タイトル未定2024/11/25 22:41
この小説は様々なアニメを見て思い描いたシーンを集めて作った
パッチワーク的な作品なのでどんなアニメのオマージュか考えてもらい
ながら読むとわかりやすいと思います。
どこがどのアニメのオマージュかわかったらコメントしてくれるとありがたいです。
それではお楽しみください!
1.
彼は露地 夕慈。
最近高校二年生になった。
趣味は小説を読む事とアニメ鑑賞。
将来の夢は小説家かアニメーター。
友人と呼べる間柄の人は何人かいるが、あまり良い仲とは言えない。
要するにパシリなのだ。
彼はその友人曰くイケメンというには今一つ足りない顔貌をしているそうで、
パシラされるのも納得だ。
今は丁度購買にパンを買いに行った帰りで、
これからそのパシリの親玉に買った物を渡す所だ。
?「…やっと来た…。」
そう女子を周りに侍らせながら気怠そうに言う同級生は平 玲。
平「…間違えてないでしょうね…心配だわ…あなただもの…。」
露「平、お前が何時も欲して止まないピザトーストだ。文句無いだろ?」
そう言って彼は袋が嫌な音を立てるほど乱雑に、それを子分共に渡す。
平「…はぁ……今日は甘いものが食べたかったのに…。」
露「文句ないだろ?」
平「………もういいわ……消えなさい…。」
平がそう言うと子分のうちの比較的体格が良い者が露地の前を塞ぐ。
後ろを向き廊下へ歩いていく露地の背中を見送る子分の一人が言った。
子「平ちゃ……平さん…。なんで?」
彼女は非常にもっともな意見を言った。
平は特段普段から偉ぶっているわけではない。
そんな平が人をパシリに使うなど考えにくいのだ。
平「…なら何故貴女は私の子分になったの…?」
子「それは…頼まれたから…」
平「…言葉一つで人は変わるものよ…。」
そこまで言うと平は軽く二度手を叩いた。
それは平のグループでは’状況終了’の合図だった。
平「…皆…お疲れ様…。」
子分達「お疲れさまでした!」
その後子分たちはそれぞれ休息を取り始める。
昼食を摂る者、平と談笑する者、他クラスへ行く者…その中に先ほどの子分もいた。
その子分はおそらく新入りだったのだろう。
よりベテランの者へ話しかけた。
子「ねぇ。平ちゃんってどうして露地君にだけアレなの?」
子2「さぁ…。平ちゃんそこに関する話題全てNGだから、多分本人たちにしか解らないと思うよ。」
所変わって屋上に避難した露地は曇り空を見上げながら呟く。
露「玲…いつまで続けるつもりなんだ…。」
小学生の頃、平と露地は学校で一番の仲良しだった。
喧嘩する事こそあれど、一日たりとも話さない日はなかった。
それが今ではこの様だ。
何かが狂った…としか言い様がない。
露地はそのまま立ち上がった。
そのまま体勢を崩しそうになったが何かに掴まれているかのような動きでそれを回避する。
これは露地の唯一の特技だ(人に見せようとすると失敗するが)。
自分のクラスへ向かった。
その日の放課後、帰り道で平と露地は鉢合わせた。
家がはす向かいの二人はそのまま歩き出す。
露地はもちろん平には目もくれず歩き続けたが平は違った。
なんと露地の真横に移動し、露地と同じ歩幅で歩き始めたのだ。
これは初めてではない。
何なら狙っているのかと思うほどの割合で露地は平と鉢合わせる。
しかも平は一切話しかけることはしない。
それを露地は不気味とまではいかずともかなり不可思議に思っていた。
そしてこれもまた不可思議なものだ。
丁度二人が工事現場の前を通り過ぎようとした。
その上空では工事現場で高頻度で見かける鉄パイプが
まるで虎視眈々と獲物を狙う虎の目の様に光り輝いていた。
次の瞬間それは自由落下を開始し、数秒も待たずに二人の体を貫いた。
後に判明した事だが、平は全身が損傷し、露地は目以外のパーツがすべて潰されていたそうだ。
2.
