最低な世界での生き抜き方
まずはありがとうございます!
前作は誰も見てくれないかと思っていましたが、意外と多くの人が見てくれて本当にうれしいです。
そして今回の話からこの世界の根幹に関わる部分をドンドン描写して一気に話を進めるつもりなので
是非!ご覧ください。
(一応)
人物 露地:主人公・小説家を目指している高校生・情緒不安定・転生した・鉄華隊に所属のつもり。
平 :露地と複雑な関係・転生した。
武蔵:話がつまらない・転生者の子供。
病院の少女:義手義足専門の医者・顔色が悪い。
八田:露地に優しくしてくれる
栗東:鉄華隊所属・クズ。
須藤:鉄華隊所属・クズ。
天堂:鉄華隊所属・クズ。
女神:。
天子:。
犬 :何か居た・ちなみに柴犬。
1.
露「うぅ…。」
この物語の主人公露地が目を覚ます。
露「此処は…」
彼は不思議に思った。
先程までスライムと戦っていた草原は其処には無い。
代わりに、少し見慣れたホテルの一室が映る。
飛び起きた彼は素早く辺りを見回す。
そして腕に何か違和感を覚える。
露「…犬か。」
既に幾つもの異常な事態に感覚が壊された露地が言う。
今の彼にとって犬が自らの腕に絡みついている事は重要な事ではない。
勿論、腕に夥しい数残る噛み跡も…
露「お前ッ!」
…そうでもなかった様だ。
彼は犬を窓の淵に乗せると言い放つ。
露「お前は今崖っぷちだけど、もしこれ以上何かしたらさらに一歩進む事になるぞ。」
犬「うるさいですよ。」
露「⁉」
露地の感覚はさらに壊される様だ。
露「お前話せたのか?」
犬「さては私をただの犬だと思っていますか。そうですか。」
露「嫌味か貴様ッ!」
麗しい少女の様な声で話す犬は床に降りる。
犬「敵意むき出しなのはこの際良しとしますが。その腕で私をどうにかする事はできませんよ。」
露地の義手は手首から先が無い。
しかも左腕は噛み傷だらけになっている。
露「上等!」
頭に血が上った露地は犬に左腕で殴りかかる。
が、しかしそのパンチは呆気なく受け止められてしまう。
露地の目の前には少し犬の要素を残した麗しい美少女がいた。
一瞬見惚れてしまった露地は次の行動に反応する事ができなかった。
その少女は露地の左手首を捻り上げ、少なくとも小柄ではない男を軽々持ち上げる。
露「何をするんだよ!離せ!」
犬?「私がうるさいと言っている!」
少女は騒がしい露地の顎目掛けて強烈なパンチをお見舞いする。
露「グフッ………。」
犬?「ようやく。じゃあいただきます。」
少女はもう片腕で露地の胴体を掴む。
そして左腕を雑巾の様に絞り始める。
露地は義手で目を殴りつけるが、義手の方が弾け飛んでしまう。
そこまでして露地はある事を思い出す。
自分には魔法があると。
すぐさま心の中で強く祈る。
露(こいつを殺せるだけの炎を!)
