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第3話 使い魔は凄腕メイドさんでした

目が覚めると、窓にかけられたカーテンの隙間から、眩しい日差しが差し込んでいた。


(そういえば、異世界に召喚されたんだっけ)


呆然としていたのであまり覚えていないけれど、召喚された直後の雰囲気から察するに、どうやら私は間違えて召喚されたっほい。


フォルトゥナさんが、今日詳しい説明をしてくれると言っていたので、そこで何が起こったのかはわかると思う。 



「ルリちゃ、お目覚めなの?」



どうやら枕元で一緒に寝ていたらしいうさちゃん──アミュが、相変わらずのアニメ声で私の顔をのぞき込んできた。



「うん、おはよ、アミュ」


「おはようなの!あるじ様にお知らせしてくるの」



アミュは嬉しそうな顔をして、小さな羽をパタパタさせて部屋から出ていった。

ただのぬいぐるみだったはずなのに、今ではちゃんと表情があるのが不思議だ。

くりくりおめめと丸っこい鼻が可愛い。

朝からいいものを見た。


着替えるかどうか悩み、クローゼットらしきものはあるものの、服が入っているかも分からないし、勝手に着ていいものなのかもわからないので、とりあえずベッドで身体だけ起こす。

下半身は布団でカバーだ。


昨日はあまり意識していなかったけど、着ているネグリジェは、白くてサラサラつやつやしていて、デザインも随分と可愛い。お姫様みたいだ。


(もしかして、フォルトゥナさんの趣味?)


少なくとも私の趣味ではない。

フォルトゥナさんの長いまつ毛とか、澄んだ金の瞳を思い出して、少し赤くなってしまった。


いやいや、これから一緒に暮らすって言ってたし、あの美貌にも慣れないといけない。


トントン、と扉がノックされたので、フォルトゥナさんかと返事をすると、女性の声がした。

ルージュさんだと思う。

扉を開けて入ってきたのは、やはりルージュさん。



「お着替えをお手伝いします」



そう言って、クローゼットの中から膝丈ワンピースを出す。

スカートの縁と襟元に緑の蔦の刺繍がされていて、結構かわいい。

これは、私好みだ。



「あの、私の着ていた服は……?」


「洗濯しておりますが、申し訳ありません。元の世界の物は、なるべく身に着けないほうがいいと、主様が仰せです」


「そ……ですか」



それにも、きっと魂の定着とかが関わっているんだろう。

決して、フォルトゥナさんが自分好みの服を着せたいだけなのだとは思いたくない。


ワンピースは上半身の前部分をくるみボタンで止めるようになっている。

これなら、一人で着替えられる。

ちなみに、着替えるときにチラッとパンツを確認したら、これも見たことのないものに変わっていた。

どうやら、気絶しているうちに、私はルージュさんに丸裸にされたらしい。


(いいんだけどね、女性同士だし、ルージュさんは使い魔だし。うん、いいんだけどね)


羞恥心を、何とか宥める。


ワンピースを着終わるのを待っていたかのように、ドレッサーの前に座らされて、ルージュさんが私の髪を編み始める。

肩より少し長いくらいの髪では編みにくいんじゃないかと思っていたのだけど、ルージュさんは凄腕メイドな使い魔さんらしく、器用にサイドの髪を編みこんで、後ろ髪とまとめた。

それで終わりかと思っていたら、薄くメイクまでされた。

私が普段していたメイクより手が込んでいて、肌艶がよく見える上に、なんだか自分が美人に見えるのだから、本当に凄腕メイドさんだ。


最後に、肩にかけていたケープを取ると、どこかへ仕舞って、私がお礼を言う間もなく、扉の前に立った。



「主様を呼んで参ります」



そう言って、ルージュさんが出ていくのとほぼ同時に、フォルトゥナさんが入ってくる。

この人、ずっとドアの前で待機してたんじゃなかろうか。

そう思うくらいすぐだった。



「よく眠れたか?」


「おかげさまでぐっすり眠れました」



これは本当の事だ。

疲れていたのか、元の世界で飲んでいたお酒が回ったのか、アミュのおかげか、自分でも異世界に来たばかりとは信じられないくらいよく眠れたのだ。



「それじゃ、話を」


「主様。先に何か召し上がっほうがよろしいかと」



フォルトゥナさんは全然考えていなかったのか、はっ、としたような顔をして、うんうんと頷いた。



「そうだな。普通は飯を食わないといけないんだった。ルージュ、用意は」


「出来ております」



さすが、凄腕メイド。

いやそれより。


(普通は飯を食わないといけないって、この人普段は食べてないの?)


私の表情を読んだのか、フォルトゥナさんは気まずそうに目線を逸した。



「あー、俺は、あんまり食わなくても生命維持できるからな」



そんなことってある?

普通は食べないと生きていけない。

中には、研究とかに没頭して何食か抜いちゃう人もいるけど、大体は栄養失調で倒れる。

それに、生命維持できるって言い方も、なんだか人っぽくなくて気になる。



「フォルトゥナさん、人間?」



思わず、ストレートに聞いてしまった。

口に出してから、さすがに失礼すぎたかと反省したけど、フォルトゥナさんはあまり気にしていないみたいだった。



「人間ではある。ただ、生まれ持った魔力の関係で、あまり食事は必要じゃないし、怪我もすぐ治るし、老い方も普通の人間より遅い」



さすが異世界。

もう、何でもありだ。


少ししてルージュさんが運んできてくれた料理は、見たことのないものから、何となく元の世界の料理に似ているものまで、色々だった。

せっかく色々準備してもらったんだけど、私は朝は軽くしか食べられない。

パンと卵料理、サラダ(不思議な草が入ってた)とスープだけ頂いた。



「それだけで足りるのか?」


「普段より多いくらいです」


「口にあったか?」 



少し心配そうだ。

たぶん、この人すごくいい人なんだと思う。



「味付けはそんなに違わなかったので大丈夫です」


「おぅ、そうか。そりゃ良かったな」



食べ終わると、またルージュさんが食器や残った料理を部屋の外へと運んでいく。

凄腕メイドな使い魔さんに隙はない。無駄な動きもない。



「あの、服ありがとうございます。えっとこれは、フォルトゥナさんが?」


「いや、買うのはルージュに任せた。前の服は、魂の定着の邪魔になるからな」



やっぱりそういうことらしい。

そして、可愛めなデザインはルージュさんの趣味のようだ。

ルージュさん本人は、大人シックなワンピースを着ているのに、なぜ私の服はかわいい系。

謎だ。



「さてと。んじゃまぁ、お前をこの世界に召喚した事情について話すとするか」



そこから、私はこの世界の事情と、私が召喚された理由について、長い話を聞くことになった。

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