しばらくして、二人は覚醒した。
先ほど受けた衝撃が何だったのか判然としない。
しかしそれを忘れさせるには十分すぎる光景が、二人の前に広がっていた。
それは見渡す限りの草原ではない。
左手には森林も見えるがそれでもない。
それはずっと前方、コンクリートジャングルで育った二人にはその能力を使う機会はなかった。
しかしその未発達な目測でも最短10km、
最長25㎞といった位置に聳え立っていると判る巨大なドーム状の’ナニカ’は、
あまりにも浮きすぎた存在だった。
二人は数秒で自身の無事を確かめた。
そして同時に、頼れる相手がもう隣にいる人間しかいない事を理解した。
露地「行くぞ。」
平「…ええ…そうね…。」
二人は突然走り出す。
それは日が暮れたらおしまいという人としての数少ない本能による理由と、もう一つある。
その草原は常にそよ風が吹いているが、その割にあまりにも静かすぎた。
動物がいない訳ではない。
森林には確かに生物の気配を感じる。
よく見ると小さな鳥も居る。
だが草原は違った。
風は在るのに空気が固定されているかのような感じだ。
視線など全方向から感じる。
明らかにおかしすぎる。
二人は最早息切れすら振り切って走った。
走って、走って、走って…
遂にドームの手前数百mまで来た。
その瞬間目の前が真っ黒になった。
二人は一瞬自分が気を失ったのかと思った。
しかし互いの姿を認識して余計に気が動転した。
何か’黒い物’に前を塞がれてしまったようだ。
平「…これは…?」
平は少し前に出て’その黒い者’に触れようとした。
しかしその’者’は非常に巨大な様だ。
よく見ると60mは離れていた。
その瞬間
?「それから離れろ!」
男の声がした。
二人は見上げる。
今向かっているドームの方向、黒い者の真上を。
其処には光沢を纏った銀色の何かがとてつもない速度で此方に向かって飛んで、いや吹き飛んできていた。
仰天した二人は顔を見合わせるが平の様子がどうもおかしい。
息ができていないかのように喉を頻りに叩いた後、ダランと口を開けた。
すると大量の血が混じったどす黒い液体とともに倍以上の量の煙が噴き出た。
そこに歯は無かった。
平は白目をむいて露地の目の前に倒れる。
そして黒い者はゆっくりと目を開いた。
それはまるで黒いスライムのようだが、まず目が生えた。
ところどころに爪も生え始め、サメのような口すら生えた。
露「インベーダーか!?」
錯乱した露地が言い放った瞬間先ほどの銀色の何かがその者の中に突撃した。
次の瞬間それは激しく暴れだした。
そして中から微かに声がした。
?「その子をドームの中に!」
我に返った露地は平を抱きかかえる。
しかし平は未だに液体を吐き出し続けていた。
煙は止まったもののこのままでは死んでしまうといとも簡単に判った。
未だ錯乱しつつも露地は錯乱以上にある感情に支配されつつあった。
露「なんで俺達が意味の解らない場所でこんな目に合わなければいけないんだ?」
それは怒りだ。
理不尽に対する正義の怒りだ。
迷いは完全に消え失せ、覚悟だけが残った。
露「ここは多分スライムだとか、金属の塊だとか、そういう生物の居る異世界なんだ。俺達は迷い込んだだけの客人に過ぎない。」
露地は平の首に新車を愛でる時より優しく手を置き、叫んだ。
露「だが!お客様は神様なんだ!」
露地の腕が先の方から黒ずんでいく。
同時に尋常でない痛みが露地を襲うが、そんなものは今の彼には関係ない。
露「治れ!平ぁ!」
平は一際大きく液体を吐いた後、よく見れば喉は無事治っていた。
しかし露地の腕の方はそうはいかなかった。
腕が完全に黒くなったと思うと、次の瞬間タールのように溶けて地面に吸い込まれた。
黒い者と銀色の何かはまだ戦っている。
露地は残った左腕で平を抱える。
何故か既にふさがった右腕が在ったはずの傷を見つめながら、二人はドームの中に入った。
3.
平はドームに入ってすぐに目を覚ました。
そしてすぐに気づいた。
平の歯は先程の露地が使った魔法のような方法を使っても治す事はできなかった。
平は泣きそうになったが、露地の腕を見るとその気すら失せた様だ。
歯が無くなり落ち窪んだ頬と死んだ目をした平はその心を埋めるために無意識に遠くを眺めた。
右では黒い者が勝った様で、銀色の何かが真っ二つにされる場面が見えた。
銀色の何かの中には人が入っていた。
よく見ると銀色の物も胸の部分が異常に大きい、非可動の一枚の鉄板からできた鎧という風貌だ。
他に特徴といえば、真っ二つになった直後に砂状に分解され散ったこと。
そして幾つかの筒状の物程度だ。
中の人が始末された後平は左を向いた。
そこには確かに1960年代のアメリカの風景が広がっていた。
平の目に光が戻る。
希望は潰えていなかった。
平は露地の右腕を引っ張っていこうとする。
が、露地に右腕が無い為バランスを崩しかけた。
すると平も掴まれたような動きでそれを避けて見せた。
露地は平が自分に関心を再び持ってくれた事、自分と同じ特技を持っている事に軽く感動した。
その後平と手を繋ぎながら町へ繰り出した。
4.