既に元の色が解らない左腕は先の方から黒くなり、断面から火を噴く。
その炎は少女の顔面に直撃し、ホテルの窓からあふれていく。
それを見ていたのが散歩中の平だった。
平「…何アレ…。」
自分たちの部屋からドームまで届く巨大な炎は魔法によるものとしか思えない。
しかし魔法はかなりのハイリスク。
即ち自分達の部屋でおそらく露地が何らかの危機に瀕している。
炎が収まった事を確認した後平は部屋に駆け込む。
其処では犬の様な少女が両腕の無い露地の血を啜っていた。
しかも露地は少女に足を向けている。
おそらく再び魔法を使う気だ。
平「…やめなさい…。」
声に気づいた少女が平を見つめる。
犬?「あなたは…。」
少女は素早く犬の姿に戻る。
平「……犬相手に魔法使ったの…?」
平の煽りは露地の耳には届かない。
平「…あぁ…多分貧血ね…。」
「…貴女がこれを…?」
平は犬の方を向く。
犬?「…ワン。」
平「…その手が通じるのは貴女の同族くらいよ…。」
犬?「もうやめてくださいよ…。」
平「やめる?何かしたかしら?」
犬?「此処に堕ちてからあなたにはうんざりなんですよ。」
平「貴女飽き性?」
犬?「またよくとぼける。さっさと済ませてください。」
平が犬の前で片膝をつく。
平「…私は別に貴女をどうしようという訳でも無いのよ。」
犬?「…まぁ、あなたにとっては何てことないでしょうね。」
平「なら、私の’何てことないこと’試してみる?」
犬?「貴方…。」
?「おいおいおい!私を放っておいて少女2人で井戸端会議か?妬くぞ?」
平と犬は声のする方、焦げた窓を向く。
其処には鉄華隊の鎧、声から推測するに須藤が居た。
須「ん?一人か?いや、私も含めて二人か。」
平・犬?「「帰って。」」
須「犬が喋った?畜生の居場所は無いのだが。」
須藤が鎧を脱ぎながら犬?の首根っこを掴む。
犬?は命の危険を感じたのか再び少女の姿に成る。
須「お前モンスターか?なら新入りのあの狂人に殺ってもらうが。」
「…ただお前もかなりのモノだな。持ってる者同士’仲良く’できると思わないか?」
「其処の美少女も含めてな。」
露「…狂人?」
やっと目の焦点が定まったばかりの露地の存在に気づいた須藤が言い放つ。
須「女同士の間に入るな!」
そんな言葉と放たれた蹴りが既に瀕死の彼の鳩尾に入る。
露「あ”ぁ”…。」
平「やり過ぎ。」
平が二人の間に割り込む。
須藤はすっかり興を削がれたのか、鎧を着直し窓際に立つ。
須「私は須藤。じゃ、後で。」
須藤は嵐の様に空へと戻っていった。
平はそんなどさくさに紛れ、露地を抱えた少女がドアから逃げようとしている事に気づく。
平「何してるの?」
犬?「チッ!」
舌打ちをした少女は片手で左目を隠す。
すると少女の右目がプリズムの様に光り、突如目線の先の空間がガラスの様に砕ける。
砕けた先には真っ赤な何かが広がっていた。
平「待て!」
言うが早いか、平は彼を奪い取る。
そして少女を押し倒すと首元に窓ガラスの破片を構えた。
平「貴女何故か私には弱いらしいわね。その理由を知れないのが残念だわ!」
犬?「待って!貴方が違うのは判ったから!」
平「私の苗字は平よ。南でない事は明白でしょう?」
犬?「よく解りませんが…はぁ。」
平「何?覚悟は決まった?」
犬?「…夕慈さんを治す手伝いをしたら、信用してくれますか?」
平「いいわ。なら早いこと治して頂戴。」
そう言われた少女は再び左目を隠し、空間を砕いた。
犬?「行きますよ。」
少女と平は露地を抱えたままその空間に入っていく。
2.
