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君へ

作者: 秋春

拝啓


君への手紙はこれで4通目になります。

でもそれは君へは出していないし僕の手元にもありません。もうなにを書いたかも思い出せない、ただの記憶と事実です。


君と会わなくなってから、会えなくなってから、もう3年が経ちました。時が過ぎるのは早いですね。

僕は大学生になって、友達をつくって、彼女が出来ました。今月末には20歳になるので、立派な大人です。

世間一般的に思い浮かべられる大学生活を送っています。一限を寝過ごして、時に単位を落とし、男女問わず大人数でカラオケに行って終電で家に帰ったり、バイトをして、たまに彼女とデートをする。そんなだらしの無い日々です。


そんな日々のふとした瞬間、僕は君を思い出します。

君と行ったお店。君と一緒に歩いた道。君が住んでいた街。大変だ、ストーカーみたい。違うんですよ、僕の過ごす場所に君を招待しすぎたせいで、、、ってわかっていますよね。僕らは中学の同級生。生活圏なんて被ります。


失礼、話が逸れました。僕が言いたかったのは、君が健やかに生きているか。ただそれだけなんです。

そんな事で手紙を書くななんて思うかもしれませんけど、それはあの頃の君が不安定だったせいですよ。もう、いい加減にしてください。僕はお母さんじゃない。

それでも君が気がかりなのは、僕が君を傷つけたかもしれないから。ごめんなさい。ここからはただの贖罪です。


僕らはあの日、完全に糸を断った。僕らというより、僕が。

怖かったんです。君がどんどん僕から離れていったのが明確にわかった。傲慢でした。僕らの関係が1歩後退する事になっても、どれだけ喧嘩しても、結局嫌われるなんてことは無いと思っていました。そしてそれは間違いだった。自分が嫌いだという君に同情して、君に都合のいい存在でいれば、僕がなにをしようと君が離れる事は無いと思っていた。振り返ってみると最低ですね。そして思惑は外れ、君は離れ、僕だけが取り残されている。自業自得です。愚かです。


そしてついにあの日、君の方から離れていかれないように僕から君への道を絶った。君は優しいから、なにかあったのと訪ねてきてくれた。僕はそれを拒んだ。ただの意地で、僕は恋人どころか友達さえも失いました。

でも僕はまだ意地っ張りなのか頑固なのか、あの日の選択を誤ったと思えません。というか、思いたくありません。僕はあの日、冷静でした。でも、君を責めたらどんな顔をするんだろうという最低な欲もありました。まるで蒼炎の様に、静かに怒っていました。僕が君のせいで傷ついているとも知らず、なにかあったのなんて言葉をかけにのほほんと訪ねてきた君を矢継ぎ早に責めたくなりました。


今になればわかります。別れた恋人と友達関係に戻る、なんてなかなか難しい人もいます。でも僕は取り繕う事が出来た。でも別れた後約束した。でも僕は。

泣きそうでした。たくさんの「でも」が、僕に決断をさせました。別れた後も、恋人じゃなくても、友達としての君が大好きでした。もちろん今もです。

今更こんな事を言っても、あの日傷ついたかもしれない事実は消えません。あの日泣かせてしまったかもしれない事実は消えません。本当にごめんなさい。


僕らの関係が少しでも続いたのは、友達がいたからです。少しふくよかで、とても愉快で、たくさんの才能がある友達。

彼女は元気ですか。僕はあの日の間違った勇気で、少ない友達を2人も失ってしまった。


僕らは彼女に内緒で関係を育んだ。言わなかったのは、仲間はずれになっているなんて間違っても思って欲しくなかったから。

結果的に幸か不幸か、彼女の知らない場で密やかに、僕らの関係は終わりを告げました。

彼女は人懐っこい様でその実僕には最後まで心の最奥を見せてくれる事は無かった。

それでも僕らは彼女が大好きで、大切でした。


3人一気に授業で似たような骨を折ったこと。放課後暗くなるまでお喋りをして、ついには学校に黙って時計を持ち寄ったこと。休日に遊ぶことは少なかったし、おかしな思い出が一番最初に挙がるけど、間違いなく青春でした。


僕はあの日、ついでの様に彼女を突き放した。心根を見せてくれないことに不貞腐れてもいたけれど、突き放しても彼女が追ってくる事が無いと知っていたから。

案の定彼女は追っては来ませんでした。彼女からは正式に別れを告げられています。本当にごめんなさい。


勝手に君らを突き放して、勝手に思い出にして、勝手に謝罪をするなんて、本当に自分勝手だと思います。

それでも、訳も分からず友達を失った君たちには説明の義務があると思いました。友達と思っていて貰えていたならですが。


僕がこんな文を作っているきっかけになったのは、交際する前のメールです。友達関係ではありましたが、本当に関係を大事に思っている内容がお互いに綴られていました。端的に言って、重いです。けれど、大切な物でした。


僕は君が大好きです。今更何をなんて思うかもしれないけど、もう僕の事なんて気にも留めていないかもしれないけど、もしかしたら僕の名前なんて忘れてしまったかもしれないけど、僕にとって君はまだ大切な人なんです。


だからこそ、僕は君が不安定だった事がとても気がかりです。それとまだ君たちが仲良くしているかどうかも。

君は自分の事をひどく嫌っていたから。消える事を止める事は正解なのか。一緒に消えると言ってもいいのか。君は今何を考えているのか。迷ってばかりでした。


別れが近づいていた日、君は嫌だと言っていた一人称を事も無げに変えていました。もうどうでもいいやという風に。

しかしそれを詰める権利も余裕もありませんでした。少し後悔しています。いや、とても。


今はどうしていますか。自分を好きになれていますか。心を預けられる人はいますか。友達の彼女と仲良くしていますか。聞きたいことばかりです。でも、君と、君たちと、会うことはもうありません。せめてここでだけは、と文を綴ってやめることを繰り返してもう3度目の春が来ます。

冒頭に君を傷付けたかもしれないせいで君が気がかりだと書きましたが、違いましたね。君が大好きだからでした。


自分に酔っていると言われればそれまでです。返し刀がないので、そのまま刺さって死にます。

それでもここに書いたことが、あの頃の僕の全てです。今の僕に出来る事は、君たちと関わらないこと。


僕は今を生きています。あの頃を見ながら後ろ歩きで進みます。君も今を生きている、はずです。あの頃なんて見ず、まっすぐ前を向いて。

僕の事はなるべく思い出さないでください。間違っても通っていた学校なんて行かないでください。

健やかに生きてください。出来れば笑顔でいてください。

願っています。いつまでも、願っています。


敬具

4月某日 通行人A

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