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三題噺もどき4

休憩

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっっぴゃくご。

 



「……ん」

 机の上に置かれている籠に手を伸ばしたが。

 空を切っただけに終わった。

 それに意識が引っ張られ、集中が途切れる。

「……」

 同時に久しぶりに感じる疲労感と、少しの達成感に襲われる。

 体調が万全になり、休んでいた仕事を再開したのだ。

 パソコンに向かい合っているだけの仕事ではあるが、家にいながら出来ると言うのはとてもありがたいものだ。

「……」

 飴玉が入っているはずのそこには、ただの空気が鎮座していたようだ。

 いつの間になくなっていたんだろう……それなりに置いてあったはずなんだが。

 集中を切らせないために置いていた飴玉に、集中を切られるとは思ってもいなかった。もしや、アイツが減らしたのか?

「……」

 万全とは言え病み上がりなのをまだ心配しているんだろうか。

 ……そんなに弱るのが気に食わないのか?確かに、この間のは今まで以上に弱ってはいたと思うが、若かりし頃はそれなりにあったと思うんだが。

「……」

 まぁ、アイツからの心配なんて珍しいものだから、素直に受け取っておこう。

 とはいえ、ここに何もないのはもの寂しいので、キッチンから何か取ってこよう。

 ついでに軽く休憩でも挟むことにしよう。

「……――っく」

 軽く伸びをしながら、椅子から立ち上がる。

 座りっぱなしなのも慣れてはいるが、さすがに疲れはたまるものだな。

 対策グッズというモノもそれなりに使ってはいるんだけど、限界はあるのだろう。

 そうでなくても、適度な休憩は大事にすべきなんだろう。

「……」

 空になった籠を手に持ったまま、廊下へと出る。

 部屋の電気をつけないで仕事をしていたので、少し隙間を開けただけの戸から洩れる灯りがやけに眩しく感じる。

 思わず顔をしかめるが、すぐに慣れる。

「……ん?」

「わ」

 慣れはしても、光の影は消えずに居残っていたため。

 廊下を歩く影に気が付かなかった。

 というか、部屋を出た瞬間にぶつかり、危うく後ろに倒すところだった。

「……危ないですよ」

「すまん」

 咄嗟に出た手で何とか倒すのは避けたが、睨む顔は避けられなかった。

 片手に何かを持っていたようだが、いくつかは廊下に落ちてしまった。

 ……どうやら、洗濯を片付けに来たようだ。自分の服がその腕に抱えられているのに気づいた。

「休憩しますか」

「あぁ、そうしようと思って」

 廊下に落ちた洗濯物を広いながら、部屋から出た理由をこちらが告げる前に口に出す。

 まだ閉じていなかった寝室の戸から、するりと中に入り込む。

 慣れた手つきで洗濯物を箪笥の中にしまい、こちらへと戻ってくる。

「丁度チーズケーキが焼けましたよ、食べますか」

「いただこう」

 またお菓子を作っていたのか。

 ストレス発散かと思っていたが、完全なる趣味だなこれは。

 確かに料理をするのは昔から好きだったようだが、お菓子作りにまでハマるとは思ってもいなかった。

 それもこの国に来てからなような気がする。

「買い物に行ったらクリームチーズが安くなっていたんですよ」

「そうなのか」

 まるで言い訳のようにそんなことをいいながら、先を歩く。

 さして長い廊下でもないので、リビングにはあっという間にたどり着く。

 そのままの足で2人してキッチンへと向かう。

「何か飲むか」

「ご主人と同じもので良いですよ」

 キッチンに置かれていたチーズケーキを切り分けながら答える。

 お湯を沸かさなくては……と思ったが、すでに電気ケトルのスイッチは入れられ、沸く寸前だった。なんだ、部屋に来る前にスイッチを入れていたのか。

「……コーヒーでいいか」

「いいですよ」

 いくつかストックされているコーヒーの中から、適当に取り出し、二つのマグカップにセットする。今日はドリップコーヒーだ。特に淹れ方なんかにこだわりはないので、適当にお湯を注いでいく。

 どうせアイツはミルクと砂糖を入れるからな。

 私も今日は砂糖が欲しい。

「あとは自分で淹れます」

「ん」

 セットしていたフィルターを外し、シンクに置いておく。

 捨てようかと思ったが、この残りかすを何かに使うことがあるらしいので、一応だ。

 自分用のマグカップを手に持ち、リビングへと向かう。

 そこにはすでに二人分のチーズケーキが置かれている。

「……」

 しかしまぁ、綺麗に焼くものだな。

 あまりケーキの類を食べることはないが、市販のモノにも負けず劣らずなんじゃないか。

 そんな事口が裂けでも言わないが。

 ……席に座ったことを確認し、軽く手を合わせる。

 こういうマナーは嫌という程叩きこまれているので、自然と動いてしまう。

「…ん、うまいな」

「どうも」

 心なし嬉しそうなその声に、少しだけ変なくすぐったさを覚える。

 これだけはいつになっても慣れそうにない。

 しかしまぁ、こういう休憩時間も悪くない。




「そういえば部屋に置いてあった飴玉取ったか?」

「取りましたが」

「……隠しもしないのか」

「キッチンに置いてますから勝手に取ってください」

「そうか……すまなかったな」

「……なにがですか」












 お題:チーズケーキ・洗濯・飴玉


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