平「…此処は…?」
犬?「貴方には理解できないもの…といったところです。」
平「ここは返り血が目立たなくて良い場所ね。」
犬?「本当だからです。ここは4次元空間。低次元な者には感知する事すらできない。」
そう言うと少女は再び空間を砕く。
その先にはあの特別病院が広がっていた。
平「…便利な力ね…。」
平は少女から露地を奪い取ると、相変わらず顔色の悪い医者の前に寝かせた。
医者の少女は素早く露地の体に合った代わりを作る。
医「色々聞きたい事は有るけど、医者として一つ聞くわ。何があったのかしら?」
平は事情を説明する。
が、あまりの奇天烈さに元々色の悪い少女の顔面が最早真っ黒になりかけた頃、露地が目を覚ました。
露「俺もぅ八田さんのトコに逃げようかなぁ…。」
流石の彼も完全に意気消沈といった様子である。
平「…ナントカ隊に入ったんでしょう…?…少なくとも須藤さんとやらからは逃げられないと思うけど…。」
露「多分八田さんなら守るくらいはしてくれるよ。」
医「あの人はそんな良い人じゃないわよ?」
露「うるさいよ。ここに来てから優しくしてくれたのがあの人とエントランスの人だけなんだよ。」
平「…そもそもあのナントカ隊って本当に大丈夫なの…?」
露「いや。ダメ。」
露地が食い気味に言い放つ。
露「関わるのは八田さんのみにした方が良い。まぁ、あの人も服のセンス終わってるけど。」
平「…そう…。」
露「あとは…。」
露地は犬の少女の方を凝視する。
露「お前、名前は?」
犬?「まだ無いです。」
露「分かった。お前は今日から糞だ。」
糞?「いくら何でもそれは!」
平「…なら、ワン子。」
ワン「それなら…甘んじて受け入れます。」
医「ワン子、もしかしてこの娘に逆らえない感じ?」
露「とにかく、決まったな。お前今日から地面以上人未満な。」
ワン「…はい…。」
平「命が有るだけ有難いと思いなさい。貴方も。」
平に見られた露地は少し口角を上げながら、申し訳なさそうな顔をした。
3.
露地は八田の所に行く前、ある事を試す為に一人新しく与えられた部屋に行っていた。
露「才能が有れば…」
現在露地は既に両腕を捧げている。
露「何か出ろ!」
運が良ければ体を捧げないタイプの魔法が使えるかもしれない。
その希望を持って気合を込める。
すると…
露「…。」
一切何の気配も無い。
露「はぁ。」
露地はベッドに腰かけると、足を見つめる。
露「…」
平曰く、3回体を捧げると確実に使えるようになるらしい。
彼は迷った。
ベッドに腰かけ、思考を巡らせる。
一人の命を不本意だが奪ってしまった彼は街の人のために戦わなければならない。
しかしあの鎧は性能がピーキーで使い勝手が悪い。
魔法など後3回しか使えない。
かなり消耗していた彼はそのまま手を後ろについた。
すると、両方の義手に何か違和感を感じる。
すぐさま両腕を前に突き出し、よく確認し、気付いた。
露「魔法陣…?」
彼の義手と生身の境に魔法陣が出現していた。
魔法陣はゆっくりと腕の先の方へ移動する。
そして、魔法陣の通った場所には義手は無かった。
代わりに、此処では滅多に見る事の無い肌色の腕があった。
露地は素早く腕をつねる。
もし義手なら痛覚が無い筈だ。
彼の表情が変わる。
顔を歪ませた後、ゆっくりと目を見開く。
その目には少しの涙と輝きがあふれんばかりに詰まっていた。
露「痛い…。」
腕からは少しの血が流れている。
その血すら今の彼にとっては愛おしく感じられる。
失った筈のものが返ってきた。
その事実は此処に来てからすり減っていた彼の心を癒した。
ただ、それを手放しに喜ぶ事は今の私にはできない。
何故なら、彼は気付かなかった…いや、気付けなかったからだ。
ドアの隙間から彼を妬ましげに眺める一人の少女に…。
3.
露地は久々の感覚に震えながら街へ繰り出していた。
そして、鉄華隊の隊舎へ着いた。
露「たのもー!」
「八田さんいるー?」
露地の声は隊舎の中にこだまするが、誰に届く事も無く彼の下へ帰っていく。。
露「…いない?」
彼は外に出て、上を見上げる。
上空にはただドームの天井があるのみだ。
露「…この魔法見せたかったのに。」
少し残念に思った露地は、八田に見せる予定の腕を見る。
そして気付く。
露「この腕…」
もしやこの腕を捧げて魔法を使い、再び腕を生やす。
そうすれば永久機関が完成するのでは?
