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第9話 星宮爽馬は逃げられない。

(いや、なんでお前が教室(ここ)にいるんだよ!!)


 中等部に所属している後輩(やばいやつ)、通称『白雪姫』こと白姫さんがなぜかうちのクラスに来て神凪さんと弁当を食べている……そんな異常な状況に、俺は心の中でそう叫ばずにはいられなかった。


(俺を見てる、って言ったけど……マジで来るやつがあるか!?)

 

 脅しだと思っていたら、まさか本当に教室まで来るとは。同じ敷地内にあるとはいえ、校舎は別だから簡単には来れないと思っていた。


「爽馬、雪月ちゃんとも知り合いなの?」

「知り合いというか、なんというか……そういえば、日向は話したことあるんだよな?」

「うん。ボクが中等部の時に、生徒会で一緒だったから。神凪さんと仲良しなのは相変わらずだね」


 俺は高校からここの学校に入ったから知らなかったけど、本当に神凪さんと仲が良かったとは。似ても似つかない性格をしているから信じられなかったけど……


「先輩とお弁当食べるのとか、久しぶりですね!」

「うん……授業は、いいの?」

「私たち、今日は短縮授業なんです! それに、ちょっと()()もありましたし!」


 実際に神凪さんも少し嬉しそうな顔をしているし、クラスであんなに話しているのを見るのも初めてだ。白姫さんの目的は置いておくとしても、まあ楽しそうだし教室に来ること自体はそんなに悪くないかもしれない。


(……あっ、目が合った)

「……へっ!」

(アイツ絶対覚えとけよ……!」


 前言撤回。目があった瞬間に鼻で笑う不届き者の存在を許容するわけにはいかない。とはいえ、今は何も出来ないのも事実だ。


「爽馬、雪月ちゃんに何かしたの?」

「俺も良く分からないんだよね」

「えぇ……」


 それを見て日向はわけが分からない、という顔をしているもののそれは俺も同じだ。でも、昼休みの監視だけなら特に学校生活に支障をきたすことは無いかもしれない……そう思っていた俺が甘かった。


 例えば、体育の授業では……


「星宮、今だ、シュートしろ!」

(よし、チャンス……って、うわっ!?)


 外でサッカーをしていると、ゴールの向こう側から双眼鏡のようなものでこちらを監視している白姫さんが目に入って驚いてしまい、変な方向にシュートを撃ってしまった。


「どうした星宮!?」

「ご、ごめん! くしゃみが出ちゃって……」

「なら仕方ないな、次は決めるぞ!」


 俺はそんな言い訳をしながら再度白姫さんのほうを見ると、彼女は腹を抱えて笑っていた。人生で初めて女子の顔面にボールを全力でぶつけたいと思った。

 

 他にも、発展英語の時間。クラス内の人と英語で話すことになった時のこと。


「星宮くん、相手……頼んでも、いい?」

(さすがに、授業中に見つかることは無いだろ……)


 神凪さんとペアになって話そうとしたその瞬間、窓の向こうに見えたのは……例の写真が映ったスマホを持って『先輩と話したらばら撒く』と言わんばかりの顔で、窓の外に貼り付いている白姫さんだった。


「うわっ!?」

「星宮くん!? どうしたの、急に……」

「いや、窓の外に!」

「……何も、ないよ?」

(もう怖いよアイツ!!)


 さっき見たときにはいたのに、もう一度窓の外を見ると既にあの後輩(のぞきま)の姿はなかった。何かの犯罪に引っかかっていそうだが、どうやらクラスの誰にも見られていなかったようだ。忍者か?


