第12話:初陣、新撰組
「敵は尊王攘夷派の一団。京の町外れに潜伏中とのことだ」
土方副長の低い声が響く。
これが――“新撰組”としての初陣。
私は、緊張で手のひらに汗を感じながら刀の柄を握りしめた。
「命令は一つだ。全員、逃がすな」
⸻
現場に向かう途中、一行は一人の男に呼び止められた。
上質な羽織、鋭い眼光――
その男こそ、松平玄道だった。
「土方君、御苦労」
玄道は冷淡な笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいてくる。
隊士たちの空気が一気に張り詰めた。
「今回の任務、失敗は許されんぞ」
「心得ております」
「新撰組の評判も、君たちの命運も、この一戦にかかっている」
その視線が、ふと私に向けられた。
「……君が“桜井”か」
「はい、桜井隼人です」
「ふむ……どこかで聞いた名だと思ったが、気のせいかもしれん」
「新撰組として恥じぬ働きを期待しているよ」
そう言い残し、玄道はあっさりと視線を外した。
一瞬、胸の奥がざわつく。
(どこかで聞いた……?)
父と同じ姓――当たり前だ。
気にすることじゃない。
私は静かに頭を下げ、土方の背中を追った。
⸻
京の外れ。
薄暗い林の中に、尊王攘夷派の姿があった。
「見つけたぞ、新撰組だ!」
敵の叫び声と共に、戦闘が始まった。
⸻
「隼人、右だ!」
「はいっ!」
刀を抜き、迫る敵を捌く。
一太刀、また一太刀。
斬らなければ、こちらが斬られる。
剣が交わる音、叫び声、血の匂い――
これが、“本物の戦場”だ。
⸻
敵の刃が肩をかすめる。
だが、私は怯まなかった。
(私は剣に生きると決めた――!)
腹に力を込め、渾身の一撃を振るう。
敵が倒れた瞬間、視界が開けた。
「隼人、無事か!」
駆け寄ってきた沖田の顔を見て、私はようやく息を吐いた。
「はい……なんとか」
⸻
戦闘が終わった頃、松平玄道が再び現れた。
「見事だな、新撰組」
血の匂いが残る中、彼は平然と歩いてくる。
「無駄な犠牲もなく、任務を遂行した。上出来だ」
称賛というより、道具を評価するような声だった。
私は無言で一礼し、その場を離れた。
⸻
屯所に戻ったあと、私は刀を磨きながら考えていた。
(松平玄道……気のせい、だよな)
けれど、あの言葉の端々が、妙に引っかかっていた。
「……必ず、真実を掴む」
そう心に誓い、私は刀を鞘に納めた。
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