露地は早速試そうとしたが、すぐに踏みとどまる。
彼はスライムと戦った際にあの鎧、ジェットストライカーを失ってしまった。
鎧を作った際、鉄華隊の人等は一切の躊躇無く子供を犠牲に鎧を作った。
そういえばあの武蔵の母親であろう人も、躊躇う事は無かった。
このままでは、彼らはまた露地のための鎧を作るだろう。
それは露地にとって耐えがたい苦痛なのだ。
熟考の後、彼は自分でジェットストライカーを作る事を決心した。
まず、ジェットストライカーの仕組みを思い出す。
露「あれは確か…吸い込んだ空気を加速して押し出す仕組みだった…。」
少しづつ、創る物のイメージを固める。
しかし、露地は思い出してしまった。
露「…今の腕に価値は有るのか?」
体を捧げて使う魔法は未来における可能性の前借。
仮に露地が魔法を使ったとして、露地はその後必ず腕を再生させる。
その場合魔法が発動不可、若しくは威力が弱体化されるのでは?
露地は考えた。
できる限り省エネで、できる限り強力な何か。
モンスターを確実に始末できる武器。
露「……銃…?」
ジェットストライカーは筒の中の空気を押し出す物。
筒の中の物を銃弾に変えれば、銃として使えるのでは?
露「よし…銃にしよう。」
だが、問題はまだある。
おそらく、仮に銃を作れたとしてもあまり大きい物は作れない。
そもそも彼は銃の仕組みをよく知らない。
引金を引いてから弾が発射されるまでのメカニズムなどもってのほか。
彼は再び考える。
そして思い付いた。
この世のすべての物質は原子で構成されている。
その原子数個なら今の片腕でも作る事ができるだろう。
なら、右腕で作った原子を左腕で変形させれば、省エネで銃を作れるのではないか?
彼は大まかな設計を考える。
そして、調子に乗った露地はすぐに試してしまった。
両腕が黒く染まり、ドロドロに溶け、激痛と同時に彼の目の前には出来立ての銃が…
露「無い⁉」
彼は辺りを見渡す。
そして、足元を見て驚愕する。
露「足がっ⁉」
無い。
溶けたのは足の方だったのだ。
彼はバランスを崩しへたり込む。
最悪の可能性が当たってしまった。
再生させた部位は魔法に使うことができない。
その足も魔法で再生できたのは不幸中の幸いといったところか。
彼は自分の部屋に帰ろうと歩き出す。
すると、何か固い物に頭をぶつけ、再び倒れてしまう。
反撃でもしてやろうと見上げた彼は見た。
そこには想像の数十倍は大きい、もはや大砲と言って差し支えない大きさの銃が在った。
口径は軽く40㎝、銃身の全長は5m近い。
モンスターを始末するには十分といったところか。
彼は打って変わってガッツポーズの後その銃を担ぐ。
原子を変形させて作った影響か、大きさの割に重さは2kg程度。
彼はそれを担いだままホテルの自室へ帰っていった。
4.
