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第4話 召喚の事情を教えてもらいました

そもそも、この世界は大きく四つの大陸に別れていて、四つの国が、各大陸をそれぞれ治めているらしい。

海を挟んでいることもあり、国同士の争いはほぼないらしい。


東の大陸、スプール帝国は一年中春の国。

穏やかな気候のおかげで、作物は豊かに実り、人々の性質も穏やからしい。

西の大陸、オウン王国は、日本で言うなら秋の国。

少し寒いが、凍えるほどではなく、芸術分野が発展していて、世界的に有名な芸術家は、たいていオウン王国出身か、オウン王国で学んだ人達だという。

南の大陸、サウズ王国は、常夏の国。

人々は陽気で明るく、時間にルーズなのが欠点だが、観光地として有名らしい。

そして、ここ北の大陸。アルメニア王国。

1年の大半を雪に覆われ、穀物と一部の野菜や果物は実るが、家畜を飼うには寒すぎ、人が暮らすにも困難が多い。

それを何とかするために、魔法が他の国よりも発達した。


数百年前から、温熱魔法により、だいぶ暮らしやすくはなったが、ここ十年ほど、日照時間が減り、気温も以前より下がっているという。


国王は、この環境変化を打開すべく、魔法使いたちに研究させた。

その結果として見つかったのが、千年近く前の文献である。


そこには、異世界から聖女、もしくは聖人を召喚し、太陽を北の大陸に近づける大魔法を行使させるという方法が載っていた。

とはいえ、成功例は載っておらず、あくまでも可能性として記載されているだけだったらしい。

成功例がなかった理由は、異世界から人間を召喚させられるだけの大魔法使いがいなかったことと、何人もの魔法使いの手によって召喚しても、聖女や聖人に座標を定めることが出来なかったこと、そして、召喚した聖女聖人の協力が得られなかったことなどがある。

召喚された者たちに魔力があったのかどうかまでの記載はなかったらしい。


そして、それでも僅かな希望にすがって、召喚の儀が行われることになった。

それだけ国として切羽詰まっていたということもあるし、大魔法使いが存在していたということもある。

しかし何より大きかったのは、千年に一度しか行使できないミレニアムな魔法を使える年数を迎えていたことらしい。


その大魔法使いこそが、今目の前で話しているフォルトゥナさん。

こう見えて、100年以上は生きているらしい。

立派なおじいちゃんではないか。

びっくりだ。

20代前半にしか見えない。

若作りにもほどがある。

そう言ったら、フォルトゥナさんはあからさまに嫌な顔をした。



「若作りじゃねーし。ただ、肉体年齢が最盛期で止まってるだけだ」



それから、少し言いにくそうに続けた。



「お前も、魔力量からみるに、高魔力保持者なのは間違いねぇ」


「高魔力保持者とやらになると、何かあるの?」


「まぁ、一番顕著な特徴は、人生で一人しか愛さないってことと、寿命が長くなることだな。魔力量によっては、俺みたいに自己治癒力が上がったり、老化が止まることもある。まぁ、世界にも数人しかいねぇが」



フォルトゥナさんは、私の魔力量について、「高魔力保持者」レベルであることは言ったけれど、具体的にどれくらい多いのかは言ってくれない。


いや、まてよ?



「異世界人を召喚出来て、加齢すら止められるくらい、フォルトゥナさんはすごい魔法使いなんですよね?」


「おぅ。大魔法使い様だ」


「なのに、太陽を近づける魔法でしたっけ?それは、出来ないんですか?」



フォルトゥナさんは眉間にシワを寄せてぐっ、と一瞬黙った。



「あのな。いくら俺がすごい大魔法使い様でも、出来ることとできないことがあるんだよ」


「召喚も失敗したし?」


「あれは失敗じゃねぇよ!」



あれ?

確か、あの場ではそんな雰囲気だった気がするんだけど。

なんか、座標軸がどうとか。



「座標軸はズレてなかったし、現にお前は高魔力保持者だ。それに……いや、とにかく、あれは失敗じゃねぇ。いいか、俺が成功と言ったら成功なんだよ」



うわぁ。

なんかこう、ジャイアニズムに近い感じ。



「で、だ。俺に出来なくて異世界人ならできる理由も教えてやる。まず、この世界の住人で魔法を使える奴は、空気中にある魔素っていう栄養源みたいなもんを吸収して、自分の魔力を練り上げて魔法を発動する。ここまではいいか?」



うん。

よくラノベとかにある設定だよね。

私が頷くと、よし、とフォルトゥナさんは話を続けた。



「一方で、異世界人は精霊魔法を使うと言われてる」


「精霊魔法?」


「この世の中には、万物に精霊が宿る」



ああ、日本の八百万の神々みたいな感じだろう。



「で、異世界人は、魔素を取り込めない代わりに、精霊に頼んで魔法を発動するわけだ。んで、対価として自分の魔力を精霊に渡す。これが精霊魔法」


「はい、質問です」



ピン、と片腕を真っ直ぐに上げると、フォルトゥナさんはちょっとびっくりしながらも先を促してくれた。



「魔法を使うたびに魔力をあげてたら、いつかは魔力がなくなっちゃうんじゃないですか?」


「いい質問だ。お前、目の付け所がいいな。お前の言うとおり、魔素を吸収しない以上、普通ならいつかは魔力が尽きる。だが、異世界人は別だ。文献によれば、だが、異世界人には魔臓と呼ばれる器官が身体の中にあって、そこから無限に魔力がわいてくるらしい。普通の異世界人なら、な」



なんだろう。

今の言い方だとまるで、私は普通の異世界人とは違う、みたいに聞こえる。



「私は、普通じゃ、ない?」



恐る恐る聞いてみると、フォルトゥナさんは、困ったような、それでいてどこか嬉しそうな、微妙な表情をした。



「その通り。俺の見立てでは、ルリには魔臓がない。どれだけ探しても見つからなかった。それなのに、魔力は膨大ときた。だとしたら考えられることは一つ。お前は、精霊魔法の使い手じゃない。こちら側の魔法使いと同じ。魔素を取り込んで、魔力を練って発動するタイプだ」


「いやいや、待って?異世界人じゃないと使えない魔法だからこそ、異世界人を召喚したんだよね?なのに私はこの世界の人と一緒って、意味がないじゃない」



なかば拉致されるように、こちら側の世界につれてこられた。

道は一方通行で、帰ることもできないと聞かされた。

それでも、私が召喚されたことに理由があるのなら、全力で取り組もうと思っていたんだ。


だって、そうしないと、私のこの世界での存在価値が、なくなってしまうから。



「古文書にあったのは、あくまでも昔の方法だ。俺は、異世界人にしか思いつかない新しい魔法で、この国の問題を解決できるんじゃないかと考えてる。ルリ、よく覚えとけ。お前がこの世界に来たのは、決して無意味じゃない」



ポロポロと、また涙がこぼれ落ちる。

せっかくきれいにメイクしてもらったのに、台無しだ。


フォルトゥナさんは、私の頭を優しく撫でた。



「お前が、いつか思いもつかないような魔法を生み出せるように、俺が一から魔法の使い方を教えてやる。いいか、今日からお前は、俺の弟子だ」


「フォルトゥナさん……」


「師匠と呼べ」



偉そうな態度がおかしくて、こんな時なのに、ヘラリと笑ってしまった。



「はい、師匠」



こうして、私は魔法使いの弟子になった。

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