そこは意外にも栄えていた。
そして驚くことに公用語は日本語だった。
人は親切で、全員ある程度の教育を受けている様だった。
人種としてはおそらく風貌から同じ日本人だろう。
其処の住人の顔は現実世界の住人の顔と瓜二つだった。
何なら現実で見た事のある顔がほとんどだ。
露「驚いた…何故皆日本語を話すのか気になっていたけど…これが理由か。」
一部の建物には「学校」という表記すら有る。
そのままでは埒が明かない為二人はドームの中心の近くにある巨大な建物を目指す事に決めた。
道中人から熱い視線を注がれたが、見なかった事にした。
その建物にはそれまで見てきたどんな建物より奇天烈だった。
「転生者専用館」と書いてあったからだ。
中に入ってみると豪勢なものだ。
エントランス、エレベーター、食堂に個室など様々な設備がある。
そしてエントランスに居た。
元の世界では平の子分をしていた顔が。
平「…!」
平が何か言おうとする。
しかし歯が無いせいで喋れない様子だ。
平は露地の袖を引く。
露「…!…ok…君は?」
露地はエントランスに尋ねる。
エ「…?」
エントランスは合点がいかないといった様子を貫く。
しかし突然目を輝かせながら言った。
エ「貴方達はもしかして転生者の方ですか?」
露・平「「……?」」
エ「その反応!やっぱりですね!転生者の方なら大歓迎です!今から部屋の鍵とこの街の地図をお渡ししますね!」
露「待ってください…。此処に来てしまった人って何人もいるんですか?」
エ「えぇ!一年に一度程度の頻度でいらっしゃいます!貴重な知識を持っていらっしゃる方が多くてその度お祭り騒ぎです!」
エ「まずは部屋でお休みください!明日からはパーティーです!さぁ!あちらのエレベーターで!」
そういうとエントランスは満面の笑みで勢い良くエレベーターを指さした。
二人は呆気にとられた。
狐につままれるような経験をしたのはこれがは始めてだった。
幸いなのはエントランスの少女は本気で自分たちを歓迎しているという確信を持てた事。
二人は部屋に着いた。
部屋は素人目ではそこいらの旅館よりも整備されている。
窓の外の光景も美しいというよりは夢を掻き立てるという方向で二人の精神に好く働きかけた。
まさに1960年代のアメリカ、ドラマでよく見る光景が其処には広がっていた。
二人は視線を右に移す。
其処には巨大なダブルベッドが在った。
さらに右にはシャワールームとトイレ、戸棚が在る。
二人は視線をベッドに戻す。
即座に飛び込むと二人は泥のように眠った。
5.
翌朝、彼らは窓から入った鳥に額を突かれ目を覚ます。
目覚めはとても良い。
だが起きて早速変化に気づく。
部屋の隅に犬が居た。
露・平「「⁉」」
驚いたのも束の間、ドンと音を立ててドアが開く。
エ「おはようございます!」
露「!……おはよ……。…この犬は?」
エ「なんでしょう?まぁ可愛いし良いのでは?そして朝ご飯の時間ですので1階の食堂へお越しください!」
勢いに押し切られた彼らはエントランスについて向かう。
エレベーターに乗っている最中平が露地の袖を引っ張る。
平「……んん……。」
露「何?」
露地がぶっきらぼうに言い放つ。
平は口を僅かに開けて其処を指さす。
露「…。あの…少し聞きたい事が有るんですけど…。」
エ「私ですか?なんでしょう?」
露「失った歯を何とかできる設備は此処に在りますか?」
露地は藁にも縋る思いだった。
それは単に一人の人を助けられるからではない。
平との関係を戻せるチャンスだと思ったのだ。
しかしあまり期待はしていない。
昨日は気付かなかったが、エレベーターは所々錆びていた。
おそらく管理の方法を知らないのだろう。
技術水準は大分低そうだ。
露地は得意気に思った。
エ「在りますよ。」
それは露地が巡らせていた思考を瞬時に停止させる。
露「は?」
エ「在ります。」
エントランスは誇らしげに言う。
露「エレベーターの管理もできないのに?」
エ「それは管理したくてもできないからです。」
露地は意味が解らなかった。
だとするとこの世界の技術ツリーはかなり歪な成長を遂げている。