部屋には平と犬の状態のワン子が居た。
露「ただいま。」
ワ・平「おかえr…何それ?」
平「…トンファー…?」
ワ「ぎひん…やめときます。」
露「聞いて驚け!これはジェットストライカーを応用して作った銃だ!」
平「…口径は…?」
露「さっき測ったら直径45cmだった。」
平「弾丸は?」
露「適当に石でも何でも詰め込めば発射できる…多分。」
ワ「えっ…今多分って」
平「それは今必要な事じゃないでしょう。そして…一番重要な事を訊くわ。……識別コードは?」
露「…………」
露地は悩んだ。
彼はよくよく考え、少しして口を開く。
露「…ダブルアクションサンダー…。」
ワ・平「ダサッ!」
露「お前らなぁ!」
平「しかもそれパクリじゃない?」
露「俺は所詮俺の知る事しか知らぬ!」
勢いのまま扉を開けて露地は出て行ってしまった。
ワ「…すごい人ですね…。」
平「全くね…。」
ワ「そういえば、彼の腕。」
平「…?」
ワ「あれ生身でしたよ。治ったんですかね?」
平「……追うわよ。」
ワ「はい。」
二人はドアを蹴破り、露地を追いかける。
平「逃がさないわっ!」
平はとにかくお歯黒が気に入らないと見える。
目を血走らせて露地を追いかけた。
平「待て!」
露「待つのはお前だ!何の怒り⁈」
平は露地を押し倒す。
平「治しなさい!」
露「頭を?」
平「歯に決まっとろうがっ!」
気圧された露地は平の顔に触れる。
魔法陣が平の口に出現し、口から歯の代わりが零れ落ちる。
平は手鏡で口内を見回すと満面の笑みで露地に言う。
平「色々あったけど、ありがとう。」
露「俺その’色々’を知らないんだけど?」
平「…ワン子、かみ砕く。」
ワ「ワンッ!」
露地は腕に噛み付いたワン子を引っ張りながら言う。
露「お前何なんだよ!」
「そういえばまずなんで俺を襲ったんだよ!恨みを買うような事した覚えは無いぞ!」
腕から引きはがされたワン子が少し遠い目をする。
ワ「私の夫に似ているんですよ。」
ワン子の目から大粒の涙が零れる。
ワ「此処に堕ちてきて早1000年。もう二度と会えないかと思っていた…」
「そんな時に来たのが貴方です。」
「この機を逃してはいけない!と思った私は…」
「気づいたら貪っていました。」
露「そこで貪る物が腕ってまずいだろ…。」
「それと…俺には解るぞ。」
ワ・平「?」
露「お前夫とか抜かしてるがそれ勝手に思ってるだけだろ?」
ワン子の目は最早1000フィート先を凝視しているかの様だ。
ワ「別に、貴方が夫婦の関係を望まないのならそれでも良いのです。貴方は何時も私に無償の愛を注いでくれた。そんな貴方の
言うことなら私は従います。此処に堕とされた時もあなただけはあのババアから私を守ってくれた。私が犬にされた時も私が襲わ
れた時も私が泣いた時もあなたがつらい時でも私に善くしてくれた。あなたの様な神に仕える事ができたのが私の人生において
唯一にして最高の幸福であり天子として最も誇らしい事だと自負しています。あの女神に仕える事になった際もあなたはアイツ
が私に手出しできないように魔法をかけてくれました。貴方には恩があるし私にはあなたにあなたからの愛に対する対価と罪滅
ぼしをしなければならない義務があります。その義務を果たせるのなら本望だし私の命だって捧げる覚悟があります。もしかしてあ
なたは夫婦という型にはまる事が嫌なのですか?私とは夫婦以上に深く近く密で櫛比で昵懇で緊密で濃い愛情を育みたい
のですか?納得です。私とあなたとの愛を阻むものなど此処には無いのです。必要から愛し合った恋人同士が愛によって必要
な存在同士と成るのです。生みましょう。あなたとの子を。あなたの愛とあなたへの愛から生まれる福音は今人の形と成りこの
世界に現れるのです。愛を証明するために。愛によって。ねぇ。あなた。」
露「お前精神状態おかしいよ…。」
平「…貴女今さりげなく意味深な事言わなかった…?」
ワ「…私が1000年間熟成されているという事ですか?」
露「…いや、天子がどうとか神がどうとかの方だと思うけど…。」
平は深く頷く。
ワ「ついに気づきましたか。天子とは神の使い。つまり私こそがこの世界を統べる者だと!」
?「違います!」
3人は声の主の方を向く。
振り向いた10m先にエントランスの少女がいた。
ワ「上位の存在同士の間に人の分際で介入するのですか?」
エ「この世界を統べるのは女神様です!お前の様なモンスターではありません!」
見ればその少女の手には鈍い銀色をした十字架のペンダントがある。
そしてその後方には病院の少女も居る。
平「…貴女達何しに来たの…?」
エ「其処の軽々しく女神様を語る害獣を駆除するんですよ!」
平「…こいつは私達のペットよ。」
エ「なら貴方方にも死んでもらいます!」
エントランスの少女がペンダントを真っ直ぐワン子へ向ける。
ペンダントは先の方が変形し、ショットガンの弾の様な物を形成した。
その弾は十字架の内部に有る空洞に入っていく。
このままでは発射された弾によって命を落としてしまうだろう。
しかし我らが主人公にそんなものが通用する筈が無いのだ!
