零
【エクスペリメント】
「近い将来、太陽の光が届かなくなる」
研究者たちは人工太陽の実験を行うことを決定した。太陽と同等のエネルギーを生み出す人工太陽を創る実験がもし失敗すれば大惨事どころか星が消滅するおそれがある。実験に失敗は許されないため、実験は慎重に進められた。科学力を結集した最大規模の実験であり、全ガイア人が注目した。ついに人工太陽が完成し、明るい光がガイアに灯った。その光は暖かく、太陽と同等のエネルギーを生み出すことに成功した。
「これでもう太陽の光に困ることはない」
ガイア人は実験の成功の喜びを分かち合った。しかし、人工太陽の光が与えた影響は良いものだけではなかった。光を浴びたガイア人を含むガイア中の全てのものが拡張していった。全てのものが拡張したため、ほぼ影響はなかったように思われたが、ガイアに生息するものが星を飛び出て、他の星に着いたとき、影響が出始めた。星を破壊し始めた生物の存在を知ったガイア人は、それらを“怪獣”と呼び、自らが対処することが使命だと感じた。それから、ガイア人の中に戦士として戦う者が現れた。
【ファイター】
戦士たちの活躍によって再び平和が取り戻されていった。優秀な戦士には“スター”と呼ばれる勲章が贈られた。スターを持つ戦士の一人、セブンはガイアを離れ、遠い星に来ていた。その星には、電撃を操る怪獣が棲んでいた。セブンはその怪獣を見つけると、得意の打撃で倒しにかかった。怪獣は猛攻を受け、湖の中に倒れた。セブンが攻撃の姿勢を解いたとき、怪獣の尻尾が襲い掛かった。尻尾から電撃を浴びせられ、セブンは徐々に体力を奪われていった。反撃をしようとするが、体力が奪われたことと身体が麻痺したことで思うように動けなかった。
(このままでは…やられてしまう…)
その時、もう一体の怪獣が現れた。その怪獣が頭の頑丈そうな角を向けて駆けてきた。セブンは絶体絶命の危機に陥り、死を覚悟した。その直後、身体の自由が戻った。セブンは電撃の怪獣にもう一体の怪獣が攻撃する姿を見た。電撃を操る怪獣が尻尾を伸ばすのを見たセブンは、額に手を当て光線を放った。尻尾が焼き切れた痛みで悶える中に止めの角が突き刺さり、電撃を操る怪獣が倒れた。セブンは角を持つ怪獣を仲間にしたいと思った。セブンはその意思を示すため、怪獣の傷を光線で癒した。怪獣は喜び、セブンに熱い眼差しを向けた。セブンは頷き、小型化するカプセルに怪獣を入れた。それから、セブンは他にも二体の怪獣を仲間にし、彼らと共に戦い、さらに活躍していった。
【ロンギング】
スターを持たない戦士は“無印”と呼ばれ、スターを持つ戦士の指示に常に従った。無印の戦士の一人、バリエルは指示を受けるたびに、その期待に応えるために戦った。そして、いつの日かスターを持つことを夢見ていた。スターの戦士が活躍する姿に憧れを抱いていた。バリエルはどの戦士よりも努力し、多くの戦いに参加した。それにもかかわらず、バリエルにスターは贈られなかった。その理由を、バリエルの友人の戦士、レイの言葉でバリエルは知った。
「君は、大事な所で油断する癖がある。気をつけた方が良い」
それから、バリエルは油断しないよう気をつけて戦いに臨んだ。それでも、スターを贈られることはなく、悶々としていた。そんな時、バリエルは怪獣の巣に捕らわれてしまった。レイの報告で駆けつけたスターの戦士たちが次々と怪獣を倒していった。バリエルはセブンの手で解放された。その時、バリエルはセブンに尋ねた。
「どうして私はスターをもらえないでしょうか」
セブンははっきりと答えた。
「強い戦士ならば、スターは自ずと手に入るものだ」
バリエルはその時自分の弱さを痛感した。
【プライド】
ガイアの戦士には掟があった。それは、戦士は決して誇りを捨ててはいけない、というものだった。誇り、が何を意味するのかについては教えられることはなかった。バリエルはその意味を何となく分かっていた。それでも、彼は自分自身の誇りを捨てることができなかった。人工太陽は“シンボル”と呼ばれる巨大なものと、容器に入った幾つかの小さいものがあった。それらは、ガイアの要であり、狙われることに備えて、厳重に管理されていた。門番を務める戦士の前にフードを被ったガイア人が現れた。
「何者だ。ここは立ち入り禁止区域だぞ」
そのガイア人はフードを脱ぎ、門番の顔を覆い、立ち入り禁止区域に侵入した。ガイア中に非常事態を知らせる音が鳴り響いた。音を聞き、戦士たちが駆け付けた。立ち入り禁止区域内は、何重にも光線で出来たバリアが張られていた。そのバリアは触れるだけで激痛が走るように設定されていた。バリエルはその中を無我夢中で進んだ。人工太陽が入った容器がある部屋に着いたとき、バリエルの身体は限界に達していた。
「バリア、設定解除」
戦士たちが部屋に入り、バリエルを押さえつけたとき、すでに人工太陽の入った容器は失われていた。
「貴様、容器をどこに隠した!」
「ここだ!」
バリエルは口の中に隠していた容器を噛み砕いた。
「貴様、戦士の誇りを捨てたのか!」
(これで俺は強くなる!)
バリエルは言葉を話すことはできなかった。突如、バリエルの身体から凄まじい光が溢れ出した。
(ああ、あああ…!!)