そう言わざるを得ない。
そしてその事実は露地にさらにもう一言発させる。
露「失った腕は?」
露地は人間だ。
自然と口から出てしまった。
エントランスの気丈な態度が気に食わなかった。
現代医学ですら不可能な事象を此処の住人が起こせる筈が無い。
エ「治せます。」
露地は負けを痛感した。
この世界そのものに負けてしまったと痛感した。
煽るつもりで放った言葉はエントランスには救済を求める哀れな者の言葉に聞こえただろう。
エ「同じく1階に在る特別病院でスペアを作ってもらえます。」
露「スペア?治療じゃないのか?」
エ「義手も立派な治療ですよ。効くのは主に心にですが。」
エレベーターは1階に着いた。
エントランスに連れられ着いた病院にはこれまた異常な光景が広がっていた。
義手や義足は姿形も無い。
在るのは昨日嫌というほど見たあのタールのような液体が入った容器。
そして顔色の悪い少女。
少女は大袈裟で真っ黒なドレスと明らかに見せる為の同じく真っ黒な下着を身に着けている。
首にかけているプレートにはでかでかと「医者」の文字。
露地はもう泣きそうだった。
頭がどうにかなりそうだった。
その少女は露地と平を見ると大体事態を察した様だ。
エントランスの少女に向って言った。
医「この人等は昨日来た筈じゃない?」
エ「元々こうなんだと思っていました。」
医「貴女最近気が緩んでいるのね。また気合を入れ直して差し上げます。」
よく見ると医者であろう少女は手足の全てがあの液体と同じ色をしている。
エントランスの少女はブルブル震え始めた腕の内右腕だけ。
だが今思うとこの街の住人は皆右腕と、何人かは他の手足も含めてこの色をしている。
なんとなく嫌な予感を感じた露地はそれを振り払う為言った。
露「義手作りにはこの液体を使うのか?」
医「勿論よ。」
露地は逃げ出したくなった。
昨日感じた痛みの原因と対峙して。
平など既に数歩後ずさりしている。
医「貴方達可愛いのね。食べちゃいたい。」
医者の少女は淡々と言う。
露地は男としての本能より先に恐怖が来てしまった。
露「…さっさと直してください…。」
医「はぁ。まぁいいわ。手を出して。もう無いだろうけど。」
露地がキッと少女を睨む。
医「あら?別に私はどっちでも良いのよ?直さなくても私に害は無いし。」
露地は決意した。
後で必すボコボコにすると。
そう思っていないと気が狂いそうだった。
治療はすぐに始まった。
医者の少女が手を翳すと黒い液体は蠢き始めた。
同時に魔法陣のような物が露地の腕が在った箇所に張り付く。
液体も其処に張り付くと少しずつ腕の形に変形していった。
平も同様の治療を受けた。
平「…お歯黒になっちゃった…。」
医「似合ってるわよ。」
平「…貴女と結婚するのは絶対に嫌…。」
医「あらそう。残念。」
そこまで言って少女は後ろの椅子に腰掛けた。
医「治療は終わりよ。暫くはそれ簡単に取れちゃうから、さっさと飯食って、体調に即して寝なさい。」
他の三人は足早に病院を出る。
二人は食堂に。
一人はエントランスに向かう。
食堂では見知った顔の他人が盛大に祝ってくれた。
食事は豪勢だ。
無礼講にはあまり合わなかったが。
平「…美味しい…。」
平は不思議に思った。
よく入れ歯になると食事の味が落ちると言われている。
が、それにしてはあまりに自然に食事ができる。
二人は今一度自分の黒い物を触る。
驚く事にそこには確かに感覚があった。
痛覚が無い事と色以外は何ら本物と遜色ない。
よく考えれば本物の腕と同じく自由に動かせている。
食事を終え、暫くして他の事にも気付き始めた。
よく考えれば、此処は転生者専用のホテルだ。
しかし転生者らしき人は一度も見かけていない。
自分たちの部屋は確か26階の15番目の部屋だ。
という事は相当な人数の転生者がこのホテルに居る筈なのだ。
二人は部屋に戻る際にエントランスの少女に聞いた。
平「…ほかの転生者は何処に居るの…?」
エ「転生者の方の多くは学校で教育に当たっています。」
露「なら学校に行くよ。話の通じる人を探しに。」
平「…私も…。」
二人はいつもの距離で歩き出した。
6.
