第14話:静かなる罠
……これより、新撰組内の規律を強化する」
屯所に集められた隊士たちの前で、土方副長が厳しく告げた。
「幕府上層部からの命令だ。内部の“乱れ”を正せとな」
その言葉に、一瞬ざわめきが広がる。
(乱れ……?)
私は首を傾げた。
確かに新撰組は荒くれ者の集まりだが、隊士たちは日々規律を守っている。
だが、その背後に“誰かの意図”を感じた。
⸻
数日後、私は副長の命で再び幕府の屋敷へ向かうことになった。
今回の用件は、松平玄道からの個別召喚だった。
(なぜ、俺が……)
疑問を抱えたまま通された部屋で、玄道は机に書状を並べていた。
「桜井隼人――君に少し話がある」
「……何でしょうか」
「新撰組の中に、規律を乱す者がいると報告があった」
「そんな事実は……」
「否定は不要だ。上からの指示だよ」
玄道は冷たく笑い、私に一枚の紙を差し出した。
「これは“内部監視”の命だ。君には、隊士たちの動向を密かに報告してもらう」
「……!」
思わず拳を握りしめた。
(仲間を監視しろ……だと?)
「拒否権はない。君の立場を考えればわかるはずだ」
その目は、やはり冷酷で――どこか“試すような”色があった。
⸻
帰り際、廊下で榊原主膳に呼び止められた。
「桜井君、少しよろしいかな?」
「……榊原様」
主膳は穏やかな笑みを浮かべ、庭先へと私を誘った。
「玄道殿の命令、戸惑っているようだね」
「……はい。仲間を疑うような真似は……」
「気持ちは分かる。だが、君も心得ているはずだ」
「時に“正しさ”だけでは守れないものもある」
その言葉に、私は言葉を失った。
「私は君を信じているよ、桜井君。……どうか冷静にね」
その柔らかい声に、少しだけ心が救われた気がした。
⸻
屯所に戻り、私は仲間たちの笑顔を見て胸が痛んだ。
(こんな命令、受けたくない……)
だが、逆らえば新撰組そのものが危うくなる。
私一人の感情だけでは済まない。
⸻
夜、私は土方副長に密かに相談した。
「副長……この命令、どうすれば……」
土方は黙って話を聞き、やがて低く呟いた。
「……従え」
「……!」
「だが、“全てを報告する必要はない”。お前の目で判断しろ」
その言葉に、私は強く頷いた。
⸻
夜更け、私は刀を握りながら静かに誓った。
(仲間を信じる――誰にも、壊させない)
たとえ幕府の命令でも、この剣だけは曲げない。
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