バリエルの身体にとってその光は耐えられるものではなかった。その光は、バリエルの人体を通すことで、暗黒物質へと姿を変えた。その暗黒物質は、戦士たちを飲み込んでいった。
【サン】
セブンがバリエルの起こした事件を聞きつけ、ガイアに着いたとき、事態は悪化していた。暗黒物質に誘き寄せられるように大量の怪獣が集まっていた。
「一体どこからこれだけの怪獣が…」
セブンは絶望した。その時、一筋の雷が大量の怪獣を劈くように轟いた。暗黒物質に集まった怪獣が一挙に数を減らした。しかし、瞬く間にどこからともなく大量の怪獣が集まった。
「きりがない…」
絶望するセブンの元にガイアの方から一人のガイア人が飛んで来た。
「アグル、どうなっているんだ?」
「今は説明している暇がない。女神が何とか抑えている間に、あの闇を時空の彼方に葬るぞ」
「時空の彼方?どうやって?」
「あそこを見ろ。時空の歪みが発生している。あの中へ捨てる」
「いいのか?あの中にも無数の星や無数の命が存在している可能性がある」
「その事だが、女神の弟が共に入り、向こうを統治する」
「そんな…犠牲にするようなものだ」
暗黒物質を時空の歪みの方へ押す戦士たちにアグルが加わった。
「セブンも手伝ってくれ!」
仕方なくセブンも加わり、暗黒物質が時空の歪みの目の前まで来た。その時、時空の歪みに怪獣たちが吸い込まれ始めた。そこに現れた女神の弟が言った。
「向こう側は重力が強いらしい。あとは私に任せるのだ」
女神の弟は暗黒物質と共に時空の歪みに吸い込まれた。戦士たちが見届ける中、時空の歪みは閉じた。
「行ってしまった…」
その時、ガイア人同士が使えるテレパシーによって、戦士たちはバリエルが時空の歪みに逃げたことを知った。
「アグル、私たちが追おう」
そう言ったセブンの前に、一つの星ほどの大きさの怪獣が現れた。
「これは…怪獣なのか?」
「人工太陽の光で拡張した私たちが丸飲みにされそうだ」
その怪獣が時空の歪みが起きそうな雄叫びを上げた。直後、怪獣は口や背中に生えた翼から光線を放った。セブンは咄嗟にテレパシーを送った。
「レイ、聞こえるか。私の代わりにバリエルを追え」
数秒後、返事が届いた。
「分かりました、父さん」
「頼んだぞ。私の息子、レイ」
【フレンド】
レイは時空の歪みを通り抜けた。
「ここは、どこだろう?」
レイは自然に溢れた星に降り立った。
「まるで科学が発達する前のガイアのようだ」
レイは森の奥深くにある岩山に足を踏み入れた。その岩山に姿を隠すようにバリエルがいた。レイがバリエルに語り掛けた。
「バリエル、反省しているようだね。僕とガイアに帰ろう」
バリエルが立ち上がり、レイに近づいたとき、勢いよく腕を伸ばした。レイは咄嗟に避けた。立っていた岩山に大きな穴が開いた。バリエルの指は鋭く尖り、爪のようになっていた。
「バリエル、その指…」
「…俺はもう普通じゃない。ガイアにも帰れない。このままこの星で消える」
その後、バリエルはレイに向かって激しい攻撃を浴びせた。レイは必死にバリエルの攻撃を避け続けた。その最中に、レイはバリエルの身体が透け出していることに気づいた。それはバリエルが光線を放つ度に速まっていった。それでも無暗に攻撃を続けるバリエルを、レイは殴り飛ばした。それは友人である彼の思いの籠った一発だった。
「馬鹿野郎!」
「うぐっ!」
「このまま続けたら君は本当に消えるよ」
殴り飛ばされたバリエルは岩山に激突し、そのまま動かなくなった。レイが駆け寄って言った。
「馬鹿な真似はやめて、ガイアに帰ろう」
「…しばらく考えさせてくれないか」
そう言うと、バリエルは岩山に穴を開け、その中に籠った。バリエルの意思は固く、その身を石に変えた。バリエルはその星と一体化し、レイと他二名のガイア人の力を合わせても引きはがすことは出来なかった。バリエルを見放すことは出来ないレイたちは石化し、この星を見守り続けた。
【ミネラリゼーション】
その後、時は流れた。ガイア人は、かつて事件を起こしたバリエルが存在を消したことを受け、事件を起こしたのは見えない神“ファントム”の行いと定めた。同時に、ファントムを恐れる思想から“ファントム教”と呼ばれる宗教がガイアに広まった。女神の弟と暗黒物質が入った先の宇宙は、邪悪な気配で満ちた。暗黒物質に覆われた星を“ディスガイア”と名付け、女神の弟はディスガイアの王として統治した。セブンたちの前に現れた巨大な怪獣を“銀河獣”と名付け、ガイア人はその後も現れる銀河獣を倒すことを使命として戦った。レイとバリエルがいる星を“テラ”と名付け、自分たちと同じ目に合わないように監視した。テラの日本と呼ばれる土地が江戸時代の頃、イタリアと呼ばれる土地で古代遺跡が発掘された。その発掘した人間たちが目の前で死にそうになったとき、レイは約千年振りに石化を解いた。人間はレイを見て驚き、三日間気を失っていた。その人間が海を渡り、日本と呼ばれる土地に来たとき、ディスガイアがテラを侵略しようとしていた。アグルがテラに来たのはそれが初めてのことだった。海でディスガイアの者に操られた人間に襲われた侍と呼ばれる人間は返り討ちにした。アグルはそれを見て感動した。ディスガイアの者が起こした嵐によって海に落ちた人間をアグルは助けた。その後、ディスガイアはガイアの攻撃を受け、テラの侵略を中止した。アグルが次にテラに来るのは、銀河獣との戦いで記憶を失った後ゼットと名乗り、未知の生物の危機を女神が人間に知らせた時である。