第10話:剣に生きる、それだけ
――剣は、決意だ。
副長から渡された木刀に刻まれた言葉が、今も胸に響いている。
私は“桜井隼人”として、ここにいる。
男として、隊士として、剣士として――この剣に誓った。
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「隼人、急げ! 事件だ!」
永倉の叫び声に、私はすぐさま腰の刀を握った。
京の町中で、刃傷沙汰が発生したとの報せ。
巡察中だった私たちに、いきなり実戦の機会が巡ってきた。
「いいか、今度こそ迷うなよ」
沖田がちらりと私を見る。
その目は、昨日までの私をちゃんと見ていた。
「……はい。大丈夫です」
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現場に駆けつけると、男が二人倒れ、一人が血のついた刀を握っていた。
「くそっ、壬生浪士組か!」
逃げようとする男を、永倉がすかさず止める。
「待てコラ! 観念しやがれ!」
だが男は、逆上して斬りかかってきた。
私は咄嗟に永倉の前に出て、刀を抜いた。
“キィン!”
刃と刃がぶつかり、火花が散る。
重い衝撃が腕を伝う。
「チッ、小僧が……!」
男の力は強い。だが、私は一歩も引かない。
(これが、剣士の戦い……)
怖い。だけど――
迷わない。
私は男の動きを見極め、足を払って体勢を崩す。
次の瞬間、迷いなく刃を振り下ろした。
「ぐっ……!」
男の肩口に浅く斬りつける。致命傷にはならない。
だが、これで動けなくなる程度には抑えた。
「隼人、やったな!」
永倉が男を押さえつけ、縄をかける。
私は静かに刀を拭い、鞘に納めた。
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「……斬ったな」
帰り道、沖田がぽつりと言った。
「はい。でも、不思議と怖くありませんでした」
「そっか。それが“剣に生きる”ってことかもね」
私は小さく頷いた。
今日、私は“覚悟”を示せた気がした。
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屯所に戻ると、土方が待っていた。
報告を終えると、彼は無言で頷き、ひと言だけ告げた。
「これで、お前も本物だ」
その言葉が、何よりも嬉しかった。
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夜。
私は刀を磨きながら、改めて思う。
(私は、剣に生きる)
それが、桜井隼人としての“誇り”だから。
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