学校では多くの子供に転生者であろう人々が現実の学校より少しフランクに教育を施していた。
教師「~よって99+99は~」
それはどこか懐かしい元の世界のありふれた光景だった。
外からそれを眺める彼らに一人の男が声をかける。
?「君達はもしかして転生者?」
彼らは振り向く。
其処には昨日の鎧の中にいた者と似た顔貌の青年が居た。
平「…貴方は…?」
?「あぁごめん。僕は転生者の子供の武蔵。此処の教師だよ。今は担当する生徒がいなくて、暇を持て余してるけど。」
そう言うと武蔵は彼らをじっと見つめた。
武「もしかして君達昨日来たばかりの人?」
露「うん。ところで…」
武「何?」
露「教師なら俺達にこの世界の事教えてくれない?」
話の通じそうな人を探しに来た露地にとって武蔵は正に青天の霹靂。
天から降りた一筋の光。
この機を逃さない為に少しでも関係性を深めようと必死だった。
そして武蔵は快くそれを引き受けた。
武「では、授業を始めます。まずはこの世界の成り立ちについて。」
露地と平は息を飲む。
そこからの武蔵の話は実につまらないものだった。
担当する生徒が居ない訳が察せられる程に。
話は飛躍し放題で嘘や冗談も混じっていた(嘘だと言ってくれるだけマシだが)。
露地は完全に眠りに落ち、平は話を必死に要約した。
武「この世界は元々モンスターの巣窟で人々は必死に抗っていた。」
「次第にハビタブルゾーンは狭まり、最終的にこの地に落ち着いた。」
「その時突然天から女神様と一人の天子様が降臨された。」
「女神様は人々に魔法を授けた。」
「魔法は女神様と契約することで使用可能になる。」
「代償は魔法を発動する度に女神様に手足を捧げる事。」
「最初は右腕、次に左。」
「足も同様に捧げられる。」
「そして最後、5回目には残りの全てが。」
「身体は捧げられた後女神様の一部となる。」
「手足を捧げた後、’捧げられた部位が本来果たす仕事’の分だけ
魔力が女神様から支給される。」
「魔力はまず魔法を使用する為に使われる。」
「その後余った分で様々な’条件’を設定できる。」
「例えば魔法を発動する位置の指定。」
「スライムは自身の体を大幅に捧げる事で強酸性の液体を人の肺の中に直接出している。」
「魔法において一番の肝は’捧げられた部位が本来果たす仕事’これを上手く扱う事。」
「これは例を挙げると、一生寝たきりの病人の腕より常に戦い続ける戦士の腕の方が多く魔力を貰えるという事。」
「また、同じような体格、仕事の人二人では、より長い間生きる人の腕の方が貰える魔力は多い。」
「これは手足が無くなる事でこれからその部位がする筈だった仕事が不可能になり、そこに生じるズレを魔力にしているから。」
といった具合だ。
平は「魔法」という言葉で片づけてはならない程悍ましいそのシステムに恐怖した。
平は気付いてしまった。
この世界で最も効率的な魔法の運用方法は赤ん坊を操る事なのだ。
赤ん坊は最も寿命が長い。
かつ最も活発な時期だ。
そして自分で判断する事は苦手。
平には今いる「学校」が非常に薄気味悪く感じられた。
その後すぐに日が暮れた為その日の授業は終了した。
露地は起きてすぐ武蔵にこの後一緒に食事に行こうと誘っていた
しかし武蔵は父親を捜しに行くらしく、その誘いは断られた。
二人は学校から帰る道中、ホテルの反対側にホテル程では無いが巨大な施設を発見した。
その施設は真っ赤なレンガ造りの建物で、看板には「薔薇の鉄華隊」と書かれていた。
中には昨日見たあの鎧が4体。
そして4人のいかにもナルシストといった風貌の男が女に囲まれている光景が在った。
その内の一人が平を凝視していた事には、誰も気づかなかった。
7.