露「お前それは蛮勇だぞ?あの学校で教わらなかったのか?」
彼は先程生成した銃を構え、背部のカバーを外す。
銃は恐ろしい勢いで周囲全ての空気を吸い込み始める。
露「銃は…」
「口径こそ命だ!!!!!!」
二つの引金が同時に引かれた。
銃弾は凄まじいスピードで露地の胸へ突き進む。
5.
露地の銃から出た煙で一寸先も見えない視界の中で、平とワン子は露地を探す。
平「ゲホッゲホッ…ワン子は右を探して…。」
ワ「はい。」
平「…死んでたら容赦しないわよ~…。」
ワ「このストローを…」
ワン子の言動に呆れた平はエントランスの少女がいた方を見る。
平「…貴方達も探しなさ…血?」
地面は血で濡れている。
露地の銃は確か空気砲だった。
この状況で血を流すのは露地の方だろう。
平は早歩きで其方へ向かうが…
何か柔らかいモノを踏んで転んでしまう。
平「…何これ…」
少し煙が薄くなり、少し地面が見えるようになる。
平は理解した。
踏んでいたのはエントランスの少女だ。
少女の下半身はまだよく見えないが、明らかに薄くなっている。
医「ずらからせてもらうわね。」
医者の少女が彼女をエレベーターまで引きずっていった。
平「…とてつもない威力ね…。」
ワ「ところで夕慈さんは何処に?」
平「…アイツ本当に死んだんじゃないでしょうね…?」
ワ「あの銃に反動が有ったら相当なモンですよ。それこそ…」
ワン子は地面を指差す。
ワ「…ああいう感じになる位に。」
平「この世界でリジェネ持ちが居無くなるのはキツイわね…。」
ワ「まぁ、回復なら最悪病院でもできますし。探すのも私の力を使えば一発ですよ。」
平「…そういえばそれってどういう仕組みなの…?」
ワ「……」
平「何頬染めてるの…貴女ヤプールに脳まで改造されたの?」
ワ「あの姿は生物として欠陥が複数個有るから嫌なんですよ。」
「4つ有る耳が五月蠅くて仕方ないですし。」
平「それそういう仕組みだったのね…。」
ワ「それに、あのババァに感づかれるかもしれないんで。おっかないったらありゃしない。」
平「何言ってんの…貴女がさっきから言ってるその’ババァ’って誰なの?」
ワ「夫と私の二人をこの世界に堕とした醜悪な奴ですよ。崇められてるのが一番気に食わない。」
平「崇められてる?崇める対象は女神と天子しかいないらしいけど?此処では。」
ワ「その’女神’の方ですよ。ダメなんです。アイツは。」
平「会った事が有るかのような言い方をするのね。」
ワ「アイツとは此処に堕ちる前から憎みあう仲だったのでね。」
平「あんまり妄想を語るのはやめなさい。壊れたモノには現状維持が一番よ。」
ワ「なら見せてあげますよ。現状を。」
ワン子は今度は地面を見て、視線の先ににヒビを入れる。
空間がガラスのように砕け、飛び散った欠片がバラバラと、二人と共に落ちていく。
暫くして着地した二人の前には、平に瓜二つの修道服を着た女性が立っていた。
6.
