第15話:影、動く
「……隊士のひとりが、抜け駆けで攘夷派と内通していた」
その報せを聞いた時、私は耳を疑った。
「そんなはず……!」
永倉が声を荒げる。
沖田も信じられないという顔をしていた。
だが、証拠とされた文書は確かに存在していた。
⸻
「内部に裏切り者がいたとはな……」
その日の午後、私は再び松平玄道の元へ呼び出された。
「桜井、君は何か気づいていなかったのか?」
「……そんな素振り、見たことはありません」
「ふむ。君に任せた意味を、理解しているのだろうな?」
玄道の冷たい視線が突き刺さる。
「これ以上、見逃しは許されん。
もし次があれば――新撰組そのものが解体されることになるだろう」
その言葉に、私は唇を噛み締めた。
(やはり、松平玄道……こいつが……)
疑念は確信に近づきつつあった。
⸻
帰り際、廊下で榊原主膳に呼び止められる。
「桜井君、無理をしていないかね?」
「……榊原様」
主膳は変わらぬ穏やかな笑みで、私の肩にそっと手を置いた。
「玄道殿は厳しい方だが、それも君たちを思ってのことだ」
「だが、心が折れそうになった時は、いつでも私を頼りなさい」
「……ありがとうございます」
本心から、少しだけ救われる気がした。
⸻
屯所に戻ると、隊士たちの空気は重かった。
裏切り者として捕らえられた隊士は、既に切腹を命じられていた。
「こんなの、信じられるかよ……」
永倉が拳を震わせる。
「俺たちの誰が、攘夷派と繋がるってんだ……」
仲間たちの間に、見えない亀裂が走っているのが分かった。
(これが狙い……なのか?)
誰かが仕掛けた“罠”。
それがじわじわと新撰組を蝕んでいる。
⸻
夜、私は土方副長に問いかけた。
「副長……本当に裏切り者なんていたんでしょうか」
土方は黙ったまま、窓の外を見つめていた。
「証拠がある以上、否定はできん」
「だが――全てを鵜呑みにするな」
その言葉に、私は頷いた。
⸻
(絶対に、このまま終わらせない)
私は心の中で誓った。
この陰謀の正体を突き止め、仲間を守る――それが今の自分にできることだと。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
作品への感想や評価、お気に入り登録をしていただけると、とても励みになります。
作者にとって、皆さまの声や応援が一番の力になります。
「面白かった!」「続きが気になる!」など、ちょっとした一言でも大歓迎です。
気軽にコメントいただけると嬉しいです!
今後も楽しんでいただけるように執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。




