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第8話 魔石に魔力をこめましょう

「ルリちゃ、おきてー」



今朝もまた、アミュが起こしてくれた。

暖炉には、やっぱり火が入っている。

おかげでポカポカ暖かい。

きっとまた、師匠が夜中に薪を足してくれたんだろう。


昨日と同じように着替えて、ルージュさんに髪のセットとメイクをしてもらう。


食堂には、師匠が先に来ていた。



「おはよーさん。たんまり食えよ」


「ええ……朝からそんなには」


「いいから食え。お前はちょっと細すぎんだよ」



師匠はそういうけど、私の体型は、とても標準的だと思う。

出来ればあんまり太りたくはない。

身体にも良くないし。



ルージュさんは、昨日と同じメニューに、ウィンナーを加えたものを用意してくれた。

ただ、スープが昨日はコンソメスープだったのに、今日は(たぶん)ジャガイモのポタージュだ。

結構お腹にたまる。



「苦しいです……」



食べ終わってお腹をさすっていたら、師匠はフン、と鼻で笑った。



「今日は外に出るからな。少し歩くから丁度いいんじゃないか?」



運動大事。

どれくらい歩くのかわからないけど、食べたぶんのカロリーは消費しなくては。



「それだと凍えるぞ。ちょっと来い」



師匠に、私の部屋まで連れて行かれる。

私の部屋のはずなのに、なぜか堂々と入ってクローゼットを開ける師匠。



「ほら、これ羽織ってろ」



そう言って、モコモコのコートを着せてくれて、さらにマフラーも巻かれる。

手袋も渡されて、私はすっかり完全防備だ。



「いってらっしゃいませ」



ルージュさんに玄関で見送られて、私は初めて、屋敷の外に出た。


一面銀世界。

今は雪は降っていないけれど、地面にはそこそこ雪が積もっていて、木の枝も光を反射してキラキラしている。



「おら、行くぞ」



師匠がごく当たり前みたいに私の手を握る。

うん、そりゃね。

魔力の流れを教えてもらった時にも手は握ったけど。

でも、手を繋ぐのは、またそれとは違って、やっぱりドキドキする。


こちとら、男性とのお付き合い経験皆無の、女子校出身者だ。

体育の授業で手を繋いだことすらない。

そんなトキメキイベントは私の人生にはなかったのだ。


師匠の手は、大きくて、少し硬くて、あったかい。

手袋をしていても、それを感じる。

私は顔が赤くなるのを隠すように、マフラーに顔を埋めた。



「狭い場所で訓練するのは少し危ないからな。ちょつと拓けた場所まで行く。手、離すなよ」


「あい」



師匠に連れられて歩くこと、しばし。

体感ではだいたい10分くらい。

バスケットコートくらいの広さの、木の生えていない場所にたどり着いた。



「ここだけ、木が生えていないんですね」


「あー……昔ちょっと、な」



よくわからないけど、何かしら理由はあるらしい。

広場の真ん中まで行くと、師匠は胸元のポケットからいくつかの、色のついていない魔石を取り出した。



「魔力の流し方は、この間と同じ要領だ。ほんの少し流すだけでいい。先に俺がやって見るから、見とけ」


「はーい」



師匠が一つを手にとって、握りこむ。

次に手を開いたときには、透明だったはずの魔石は、赤く変わっていた。

ほんの、一瞬の出来事だ。



「こんなもんかな。おし、やってみろ」



師匠に魔石を渡されたので、手袋を脱いで、同じように握り込んで見る。

ほんの少しの魔力を流すイメージ。


が、パシッと音がして、手の中から魔石が弾けとんだ。



「うわ、びっくりしたー」


「あー、量が多過ぎだ。わかった。ちょっと誘導してやるから、流す量を感覚で覚えろ」



師匠が、魔石を握り込んだ私の手の上から、そっと大きな手で包み込む。

身体の中から、魔力が流れ出るのがわかる。

岩清水みたいに、ほんの少し、チョロチョロと流れ出る感覚。


師匠の手が離れたので、手を開いてみると、緑色に変わっていた。



「できた……」


「おぅ。今の感覚、忘れるなよ。そんじゃ、もう一回」



師匠から受け取った魔石に、ほんの少しの魔力を流す。

今度は、青色になっていた。



「師匠。これ、なんで色が違うんですか?」


「ああ。火の魔力が強ければ俺みたいに赤くなる。緑なら風、青なら水だな」


「ふおおおお」



思わず漏れた私の声が面白かったのか、師匠はプっ、と吹き出した。



「この辺り一帯には、魔石がゴロゴロ落ちてる。持ってきた分で足りなかったら、拾って試してみろ」


「はい」



師匠が持ってきてくれた魔石に、それぞれの属性をイメージしながら、魔力をこめていく。

いくつかは失敗して、割れてしまったり、魔力が少なすぎて色が薄かったりもした。



「師匠。魔石拾ってきます!」


「おう。あんま、遠くに行くなよ。必ず俺の目の届く所にいろ」


「了解です!」



まだお腹はそんなに空いていないし、どんどん練習したい。


私は、夢中になって魔石を集め始めた。

雪の中でキラッと光っている石が魔石だ。

角が取れて丸くなっているからわかりやすい。



「ルリ!」



師匠の焦ったような声に顔を上げると、だいぶ師匠から離れた場所にいることに気がついた。


師匠が走ってきて、ぎゅっと私を抱きしめる。



「え?え?師匠?」



まさか抱きしめられるなんて思ってもいなかったので、頭の中はパニックだ。



「頼むから、そばにいてくれ」



普段は強気な師匠の、弱りきった声。



「えっと、離れすぎましたかね?」


「お前が……」



師匠の言葉はそこで途切れた。

何か言いかけてやめた。

それだけは、わかった。

どうしたらいいか悩んだけど、勇気をだして、師匠の背中に手を回してポンポンと叩いた。



「ちゃんと、師匠のそばにいます」



師匠は何も言わなかった。

ただ、しばらく私を抱きしめて、お互いの体温が混じり合った頃に、ようやく解放してくれた。


イケメンに抱きしめられるとか、心臓がやばい。

めっちゃドキドキしてる。



「ふっ。お前、すごい鼓動が早いな」


「誰のせいですか!」


「俺のせいだよな?」



なぜか、満足そうな師匠。

私の頭を撫でて、そのまま頬に手を滑らせる。

外気温は低いはずなのに、私だけカッカと暑い。



「そろそろ、腹減ったんじゃないか?ルージュが弁当用意してくれたから、食おうぜ」



何もないはずの空間から、師匠がバスケットと水筒を取り出す。

何かの魔法だとは思うけど、知ったところで、今の私に使えるとも思えないので、とりあえず気にしないことにした。



「うわあ、おにぎり!」


「お前、ホントにコメが好きだよな」


「そりゃ、ソウルフードですから!」



師匠は私がおいしそうにおにぎりを食べているのを、少し微笑んでみている。

あんまり、優しい顔をしないでほしい。

勘違いしたくない。

師匠は、ただ、弟子の私の面倒を見てくれているだけなのだから。



「魔力の込め方はうまくなったから、飯食い終わったら、魔力の灯し方を教えてやる」



そうだ。

私は師匠に魔法の使い方を教わっているんだから、真面目に勉強しないと。


おにぎりが喉につっかえたような気がして、私は水筒に入っていたお茶をゴクリと飲み込んだ。

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