翌日も彼らは学校に行った。
平は気が進まなかった。
だが情報を得るのにこれ程都合の良い場所は無かったのだ。
武蔵に会うなり、再び授業が再開した。
武「実は魔法は昨日言ったもの以外にもう一つ種類があるんだ。」
再び平は要約を始めた。
武「これは最低でも3つ以上の部位を捧げないと使えない。」
「効果は昨日のものと大差無いが威力が格段に落ちる。」
「昨日言ったものは長生きする戦士なら炎を出せば
山一つを燃やし尽くせる程の火力が有る。」
「しかしこちらは何かを捧げる必要が無い。」
「代わりに誰であっても最初は火力は変わらない。」
「炎でも紙に火をつける程度。」
「そして最初は一日に数回しか使えない。」
「使い続けることで回数や威力が上がっていく。」
武蔵は一通り説明を終えると、唐突に親の自慢を始めた。
母親は「向日葵の隊」という組織に所属している事。
父親は「薔薇の鉄華隊」に所属している事。
そして父親は一昨日出撃した後帰ってこなくなった事…。
露地と平はその訳を知っている。
しかし二人共武蔵に知られると面倒になると考えた。
よって二人共それを墓場まで持っていく事を各々心に誓った。
その日の授業は昼で終了した。
平は腹を下した為一人でホテルに帰り、露地は昨日とは逆に武蔵から誘いを受けていた。
それは鉄華隊に入らないかという誘いだった。
露地は早速武蔵と過ごす事に飽きていたのと、興味の為にそれを了承した。
露地と武蔵は早速鉄華隊の施設へ向かう。
其処にはやはりあの4人が居た。
近くから見ると全員驚くほどタキシードを着こなせていない。
しかも胸ポケットにはそれぞれ違った色のバラを刺していた。
露「キモッ⁉」
つい口に出してしまった。
しまったと思ったが、全員女に夢中で気づいてない様だ。
武蔵の方はというと普段からそう思っていたのだろう。
こちらに親指を立てている。
少しして四人はこちらに気付いた。
?1「新入りか?」
?2「おい、お前名前は?」
露「露地 夕慈です。あなた達は?」
?3「名前からしてまた転生者か。」
?4「今年も来たかぁ~。まぁゆっくりしていけ。」
露「あの、名前は?」
?4「あぁごめんね。僕は八田 始。よろしく。」
?3「栗東 治助。」
?2「須藤 芽衣だ。」
?1「天堂 帝一。」
おそらく彼らには新入りは何人も居たのだろう。
全員こなれた雰囲気を醸し出しつつ八田以外はだるそうに答えた。
露「あれ、須藤さんは女性なんですか?」
須「悪いか?」
露「いえ。別に…。」
天「君あれでしょ?転生者のくせにこっち来てすぐに腕失った軟弱者。」
八「天堂!そんな言い方は無いだろう?彼はまだ此処に来て数日なんだ。」
天「それがどうした。俺は軟弱な奴を見ると虫酸が走るんだ。」
八「そういう問題じゃない!それに彼は同じ位の年の少女を守っていた。あれは名誉の負傷だった!」
露地は困惑していた。
唐突に始まった言い争いでは自分の事が話題になっていた。
しかし彼らとは初対面だ。
転生した事はともかく、どうやって平の事を知ったのか見当もつかなかった。
暫くすると須藤が一人の妊婦を連れてきた。
その妊婦は少し武蔵に似ていた。
須「よし、いつもの儀式やるぞ。」
気付くと武蔵や何人もいた女達は何時の間にか居なくなっていた。
代わりに真正面に妊婦、周囲に鉄華隊の4人という構図になっていた。
八「露地君、その子が君の鎧に成ってくれる子だ。感謝するんだよ。それじゃ、お腹に手を置いて。」
露「え?その子?鎧?成る?」
露地が言ったのも束の間、辺りが明るくなる。
あまりの眩しさに目を瞑る。
数秒立ってゆっくり目を開けるとなんと露地は全身があの時見た鎧に包まれていた。
急いでその鎧を脱ぐ。
広くなった視界で辺りを見渡す。
目の前の妊婦につい視線を向けると、文字通り妊婦の腹はへこんでいた。
数分前から止まっていた露地の脳が完全にショートした。
8.
翌朝、露地はいつものホテルで目を覚ました。
平は書置きによると散歩に出かけているらしい。
露地はその日の全てを昨日の出来事を理解する為に費やした。
さらに翌日、露地は鉄華隊に会いに行った。
呑み込みが早い露地には、自分の使命を理解する為の時間は一日で十分だった。
露「鉄華隊ってどんな事をしているんですか?」
八「まずはこのドームの中からの偵察だね。」
「此処を狙っているのは君が会ったスライムだけじゃない。他のモンスターだってうじゃうじゃ居るんだ。」
八「次にもしモンスターが近づいているのを発見した場合の排除+向日葵の隊への連絡だね。」
露「そう言えば向日葵の隊って何なんですか?」
八「一昨日君に鎧をプレゼントした人がその隊所属だよ。」
露地は再び嫌な予感を感じた。
八「あ!そうそう。この鎧の使い方を君には教えてなかったね。」
八田は露地の鎧をテーブルの上に置き、説明を始めた。
八「この鎧は君達転生者の内の一人が大昔に発明した物で、転生者が大切にされる理由の大部分を占めると言ってもいい。」
「まずこの鎧は胴体に着ける部分と腕に着ける部分に分かれてるんだ。」
「胴体につける鎧は敵に突っ込むために尖ってる。」
「ドームの外に出るとおよそ45秒で自壊する代わりにそれまではスライムの攻撃位なら耐えられる優れ物だね。」
「手に付ける部分は一回だけどんな力にも耐えられる。耐えた後は同じく自壊しちゃうけどね。」
「そしてこれが一番の特徴!この手の部分に付いた筒状の物。」
「これは付ける者の思考とリンクしていて、前後のカバーの開閉と筒の向きが制御できる。」
「カバーを開けると中に入った空気が魔法によって急激に押し出され、その勢いで飛ぶ事ができる。」
「これは’ジェットストライカー’という名前が付いていて、ほかにも色々な種類がある。」
八田は勢いよく話すと空を見上げた。
そこにはドームの向こうの太陽が見えている。
どうやらドームの骨組みの設計上どの骨組みに太陽が位置するかで時間が解るらしい。
八「ヤバい!時間だ!君も早く鎧着て準備して!」
露「え?あ…ハイ…。」
二人は素早く鎧に着替えると民衆の歓声の中飛び立った。
9.