時間は少し遡る。
露地は空を吹っ飛んでいた。
銃のあまりの反動に耐えられなかったのだ。
彼は気を失う事は無かったが、銃から吹っ飛ばされないようにしがみ付く事が精いっぱいだった。
あまりの風圧に呼吸すらままならない中、彼は不思議な物を見た。
真っ青な空、雲一つない晴天には、本来在る筈の無い巨大な翼が浮かんでいた。
今思えば、此処に来てから一度も青い空を拝んだ事が無い。
そんなことを考えているうちに遂に彼は雲を突き破り急速に落下を始めた。
悲しい事に、彼は後一分も経たないうちに死んでしまうだろう。
しかし彼はこの物語の主人公だ。
きっと!何か良い対策を捻り出し、そして実行してくれる事だろう!
7,
結論から言うと、彼は非力だった。
あまりの風圧で引金に手を掛ける事すら出来なかった。
彼は何の抵抗もできないまま、墜落してしまった。
情けない。
そんな事を思う間も無く彼の体を貫いた凄まじい衝撃と痛みが彼をあの世へと誘う…
露「…?」
不思議だ。
確かに全身に激痛が走っているが、一応体は動かせる。
そんなことに疑問を感じつつ、彼は顔を上げる。
目の前には何の面白みも無い森が広がっているだけだった。
しかし、よく考えてみて欲しい。
体に力が入らない状態で何故水平の方向を見る事ができるのか?
答えは背後に在った。
少しずつ体の感覚を取り戻し始めると、何故か背中が生暖かい事に気づく。
血かとも思った。
だがそれは明らかに彼の体温よりもかなり暖かく、そしてネバネバしている。
彼はあまりの気持ち悪さにどうにかその場を離れようと藻掻いた。
しかし彼はその行動をすぐに止める羽目になった。
何故なら、上から一人の女性が彼を見下ろしていたからだ。
彼女は彼の顔をじっと眺めていて、彼には少し不気味に感じられた。
露「…見ているだけじゃなくて手を貸してくれません?」
まだ女性は動かない。
露「俺は一応転生者ですよ。丁重に扱って損は無いと思いますが。」
その言葉を言い終わると、遂に彼女は口を開けた。
それはもう大きく、喉の奥まで丸見えになる程に。
違和感の有る行動に、彼はしばらく動けなくなる。
そして気付いた。
彼女の口内から喉にかけて、細かい鑢の様な歯がびっしりと敷き詰められている。
しかも口から得体の知れないドロリとした液体を垂れ流し始めた。
しかも何か頭にくる、甘ったるい香りまでしてきていた。
彼は死に物狂いで這って移動し、銃が転がっている場所まで移動する。
背後からはズルズルと何か巨大なモノが移動する様な音がする。
しかしそれは意外とゆっくりで、四つん這いでなら移動できる程度には回復した彼はそれを振り切り、銃まで辿り着く。
銃を肩に担ぎ、吹き飛ばないよう木に寄り掛かり、溜めもそこそこに発射しようと振り返り、驚愕した。
女性は下半身が巨大なナメクジになっていた。
全高は優に3mを超え、全長に至っては森の中での目視では測る事もできない。
恐怖した彼は素早く銃を発射する。
その化け物に猛烈な風が当たり、女の部分は風を防ぐかの様なジェスチャーをする。
すると、銃から発射された風は化け物に当たる前に周りへと逸れていく。
露「…折角作った銃が早速お役御免かよ…。」
ショック、それは彼の心の主に自尊心を深く傷つけた。
不本意とはいえ足を、しかも丸々一本贅沢に使い作った物だ。
自分には目の前の化け物程の価値も無い。
そう、言われた気がした。
その時、絶望感に打ちひしがれている彼の方へ化け物が腕を振りかざした。
それを合図に化け物の背中から光の粒子の様なモノが溢れる。
同時に背後から直径1m程度の火の玉が10個程度発射される。
彼もその火の玉に向けて銃を発射するが、火の玉は意にも介さず突っ込んでくる。
彼は素早く横に移動し、銃の反動を使って元々吹っ飛んできた方向に飛び始めた。
数分前と同じく凄まじいスピードに加速した彼は、今度はしっかり引金を握り、ドームの方へ急ぐ。
ひどい場所だが、一応あそこには仲間が居る。
しかし、それは辿り着ければの話だ。
いとも簡単に彼に追いついた火の玉は彼に激しく激突し、彼は2度目の墜落を経験する事になる…
だが!今回は少し違う事があった。
落下している最中の彼を追いかける謎の影。
それは、彼が気絶している様子を見ると、彼に向かって伸縮性の有るネットの様な物を投げ、彼を捕まえてしまった。
8.
