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【休載中】ダークインザウィッチ 黒騎士四姉妹  作者: 泉水遊馬
第1章 ゼルグランディア大陸 ― その広大なる戦場
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母として

王座に座すレイヴェナ女王は、金色の瞳を細め、四姉妹をゆっくりと見渡した。彼女たちは膝をつき、固く拳を握る。戦士としての覚悟を示しながらも、その指先にはかすかな震えがあった。

女王は、静かに席を立つ。柔らかな衣擦れの音が響き、一歩、また一歩と彼女は近づいた。

まず、長女のエアリスの前で足を止める。

「エアリス、お前の強さは王国の誇りだ。だが、強くあろうとするあまり、自分を厳しくしすぎることはない。」

エアリスは瞳を閉じ、深く息を吸った。女王の言葉は、彼女の硬く結ばれた心にそっと寄り添うようだった。

次に、女王はフレアの前に歩み寄る。炎のような赤髪が微かに揺れる。

「フレア、お前の情熱は黒騎士軍の炎だ。だが、怒りだけに身を委ねるのではなく、その熱を導く術を学べば、お前はさらに強くなれる。」

フレアは唇をかみしめた。いつも戦いでは怒りを力に変えてきた。しかし、それだけでは不十分だと、今初めて理解した。

女王はさらに歩みを進め、ライの前で足を止める。

「ライ、お前の冷静な瞳は雷の如く鋭い。だが、時に仲間に頼ることも必要だ。孤独は力ではなく、枷となることもある。」

ライの肩がわずかに動いた。誰にも頼らず、ただ戦うことだけを己に課してきた。しかし、それが本当に正しい道なのか、この言葉は彼女の心に深く響いた。

最後に、女王はウェンディへと視線を向ける。ウェンディは息を詰め、緊張した面持ちで女王を見つめる。

「ウェンディ、お前は優しさを持つ者。だが、戦場ではその心を閉ざしてはならない。優しさこそが、お前を強くする。」

ウェンディの瞳に小さな輝きが生まれた。彼女は誰よりも繊細で、自分の弱さを恐れていた。しかし、女王はその心こそが力になると言ったのだ。

女王は微笑み、ゆっくりと王座へと戻る。

「お前たちは黒騎士軍の未来だが、それ以前に、お前たちは私の娘だ。戦場に出ても、そのことを忘れるな。」

四姉妹は顔を上げる。その瞳には、確かな決意と、女王の温かな言葉が刻まれていた。


レイヴェナ女王。氷の天井に反射する光が彼女の横顔を照らし、その姿はまるで永遠の冬を統べる女神のようだった。

「お前たちは、これから戦場に立つ。だが剣を振るうだけでは、真の戦士とは言えぬ。」

女王の声は低く、深く響いた。

「戦う理由を知れ。王国の歴史を知り、今我らがどこに立っているのかを理解せよ。それが、お前たちの力となる。」

エアリスが頷き、フレアは腕を組んだ。ライは黙して聞き、ウェンディはわずかに緊張しながらも、その言葉を心に刻み込もうとしていた。

女王は氷細工の地図に手をかけた。その中央に広がる大地が、ゼルグランディア――この世界の戦場だった。

「この大陸は、かつて魔法によって栄えた。」

彼女は指を滑らせ、幾つかの古い都市の跡を示す。

「我らフロストガルド王国の祖先は、魔法王国の血を引く者たちだ。魔法は生命と大地の力を司り、この世界の中心だった。しかし、千年ほど前、科学が台頭し、それはすべてを変えてしまった。」

フレアが息をのんだ。

「帝国のことですね?」

「そうだ。」

女王はゆっくりと頷いた。

「ゼルグラード帝国の者たちは、魔法を『過去の遺物』と呼び、否定した。彼らは機導術と錬金科学を生み出し、やがて魔法を排除しようとしたのだ。」

彼女の指が地図の東へと移動する。科学帝国の領土、ゼルグラードが冷たく刻まれていた。

「それは戦争の始まりだった。我らフロストガルドは魔法の伝統を守り、黒騎士軍を結成した。そして、亜族――竜族、獣人族、妖精族、影族――彼らもまた、魔法を否定せず独自の生き方を選び、ヴァルゼリオン王国を築いた。」

ウェンディは地図を見つめた。

「じゃあ、ゼルグランディアは、三国の戦いの場になったんですね…?」

「その通りだ、ウェンディ。」

女王は微笑んだ。

「ゼルグラード帝国は科学を誇り、我らを根絶しようとし、亜族は己の誇りを守ろうとしている。そして我らフロストガルドは、魔法の火を消さぬために戦う。」

ライが口を開いた。

「では、今の状況は?」

女王の瞳がわずかに鋭さを増す。

「…悪化している。」

彼女は指を進め、ゼルグラード帝国の軍が王国の南境界線まで進軍していることを示した。

「科学帝国は新たな機導兵器を開発し、黒騎士軍との戦闘を強化している。一方で、亜族は統一が揺らぎ始めている。竜族と獣人族が対立し、王ヴァル=ゼリオンの統治が揺れている。」

フレアが剣の柄を握る。

「つまり、私たちが動かなきゃ、王国も亜族も崩れる」

「そうだ。」

女王は頷いた。

「お前たちは戦うだけではない。この歴史と現状を理解し、この世界に何をもたらすのかを考えよ。それが、真の戦士の役目だ。」

四姉妹の瞳に、新たな決意が宿った。

「これが――ゼルグランディアの現状だ。」

今、この言葉が彼女たちの魂に刻まれた。

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