ジェットストライカーは露地の想像以上に高性能だった。
垂直離陸や急停止、逆噴射やUFOのような軌道を描く事すら可能だった。
思考がそのまま反映される為考えた通りに動ける。
ドームの中では先ほど言ったような頑丈さは無かったが、それでも十分だった。
どうやら鎧にはGや重量を軽減する魔法まで備わっているらしい。
空を飛んでいると、この不条理極まりない世界を忘れられた。
暫くすると後ろを飛んでいた栗東に声をかけられた。
栗「お前、あの娘とはどうなんだ?」
顔は見えないが声だけでも判る。
栗東は自分を煽っている。
露「別に。昔仲良かっただけだけど。」
栗「おいおいそんな顔すんなよ、見えないけど。そんなんじゃあの娘に嫌われるぜ?」
露「もう嫌われてんだよ…。」
栗「はぁ?ンな訳ないだろ。あれはツンデレってヤツだぜ?押せば堕ちるさ。」
露「アイツはそんなんじゃない。元居た世界だと俺はアイツのパシリだった。」
栗「そんなもんかね~?」
露「アイツを堕とすよりお前をここから落とす方が簡単だと思うけど。」
栗「おぉ怖い怖い。」
二人で押し問答をしている内に、さらに後ろにいた須藤も飛んで来て、声をかけた。
須「お前達何をしている⁉私達が仕事をこなさなければこのドームは潰れ兼ねないんだぞ。それを知っての事か⁉」
露・栗「「わかってまーす」」
須「お前ら…。」
須藤は言葉の端々に怒りをにじませた。
数分後、この鉄華隊の人数が少ない理由が分かった。
この仕事はあまりにも危険すぎる。
ドームの周囲全てを監視するためには上空をグルグル回りながら偵察する必要がある。
だが足元に気を取られていると最悪骨組みにぶつかる。
ドームそのものはどうやらモンスター以外なら透過する様だが、それも罠に成り得た。
知らない内に時々外に出てしまうと気付いた時には45秒が過ぎ、胴体の鎧が自壊してしまう。
そうすれば空気抵抗を直に受けてバランスを崩すだろう。
バランスを崩した後どう成るかに至っては、言うまでもない。
日が傾いてきた頃、露地は気付いた。
ドームの外に平がいる。
露「アイツ、なんで!」
ドームの外数十kmの地点には常にスライムが常駐し、ドームを狙っていたのだ。
もしスライムに気づかれれば今度こそ死んでしまうかもしれない。
助けたい。
しかし仮に自分に魔法が来ればどうなるか?
二人とも死んでしまうだろう。
そう考えている内にも平はどんどん遠ざかって行く。
そして遂にスライムが平の方向に移動し始めた。
露地はいてもたってもいられなくなり、ドームを飛び出した。
自壊までの45秒の死のカウントダウンが始まる。
後ろから響く隊員の声に気づく事も無く飛び出した露地は全力でこの状況を壊すための策を考えた。
ジェットストライカーにはいくつかの特性がある。
そのうちの一つがここで生かされる。
それはスピードが上がる程筒の中に入る空気の量が増えるため加速度的にスピードが上昇するという特性だ。
それによって
しかし辿り着いた後、スライムにバレずに帰る手段が浮かばなかった。
スライムは目が良い。
しかも移動速度は同時にスタートした場合10秒の時点まではジェットストライカーを超える程早い。
攻撃力も45秒を過ぎればあの爪や歯が一撃必殺の武器に成る事は容易に理解できた。
そこまで考えて、露地は覚悟を決めた。
残り35秒
次の瞬間彼は衝撃波をまき散らしながら筒のカバーを全開にし、全力で加速し出した。
そしてそのまま平を追い抜いてしまった。
彼はおかしくなってしまったのだろうか?
