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第31話 神凪氷雨は見つからない。

「いない……ここにも、ここにも! あと探せる場所は……」


 それは、あまりに唐突すぎる知らせだった。神凪さんが失踪した……なんて、正直何かの悪い冗談であってほしいと今でも思っている。でも……


(雪月に限って、そんなこと言うわけがない)


 雪月がこのことを知ったのは、神凪さんの家に1人で理由を聞こうと突撃しに行った時のことだったらしい。1、2回だけ見たことがある神凪さんの親が家の前で言い争っているのを見つけ、何があったのか盗み聞きしてみたら……というわけだそうだ。


「にしても、噛み合い悪すぎだろ……!!」


 ようやく話をする決心が付いたのに、どうしてこのタイミングでいなくなるんだ神凪さん……いや、このタイミングだからこそ、という可能性もある。


 引っ越し直前に何の連絡もなしに行くあても言わず家から出て行くなんて、それじゃまるで……家出じゃないか。


(手遅れになる前に……頼む、間に合ってくれ!)


 どこに行ったのかも分からない。何を考えているのかも分からない。それでも、俺はただ心当たりのある場所を探し続けた。もし神凪さんに何かあったら、あるいは2度と会えなかったら……そんなこと考えたくもない。


 ショッピングモール、ゲーセン、学校の中、家の近く……その全てを人生で1番急いだんじゃないかというほどのスピードで探し回った。そして……


「……いない。どこにも、いない」


 そのどこにも、神凪さんの姿は無かった。心当たりのある所は全て探したが、結局何の成果もなく学校へと戻ってきてしまった。まさか本当に誰も見当が付かないような遠いところへ行ってしまったんじゃないだろうか……なんて、恐ろしい想像が浮かんでくる。


(いや、もう雪月たちが見つけてる可能性も……)


 雪月の連絡からもう2時間以上経った。外はかなり暗くなってきたし、そろそろ見つかってもいい頃合いだろう。そう思って、雪月に電話をかけてみたものの……


『やっぱりそっちにもいないのね。日向にも頼んだけど、見つかる気配さえないわ。本当、どこに行ったのよ……!』


 どうやらあちら側も収穫はなかったらしい。俺は他にどこか行っていないところはないかと必死に心当たりを探すが、ここの近くで見つかりそうな所は……ない。


(……喉が乾いた)


 雪月の連絡を受けた後、休みなく動いていたからだろうか。気づいた時には喉に少しの痛みを感じるほどに俺は喉が渇いていた。気づけば息もあがっていて……こんなに疲れたのは初めてかもしれない。


「とりあえず、どこか座れる所は……あった」


 一旦休憩できる所はないかと少し辺り見回すと、学校の近くにある小さな公園のベンチを見つけた。自販機も置いてあるし丁度いいだろうと思って俺はそこに腰掛ける。


(疲れた……本当に、疲れた)


 座っているのに息が整わない。動いていないと悪い想像ばかりが脳内を駆け巡る。見つかってほしいと願うだけで、結局何も出来ていない自分が……本当に、嫌になりそうだ。


「早く、行かないと……」

「────はい、ストップ。落ち着いてよ、爽馬」


 ほんの少しだけ休んだ後に重い足を上げて立ち上がろうとするが、それは後ろから肩にのしかかってきた温かい感触によって止められる。ポカポカして、硬くて、熱くて……


「熱っつ!? 何してんだ日向!?」

「いやー、ちょうどここの自販機に行ったら爽馬がいてさ。はい、おしるこ」

「真夏におしるこって……」


 そこにあったのは、髪が少し汗で濡れた日向の姿。どうやら日向も神凪さんを探していたみたいだ。こんな暑い日になんでおしるこをチョイスしたのかは分からないが……俺は渋々それを受け取る。


(……熱い)


 買ったばかりの甘くて熱々なおしるこが喉元を通り、火照っていた体がさらに熱くなる。でも、不思議と不快には感じなかった。


「どう、落ち着いた?」

「おかげさまで……喉は渇いてるけどな」

「ボクのソーダ飲む?」

「なんで俺にはおしるこ買ってきたんだよ……貰ってもいいか?」


 いつもなら鬱陶しいと思うそんな仕草が、なぜか今はとても嬉しかった。喉の中で炭酸が弾ける感覚が心地いい。


「……って、なんでその格好してるんだ?」

「いやー、動くならこっちのほうが楽だから」


 ようやく完全に落ち着きを取り戻し、改めて日向を見ると男子のほうの格好をしていることに気がついた。動きやすさはどちらでも変わらない気がするが、そういうものなんだろうか。


「ねえ、爽馬。無理してない?」

「別に、そんなことは……」

「してるよ。ボクだって、爽馬のことは分かるから」


 言われてみれば、最近はずっと神凪さんのことを考えるばかりだった気がする。雪月に怒られた時もそうだったし、今だって……日向の格好が変わっていることにさえ気づけなかった。


「ごめん。色々、考えることが多くて」

「やっぱり。疲れてるなら言わないとダメだよ?」


 ……やっぱり、俺としてはこっちの日向のほうが少し安心して話せる。もう全てを忘れてここでずっと座って話していたい……なんて思ってしまいそうだ。


「ねえ、爽馬。どうしたいの?」

「……えっ?」

「だから、そこまで無理してさ……爽馬は何がしたいの?」

「それは……」


 そうしてふと投げかけられた疑問に対して、俺は答えを言い淀む。俺がしたいことは、神凪さんと会って、話して仲直りを……そして……あれ?


(すごく、モヤモヤする)


 それだけじゃ、足りない。何かが……大切な何かが欠けている。でも、それが何か分からない。もし神凪さんを見つけられたら分かるのだろうか。


「ごめん。俺行くわ」


 やっぱり探さないと。探して、そして……欠けた『何か』を見つけないと、この感覚がずっと続いてしまうような気がする。


「ねえ、待って!」


 だがしかし、服の袖を日向がしっかりと掴んで離さない。まだ話は終わっていない、と言わんばかりの真剣な眼差しを受けて俺は思わず立ち止まってしまった。


「なんだよ、急に」

「そんなに頑張らなくても、いいと思うよ」

「……は? お前、何を……」


 頑張らなくてもいい、って……だとしたら今までの行動は何だったんだよ。体も心も削って、悩んで、拒絶されて、走って……何のためかも分からないのに頑張って来たのは、何だったんだよ。


 何を言っているのか理解できない俺に、日向はさらに分かりやすい言葉で……そして、小悪魔的な笑いを浮かべながら俺にこう聞き直してきた。


「だから……ボクと、ずっとここに居ようよ。何もかも忘れて、さ」


 ……まるで、それが今の俺を最も惑わせられる言葉だと知っているように。

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