「い、いや……俺、そういえば他の子と組むって言ってたんだった! ごめん!」

「えっ? うん、分かった……」


 結局不自然に神凪さんからの誘いを断る形となってしまい、ペアを作るのに苦労した。


 そしてもちろん、放課後にも……


「起立、気をつけ、礼」

「「「「ありがとうございました〜」」」」

(よし、終礼終わってすぐなら神凪さんに事情を伝えるチャンス────)

「先輩! 一緒に帰りましょ!」


 終礼が終わった途端に教室に滑り込んできた白姫さんにより、結局その日は一切神凪さんと話すことが出来なかったのだった……



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



(はぁ、どうしたもんか……)


 その日の夜、ベッドの上で俺は枕に顔を埋めながら1人で白姫さんの対策を考えていた。少なくとも、生半可な考えでは絶対に勝てないことが分かったし……とりあえず、まだ様子見しか出来なさそうだ。


「……あっ、そろそろ時間か」


 ふと時計を見ると、時刻は既に8時を過ぎようとしていた。俺はベッドの近くに置いてある『アバターモーションメーカー』を体に装着し、机の前に座って待機する。


(ほんと、『Vmotion』のおかげで顔晒さずにコラボの相談とか出来るって凄いよなぁ……)


 とは言っても、今から配信をするわけではない。今日は近日中にコラボをする予定がある、登録者150万人の大人気Vtuber『姫川りんご』と企画の相談を行うのだ。


「あと10分か。なんか、配信より緊張するな……」


 普段はVtuberのアバターを配信のために使っているが、アプリ『Vmotion』の通話機能を使えばそのアバターを使いながらビデオ通話出来るため、コラボの相談などにはもってこいなのである。


「アプリ準備OK! ボイチェンOK! 覆面OK! 指差し確認ヨシ!」


 いくらVtuber同士とはいえ、身バレすることは決して許されない。特に性別を偽っている俺は、暴露動画とか上げられた時点で終わりだからな。


 そんなことを考えていると、スマホから着信音が鳴る。そろそろ始まるみたいだ。


(準備できたし……よし、始めるか)


 俺は通話開始のボタンを押して、ちゃんとアバターが写る位置にスマホをセットする。そして……


『りんごさん、今日はよろしくお願いします。そろそろコラボですし、もう今日で詰め切っちゃいましょう!』

『はい! アイちゃんとの初コラボ、絶対に成功させます!』


 コラボ相談会が始まった……とは言っても、もう既に何度か相談はしているから初コラボとはいえお互いにある程度打ち解けてきて、コラボの話が半分、雑談が半分といった感じだけど。


『アイちゃんのチャンネルはずっと前から見ていて、確か2年前……かな? 登録者1000人記念にゲームの参加型耐久配信してた時に見つけて……』

『それ最初期じゃないですか!?』

『はい! 私、アイちゃんに憧れてVtuberになったので!』


 そして今日雑談してみて分かったことは、彼女が俺の大ファンである、ということ。2年前にやった企画でさえほとんど覚えていた時は俺もビビった。


『だから、今回のコラボは絶対に楽しいものにしたいなぁ……って! 私、頑張りますね!』


 だが、楽しげな声でそう告げる彼女を見て、本当に憧れてくれているんだな……と分かり、少しくすぐったい気持ちになってしまう。俺だって、コラボを成功させたいのは同じだしな。


『……じゃあ、この企画で行きましょう! それじゃあ、今日はこのくらいで……ありがとうございました!』

『はい、ありがとうございました』


 そんな雑談を混ぜながら終始平穏にコラボの相談が終わり、俺は通話を切ろうとする。しかし……その瞬間、俺はとんでもないものを目にしてしまった。


(りんごさん、通話切る前に機材の電源切っちゃってる……)


 通話を切る寸前、相手が間違えて機材の電源を先に切ってしまいアバターがオフになっていたのだ。


(気づかなかったことに────っ!?)


 見なかったことにしようと思ったが、少しだけ画面に映った『姫川りんご』の素顔を見て、俺は思わず固まってしまう。なぜなら……


(姫川りんごの正体、お前だったのかよ……!)


 そこには、他でもないあの白姫雪月の顔が映っていたのだから。

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