露「…うぅぅ…ん?」
墜落した筈の彼は、ダブルベッドの片方で熟睡していた様だ。
周りを見てみるまでも無いが、彼が居るのはどう見ても普通の寝室だった。
露「…此処は?」
?「私の寝室だ。」
その声は彼の目を一か所に釘付けにする。
其処には…
?「フフフ…まずは私から名乗らせてもらおう!私は名乗る程の者では無い!君の名は何という?」
露「…俺は何故此処にいるんですか?」
名「君の!名は!何だ!」
露「…夕慈です。」
名「そうか!ではユージ!君に少し話をしてあげよう。おっと!投げ銭は5万円までだぞ!」
露「…殴るぞお前!」
名「フ…世間話はここで終わりだ。まずは君の疑問に答えてあげよう。」
「私が!君をここまで運んできたのだ。そして!君は奴に負けた。」
その男はカーテンを勢い良く開ける。
目の前には森が広がっているだけではない。
そう、あの化け物ナメクジがいた。
幸い何故か奴はこちらには気づいていないようだ。
露「やっぱり…とりあえず、ありがとうございます。」
名「ハハハ!君に礼を言われるとはな!ところで食事は何がいいかね?」
露「…じゃあ、とりあえず水貰えます?」
名「分かった!最善を尽くそう!」
変な人!それがその男への第一印象だろう。
だが同時にただモノではない予感もする。
彼には何か自分と同じモノを感じる…そんな気がした。
窓の外を見つつ彼の容姿を数分思い返していると、ドアが勢いよく開かれる。
名「すまん!この家アイスティーしかないんだ!」
露「じゃぁ聞くな!そしてそれ飲んでも大丈夫なヤツ?!」
名「安心するんだユージ少年!毒見は済ませた!」
露「ならいいですけど…。ところで…」
名「フフフッフッフフ…しっかりと欲を発散させるのは大切な事だ…」
露「知識欲ですよね?…そうじゃなくて、なんで此処は平気なんです?」
名「あぁ、窓に気づいたか。建付けが悪いからな!開閉式にはできなかったんだ。」
露「いや、あの化け物の事です。」
少し食い気味に言う。
名「そう躍起になるな?少年、私は逃げも隠れもせん!」
「あとは…まぁあまり関係の無い事だがこの家は偽装鏡面で覆われているが声は防げないぞ。」
露「だからか…。というか、あんな奴に負けたんですね、俺は。」
名「…知りたいか?」
露「へ?」
名「君がなぜ奴に勝てないのか、知りたいか?」
露「そりゃぁ、火力が圧倒的に…」
名「違う!」
露「え」
名「君がアイツに勝てない理由…それは君の装備、鎧や銃を見れば明らかだ。」
露「…」
名「では、単刀直入に言ってあげよう!君がアイツに勝てない理由…それは…!」
露「…それは…?」
名「君が!君自身の感性が!ダサいからだ‼!!」
まずはここまでご覧になってくださりありがとうございます!
めっちゃ時間かかった…。
最後の方に出てきた人、ヤバい奴ですね。関わりたくないです。
ちなみに見た目は金髪碧眼のイケメンです。
それでは、次回もご期待ください!