまない。しかーし俺は青春がしたかった。なんで俺これまでに何もしてこなかったんだ!幼馴染の女子まで居たのに!しかも同じ部活………ああ描写をし忘れていた。今俺達は部室にいて、少し離れた席に幼馴染の朱石三遠がいる。同じく文芸部に所属している副部長。
ちなみに古き良きラブコメなんかだったら何もないとか言ってラブコメが始まるが俺達はもう三年で、更にはこれと言って特に何もなかった。某高◯さん見てたのに、ラブコメの導入さえなかったよ。それはそうとちょっと抜けてるのに真剣な態度で本読んでるの可愛すぎるよなあ………部長としては出来ればもうそろそろ作品を上げて欲しいんだけどね、部誌の期限近いし。
彼女のことは一先ず、置いておこうか。ラブコメにならなかったからって諦めるには早いしな。そう、前向きにいこうじゃないか!教典にも書いてある!
教典を取り出す俺に気付いたのか、几帳面にも本にしおりを挟み朱石が顔を上げてこちらに目を向けた。
「あーまたそれね」
「………なんだよ」
「なんでもないよーただ自分で書いた教典とか恥ずかしくないのかな?って思っただけ」
ちゃんと貶してくれるな、いつものことだけどさ。
「は、恥ずかしいとか言うなよ!これが良いんじゃないか!」
教典を開きつつプロローグとも言うべき1ページ目を見る。すると、珍しいことに朱石は普段と違った様子で教典に向ける目を移した。
「そういえば、前にそれ見たけど何書いてるかわかんなかったよ」
はっ?うぇっまじで?ううおっおええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああ
あああ
ああああああ
あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!?
「待ってくれ。え?見たの?」
我ながらすぐに復帰したのには賞賛したい。割と真面目に。
「うん。前に置いてったでしょ?」
何を言っているんだ?この俺が置いていくなんてあり得ないだろ。ここの部長だぜ?朱石は朱石で副部長だけど
「この前職員室前ですれ違った時あったでしょ」
あれ?そんなことあったか?
あったな記憶あるわ。確かあの時便所に向かって走ってたよな。
……その時は丁度手に何か持ってたような。
「私の前にそれ置いてってた」
「それは落としたんだよ断じて置いてなんかないわ!置きっぱなしにする訳ないだろ俺の大切な教典を!」
「あはは、ごめん。……それ、ずっと気になってたから」
………謝られた。ちょっとキレすぎてたな。いやしかしこれだけは………いやぁやっぱり俺悪いかも。
「………俺もごめん。………でもそんだけ見たかったんなら言ってくれれば見せたよ?朱石にだけなら」
「……ごめんだけどちょっともう見なくても良いかな」
「そっ………………か」
今日の終わりを告げる学校の鐘が鳴り、朱石は帰りの支度をしだした。俺は教典を仕舞った。
「私コンビニ行きたいんだけど来る?」
「え?あー良いよ行く」
「何その態度、もしかして行きたかなかった?」
「いや、行きたくない訳じゃなくてさ」
「何?」
「……ちょっと今お金無くてですね」
「そうだったんだ」
「ちょっと反応薄いね?」
「皆んな金欠だから」
「そっかぁそりゃそうだねぇ」
「じゃ来ないんだ」
「いえ行きます行きます行かしてください」
「始めから普通に言えば良いのに」
「わかってるけど辞めれないんだよね」
「そっかー」
そうして、帰った後に付き添いとしてコンビニで買い物をした。久しぶりに某スナック菓子のソースとマヨのモンジャ味を食べたが意外と食えることに気がついた。来年は高校生だけど、帰りみたく朱石とあんな感じに過ごしてたいなあ。