いや、違う。
彼は最初の時の様に囮になろうと考えたのだ。
鎧を上手く扱えば平が逃げる位の時間は稼げるだろう。
その後は適当に魔法を打ちまくれば良い。
再び覚悟を固めた。
スライムはそんな露地に気づき自身の一部を伸ばして捕えようとする。
が、既に遅かった。
残り25秒
露地はスライムの一際分厚い部分目掛けて突っ込んだ。
爆風と爆音の後彼は周囲を見渡す。
消し飛ばせたのはどうやらまだ半分程度の様だ。
彼は平に目配せする。
そして叫んだ。
露「平ぁ!お前は強い人だろ?こんなトチ狂った事するよりまたがれきの山でボスにでもなってる方がお似合いだぞ!」
平はあの時見た鎧から露地の声がする事に心底驚いていた。
しかしその言葉の意味を理解するとすぐさまこちらを凝視し中指を立て、ドームへ走っていった。
露「それでいいんだ平。」
自分の運命を何と無く悟った露地は泣きそうになりながら言った。
残り15秒
彼は平を見送り、スライムの方へ向き直る。
次の瞬間露地は何度も何度もスライムを貫いた。
スライムはある程度の大きさに千切ると活動を停止する様だ。
それを活用し、高速ターンと鎧の突起を活用しスライムを少しずつ削り続ける。
平は既に豆粒より小さく見える程遠くなっていた。
彼は激しく安堵する。
自分の犠牲は無駄では無いと感じられたのだ。
ただ戦闘中に気を抜いた罪は重かった。
彼はスライムの攻撃が自分を捉え始めている事に気づけなかった。
残り5秒
遂に鎧に亀裂が入り始めた。
しかもターンし続けた影響でスピードは既に落ち切っている。
飛ぶのがやっとと言いたい所だが既にそれすら不可能だった。
地面に足が着き始めると彼は横転し地に突っ伏した。
残り0秒
鎧は遂に自壊した。
残るは手の鎧と己の身体のみとなってしまった。
左手をかざし魔法を使おうとする。
しかし何故か一切使えない。
絶望し空を見上げる彼をスライムは少しづつ取り囲んでいる。
その時彼は気付いた。
スライムの目は人の物と同じだった。
見た目だけでなく、弱り切った獲物を追い詰める事を楽しんでいる。
彼にはそう見えた。
露地は怒った。
死を目前にして最後の勇気を振り絞った。
最期の悪あがきに一発殴ってやろうと拳を見つめる。
そんな彼を天は見放していなかった。
神は与えてくれた。
彼が目の前の忌々しい敵を葬る策を。
次の瞬間彼は後方に走り出した。
スライムはそれを追いかける。
しかし何かおかしかった。
確かにスライムは彼の走る速度より僅かに速いだけの速度しか出さなかった。
だが彼は明らかに速すぎた。
よく見れば足は地面に追いついておらず完全に引きずられる形だった。
スライムはその目で彼を凝視した。
その時気付いた。
彼の手にはまだジェットストライカーが残っていた。
このままでは逃げ切られてしまう。
スライムは一気に速度を上げる。
露地はそれを確認すると逆噴射でその場に止まった。
そして胸に手を当て、その時を待った。
一際強い風が草原を駆け抜けた。
その瞬間、彼はスライムの方に向かって激しく右腕を突き出す、要するにパンチの動作を始めた。
露「うわぁぁぁ!!!!!!」
スライムはまずその拳を破壊しようと針の様な形に変形し、真っ直ぐ突っ込んでくる。
そこからは正に一瞬の出来事だった。
ジェットストライカーは二つの風を完璧に捉えた。
それはとてつもない力へと変換され、拳を爆発的な速さで押し進める。
すると、腕が伸び切った時点で耐えきれなくなった義手は手首で真っ二つになった。
手首から先はそのまま爆進し、瞬きすらできぬ間にスライムを完全に貫いた!
これこそ彼が思い付いた策だった。
当たった右手とジェットストライカーの片方はそれぞれ限界を迎え崩れていった。
そしてはじけ飛んだスライムからは何か心臓の様な物が飛び出した。
それに気づいた彼は再び拳を構えると、今度は左腕でパンチを放つ。
それが命中した心臓の様な物は砕け散り、露地の意識もそこで途絶えた。
今回はここまでです!
まずはお疲れ様です。
14633文字は初心者の僕には結構堪えました。
もう少し彼らの旅は続く予定なので、次回もぜひ楽しみに待っていてください!