第19話:封じられた真実
資料庫の奥。
積み上がる古い文書の匂いが鼻をつく。
ほとんど誰も立ち入らないこの場所で、私はひとつの記録を見つけた。
「……桜井柾真――?」
それは、私の父の名が記された“極秘調書”だった。
封印と書かれた紐が固く結ばれている。
表紙には『開示権限:上級幕臣限り』と記されていた。
(やっぱり……父の死は、偶然じゃない)
心臓が激しく脈打ち、指先が汗ばむ。
「誰かに……隠されてる」
私は資料の写しを取り、すぐさま土方副長の元へ向かった。
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副長は私の報告に、無言で文書を受け取った。
長い沈黙のあと、低く呟く。
「……お前の父親は、幕府のある計画に関わっていた。
表沙汰にはできない……極秘の内紛だったらしい」
「それは、誰が……」
「名は伏せられていたが、事件に関わった旧幕臣が今も京に潜伏している。
だが、あまりに深く掘れば――お前も巻き込まれるぞ」
私は静かに首を振った。
「私には、それでも知る覚悟があります」
その瞳を見て、土方はわずかに頷いた。
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その晩。
私はこっそりと旧幕臣の名が記された古い名簿を手に入れた。
(――山科 為景。元・政務奉行付き筆頭書記官)
父と同じ時期に働いていた人物。
事件の真相を知っている可能性が高い。
翌日、私は私服で山科の潜伏先とされる裏長屋を訪ねた。
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薄暗い路地の奥、静まり返った木戸を叩く。
「……山科為景さん、いらっしゃいますか」
返事はなかった。
だが、気配は感じる。
「私は桜井柾真の娘です。どうか、話を――」
そのとき、背後で足音がした。
「お下がりください。こちらで処理します」
制するように現れたのは――榊原主膳の部下だった。
柔らかい口調とは裏腹に、目が笑っていない。
「これは極秘調査案件です。お引き取りを」
「なぜ榊原様の部下がここに……」
「申し訳ありません、指示により。以上です」
私は、静かに一歩退いた。
(……榊原様。あなたは、なぜここに“先回り”していたんですか)
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その夜、屯所に戻ると、まるで待っていたかのように榊原主膳が現れた。
「隼人君、今日はどこかへ?」
「散歩です。少し、気持ちを整理したくて」
「そうですか。――焦らないことです。真実は、時に刃になりますから」
その言葉に、私は思わず返した。
「でも、何も知らずに振るう刃のほうが、もっと危険です」
榊原はわずかに目を細めた。
「……君は、強くなったね」
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夜風が吹いた。
私は刀の鞘に手を添える。
(この風の先に、父の真実があるなら――)
私は、切り拓くしかない。
■桜井隼人より
「やっと……父さんの影に近づけた。けど、その分だけ怖さも増してる。
でも、私はもう戻らない。刃が真実を裂くまで、前に進む。……見守っててね、父さん。
それと読者の皆さんも、感想とか……ちょっと欲しいです」
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■榊原主膳より
「ふふ、少しばかり手間を取らせてしまったかな。
でも私は、あくまで“皆さんの味方”ですよ?
隼人君には、どうか慎重に歩んでほしい……あまり深入りしないようにね」
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■沖田総司より
「隼人くん、最近やけに難しい顔してるよねー。
でもほら、笑ってる方が似合うって! そのうち俺もバッサリ助けてあげるから。
……たぶん、ね?」




